17.車中泊
「朝早いね〜」
「おはようございます」
「おはよ〜」
車中泊二日目、朝七時には既に起きていた静璐はアラームで起きた日蔓に軽く会釈した。
「眠れなかった?」
「いや! もうぐっすりっす」
「それならいいけど、クマ酷いよ?」
「寝起きはいっつもっすよ。水飲んで顔洗って血流回復したら戻るんで」
「ならいいけど。銭湯行く?」
「……行きますか」
起きたら日蔓と静璐の姿はなく、メールには銭湯行ってくるの一言だけ。
お腹空いた。保冷バッグに皆が差し入れで持ってきてくれたお菓子があったよな。
未優が体を起こして髪を軽くまとめていると、車の窓にノックが鳴った。ハッと見れば、少し離れたワゴン車で泊まっていた皆が出てきている。
そりゃ九時半から四時間半かけて東京には帰りたくないよな。
「おはよう未優さん」
「おはよう丁字」
「一応靴のメンテナンスは終わったよ。中の鉄板がちょっと歪んでたのを直して、ゴムとか中敷きには問題なかったから」
「ありがとう。助かるよ」
リアゲートを開けてメンテナンスの終わった靴を履かせてくれる。
ゴムをフックで止めて、違和感がないか確認。
「……良さそう」
「良かった! 一応前の靴もあるから!」
「助かるよ」
「いやいや! それじゃあおやすみ〜」
徹夜だったらしい。車に乗る途中で寝落ちして、中に乗っていた人達が引き上げた。相変わらず面白い人。
「あ、未優起きてた」
「おはようございます未優さん」
「おはよー」
「おはよう二人とも。仲良く朝風呂はどうだった」
「普通」
そりゃそうだ。
日蔓はリアゲート側から腰をかけると未優に温泉の売店で買ってきた水とジュースとおにぎりとアイスを渡した。
アイスと炭酸だけ保冷バッグへ。
「いただきます」
「はーい」
「二人はもう食べたの?」
「帰ってくる途中でお腹減ったからね。一緒に食べたかった?」
「女子たちと食べてこよ」
女子の輪の中に入って皆で笑う未優を見送り、日蔓はパーカーを脱ぐといつもの私服で少し森の中にある駐車場を出た。
キョロキョロと見回して、人影を見付けてそちらに歩く。
「未優ちゃんが会いたいってさ」
「ぅえ……!?」
「覚えてないけどニュースの記事とかは全部集めてる。会ったら何か思い出すんじゃないかって」
「いや……俺に会っても嫌な記憶だけだろうし……」
「でも仲良かったんでしょ。保護された未優はずっと誘拐じゃないって」
「それは洗脳が……」
「洗脳はしてないんじゃなかったの。記者の言葉に自分が影響されたら誰も真相が分からなくなるよ」
日蔓の説得に心が揺らいでいると、未優の声が聞こえてきた。
「日蔓ー! どこ行ったー」
「会えるチャンスだよ」
「……いや、いい。俺は親じゃないし、家族でもなんでもない。また未優の邪魔をすることになりますから」
「何邪魔って」
「帰ります。忙しそうだし……未優の幸せそうな顔も見れたんで」
できることなら未優関係全部話してもらった方が楽だったんだけど。
日蔓が背中を見送っていると、未優が後ろから走ってきた。
「日蔓!」
「どうしたの」
「……今の誰? 友達いたの?」
「何をー」
「ねぇ石川って行けない? 石川にあの人の実家があるんだって」
「無理だよ。いきなり行っても迷惑だし」
「でも……」
「戻ろう。……いつか絶対会えるから」
皆で愛知を旅して、東京に帰れば鏡界館はすっかり大会ムードに染っていた。
無数のテントが張られたグラウンドに出店の並ぶ道、垂れ幕のかかった本館。
「すげぇ豪華っすね!」
「毎年毎年ね〜」
「今年は特にでしょ。専務二人のお気に入りが出るんだから」
「何その言い方。腹立つわー……」
