31.競技
三人での二千四百メートルリレー。静璐が四週、蜜列が一周半と草桜が半周走ることになった。
静璐、静璐、蜜列、草桜、静璐、静璐。これが場所的にも体力的にも静璐的にも一番楽。
「お前マジで四週とかいけんのかよ……」
「いけるいける! ここの回り一周程度なら余裕だし」
三人は配られたハチマキを額に巻き、静璐蜜列と草桜でバラけた。
「静璐〜」
「あ、日蔓さん! 日蔓さんも走るんですか」
「まぁ肩慣らし?」
「……早いっすよね」
「未優よりは遅いよ」
「五十メートルは?」
「四秒台だった気がする。高校の頃よりちょっと落ちたんだよね、確か」
持久力的には静璐の方がいいのだろうか。でも抜かされたら巻き上げるのは無理な気がする。
「……日蔓さん四週?」
「僕三週。走んの嫌いだからね」
「体力温存っすか」
「そんなところ」
「……蜜列! 次の競技出るなら俺代わりに走るから休んどいて……!」
「はぁ!?」
「日蔓さんが最後のやつに一人で出るんだって……! マンツーマンでいけるかも!」
「……仕方ねぇ」
これは静璐の持久力勝負に出た方がいい。
支配人の所から帰ってきてから少し筋力もついたし、動きも軽くなってタイムも縮んだ。たぶん行けると思う。
「大きく出たね〜。静璐五週?」
「五週半です。余裕っすよこれぐらい」
「……静璐って体力どけだけ持つの?」
「疲れたって体で寝たことはないっす!」
こいつもこいつでまぁ狂ってんだよな。
一気に勝利が遠のいた日蔓は遠い目をしながら足を伸ばす。妨害無しでどうしようかなと思っていると、衝羽と未優がやってきた。
「お、二人ともこっちか」
「未優たちも? ぐうぜーん」
「未優さん足大丈夫なんすか?」
「そこまで酷くないからね」
「無理しないようにね」
静璐と日蔓と衝羽は一番外のレーンに立ち、皆軽く体を伸ばした。
「位置について! よーい……」
こんな大人数でクラウチングスタートなんてやってられないので、皆立った状態から。
ピストルと同時に皆が走り出し、すぐに差が開いてきた。
一位から日蔓、皇雪、鬼燈、静璐と衝羽が同率で、その後に希愛姉妹含む班所属や部長たち。
二週目で皆交代し、そのせいでペースを全く落としていない静璐が先頭を独走。日蔓と未優と皇雪と接戦になったところで草桜に交代し、反対の草桜が走ってくる方まで移動した。あとは走って抜かすだけ。体力は余裕。
皆と開いた差を縮めるように先ほどよりペースアップして走り、先に体力的に限界の希愛姉妹や鬼燈を抜いた。
ペースが少し落ちている気がする日蔓を抜いて、明らかにペースダウンした衝羽を抜いて、またペースを上げて疲れが見える未優と接戦の中最後の一周を走り切る。
「やたー!」
「凄い静璐さん! 超早い!」
「お前体力ヤバすぎるだろ! 最後の方が速かったし!」
「楽しかったー!」
三人で手を振り上げて喜び、それを衝羽は刺す気で睨む。でもその前に直後にゴールした未優のお迎え。
「はー疲れた! あいつバケモンとかそういうレベルじゃないでしょ」
「めっちゃ体力落ちてるし……」
未優はすぐに衝羽に飛び乗り、日蔓は傍にしゃがんで頭を抱える。ちょっとサボりすぎたかな。
「曄雅! 曄雅! お疲れ!」
「もー! マジで腹立つ」
「こっわ。逆ギレじゃん」
「明日朝イチで走ろうね〜」
「はぁい」
順位整理を他に押し付けて遊びに来た線蓮は日蔓の頭を撫で回し、日蔓はそれを払うと乱れた髪を結び直した。
「曄雅!」
「何!? しつこい!」
「結構遅くなっとったの」
「……えぐられた傷口に塩塗らないでよ酷すぎ」
「一緒に訓練するか!」
「やぁだやだ絶対やだ死んでも無理二度と話しかけないでほしいレベルで無理」
皆で大喜びしている三人の元に行くと、静璐は振り返って笑顔を凍らせた。日蔓と未優は首を傾げる。
「つ……く、ばね……さん……?」
「……つくばねー、顔が怖いぞー」
未優は衝羽の頬を手で挟むと阿修羅の顔をした衝羽の頬を解し、衝羽は頬と気持ちを解された。よし。
「おめでとう静璐。なんで初めっからあのペースで走らないの?」
「最後の方が速かったね」
「走り続けてないと足が乗らないんです」
「納得いかなーい」
「種はこれしかありませんよ」
日蔓は頭の後ろで腕を組み、未優は少し不満そうに静璐を睨む。なんで初め三週より後半二週半の方が速いんだよ。意味分からんし。
結局得点は追い上げ後独走した静璐の所に十二点、二位のみつばチームに七点、日蔓に五点だった。それ以下はなし。
『十分の休憩を挟みます。水分、塩分をしっかり取ってください』
「未優、水飲み終わった?」
「全然飲んでなぁい」
「飲んで!」
気付けばジュースジュースジュースの未優はほとんど水を飲まない。だから水分と塩分は周囲が管理しないと自発的には飲まなくなる。
糖分でも脱水は起こるんだから。
「最後のは日蔓出るんでしょ。先に専務二人潰してよ。私線蓮潰してあげるから」
「いいけど終わったら先そっち行くよ」
