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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
16/155

16.デンキウナギ

「トンカチ君、あんまり離れないでよ」

「俺未優さんについていける自信ないんすけど……」

「ついて来れないなら先回りしろ」

「んな無茶な」




 鏡界に入った二人は本当に迷路の鏡界の塀の上に立ち、いきなり無茶難題を振られた静璐はげっそりする。

 未優はスマホを操作しようとするが、圏外でもないのに操作が効かない。触れても動かない。



「スマホ壊れた?」

「もしかしたら電気製品になんかが影響してるのかも」

「でもスマホって独立の機械じゃ……」


 独立の機械とは。





 何となく言いたいことは分かるが言葉にツッコミたい静璐が真顔になると、いきなり未優が静璐に手を差し出した。


 静璐は反射的に未優の腕を掴み、未優はそれと同時に地面を蹴る。と、二足歩行の巨大なうさぎみたいな白い物体がさっきまで二人がいた塀を破壊した。瞬間塀が修復される。




「予定変更。トンカチ君はここの主探して」

「ぬっし!?」

「ぬっし。あのうさぎが直したんじゃないから。……離して!」

「はい!」




 手を離すと落下。妙に長く落ちると思ったら落とし穴を三つほど通過していた。どうしたものか。




「未優さァァァん!?」



 落とし穴の上から何かが降ってきて、慌ててそれを避ける。壁の瓦礫だ。この人殺す気だ。





「……主探すか」



 曲がって進んで曲がって戻って、これ絶対回ってるよなと思いながら進んでいると、たぶん過去に誰かが壊したのだろう。壁に瓦礫の山が面しているのを見つけた。あそこを登れば分かりやすいかも。



 そこに駆け寄り、瓦礫に足をかけた瞬間。罠だったのか偶然か、そこがすぽっと抜けてまた落下した。


「あ」


 今度は壁の上に着地できた。と思えば上から降ってくる瓦礫の数々でまた二階ほど落下し、ようやく壊れていない壁にしがみつけて壁によじのぼる。




 現在七階あたり。さてと一体どうしたものか。これ一番下まで落ちたら奈落とかないよね。



 また恐る恐る歩き出すと、轟音とともにいきなり上からうさぎが降ってきた。ゆっくり主を探させてくれ頼むから。




「トンカチ! そのうさぎ後にしてもう一階下! 人間がいる!」

「え!?……いや未優さんボロボロじゃないっすか!」

「私のことはいい!」

「よくないっすよ! このうさぎ最速で倒して下行けばいいんでしょ!?」

「あ馬鹿っ……!」



 真正面から突っ込んでいく静璐は制止する暇もなくうさぎの蹴りと真正面からぶつかった。


 静璐は岩より固いうさぎの足に穴を開け、うさぎの胴体に直撃。




「マジかよお前……」



 うさぎの体が吹き飛び、静璐は未優を見上げてピースをするとそのまま地面を蹴り破って落ちていった。

 未優も行こうとしたが既に修復が始まり、一瞬で人が通れる幅ではなくなった。




「……未優さァん! 女の子ォ!」

「保護して! 連れてこい!」

「界魔が側にいて! たぶん主!」

「主はお前に任せたろ! 私に振るな!」



 未優の役目は。


 床を六枚ぶち抜き、七階まで降りると足ダンで地震を起こすうさぎと対峙した。



 ダンダン迷路を叩くせいで揺れと壁の崩壊が酷い。




「殺してもいいんだったよね……」



 二体、どっちがどっちかは知らないが、一体殺したあとにもう一体発見したと言えば問題あるまい。だって殺してもいいと許可したのは上だ。




 迷路の塀にしゃがみ、軽く重心を後ろに乗せた。


 後輩ができるのに先輩ができませんじゃ示しがつかない。今度は力をもっと込めて、勢いと力強さを。



 弾き返すように地面を蹴り、迷路の一本道を走って谷を越えまた勢いをつける。




 うさぎも構え、未優は高く高く飛び上がった。

 走ってきた勢いと足が体を引っ張る力でうさぎに近付き、また空中で右に一度捻る。さっきは速さを見くびって回転が間に合わなかった。今度は大丈夫。


 左足を大きく振り出し、うさぎの足に穴を開けて守りを突破する。穴のあいた足を蹴って、出っ歯の前田を蹴り割り、鼻を蹴ってまたジャンプすると勢いよく飛び上がり、重力と筋力をフル活用して宙で一周。

 そのままうさぎの眉間に両足を置いた。


 三秒の間。うさぎが足を振り上げて自分の眉間ごと蹴り飛ばそうとした時、うさぎの骨を全く感じさせないほど眉間が凹んでうさぎの顔面が潰れた。顔面から血が溢れ、死んだことを確認するともう一枚床をぶち抜こうと足を振り上げた。

