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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
26/155

26.ルーキー

 いきなり蹴り飛ばされた静璐は目を白黒させながら勢いよく立ち上がり、後ろに立っていた男はベンチに足を乗せた。まだ十九か、成人はしていなさそうな風貌をしている。



「おいお前、曄雅さんに気に入られてるみたいだけど」

「当たり前だろう。静璐は日蔓が勧誘したんだから」

「俺だってそうだ!」

「もちろん私だってそうだよ? 日蔓は昔から勧誘癖があるから。でも見習い、研修、平を飛ばして自分の班に誘ったのは何人かな。今日蔓の班は私と静璐の二人だけど」

「この餓鬼っ……!」




 男は未優の首を掴み、未優はそれを払うとベンチの上に立った。


 静璐はいよいよ白熱してきた二人を心配してとりあえず日蔓に連絡しておく。元凶を連れ出すの大切。



「たいした才能もないくせにイキってんじゃねぇ」

「俺は才能があるから曄雅さんに選ばれたんだ!」

「才能がなくてもあれは入れるよ。動けなくても脳を使わせることは容易だからね」

「違う! 俺は……」

「その俺は俺はってやめなよ。ここには君より選ばれた人間が二人もいるんだから」



 未優が笑って見下し、男が歯を食いしばっているとどこか遠くから静璐を呼ぶ声が聞こえてきた。


 皆でハッとして、声が聞こえてきた方を見る。




薄紅(はっこう)さん!」


 静璐の隣の部屋の住人で、よく噂話や有名な伝説を教えてくれる人。まだ若そうな容姿の人だ。技術屋らしい。



「久しぶりー! 支配人に拉致られてたって本当!? お隣にインターホン鳴らすのもちょっと気が引けて……!」

「全然大丈夫っすよ。心配ありがとうございます」


 薄紅は静璐に駆け寄ると未優に一度会釈してから静璐に状況を聞いた。




「えぇ静璐君線蓮さんとも知り合いなの……!? 凄い!」

「いや、だって日蔓さんと仲良いじゃないっすか……」

「なるほど」

「あ、は、薄紅さん、未優さんにサイン貰わなくていいんすか……?」

「あ、是非!」

「いいよー」



 いつの間にか座っていた未優は薄紅のスマホケースにサインを書く。日蔓が勝手に考えて未優が勝手に使っているサイン。








 しばらくして、意外と気の合う未優と薄紅が話していると病棟側から日蔓がやってきた。



「おーい」

「あ、来た」

「それじゃあ俺はこれで」

「またね〜」



 未優は薄紅に手を振り、日蔓は四人いることを確認すると走ってそちらに向かう。この三人絶対仲悪くなるのに。



「未優、静璐」

「日蔓、この見習いどうにかして」

「研修生なんだけど」

「どっちも同じだろ。一人で出れないヘボ」

「餓鬼に言われたくねぇ」

「聞こえてなかったのか忘れたのか理解できなかったのかどれかな? 私は君が誇りに思う日蔓曄雅クンから何年も前にスカウトを受けて入ったんだけどなぁ!?」



 未優が徐々に苛立ち始め大声を出すと、幸いなことに気付いていなかったもう一人が不幸なことに気が付いた。

 日蔓は顔を引きつらせると未優の口を塞いで蜜列(みつら)から離した。





「日蔓さん、お久しぶりです」

「久しぶりー……」

「顔色が悪いようですが」

「大丈夫だよー……」



 白髪を肩の高さで切った物静かな雰囲気の青年、栖樹(すのき)。雰囲気と違わず頭のいい子だ。まさしく知将と言う言葉が似合うほどに頭がいい。

 性格に少々難ありだが、難なしが静璐ぐらいのこの会社では全く問題ない。




「お前も曄雅さんスカウトか」

「そうですが?」

「腹立つなその声」

「貴方の声は耳が痛くなる」



 誰もこうなるとは思わない。別に浮気をしたわけでも君が一番だとかそんな現を抜かしたわけでもない。ただ、使えそうな奴を適当にスカウトしただけ。



 なんでこんなことになるかな。





「キザ野郎! お前平社員でもねぇんだろ!?」

「貴方だって研修生でしょう。同じ立場ですよ」

