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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
27/155

27.くじ引き

「おはよー。調子はどうかな」

「おはようございます。まだちょっと……いや大丈夫っす」



 朝七時二十五分、五分前行動で着いていた静璐のすぐあとに日蔓がやってきた。


 まだ手首と足首の鎖の怪我が痛い静璐は言うほどでもないなと思い直して首を横に振る。



 鉄よりも重く手首とほぼ同じ大きさの鎖だったので擦れて傷が膿んでいたのと、洗っていなかったせいでかなり菌が繁殖していた。その結果今は両腕両足包帯状態。ちなみに未優も同じ。




「日蔓さん出るんすか?」

「もう面倒臭くなってさぁ……。別にいっかって思ってる」

「日蔓さんがいいならいいんすけど……」

「お、未優も来たね」



 日蔓は眠そうに欠伸をしながらフルーツサンドをかじる未優に大きく手を振った。

 未優はそれにあくびで返す。




「ねっむ……なんで七時半……」

「制限時間が一時間だからだよ」

「朝ご飯食べてなぁい……」

「今食べてるじゃん……」



 三人で大きく開けられた界魔の塔の門を潜り、すぐに始まった階段を上り始めた。


 塔の中心には界魔の詰まっている檻があって、その周りに石の螺旋階段が回っている。

 大きな丸い檻が十字に隔てられ、縦三メートルほどで区切られている。かなり大きい牢屋だ。


 線蓮が言っていた暗い人には暗い灯りも納得の薄暗さ。




 時々人と入れ違うが、それ以外は静まり返った牢屋だ。でも上に登るほど段々凶暴性が増すのか知性があるのか、時々牢や壁を殴るやつもいる。

 未優は怖いのかずっと日蔓の手を掴んで後ろをついて行っている。



「あ、あったあれだ」

「早く取って帰ろう……」

「未優怖いの?」

「だってここ狭いし……」

「閉所恐怖症なんすか」

「うーん……トラウマ? みたいな? 覚えてないけど」


 覚えてないトラウマって、そんなことあるか。



 静璐は首を傾げ、未だ未優の過去を掴めていない日蔓は記憶が戻った時のように頭を撫でた。

 しかし未優はそれを払って手を掴む。触るのはいいが触られるのは嫌らしい。




「ツンデレちゃん」

「キモい」

「お前のことだかんな」

「私のことだからだよ」



 日蔓が未優の頬をつねっている間に静璐は紙の箱の中にある大量の紙切れから紙を一枚選んだ。

 未優が引き、二人は日蔓を見る。



「日蔓は引かないの?」

「僕はいいかなー」

「なんで」

「不運体質だし?」

「宝くじ買うんじゃないしさ。ほら」



 未優は紙を一枚取ると日蔓に差し出した。取ってしまったものはしょうがないと、渋々受け取る。どうか神が味方しますように。




 日蔓は堂々と四つ折りの紙を明け、中を見た。



「……18番」

「開けるなって書いてなかったっけ」

「どうせバレないよ。降りよう」










 塔の下の方に差し掛かる頃にはかなり人とすれ違う回数が増えてきて、最後は未優は手を繋いでいないと埋もれるほどに人が多かった。



「なんでこんなに多いんすか……」

「もう制限時間ギリギリだからだよ。監視官が行ったから八時近いだろうし、皆開会前から並ぶかギリギリの時間しか選ばない」



 だから七時半なんて中途半端な時間だったのか。


「こんな人少ないもんなんすね……」

「そりゃ誰も拷問の塔とか呼ばれるここには来たくないでしょー。しかも人が少なそうな中途半端な時間とか」

「……確かに?」

「前にここから界魔が出たから怖いだけでしょ。人もいないし」


 未優の言葉にも納得する。確かにこんだけ界魔がいるのに嫌だよな。襲われても誰にも気付かれないかもしれないのに、それはそう。



 ほけーっと納得しながら歩いているうちに出口が見えてきて、三人で外に出た。外にはずいぶんと酷い怪我をしている線蓮と陽南花(ひなか)部長。遠くにはお互いの番号を見せあっている希愛(のの)姉妹もいる。なんで皆開けてんのかな。



