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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
29/155

29.昼休憩

 だいたい同じ競技が終わって、昼休憩になった。



 一位独走中の未優と衝羽(つくばね)ペアは昼に静璐のテントに遊びに来た。

 草桜(さくら)は友達に半ば無理やり連れていかれ、蜜列(みつら)は調達中。




「トンカチ君冷蔵庫からケーキ持ってきて」

「分かりました。何個か入ってますよね?」

「えーとねぇ……どれでもいいや。私の気分っぽいやつ」

「むずッ!」



 静璐は未優から鍵を受け取ると走っていき、衝羽は未優が座る様の小さな椅子を立てた。



「あとで日蔓と……誰これ。栖樹(すのき)? も来るって」

「栖樹は最近線蓮専務に弟子入りした研修生ですね」

「研修生で弟子入りとか馬鹿でしょ」

「線蓮専務を選んだことだけが通常判断能力はある……と言ったところですか」

「そもそも弟子入りって時点でないから」

「なるほど」


 未優は片足を膝に乗せ、パンを食べながら前かがみになってスマホをいじる。衝羽は向かいに綺麗な正座。




 研修生時代は多くの仕事について行ってとりあえず聞いて学んで動かして、それの繰り返し。それが最速で最善の上達法なのに、わざわざ確認が必要な師匠を作る意味とは。

 未優でさえ日蔓と半同居していただけで見学や同行は一人だったぞ。




「みゆ〜!」

「あ来た。もしもしトンカチ君」

『未優さん、フルーツタルトとガナッシュケーキとザッハトルテありますけど……』

「ザッハ! それにする!」

『分かりました。他は?』

「棚にあるクッキーと……あ、野菜室にロールケーキもあるからそれも!」

『……二種類ありますよ。抹茶とノーマル』

「抹茶!」

『すぐ降ります』


 使い勝手のいい駒だこと。




 未優は通話を切るとちょうどやってきた日蔓に手を振り返す。


「よぅビリ組」

「相変わらず独走だねー。衝羽も調子よさそうだし」

「未優さんと組めたことが人生一番の幸せ。今生に悔いなし」

「それは何より。いっつも喋ってんのに」

「この不特定多数のパターンが何十万何百万とある中で! 未優さんと! しかも二人!? 必然的に未優さんは俺を応援するってことになりますよね!?」

「ごめん応援しないって選択肢もある」

「それでもいいんです未優さんのお力になれるなら! 未優さんを助けられるのは俺一人で俺が俺で未優さん……!」

「バグった」



 日蔓は未優の斜め前に座り、衝羽(つくばね)を奇妙なものを見る目で見ている栖樹(すのき)は日蔓と未優の間に座る。



「衝羽、栖樹ってこれ?」

「そうです」

「頭良さそうなのにね」

「人は見かけによりませんよ」

「ねーほんとに」

「未優、静璐は?」

「ケーキ取りに行ってる。疲れたから」

「今回は走る競技しかないからね」



 数分して、慌てた様子の静璐が走って戻ってきた。


 ケーキを一箱、ロールケーキを一本、クッキーの大袋一袋とエクレアが三本入った袋を未優に渡してすぐ去っていく。直後に希愛(のの)姉妹と陽南花(ひなか)が全力で追いかけていった。