「なんで俺がこんなキザな野郎と同じ立場で、しかもこんな餓鬼の下なんだよ!? おかしいだろ!」

「別におかしくはないだろう。君には才能がなくてこの子にはあった。それだけだ」

「はぁ!? お前も同じ立場なんだぞ!?」

「僕は自分のことを鼻にかけるようなことはしませんから。スカウトされてあとは言われる通りに動いていたら、普通は上がれると思いますけどね?」



 栖樹と蜜列が喧嘩していると、二人を怖がる静璐が日蔓の傍にやってきた。



「今のうちに逃げません……?」

「賛成」

「行こう」



 三人で息を殺して足音を消して後ずさると、しばらく離れてから各々自室に帰った。



 久しぶりに自分の家というか、まだ真新しい家具たちに囲まれているせいでそんな実感はないのだが。自室に戻ってきた静璐はため息をつきながら鍵をかけて部屋の中に入った。


 初めに薄紅に教えてもらった通り部屋の中は白や黒の目立たないマスキングテープで反射するような家具は全て反射防止対策をしている。

 未優の部屋は何もしていない、何もしなくても怯えて出てこないと聞いていたが、普通に対策はしてるし出てくるもんなんだな。て言うか未優の部屋がバレているのにここに襲撃が来るような危険はないのだろうか。何か対策しているのかも。




 帰ってまだ一日は経っていない静璐は少し怖さがありながらも昼食を作り始めた。

 日蔓と未優のは未優の部屋で作ったが自分のは作ってない。食材もギリギリ生きているのがいくつかいるのでそれを使って簡易的に。乾物は普通に無事。



 どれだけ場所が変わっても食事の味も量も、真っ暗な中で食べるのも変わらないな。でも、一日の間にこんなに話したのは初めてかもしれない。










 食べ終わって、暇なので学校のここ一週間の復習をしているとスマホに全体連絡が来た。


 合同訓練競技大会が明日の朝から行われる、と。急すぎやしないだろうか。準備ってそんな簡単なのかな。

 明日の朝七時から八時の間に体育館、道場、本館東西、技術棟南北、界魔の棟最上階に設置された箱の中から計一枚だけ紙を引くこと。その紙は開会式まで開けないこと。引かなかったものは棄権と見なす。

 これは見習い、研修生、専務、それ以上の人でも同じ。ただ、進行役の線蓮に関しては途中参加になるなら引かないことと書かれている。


 なんだろう、罰ゲームとかないよね。





 静璐はもう一通来ていた、処罰に関する通告も開ける。

 処罰許可人が秘匿の場合は無効とするため例え通告が来ても無視しろ的な内容が書かれている。

 とにかく必死さの伝わる文だ。




 やっぱり線蓮のことで何かあったのかなと線蓮に連絡しようとしていると、その前に日蔓から連絡が来た。

 明日朝七時半に界魔の塔集合、と。界魔の棟ってどこだっけ。



 とりあえず分かりましたとだけ返しておき、急いで線蓮に連絡する。とりあえず困ったら連絡しておいでと言われたので遠慮なく。




「……あの塔……」



 すぐに返信が来て、校庭の傍にあるマンションと反対に見える塔だと教えられた。

 確かに茶色いレンガと鉄で少しメタリックな感じの塔が建っている。あれか。



 二、三日前まで半壊していたが技術屋が昼夜交代で直した結果綺麗に直ったしちょっとレベルアップしたらしい。

 中が少し明るくなって見易くなった、と。元を知らないのでなんとも言えないが、明るくしないと見にくいほど暗かったのだろうか。今も暗い人には暗いらしい。なんで明るくしないんだろう。






 線蓮に明日は塔のクジを引くのかと聞かれ、素直に答えたら朝から騒がしくなるんだろうなぁと思って技術棟の南と答えておく。

 塔は単に気になったから。断じて界魔の塔では引かない。



 結果、嘘つけと一蹴されて未読になった。ひどい。







 今日の夕食はなんにしようかな。昼はパスタを作ったので具材適当に放り込んでカレーでも作るか。しばらく気力回復ができていなかったのでそのせいか、ソファに寝転がってそのまま寝落ちした。

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