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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
28/155

28.開会式

 開会式が開かれ、変わらず司会の線蓮が皆に挨拶をして、得点性は同じだと超適当な説明をしたあとに競技法を発表した。



「全員クジは引いたな? 今から十五分間で同じ数字の仲間を見つけてチームを作れ。ちなみにチームじゃないと地獄のような戦いもあるぞ」



 紙を開いたものから順に数字を大きく掲げた。




「人数分、各数字の枚数はバラバラじゃ。最低六人の個人が出るからな!」



 会長以上の五人と線蓮。ちなみに今は療養中の放電少女と暇なナースと遊びに来た部長やら班所属やらをフル活用して皆で黙々と書かせたので、本当に枚数はランダム。チームの人数は青天井、最低ぼっち。


 幸運は四人かな。皇雪、鬼燈、日蔓、未優。静璐に関しては本人の相性次第。


 皇雪も鬼燈も、専務内では仕事の腕が全てでも専務までは体術で上がってきた奴らだ。それはもう強い。

 日蔓は専務にスカウトされるほどだし、未優に関しては前の大会を見れば分かる。




 線蓮がテントの中で机に肘を突きながら十五分間を待っていると、いきなり後ろから髪を引っ張られた。


「いっ……た!」



 腹を抱え睨みながら振り返ると、放電少女を抱き上げた寒白(かんしろ)が立っていた。クソ師匠が。



「何するんですか」

「どうした」

「あばらが二本折れて内臓に穴空いたのお忘れで?」

「……すまん」



 寒白を威嚇しながら立ち上がり、本気で痛いあばらを押さえる。変に曲がってないといいけど。



「何故その子が?」

「病室は暇だから見に行きたいってな。ちゃんと許可は取った」

「車椅子は?」

「そこにある」

「座らせて下さい。貴方に任せていたら悪化する」

「酷いぞ!」

「事実です」



 寒白から少女を抱き上げ、車椅子に移動させた。

 放電原因は分かっていないが、精神的に落ち着いている時は比較的大丈夫なようだ。


 それでも車椅子は特殊に加工したものを。



「線蓮さんは出ないの?」

「わしは司会じゃからな。今日は出んよ」

「線蓮さんは強い?」

「普通に比べたら? でももっと強い人はいるしこれからも出てくるぞ。皆強くなるために訓練しているからな」




 少女の頭を撫で、ほのぼのとした顔で見てくる寒白を睨んでから指揮台の方に戻った。


 あと五分何をしようかと考えていると、ペアと合流したらしい皇雪と鬼燈がやってくる。



「線蓮、あれが例の電気人間か?」

「刺激するとショック死するぞ」

「こっわ」

「何を言うか。健気な女の子じゃ」

「お前子供好きだよな」

「性根が腐った大人より百倍増しじゃろ」



 どうやら鬼燈は運良く部長とペア、皇雪は研修二人とペアになれたらしい。


 こういうランダムは思いがけない繋がりを作れるので団結性向上にも繋がる。今回は完全な会長の思い付きだが。



「曄雅と未優と静璐は誰になった?」

「曄雅と掃除機娘は知らん。ルーキーは研修生となって喧嘩してたぞ」

「あれはもはやいじめに近いだろ。物理的に尻に敷かれてた」

「まぁ……それはそうだが」



 二人で神妙な顔をしながら頷き合うのでその研修生を考える。静璐を尻に敷くほど強気なやつなどいただろうか。しかも序列を重んじるこの会社で、日蔓の部下に手を上げるとは。


 そもそも研修生をよく知らないからなぁと考えていると五分経ったようでタイマーが鳴った。




「お前らは戻れ」

「へいへーい」



 二人ともすたこらさっさと帰っていき、線蓮は指揮台に立つ。見えたのは、かなり大柄な男に座って女の子と話している静璐の姿。尻に敷いてるのはそっちね。温厚な静璐が珍しい。




