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鏡界館  作者: 織優幸灔
一章
15/155

15.面会

「こんにちは、主任部長呼んでくれる?」

「……申し訳ありませんがそれは……」

「日蔓って言ったら分かるから」




 事務の看守は不可解そうに奥に入っていき、代わりに別の看守が窓口に座った。


 すぐに奥から主任部長が出てきて、日蔓を中に入れる。




「ほ、本日も面会で……?」

「そう」

「すぐに準備するのでこちらでお待ち下さい」


 別にVIPなんかじゃない。

 鏡界館は警察や刑務官の偉い人たちと繋がりがあって、その中でも日蔓は一目置かれているだけ。




 数分すると、二十七歳の男が入ってきた。前会った時よりずいぶんやつれている。



「あ……あんた……」

「久しぶり。もうすぐ出所だね」

「え……? あぁ……もうそんな……」

「未優って覚えてる? 覚えてるよね。じゃないと困るし用がない」

「未優……! 未優に会えるのか……!?」

「無理だよ。覚えてないもん」


 肩をすくめると、男は上げた顔を俯かせた。

 直球に言い過ぎたか。



「まぁまぁ写真でも見て落ち着いて」



 前に撮ってさっき現像した未優の写真を見せ、にこっと笑う。



「未優……。……あの」

「君の質問に興味はない。それより未優と暮らしてる時、未優の記憶はどこまであった? 未優の出生について知ってるなら全部聞かせてもらいたいんだけど」


 前に記憶を取り戻した時は未優が嫌がって聞けなかった。ただ、胎児の頃の記憶があると一言聞けただけ。

 本人の記憶がない以上何も調べられなかった。




「みゆ、う……は…………俺は、新しい親から虐待されてて、何日も家には帰ってないから、お腹が空いてるからって……家に連れて、かえっ、て……」

「新しい親? 生みの親とは違うってこと?」

「未優も理解はしてなかったです。……聞いたのは、ずっと昔に叩かれたり物置に入れられたりして、その後子供がいっぱいいる……たぶん孤児院か施設? に入れられて……里親にも虐待されてたんじゃないかなって……」


 これは思ったより嫌な話になりそうだ。そりゃ記憶が戻った時に精神状態情緒不安定にもなるわな。

 胎児の頃からずっと記憶は覚えているらしいし、全て思い出したら虐待を思い出すのも当たり前だ。


 でもこいつと暮らしてる時にこれだけ覚えていたのか。覚えていたか、未来を見ていなかったから覚えていただけか。となれば未来視もコントロールできるのだろうか。本人の精神状態や環境に影響あったりするのかな。




「……あの!」

「何」

「未優は元気ですか。友達は……」

「元気。超元気で毎日ケーキワンホール二つは食べてるよ。友達っぽいのもいるし生活も安定してる」

「貴方は……たまに面会に来ますけど……未優の……保護者……?」

「後見人みたいなもん。十四歳を一人置いとくわけにはいかないでしょ。保護したのは俺だってのに」

「そう……ですよね。……あの、未優……遠目で見るだけでも……!」

「ん、無理」



 未優の入っていた施設を調べてそこから前後を洗う方が早いか。施設の出というだけでも知れてよかった。



「……君出たあとに住む場所は?」

「い、ちおう、実家に……」

「確定?」

「はい」

「実家どこ?」

「いし、かわ……」

「遠いねぇ!? えぇ遠っ!?」



 思ったより離れていた。


 石川か。無理だな。そっち方面の仕事はなかったし仕事以外で未優を都外に連れ出すのは無理。



「じゃあ残念ってことで」

「あ、愛知は!? 友達が愛知に住んでて……!」

「出所三日後に愛知来れんの?」

「行けます……! 行きます!」

「じゃ三日後の一宮で。さよなら」





 成果の得られた日蔓は未優の写真を取ると立ち上がってそこを出た。愛知の仕事まだ残ってるかな。最悪鬼燈(きとう)に頼めばいっか。



「モナカ買ってってあげよ〜」





















「未優! 静璐! 仕事行くよ!」

「はーい」

「どこっすか? 奥多摩? 渋谷?」

「愛知は一宮!」

「愛知ってどこ」



 タピオカ抹茶ミルクを飲みながらぜんざいアイスモナカを食べている未優はキョトンとしたまま二人を見上げ、二人は呆れのため息をついた。


 未優はすぐにスマホで日本地図と愛知地図を調べる。



「……遠くね。関西側じゃん!」

「ここよりは都会だよ。まぁ用があるのは田舎なんですが」

「車? さすがに新幹線だよね」

「四時間半」

「……新幹線で?」

「車で四時間半」




 モナカを口にくわえ、日蔓の胸ぐらを掴むとモナカのせいで話せない口で怒りと今すぐ新幹線に変えろという訴えを表す。



「ふー! んー!」

「くるしぃ……」

「ま、まぁ未優さん! 車の方がケーキ屋とか好きに寄れますよ!」

「……じゃいっか」

「死ぬかと思った……! ナイス静璐……」



 実を言うと、車じゃないと少々厄介な相手になるので車と言うだけ。あとは帰りが心配とか。


 基本的に日本全国の鏡界は把握できているしそこに何がいるのかどんな界魔がいるのかは分かっているので対策は簡単。新しいやつは少々面倒だが、そういうのも大抵はどこかであったことはある。




