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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
30/155

30.昼寝

 左顔面と左横腹に重い痛みが走り、横腹は予想外すぎて体勢を崩した。まずい、もう足が痛いと言うのに。



 横腹の痛みで体勢を立て直せず頭から真っ逆さまに落下すると、誰かに受け止められる感覚があった。




「受け身ぐらい取ったらどうですか」

「色々と代償(コンペンセイション)があるんでね」



 栖樹(すのき)に受け止められた未優は全力疾走で駆け寄ってきた衝羽(つくばね)に移動し、衝羽は未優をすぐにテントに連れて帰る。




「三人とも」

「よく未優相手に勝てたな」



 やってきた日蔓と鬼燈は小さく拍手を送り、栖樹と蜜列は嬉しそうに口角を上げた。



「俺の活躍!」

「俺の作戦勝ちです」

「俺らチームじゃなかったの……?」



 静璐は勝ちを独占しようとする二人に呆れ、俺だ俺だと噛み付き合う二人の喧嘩を止めた。日蔓と未優じゃないんだから喧嘩なんてやめてくれ。



「はーい喧嘩しないの。二人には朗報、静璐にはお知らせね」

「なんですか?」

「静璐は明日の朝一から仕事。二人は見学においで。連れてってあげる」

「マジっすか!?」

「ただし手は出さないこと。本来なら連れていかない方がいいランクやってるから、下手に出しゃばっても守れないからね」

「はい!」

「ありがとうございます」





 もう直に大会午後の部が始まるので皆でテントに帰り、元医療屋志望の衝羽(つくばね)が四人の怪我が問題ないかを確認する。

 衝羽は医療屋志望だったのに才能があるからと界魔屋に引き抜かれた珍しいタイプ。未優愛で今は部長まで上り詰めている。



「未優さん、俺ともやってください。稽古だけでもなんなら筋トレだけでもいいです」

「お前もついてけるんだから未優に構わないの」


 日蔓に制止された衝羽は普段見られない本気モードの未優か、未優と二人きりのトレーニングか考えた結果、本気モードの未優を取った。二人きりと言ってもどうせオマケがちょろちょろ付いてくるんだろうし。



「衝羽、始まるよ」

「今行く」












 未優の足が動きにくくなったせいで午後の始まりはほとんど衝羽の独走だった。

 静璐も頑張って追いついていたが、皇雪や鬼燈、たまに希愛姉妹も邪魔するせいで衝羽が一番目立っている。未優への愛だな。


 だって今までの競技は全部未優と衝羽の『みつば』チームが一位だ。なお命名衝羽。





「ただいまの千八百メートル走、一位はみつばチーム衝羽部長、二位は同率でののAチームの希愛空(ののあ)さんと黒チームの車花宮(しゃかみや)さんです。一位には十点、二位には五点。その他は一点です」



