18.合同訓練競技大会⑴
合同訓練競技大会当日。
朝から出店で賑わい、日蔓チームは端で準備運動をする。
日蔓は珍しくインナーウェアにジャージにパーカー。
「これって個人戦なんすか?」
「さぁ? 去年はそうだったけど何年か前はチームだったり、部署ごとで違ったりする」
「チーム戦になった場合は……」
「ここ三人でいいでしょ。弱いやつは邪魔なだけだし」
毎年未優を参加させては無双させていたが、今年はいい人材が来てくれたので貰える金額は大きいだろうな。
「競技とかは?」
「マチマチ。会長がお茶目な人だから毎年競技直前に発表されてる」
「へぇ……」
一班一テント。人数の少ない役職は一つすし詰めにされるが、日蔓は今日は班参加なので久しぶりに広い。ちなみに他の平や研修は混合で何十のテントに別れている。
しばらくすると、いつの間にかテントの中心に薄藤色のハチマキが置かれていた。
「チーム戦だ」
「今からチーム作る人達は大変だろうな」
「あとで出店行くついでにエントリーしようか」
日蔓は未優の頭に薄い藤色のハチマキを巻き、静璐もそれをしばる。
未優は髪をあんでいるのでハチマキがちょうど頭の上に来るように。
日蔓はやりたくないので静璐に腕に結んでもらった。
「見事にバラッバラっすね」
「全員腕で揃えたらよくない」
「未優のそのパーカーじゃ無理でしょー。別にいいじゃん! ハチマキなんてなくてもいいんだしさ」
「まぁそうっすけど……」
「二人がいいなら私はなんでも」
少しして、エントリーが終わった人達で出店が賑わい始めた。
「ねー出店見に行こう。カステラあるかな」
「あるんじゃない? チョコバナナとか」
「行こう!」
「時間大丈夫なんすか?」
「九時半からだからね」
まだ九時なので時間はある。いい待遇の人達は遅れても文句は言われないし聞かない。
三人で貴重品だけ持ってテントを出て出店通りに向かう。通りだけじゃなくても所々飲み物や軽食が売っている。
「未優、いちご飴あるよ。僕エントリー書いてくるから食べてて」
「はーい!」
未優はいちご飴を二本と特玉りんご飴を一本買い、いちご飴二本を数秒で噛み砕くとりんご飴にかじりつく。
「うまい……!」
「こういう行事って結構多いんですか?」
「まぁまぁ? 昔に比べたらだいぶん増えたらしいけど。昔の合同訓練はホントに訓練だけでこんな祭りじゃなかったらしいし。これの他にも鏡界大会とか、学校で言えば学園祭とかもある。今年は終わっちゃったけどね」
「鏡界大会? 学園祭もあるんすか?」
「鏡界大会は期間の中で界魔を一番多く捕まえたチームの勝ち。学園祭はほんとの祭りだよ。だいたいが長期戦だからトンカチ君にはちょうどいいんじゃない?」
結構賑やかなんだなぁと感心していると、エントリーから日蔓が戻ってきた。時間が近付いてきたのか出店通りにいた皆が揃って校庭の中央に向かい始める。
人の波が落ち着いてから日蔓と静璐、いつの間にかりんご飴二本目とワッフルパフェを買っていた未優も中心に向かった。
校庭の指揮台付近にいる三人のうち二人は知っているが一人は知らない。
「あの中心で踊ってる人が皇雪さんですか?」
「そうそう。静璐は初対面だからしつこいだろうけど無視しとけばいいからね」
「日蔓さんってなんで専務の人たちから気に入られてんすか? 元同期とか?」
「ずっと専務への昇進蹴ってるからだよ。俺を専務に上げたら上げた奴の昇進が早くなる」
「専務への昇進って……!」
初耳の静璐が唖然として驚いていると、後ろにもっとびっくりしている人がいた。
気付いた未優につられて二人で振り替えさせると、後ろには下野と罌粟が信じられないような顔で立っている。
「何してんの」
「おまっ……せ、専務へ昇進って……本気か……!?」
「しないって話だろうが」
「なんでしないの? 給料倍増するでしょ」