「鬼ごっこかな」

「未優先にご飯」

「さっき食った」

「何?」

「パン」

「サンドイッチ二袋」


 衝羽の付け加えた説明に日蔓は仕方なさそうに黙り込み、未優はエクレアの箱を開けると食べ始めた。


 ずっと睨んでくる栖樹は無視。




「そうだ日蔓、前のシュークリームの店聞けたの? ずっと放置だったけど」

「そうそう聞いて忘れてた」


 日蔓はスマホのトーク履歴を少し遡る。



「未優さん、シュークリームの店とは?」

「前食べたシュークリームが超美味しかったからそれのケーキ屋調べてもらってんの」

「次買いに行く際には是非俺を!」

「駄目だよ。衝羽奢るでしょ」

「一回ぐらい……!」

「衝羽は未優に尽くしすぎるから駄目」



 衝羽が這いつくばって日蔓にお願いしていると、未優は顔を上げた衝羽にへらっと笑って三人で一緒に行こうと笑った。未優にいらん能力が備わってく。


 衝羽が天を拝めば日蔓は地面と仲良しになり、栖樹は日蔓の背をさする。



 少しすれば蜜列が戻ってきて、即栖樹と未優と敵対した。



「なんでお前らがここにいんだよ……!」

「別にいいでしょ。君の大好きな日蔓もいるんだから」

「どこで食べようと自由だろう」

「自由じゃねぇ! 俺のテントだ!」

「だからそのオレオレ詐欺みたいな俺俺はやめなって。虚しく見えるよ」

「はぁクソ餓鬼が! ちょっと気に入られてるからって調子乗んなよ!?」

「ちょっと? 君とは雲泥の差じゃない?」


 エクレアを食べ終わった未優は衝羽にゴミを渡し、ケーキワンホールを食べ始めた。



「日蔓、これデカくない」

「未優が六号って言ったんだよ」

「ふーん……まぁ大きい分にはいいけど」

「午後からも動くんだから無理しないでよ」

「私の胃は無限大なんだよ」

「未優さんこの前腹八分目って言ってませんでしたっけ……!?」


 テントに滑り込むようにして入ってきた静璐の言葉に未優は涼しい顔で薄っぺらく笑い、静璐と日蔓は呆れのため息をこぼす。



「トンカチ君は何してたの?」

「トンカチ君……?」

「トンカチ君……!? ニックネーム……? 未優さんが……」


 衝羽の過剰反応を黙らせ、トンカチはかばんを漁っておにぎりを出した。



「希愛姉妹と陽南花さんにケーキ食わせろって……」

「あロールケーキもあるんだった」

「俺の言葉無視っすかぁ!?」

「聞いてるよ聞いてる。希愛姉妹と陽南花部長にトンカチが喰われそうになったんだよね」

「色々と違う!」

「でも本筋は合ってるよ」

「いや合ってないっすよ」



 静璐はケーキを食べられそうになったと言っているのにこの人は静璐が食べられそうになったと言っている。主語が違うと話はまるで変わるんだぞ。



「話変わるけど静璐って弁当作らないの?」

「弁当箱なんてないっすもん。日蔓さんは?」

「昔は作ってたよ。線蓮がいちいち飛んでくるからやめた」

「日蔓も料理結構上手いよ」

「えー料理下手なイメージが……」

「俺静璐の前で一回も料理してねぇからな」

「ほら、ギャップを考慮しすぎた結果みたいな」

「お話の中じゃないんだから」






 なんて話を三人でしていると、もうすぐ始まるよの放送がかかった。


 一番に食べ終わっていた未優と、その後すぐに食べ終わった静璐と日蔓も立ち上がる。




「日蔓出ないの?」

「だって面倒臭い」

「お前なんのためにやったんだ」

「引いたのは未優だよ〜」

「でも出るっつってんだから言えみたいなこと言ったのは自分じゃん?」

「なんでそこは覚えてるかな」



 残りの三人も急いで食べ、早食いになれている衝羽と元々早食いの栖樹と気合いで早食いをした蜜列、つまり三人全員がすぐに食べ終わった。あと二人に関してはプライドが高すぎる。