「トンカチ君は……」
「出ないって」
「残念。いじめてあげようと思ったのに」
こうなるから出ないんだな。
休憩の間に未優の足を片足マッサージ片足リハビリを繰り返していると、ジャージとパーカーになった線蓮がやってきた。遅れて残りの二人も。
どういうチーム編成が多いのか知らないが、たぶんほとんどが班所属以上だ。かなり乱闘になるだろう。
「曄雅!」
「まーた来たし……」
「いらっしゃい線蓮さん。他二人も」
「太薰蛇、足大丈夫か」
「うーん……微妙ですけど、まぁどうなっても優勝は決まってるんで」
「王者の余裕かよ」
そう言いながら鬼燈は日蔓の向かいに座ると反対の足のマッサージも始めた。
筋肉が緩みすぎて力が入らないのだから外から刺激を与えて緊張感をもたせるしかない。
皇雪は衝羽と話して、自分語りをしている。衝羽は全く興味なさそう。
「曄雅、お前走り遅くなってたな」
「皆でえぐってくる……!」
「遅くても可愛かったらいいんじゃ。なぁ?」
「意味不明」
日蔓は未優の方に逃げ、未優は日蔓の前髪をかきあげて掴む。
「可愛くてもいいけど主任として仕事しろ」
「分かっておりますお嬢様……」
皆でふざけているうちにリングの用意ができたそうで、専務三人と日蔓と未優は校庭に集まって行った。
伝統行事なので人が多く、いくら高身長と言えど見えなかったので木に登って枝に座った。
トラックいっぱいほどの大きなプラスチックの台の上に上がり、皆がバラバラに立っている。
高さも結構ある。たぶん一メートルか、それより少しあるんじゃないだろうか。下手な落ち方したら危ない。
線蓮と皇雪はブロンドヘアと高身長ですぐに見つけられたが、日蔓も未優も鬼燈も蜜列も見つからない。始まったらすぐ分かるか。
ここからは聞こえないが審判がルール説明をしており、喋り終わったであろうあとに前に大きな赤旗を出した。数秒後、旗が上がりきらないうちに何ヶ所かで人が宙を舞った。
その中心には日蔓、皇雪、鬼燈。何人もの悲鳴が聞こえると思ったら、未優は端で中央三人から逃げるように後ずさってきて人たちを落としている。
これは見物になりそう。
半数以上が落とし落とされ落ち降りていると、ここまで聞こえる希愛姉妹の高笑いが聞こえてきた。
ルールが書いてなかったのも納得、紐で皆を縛って押して押して一人踏み外せば皆引っ張られて場外へ。
「おほほほ! この勝負に挑もうなど百万年早いんですわ!」
「早いんですわ! 怪我しないうちにさっさと散りなさい!」
毎年道具をフル活用するこの姉妹なのでなるべく近寄らないようにしていたのだが、今年はロープか。去年はエアガンだったぞ。
「こわ〜」
「……一瞬誰か分からなかった」
「分からないように被ってたんだよ。バレたら皆逃げてくじゃん」
「助かったよ」
未優は落とした人の山を指さし、日蔓は偉いと未優の頭を撫でた。未優はそれを払うと日蔓の膝裏を蹴り飛ばしてそこから飛び上がった。
一瞬冷や汗をかいた日蔓は胸を押えながらその場を飛び退く。
「ちょっと鬼燈! 何すんの!?」
「曄雅! 遊ぼう! 俺で遊んでくれ!」
「線蓮! 鬼燈がきもっちわるいんだけど!?」
「仕方ない。あいつはそういう奴じゃ」
と言いながらちゃんと向かってくれる。当初の予定と名前は変わったが二人潰したらまぁいいだろう。
日蔓が二人のところに突っ込んだのを見て、未優も皇雪の所に走った。
背後から高く飛び上がって飛び蹴り。こいつ飛び蹴り効かないんだよな。
「無駄。掴まれて終わり……!」
飛び蹴りが効かないなら踏んでも問題ない。
未優は皇雪の頭を蹴って飛び上がると、そのまま宙で一回転。
「まっ……さかお前……!?」
すぐに察して飛んで逃げようとする皇雪を鏡瞳で制止し、皇雪の頭にかかとを置いた。
一秒にも満たないたしかな間のあと、特殊な強化プラスチックが凹み割れるほどの衝撃波が走って皇雪諸共気絶する。
それはリングの端の端、日蔓達がいるところまで。
でも遠くなればなるほど衝撃波は分散されて弱くなる。なので皇雪のそばにいた希愛海は気絶したが、日蔓たちの傍でやり合っていたあの静璐の仲間の大男は無事。
鬼燈は既に落とされたようだが、日蔓は線蓮に苦戦している。あの人あばら二本折れて内臓傷付いて他にも大怪我してるのに、超人すぎやしないか。
助っ人してあげよう。
未優はフードを被ると、そのまま鏡瞳を開いて日蔓諸共動きを制した。
日蔓はすぐに押し返したが、それは未優に狙われなかったというのを肝に銘じておけ。日蔓よりも早く押し返したはずの狙われた線蓮は場外に叩き落とされた。早く手当てされてなさい。
「裏切りかと思ったんだけど」
「潰したら先そっち行くよって言ったのは日蔓だよ」
「線蓮相手になるとは思わないじゃん」
「待ってたら皇雪さん連れてきてあげたのに」
「いいよ別に。間違えてあばらに入っちゃったんだよね。大丈夫かな……」
「心配してる場合かー?」