 瞬間、遠くから轟音とともに静璐の叫び声が聞こえてくる。





「あん……?」

「……ん……! さァ…………ん!」


 ぼやけていたのが徐々にハッキリと聞こえ、ハッキリ聞こえた頃には既に未優の足は浮いていた。



「トンカチ!? 何何!?」

「ヤバいヤバいヤバい! 女の子が暴走した!」

「暴走!? 界魔だったの!?」

「違う! 電気人間!」



 ハッと後ろを見ればデンキウナギのような界魔に乗った電気少女がバリバリと放電しており、二人で絶叫しながら逃げ回る。




「どどどどうしよう!?」

「何したの何あんなに怒ってんの!?」

「女の子がフルーツ食ってたから弾き飛ばしただけ!」

「そりゃ怒るわクズ男ォ!」

「違うじゃぁん!」



 未優はいきなりブレーキをかけ、未優を離さないようしっかり掴んでいた静璐は腕が引っ張られて滑って転けた。




 未優はスマホがつくのを確認するとスマホを三度振ってから右耳につけた。



「日蔓! 今から特殊人間連れて上がるから用意しといて!」

『特殊人間!?』



 通話を切り、未優は静璐の腕を腰に回した。



「離すなよ。死ぬぞ」



 その場を飛び上がると、膝を抱えて足を蹴り上げた。その反動で静璐ごと一蹴し、それを約六回。静璐はダウン。



「吐いてないで逃げろォ!」

「ぎもぢわるい……」

「掴め!」



 未優の腕を必死に掴み、未優は静璐を引きずりながら鏡の元まで逃げた。

 うなぎは変わらず追ってきて、少女は変わらず放電中。




 鏡を二度叩けば鏡界が開き、手鏡より一回り大きいぐらいの鏡に手を伸ばした。



 瞬間向こうから掴まれ鏡に引きずりこまれ、眩しい街灯に目を瞑る。



「未優! 静璐は大丈夫!?」

「それ使い物になんないからおいといて! デンキウナギと放電人間!」

「放電!?」



 静璐は何とか立ち上がると、気合を入れ直して日蔓の隣に立った。三人でガタガタと揺れる鏡を警戒する。



「静璐、無理しなくていいよ」

「大丈夫っす! 頑丈さだけが取り柄なんで!」

「無理しないでよ」





 一瞬気配が濃くなり、その直後、鏡界内で見た時より三倍は長くなっているデンキウナギが少女を乗せて飛び出してきた。


 三人で愕然とし、そのウナギは田んぼに降りると左右に二本の小さな足だけで何十メートルもある体を支える。




「二人とも、後ろに」



 民間人が出歩く時間帯にここで大きな戦闘は避けたい。ということで。


 日蔓は二人を下がらせると、鏡瞳を開いた。




 田んぼの水があぜ道に波打ち、それは徐々に徐々に強くなっていく。



「日蔓、女の子が危ない」



 コントロールなのだろうが、二人には全く影響は出ていない。


 日蔓は未優の言葉で一瞬鏡瞳をかなり強く開き、ウナギが気絶した時点で閉じた。




「ちょっと鈍ったかな……」

「女の子が田んぼに落ちるよ」

「静璐!」


 人付き合いの荒い上司に従って、田んぼに落ちかけた少女を抱き止めた。

 いつの間にか界魔と上に移動していた日蔓は脳天に短剣を突き刺す。




「よし! 仕事終わり〜!」

「帰ろ〜!」

「二泊三日だっての。あと二日あるよ」

「えぇー!?」








 後の現場は運転手の(かんざし)君に任せ、三人で車内でトランプをする。


 女の子は専属病院の救急ヘリが到着するまで車内で鎮静剤を打って保護。見たところ小学生四年か、三年生ぐらい。




「それじゃ全員オーケー? せーの!」

「フルハウス」

「ストレートフラッシュ!」

「ロイヤルで私の勝ち〜! 夜とケーキ奢れよ〜!」



 運がなさすぎてビリの日蔓はムスッとしたままトランプを片付け、静璐は飛び起きた。


「夜だけの話っすよ!」

「日蔓ケーキでトンカチ君が夜飯! カツカレーとサラダ!」

「甘口っすか」

「うーん辛七かな」

「……店!? コンビニじゃなくてカレー屋!?」

「当たり前だろ何言ってんだお前」

「俺の食費がァ!」





 結局皆カレーになった。



 ようやく使えるようになったスマホでメニューを見る。



「私ロースカツの七辛とポテサラコーンにアボカド付けて」

「高っ! えぇ!?」

「運なしー」

「それは俺じゃなくて日蔓さんに刺さりますよ」

「不運な男どもめ!」



 二人で未優を押さえ付けていると、運転手が戻ってきた。


「じゃ僕らは買い物行っとくから、この子お願いね」

「はい!」




 近場のヘリポートまで運ぶ必要があるので三人で車を降りると、すっかり関係者が集まっていた。


 日蔓は職質された時ように短剣を処理係の技術屋に渡しておく。




「まぁいいよいいよ。今日は二人とも頑張ったし僕が奢ってあげよう」

「あとで請求しないでよ」

「しないよ!」

「別にいいっすよ主任」

「いいのいいのー。どうせ二人が稼いだ金だし?」


 こいつ性格悪ぅと二人で睨み、歩いて十分ちょいの最寄りのカレー屋に向かった。




「えーと、ロースカツカレーの七辛とコーンポテサラにアボカドトッピングで。静璐は?」

「牛カレーの十辛とチーズサラダで」

「君それ食べれんの……?」

「俺はそれより未優さんの七辛が心配なんすけど」



 三で中辛、五で辛めの辛口だと言うのに、七辛って大丈夫かお子様が。ちなみに静璐は常に十なので問題ない。



「未優って結構ハッキリしてるよね。甘いものもだけど辛いのは激辛だししょっぱいのはめっちゃ塩かけるじゃん」

「だってあまじょっぱいとか意味分からんし」

「こいつ味覚イカれてるよ」

「それトンカチ君に言っても意味ないだろ」

「いやあまじょっぱいの美味しさを理解できないのは……」



 二人揃って哀れんだ目で見てくるので、問答無用で足を踏み付けた。鉄板入りの靴で。

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