 計八競技を終えてみつばチーム八十四点の独走。短距離走で未優が初っ端から新記録を叩き出して追加の四点。



「未優さんやりました! 頑張りましたよ!」

「おめでとー」



 衝羽は大喜びしながら水を飲み干す。未優は足が動かないので椅子に座って観客。



「足は大丈夫ですか? 痺れたりどこか痛かったりは?」

「ないよ。次は……七種スタートダッシュだって」

「……なんですそれ?」

「さぁ?」



 二人で赤い封筒の中を覗き、ルールを確認する。いつも通りコースアウトするなと一言だけ。



「あれじゃない? 色んな体勢からスタートするやつ」

「あぁ……! また頑張ってきます!」

「おーえんしてる」



 やる気に満ちた衝羽を見送り、暇なのか遊びに来た日蔓を見上げた。



「みゆ〜、足はどう?」

「朝から使いすぎた」

「明け方四時前までの仕事はキツかったかな」

「うーん、みたいだねぇ」



 昨日の二十一時から午前三時まで仕事、帰宅は四時前。未優は眠いし静璐は少し気落ちしているし、日蔓な関してはくまが酷い。

 いつもの授業や仕事の日程なら問題ないが大会となると答えるものがある。



「ねむーい……」

「寝てたら? 衝羽がやってくれるでしょ」

「そーする……」



 椅子から立ち上がろうとする未優を抱き上げ、テントにタオルを敷くとフードを被って自分の腕を枕に眠り始めた。


 日蔓は眠くはないが頭痛がする。眠いのかな。






 テントに座って未優の頭を撫でているうちにあくびが出てきて、どこからが聞こえたシャッター音にハッとする。テントの影に隠れた盗撮魔。



「盗撮魔」

「曄雅〜、調子どうじゃ?」

「そもそも出てないんですけど」



 線蓮はテントに上がると未優を見下ろした。


「風邪引くぞ」

「防寒ウェアにパーカー着てんだから大丈夫でしょ。なんか用?」

「最後のあれ出るんじゃろ?」

「その予定」

「……出んのか」

「未優が起きなかったらね」

「アラームアラーム……」

「やめろ」


 未優のスマホに手を伸ばす線蓮の手を叩き落とし、未優のスマホを未優のポケットに入れた。未優は寝返りをしてさらに丸まる。足が動かないので体を丸めて。



「起きちゃうじゃん」

「起こしておけ。それより最後の、出てもいいがあまり遊びすぎるなよ」

「分かってるよ餓鬼じゃあるまいし」

「子供らしいのが曄雅じゃからの」

「うるさいなー。それだけ?」

「あと一つ」









 競技が終わり、戻ってきた衝羽に静かにするよう人差し指を立てた。


 衝羽は何を思ったか、未優に向かって土下座をするとそのままスマホを立てて撮り始める。



「おい」

「神様感謝します俺もう死んでも後悔ないっす……」

「嫌われるよ。未優盗撮嫌いなのに」


 こいつちょっと面白い。



 衝羽はスマホを伏せるとすぐに動画を消したのを日蔓に見せて電源を切った。シャットダウン。




「未優さん最後のに出るらしいから少ししたら起こしといて」

「未優が出るんだ」

「俺が見たいんだよ文句ある?」

「ないですけど……」


 こういう時に部長の顔すると腹立つ。


 衝羽は赤い封筒を持つとまたウキウキと校庭に向かった。




 競技が始まる少し前、珍しく疲れた様子の静璐がテントにやってきた。



「……未優さん寝てるじゃないっすか」

「寝不足だったからねー。未優に用? て言うか大丈夫そう?」

「あの人未優さんに勝ってからテンション高くって……」

「精神的疲労ね。お疲れ」



 静璐はへなへなと日蔓の隣に座り、日蔓は静璐にスポーツドリンクを渡した。未優のだが日蔓が渡したやつだ。未優のはまたあとで持って来る。



「競技頑張ってたね。勝てそう?」

「いや?……日蔓さんって誰と組んでるんですか? 一回も出てないっすよね」

「三人だったよ。平と班所属」

「おぉ! 班の人って誰ですか?」

苺米(まいべい)課の第五班班長だよ。知らないでしょ」

「全部が初耳でした」

「だろうね〜」



 苺米課は白梅課と違い知で戦う班が多い。というか班の一人には策士が入っており、全ての班のバランスが取れている歴代で見ても少し珍しいタイプ。

 苺米本人もかなりの才知なので入れ替わり後のバランスや人の相性も間違えたことがないらしい。普通後任は主任が選ぶんだけどな。



「希愛姉妹とかがいる白梅課は攻撃型、苺米課は策略型、西木はバッラバラ」

「……そうなんすか?」

「だって頭脳型はいないじゃん。未優が多少できるぐらい」

「確かに……二班の人たちも全員攻撃タイプっすね」

「だから弱いんだって話だけどね。希愛姉妹はまぁ馬鹿だけど超強いよ。二人で未優が苦戦する」

「へぇ! 小柄っぽいのに……」

「小回りが効いてすばしっこいんだよ。あの二人が気を惑わせてる間に班長の繰紫(くりしき)が叩くから。繰紫に集中しててもあの二人も強いからね」


 未優のように特殊な能力はないが、双子の繋がる思考回路とそれで繰紫の動きをカバーするので協調性も技術も性格もピカイチだ。

 あと未優を慕っているのでたまに機嫌のいい未優が稽古付けてるし。



「一回見てみたいっす」

「すぐに見れるよ。最後は勝ち残り戦だからね」



 最後は毎年恒例の勝ち残り戦と決まっている。

 リングはグラウンド。場外、戦闘不能以外で負けはない。怖いなら自分で出るか運良く気絶できるか。


 今年は専務三人も出るらしいし、少しは盛り上がるかな。去年は未優の独壇場だったので面白くなかった。




「初耳……」

「静璐も出るでしょ?」

「一チーム一人ですよね? たぶん蜜列(みつら)さんが出ると思います」

「えー静璐出ればいいのにー。僕が直々に叩きのめしてあげるきちょーな、本当に貴重な機会だよ!」

「いやぁ……」

「うるさい……」


 未優は頭の上側に座っている日蔓を殴り、未優に殴られても痛くも痒くもない日蔓は口を閉じてまた寝た未優の頭を撫でる。



「……本当に出ないの?」

「だって日蔓さんと未優さんにいじめられそうですもん」

「正解」

「ほら!」


 日蔓は静璐の口を塞ぎ、二人で未優を見た。

 寝返りは打ったが起きていない。セーフ。



「……すみません」

「じゃあ今年は僕の勝ちかな。どうせ優勝はできないけど」

「MVPぐらいにはなって下さい」

「なれるといいけどね〜」





 二人で話していると静璐が封筒を配る女の子を見付け、それを受け取った。こうやって配られてたんだ。




「……リレーって……」

「きちくぅ……」


 この四百メートルトラックを、最大人数六人のところに合わせて六週で二千四百。どこで交代かは各人数があるので自由。リタイアも可能で、最後に体力を残しておきたいなら残しておけ、と。こればかりは妨害や野次は禁止らしい。



「俺ちょっと相談してきます」

「僕も行きたいけ、ど……」



 未優を見下ろすと、未優は起きたのか知らないが頭に乗った日蔓の手に手を重ねた。ギロっと日蔓を睨む。



「人の頭に手突くなよ」

「撫でてあげてただけじゃん」

「撫でなくていいから静かにしてくれ……ねむ〜……」



 未優は猫のようにぐっと背中を伸ばすと起き上がった。



「それじゃあ僕戻るけど、ちゃんと水分取っとくんだよ」

「はーい」



 未優に封筒を渡し、日蔓は少し急ぎめでテントを出ていった。

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