「よし、二人とも二泊三日の用意して! 四時には発つよ!」

「言うのが遅せぇよ出てけお前らァ!」


 三時三十八分。元気なことで。













 皆で荷物を持って軽ワゴン車に乗り込んだ。


 荷物は静璐はリュックで、日蔓と未優は最小のSSサイズのキャリーケース。



「キャリーケースって買った方がいいんすか?」

「必要になってからでいいでしょ。僕は元々地方の遠征組だったし未優は三ヶ月ぐらい北海道行ってた時期があったから持ってるだけで」

「……こんな話したら日蔓さん入れますよね」

「理解が深まってきたね!」



 未優は膝を抱えてフードを被って眠り、静璐はネットでキャリーケースを探し、日蔓はタブレットで長期遠征の仕事を探す。







 静まり返った車内で、皆が自分のことに集中しているといきなり未優が飛び起きた。


 慌ててスマホを取り出し何かを調べ始める。



「どうしたの未優」

「ねぇこれって昨日じゃない?」

「もっと前だよ。もう……二日ぐらい?」



 未優の部屋にずっと大量に置いてあった事件の犯人、前に日蔓が会いに行った犯人が出所した日。




「なんすか?」

「ほら、未優の部屋の事件のさ」

「あぁ……女児軟禁洗脳でしたっけ?」

「そうそう」


 一時期世間を騒がせた事件だ。

 誘拐した時は未就学児と未成年。被害者は加害者を兄と呼び、加害者は何食わぬ顔で生活していた。


 親の捜索願と友人の相談で発覚したんだっけ。



「出所日過ぎたんすね」

「準備ホームとかって行ったら会えるのかなぁ」

「会いたいの?」

「だって私集めてんでしょ? なんか知ってるかも」


 言ったら連れてったのに。




 少しため息をつき、未優のスマホを借りた。


 既に出所の記事は書かれており、大量の文句も寄せられている。多くは被害者の家族に謝れというものだが、虐待どうこうの話を聞いたあとお前らなんも知らんだろとしか言えない。



「……ま、そのうち会えるでしょ」

「無理だろ」

「未優ってちょっと幸運なことがあるからねー」









 今日は全員車中泊になるので、後部席のシートを倒してスペースを確保しておく。


 近場にホテルや銭湯はあるがホテルは未優が一人になると危ないので却下。あとで銭湯だけたぶん行く。




「今回は鏡ね。一番正規の道」

「鏡界に正規も何もないんじゃ……」

「甘いよルーキー君」

「それやめてくださいって!」

「トンカチうるさい」

「酷い!」




 ここから少し行ったところに祠がある。地蔵を祀っているように見せて実は中身はただの鏡。ただの鏡と言うか、由緒あるいい鏡。


 そこの鏡界が揺れて時々人が被害に遭っているので捕まえてこちらに送るか、難しいなら生気を吸っているのは確実なので殺しても構わないらしい。

 ただし死体は持ち帰るように、と。



「どんなやつなんすか? やっぱり強い?」

「異能は?」

「さぁ。ここのやつは一体捕縛してるけど鏡も綺麗な鏡だし異能も特別複雑ってわけじゃない。……まぁランク的にも静璐一人で十分ってとこかな」

「私見学?」

「そんなわけあるか」



 界魔自体は全く問題ない。問題ないが、問題は鏡界自体の構造。迷路に階層と落とし穴と行き止まりとループを追加したような構造。壁破壊は容易。壁修復も容易。

 ちなみに出て来れなくなる可能性もあるのでご注意。



「一生鏡界の中とかあるんすか!?」

「まぁたまに?」



 静璐が発狂しているうちに日蔓は記憶にあるうちの鏡界の地図を描く。あれは本当に迷路だし、よくある右の壁に沿ってとかやっていたら落とし穴に落ちるので無理。落ちた先が行き止まりと行き止まりに挟まれた場所なら地獄だぞ。




「帰還後すぐに大会あるから無理しないでよ。なんかあったらどうにかして誰かに伝えること。特に静璐! いいね!?」

「あ、はい!」

「よし。……界魔は弱いんだし、二時間経って帰ってこなかったら探しに行くよ。それより前でも一方が帰還で一方が生死不明ならすぐに行く」

「了解」

「分かりました」

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