「……十五分経った。今から八時半までにチーム名を決めてエントリーすること。テントは各自空いているところを使え。以上!」



 線蓮の澄んだ大きな声で開会が告げられ、皆が拍手を送った。







「おいクソ餓鬼! いい加減降りろや!」

草桜(さくら)さんはチーム名何がいいと思う?」

「えっ、と……!」

「無視すんなボケ!」


 蜜列(みつら)を無視してまだ見習いの草桜と話す。気は弱そうだがちゃんと自分の意見は言えているし声もハッキリしているので静璐は結構好きなタイプ。



「う、うーん……る、ルーキー組……?」

「それはちょっとかなり嫌かな」

「そっですよね!? えと、じゃあ……静璐、さん組とか!?」

「うーん……二人ともパーカー黒だし黒組で良くない?」

「でも静璐さん真逆みたいな色してますよ」

「決まればいいでしょ」


 静璐はようやく立ち上がると勢いよく立ち上がった蜜列を見下ろす。



「異論なし?」

「知るか。勝手にやってろ」

「協調性皆無だねー」



 呑気な声が聞こえ、三人でそちらを見ると日蔓と衝羽(つくばね)に抱っこされて座っている未優が手を振った。静璐もそれに振り返す。



「何二人とも同じチーム? 運悪すぎ」

「日蔓はぼっちだって」

「ぼっちじゃないけど超嫌いな奴」


 日蔓が線蓮以上に嫌な顔をしている。珍しいというか初めて見た。



 未優は衝羽から降りるとパーカーの裾を整え、静璐を睨む蜜列を見上げた。

 それに気付いた蜜列は未優を見下す。



「んだよチビ餓鬼」

「才能がない奴って可哀想」

「この坊主に言ってやれよ」

「これに才能がないなら班には誘ってないって冗談キツイなぁ!」


 あどけない笑顔で煽り返し、すぐ手を出す蜜列と蜜列がとことん嫌いな未優は二人でやり合う。



 衝羽は鑑賞モード、日蔓は興味なさそう。静璐も。



「……草桜さん、受け付け行こう」

「あ、はい!」

「こっちの相性は良さそう」



 不運だな。相性最悪実力ピッタリ、相性良好実力最悪。せめてどっちも最悪か、いいならどっちも最高になればよかったのに。




「衝羽、未優任せたよ。逐一見に行くけど」

「任せて下さい」

「糖分補給止めないでね。水分補給は無理やりでも飲ませて。あと絶対触るな」

「糖分と水分ですね。了解です」


 日蔓は静璐と草桜を追っていき、蜜列を御した未優は皆がいなくなっていることに気付く。



「あれ、日蔓とトンカチ君は?」

「今エントリーに」

「あぁ。……私たちは?」

「既に終わっています」

「ゆーしゅーだ」



 未優は小さく拍手を送ると蜜列の上から衝羽の腕に移動した。衝羽は良くも悪くも未優に尽くす執事的な立場。別にそこまで仲がいいと思ったことはないが、未優が助けたこともあり尽くされている。