「曄雅! 何番じゃった?」

「なんでいんだジジィ」

「静璐に聞いた」

「技術棟南って言ったのに……」

「二十五分に行ったらいなかったから」



 日蔓にデコピンをされた静璐は額を押えながらため息をついた。

 陽南花は未優と番号を見せ合う。



「……線蓮さん怪我大丈夫っすか」

「この怪我よりあばらが痛い」

「そ……れはそうっすよ」


 だって折れてからまだ一週間ちょっと。内臓に刺さるほど折れていたのに治るわけがない。本物のバケモンじゃあるまいし。



「そんな怪我で出るんすか……?」

「いやぁ出んよ。さすがに動けんし司会もある」

「なんで日蔓さんに聞いたんすか……」

「好奇心?」


 この人かなりお茶目だよなぁと薄笑いをしていると、未優たちの方はいつの間にか日蔓も希愛姉妹も合流して皆で見せあっていた。

 何があったのか陽南花は未優の後ろから腕を回して日蔓は番号を見せながら陽南花の顔を押している。未優は希愛姉妹と話していて全く興味を持っていない。



「静璐は何番か見たか」

「まだっす。俺そんなルール破らない派なんで」

「あんなんルールに入らんわ。開けてみろ」



 線蓮が覗き込み、仕方がないので紙を開いた。


 107番。やはりこの人数だとかなり大きい数字まであるらしい。





「よし、じゃあ開会式場に行くか!」

「あ、僕用事あるから済ませてくる」

「えーじゃあついて行く!」

「来んな」



 静璐は線蓮の首根っこを掴み、動けなくなった線蓮は泣く泣く日蔓を見送った。


 ここで待つという線蓮を半ば強引に引きずって校庭の中心に向かう。


「トンカチ君それの扱い上手いね」

「こういう人にはちょっと慣れてるんで……」

「……心中お察ししよう」

「はい」









 皆で校庭の中心に行くと既に幾人かが走ったり準備運動をしており、皇雪が準備しているのも見えた。


 線蓮は立ち上がると服を整え髪を梳いた。

 いつも白に近い銀の髪をポニーテールにしている。たぶん地毛なのだろうが、顔の若い凛々しい雰囲気とよく合ってまさに美男という感じ。



「線蓮さんの髪って邪魔じゃないんですか」

「邪魔でしかない」

「切ればいいのに」


 お腹が空いている未優は袖で隠れた手でお腹を押えながら線蓮と話す。静璐は希愛姉妹に皇雪の元へ連れていかれた。




「自分で切るのも面倒臭い」

「美容室とか理容室とか」

「嫌い」

「誰かに切ってもらうのとか」

「信用できん」

「自分……」

「面倒!」


 長い理由に納得した未優は自分の髪を触った。

 未優は月一で日蔓に切ってもらっているが、嫌がるだろうな。面倒臭がって自分の髪も前髪しか切らないのに。髪型を変えると線蓮がうるさいと言うのもあるのだろうが。





 未優が指揮台に座って前に線蓮に膝立ちをさせて髪を編んでいると、日蔓が戻ってきた。未優に袋を渡す。



「あ、朝ご飯!」

「食べてないんでしょ。……お前は何してんの?」

「未優に遊ばれとった」

「髪が邪魔だって言うから」

「切れよ……」

「面倒臭い」



 未優に解かれた髪をまとめ、未優の隣に座った。膝が痛い。怪我してたんだけどな。そんなことよりあばらの方に気を取られるのだが。




「いただきまーす」

「日蔓さん、皇雪さんと希愛姉妹って兄妹なんですか?」

「そだよ〜」



 寄ってきた静璐に、皇雪は結婚して苗字が変わったと言うのをざっくり説明すると結婚しているということに一番驚かれた。聞かれた内容的に兄妹のところを驚くのかと思ったが。



「けっ……こんしてる人っているんですね……」

「何故こっちを見る」

「その歳で結婚してないからでしょ。アイドルでもない人の追っかけはやめなよ」



 パンをかじる未優の辛辣な言葉を線蓮は聞き流し、静璐は日蔓を見上げた。



「日蔓さんは?」

「僕? してないよ?」

「彼女とか」

「いないね。興味ないし」

「でもこいつ超モテるよ」

「それはそうでしょ。顔いいですし」



 未優が立って静璐と二人で向かいから眺めては頷いていると、陽南花(ひなか)もやってきて未優の後ろに仁王立ちした。

 なんだと思って見上げれば、両頬を挟まれて揺すられる。



「顔で言うなら太薰蛇(たしげだ)が一番だろう」

「普段意見しないくせにこういう時だけ……」

「確かに未優さんって綺麗な顔してますよね」

「昔っからだよ。昔はもっとやつれてたけど、今はまさしく美少女?って感じ」

「はなへ」



 未優は陽南花の手を振り払おうと腕を掴んで顔を振るが、腕では無理。勢いよく足を上げるとそのまま真後ろに振り下ろし、足を蹴り飛ばした。


 陽南花はそれに沿って足を曲げたが、未優のスピードと柔軟性に追い付けず結局蹴られる羽目になった。


 しゃがんで右足を抱える。



「ざまぁみろ」

「未優の言葉遣いが荒い……」



 一応未優の教育係として言われている日蔓は頭を抱えてため息をつき、静璐からなんとも言えないような目で見下ろされた未優は真顔になって開き直る。


「私が何を言おうと勝手だから」

「別に勝手じゃが将来言葉遣いで苦労するのは自分というのを覚えておけ」



 あばらのせいでしゃがめない線蓮は未優の頭に手を置く。未優は少し面倒臭そうな不服そうな表情だが、静璐にしてみればどっちもどっちだと思う。


 この人自分で思う年齢と見た目の歳の差を理解していない。



「……なんじゃ静璐」

「いや、別に……」

「言葉遣いに関しては線蓮さんも言えないでしょう……」

「わしは顔と性格と地位もあるし金も名誉もあるし?」

「自己肯定感高すぎですよ」



 ようやく痛みが治まってきた陽南花は立ち上がるとドヤ顔で自慢してくる線蓮の怪我をした頬を爪で刺した。ガーゼの上からと言えど刺されると痛かったのか、顔を反射的に逸らして頬を押える。


「痛いわッ!」

「すみません傷が残ればなと」

「性根が腐った奴め」

「あんたが言うか」


 未優のツッコミに自覚していない線蓮が目を丸くして首を傾げていると、いつの間にか立ち直っていた日蔓が衝羽(つくばね)部長を連れて戻ってきた。




「未優、静璐! 始まるよ」

「はぁい」

「うす!」



 二人で揃って返事をし、皆はすぐにバラけ始めた。

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