「日蔓さん! 稽古付けてください!」

「えー食べたばっかで動きたくなぁい。静璐で十分じゃない?」

「でも!」

「そっちよりこの掃除機娘の方が強いんですよね。これでいいと思います」

「おいその掃除機娘って誰から聞いた」

「誰からって? 適当ですけど」

「ネーミングセンスが丸かぶり……! こいつナルシスト……!」

「未優、警戒しないの」



 栖樹はよく分からなさそうな顔をしているが、静璐と衝羽は遠い目。それはもう宇宙(そら)を見上げた遠い目。



「静璐」

「じゃあ俺とこの二人の三人でチーム組むんでそれ対未優さんなら……まぁ、一発ぐらい?」

「食らっても防げるって?」

「違いますよ!」



 未優はケラケラと笑いながら静璐の肩をポンポンと叩き、後ろにいる二人に対して煽るというかもう嘲笑うような顔で振り返った。



「君らは耐えれないかもねぇ」

「この餓鬼性格悪ッ……」

「顔面変形させたい」

「あばら全部折ってあげよう。線蓮さんの弟子なら痛そーなところちょっとは見てるでしょ。あの人信用してない人には見せないけど」



 日蔓は四人を見送り、ついて行こうとする衝羽を止める。



「何」

「まぁまぁ、未優の勇姿を見学しようじゃないか」

「それが目的じゃないだろ」

「あの二人を近いうちに見学に連れていこうと思ってね。でも線蓮の弟子なら貸し出し面倒臭いなぁ……」



 あの二人がどういうタイプか見ておかないと戦いには出せないし、いやそもそも出す気はないのだが、今のクオリティを知っておかないと連れていくだけ損になるかもしれない。





 栖樹の作戦を聞いて反抗する蜜列とそれを押さえて親指を立てる静璐を眺め、やっぱりパーティーの相性としては最悪だなと再認識。


 知将と武将二人でバランス的にはいいと思うんだけどな。




 未優に遅いと怒られ周りのテントから注目される三人を眺めていると、真横からの刺すような視線が視界に入った。一回気付けばもう無視はできない。



「…………来、る……?」

「行く」


 はっや。

 せめてこんだけ躊躇ったんだからちょっとは遠慮しろよ。一回遠慮したら断るが。

 にしてもがっつきすぎでは。




「みゆ〜! 五分で済ませて! 時間ない!」

「はぁい!」


 未優に大きく手を振って声をかけ、未優は大きく手を振り返して返事をする。


 お前はアイドルかなんかか。なんで手を振っただけで前も後ろも右も左も皆手振るんだ。日蔓の真横が一番大きいが。










「じゃあヘタレトリオ、五分で終わる作戦作っといてよ」

「未優さんのネーミングもまぁ酷い……」

「輝かしいものがあるだろう」


 見物客が集まる中、中心にいる未優を三角形で囲んだ。





 栖樹(すのき)は動けないらしいし、主戦力は蜜列、補佐が静璐。じゃないと蜜列が言うことを聞かなかった。


 静璐も補佐というか、蜜列がやったことをカバーする的なこと。いつも未優のカバーをしているので慣れている。あの人はカバーするとこないけど。






 蜜列は蜜列は攻撃をその場で右に左に周りながらかわす。

 未優が蜜列に気を取られているうちに気配を殺した静璐が一発入れるつもりだったが、未優は静璐の動く拳に足を置くと身軽に飛び上がった。




「仲間割れ〜」


 と思ったが、噛み付く蜜列の顔面を静璐が押さえてすぐに未優を見上げた。



 当然飛び上がったらすぐに落ちる未優は俯いている蜜列の頭を蹴りながら降りた。


 司令塔はあのキザ野郎だが大男のしつこさもトンカチの視界外攻撃も面倒。先にこっち潰すか。




 未優は着地の瞬間に急所目掛けて殴りに来た二人が空振るように、着地と同時に縦開脚で下まで降りた。まずは一人。

 地面に手を付き、前の足を曲げると後ろ足で空振った蜜列の顎を蹴り上げた。舌を噛んでないといいけど。


 次はトンカチをと思って軸足を変え横から大きく足を振ったが、静璐には塞がれた。でも頭を庇う形たちじゃどうしても正面に集中しすぎる。横も後ろもがら空きだぞ。



 未優はまた軸足を変えると今度は逆回りで静璐の顔面を真横に蹴り飛ばした。二人とも脳震盪確定だな。





 未優は周囲を見回すと栖樹(すのき)に大きく手を振った。栖樹は諦めモードなのか緩く振り返してくる。


 どうせ動けないなら真正面から突っ込んでやろうと思って、そのまま一直線に走って蹴り上がった。

 見下ろした栖樹がにこっと笑い、それが悪の笑みに歪んだ瞬間未優の負けが確定した。

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