 現代日本に似つかわしくない感情というか思考というか。












 一層賑やかになる皆を眺めていると、テントに誰かがやってきた。



「先生」

栖樹(すのき)、どうした」



 線蓮は立ち上がるとジャージにパーカーを着た栖樹の向かいに立つ。前に弟子にしてくれと直談判されて日蔓が入れたのならと弟子にした子。

 頭は使えるので分析か技術に行けと言ったら断ってきた子。



車花宮(しゃかみや)静璐について教えてもらいたくて」

「静璐? 温厚なお人好しのバケモンじゃ」

「バケモノ……? 先生がそんなに言っていいんですか」

「いいも何もあれは成長したらわしを超える。曄雅か……未優といい勝負じゃな」



 半永久的な体力に未優の脚と並び人間離れした筋力と体幹。そして自我が薄いというか弱いせいで恐怖心をまるで感じず丸腰で界魔に突っ込む勇気と根性。

 誰に聞いても必ずあがる素質が備わっている。



「なんじゃ? 友達候補か?」

「えぇまぁ」

「ライバルにはなれんぞ。お前は体がてんで駄目じゃ。その体なら平にはなれん」

「……鏡界屋で知恵だけで成り上がった人はいますか」

「わしの今まで生きた中で知っておるのは一人。それも結局は殺されたがな」



 機転の利く頭とよく働く推理力とずば抜けた分析力、そして何より天から授かったカリスマ性で人の中心に立ち完璧な指揮をこなす人。

 でもどれだけ慕われ信頼されてもたかが指揮者。演奏者がいないと成り立たず、ランクの上がった界魔に仲間五十人近くの生気を取られて最後は知性のある界魔に殺された。


 すぐに部長数十名と寒白、当時既に有名になり始めていた日蔓で抑えられたからよかったものの、人間五十人以上の生気を吸いきった界魔はランクが二前後になる。


 その直後に支配人の乱入があれば尚のこと。




「ちなみに女でお前より若かったぞ」

「……なら俺は死なないよう最強の布陣を作ります」

「おとなしく別の棟に移ればいいものを。目標がなければ何もできんぞ」

「目標……一番は部長になりたいです。専務になる気はありません。でも部長になる前に、絶対に曄雅さんの班に入る」

「おめでとう既に挫折寸前じゃ」


 線蓮はケラケラと笑い、全く冗談なしだった栖樹は眉を寄せた。


「酷くないですか」

「お前は無理」

「何故決め付けて……!」

「お前未優と喧嘩するじゃろ。そもそも曄雅は当初未優以外自分の部下に置く気はなかった。どれだけ強くても知恵があってもな」



 それを自分の芯が柔らかすぎるのか全くないのか、未優の噛み付きを受け流す静璐に会って初めてこれなら未優の傍にいても無害だし才能もある。班の二人目にピッタリな人材だと勧誘した。


 界館が掲げるモットーの人間第一も心にあるし、界魔に一切の恨みを持たず界魔に一切知られていない人間。無害と言うのには十分すぎた。



 だから日蔓は静璐を気に入るし、未優も静璐には噛み付きすぎず後輩の可愛がり程度で済んでいる。静璐本人もそれが素というようにまるで疲れやストレスを見せず、それが未優を楽にしている。


 未優第一の日蔓が望んでいた人間を未優が助けた。これ以上の偶然があるだろうか。



「過去に四人、班に入って一ヶ月と持たず逃げ出しておる。曄雅の激務、周りからは期待の新人、未優からは後輩へのいじめ。曄雅と未優の喧嘩に挟まれ未優の威圧的な性格に圧されストレスで精神疾患を患ったり体が動かなくなった、耳が聞こえなくなった、自殺未遂をした。辞めるには十分な理由じゃろ」




 線蓮の言葉に栖樹はふと疑問を覚える。



「それはあの未優さん? がいじめをやめればいいだけでは……」

「無理じゃろ。未優本人いじめとは思っとらん」

「いじめっ子の典型ゼリフですよ」

「いや、そもそもの原因は曄雅の激務なんじゃがな」


 日蔓が問答無用で一日に二、三ランクを五個も六個も入れるせいで一般人なら疲れが溜まり、糖分で回復する未優は全く疲れない。

 その結果足でまといになって邪魔だ手出しするなと言うし、新人は新人で餓鬼に貶される覚えはないだの人間の体力を考えろバケモノ、異常人だの、未優に精神的苦痛を与えるせいで未優も当たりが強くなる。当たり前のループだ。




「なんで曄雅さんはそこまでして仕事を……」

「元は未優を育てるための給料欲しさ。今は理由などない。未優が動きたいなら開放するしケーキ代がかかるならその分稼がせる。それだけじゃ」

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