「ちょっとカリカリしすぎじゃない」
「あ?」
「ん?」
火花を散らす二人の間に割って入り、そんなことよりもと皆で荷物を片付けに各々部屋へ戻った。
日蔓はあとで短剣を取りに行くらしいし未優はインナーウェアと靴のことで相談があるらしいので静璐は一人で行動になると思ったが。線蓮に呼び出された。
「お久しぶりです」
「久しぶりじゃな。曄雅は元気にしとったか」
「相変わらず」
「それは何より」
未優が復帰しスマホも教えてもらって替えれたのでしばらく接点はないかなと思っていたのだが、普通に呼び出された。
「今日はなんですか?」
「あの女の子のことについてな。発見したのは君じゃろ?」
「そうです。未優さんに教えてもらって……」
「あの子の異常な放電体質は異常なものじゃ。何故あんな人間離れしたことになってるのか……」
「フルーツじゃないですか? 俺が見た時女の子が青いザクロみたいなつぶつぶしたフルーツを食べてて」
「青いザクロ?」
「ちょっと思い出したんです。そう言えば俺も食べたことあるとおもっ……て……」
進んでいた足を止め、ふと脳裏に蘇ったその光景に意識を向ける。
なんであの子が食べたフルーツが特異体質の原因だと分かったのか。何故知っていたのだろう。いやそれよりこの光景は。
見た事のない鏡界だが女の子が食べていたようなフルーツがたくさん、色々な種類があった。そこに、もう一人いて、二人でフルーツを食べて、もう一人の子は誰かが連れて行って……。
「……ろ……! せいろ……! 静璐!」
ハッとして、焦ったような心配そうな顔で見下ろしてくる線蓮を見上げた。
「あれ、俺……」
「いきなり倒れかけるからびっくりしたわい。心臓飛び出るか思うた」
「す、すみません……ぼーっとしてて……」
「で、青いザクロがなんじゃ? 知っておるのか?」
「しっ、てるというか……俺、たぶん食べたことが、あって……」
病院に連れていかれ、女の子の病室に入った。
女の子の両腕両足には発電用のコードが直接巻かれ、女の子は人に気付くと勢いよく起き上がった。
「無理するな」
「線蓮さん、こんにちは」
「気分はどうじゃ?」
「大丈夫です。……ちょっと、これが痛いけど……」
「留め方を変えよう」
線蓮は少女の腕のコードの場所を変え、痛くないよう調節した。両手両足。片腕だけでは到底足りなかった。
「お前に聞きたいことがあってな」
「なんですか?」
「青いフルーツを食べたか?」
「はい。つぶつぶした……味はしなかったけど、お腹が減って食べれる物ならなんでもよかったので」
「美味しくはなかったか」
「美味しかったですよ! お腹が空いた時に食べるものは全部美味しいです」
「そうか。美味しかったならよかった。……この放電はそのフルーツを食べる前はなかったんじゃな?」
「はい。一粒か二粒か食べてから、いきなりバチバチし始めて、あのナマズちゃんが吸収して……」
今はお腹いっぱいまで食べたあとなのですこぶる機嫌がよさそうだ。とりあえず放電問題の原因は確定。
今後は皇雪、そのフルーツたちに関しては鬼燈の管轄なので線蓮が踏み入る場所ではない。
「分かった。……また後で来る。今度は味のあるフルーツを持ってな」
「ありがとうございます!」
「ゆっくり休んでおれ」
頭を撫で、二人で病室を出た。
線蓮は明らかに顔色の悪い静璐の頭を撫で、そのまま歩き出す。
「誰もお前を責めんよ。迷惑も問題も起きてない」
「……すみません」
「謝るな。癖になるぞ」
「はい」
「このことは誰にも言わんし墓場まで持っていこう。自分の体質を活かした戦いは誰もがやっとることじゃ。自分を責めるな」
「ありがとうございます……」