「新人も入ったし未優の面倒見るのは他にはできないからね」
不可解そうな目をしながらワッフルをかじる未優の頭を撫で、未優はそれを払う。
「反抗期!」
「その顔腹立つ」
「ひどーい! ねぇ静璐!」
「そ、そうっすね……?」
未優が二人を追いかけ回しているうちに時間になったようで、普段は鳴らない時間にチャイムが鳴った。
皇雪が指揮台に立ち、線蓮と鬼燈は指揮台下に立ったり指揮台に座ったり自由。
「皆おはよう。今日は待ちに待った合同訓練競技大会だ。闘志を燃やし、優勝して金と名声を掴み取れ! 優勝すればもしかしたらいつか俺のような完璧スマートな専務に、いや会長になれるかもしれない。俺はもうすぐ会長になるはずだから皆とは会えなくなるかもしれないけどいつまでも皆をみまもっ……」
「長いわ降りろ」
下に立っていた線蓮は指揮台に上がると天を大きく仰ぐ皇雪を蹴り落としてマイクを奪った。
「ルールは毎年同じ、と言っても今年から入った子も多くいるので説明しておくぞ」
得点制のチーム戦。
個人競技もあるがチームメイトで当たることはないよう配慮されているのでご安心を。
一試合平均十点。一位は十点、新記録を出すとプラス五点、二位以下やリタイアやルール違反は度合いによって引かれる点数は違う。
ルールは簡単。殺すと鏡界解放以外ならなんでもあり。妨害やたとえ骨を折っても昏睡状態にさせても相手の家族から訴えられるだけでルール的には問題なし。
あとはその競技によってルールが追加されるのでそれを聞くのを忘れないように。
「以上! 何か質問は!」
「はい!」
「なんじゃ?」
「西木課三班卑怯だと思うんですけど!」
「曄雅頑張れ〜!」
違うそうじゃない。
日蔓の参加を知らなかった皆が線蓮の言葉で驚いて半ギレになっていると、線蓮はため息をつきながら薄く笑った。
「じゃあお前らはいきなり出てきた一クラスの界魔に卑怯だと言ってキレるのじゃな? これはあくまで訓練。一クラスなら今の数秒で皆殺しになっていてもおかしくないぞ」
線蓮の静かなのに嫌に耳にまとわりつくような声に皆が黙り、線蓮は文句がなくなったことを確認すると他の質問がないかを確認した。
また誰かが静かに手を上げる。
「なんじゃ?」
「もし不測の事態が起きた場合の避難経路を教えて下さい」
「……たとえば? 火事ならこのまま地震でも津波でもこのままでいいと思うが」
「天災じゃありません。……そう。たとえば、鏡界が開いて支配人が現れた、とか」
「そうなった場合は死を覚悟せい。どうせいつかは死ぬんじゃから仕事で死ねるなら不満ないじゃろ。それが嫌なら今すぐ記憶を消して元の生活に戻れ。どうせ支配人からは逃げられん。他の界魔なら専務三人も班所属も揃おておるんじゃから死者は出させんよ」
他に質問がないことを確認すると、大会開始を告げて指揮台を降りた。過去にこんな盛り上がらなかった試合開始があったかな。あとの部長がやりにくそう。
「よし、仕事は終わりじゃ。あとは曄雅観察に専念しよう」
「待て次聡」
「なんじゃ? 早く済ませろ」
「なんで今の質問で支配人が出てくる? ここ数年音沙汰ないはずだろ」
「……あぁお前火星にいたから知らんのか」
「行ってねぇ」
支配人が未優と静璐を狙い、ここ最近頻繁に姿を現していることを教える。
前は曄雅が守ったこと、未優の腕が変形したこと、それを治したこと。
「未優ってあの餓鬼と……静璐? 誰だ?」
「新しく三班に入った曄雅の部下じゃ。未優と上手く噛み合っておる」
「なんで二人が狙われる?」
「知らぬわ」
知っていたら対策するに決まっとろうに。
「なんか電気人間も出てきたんだろ。それに未来予知できる脚力掃除機と、ただの一般人?」
「一般人ではない。……鏡界館に入って三日で鏡瞳を使ってわしを超えるセンスと身体能力を持つ子じゃ」
「そいつが一番バケモンじゃねぇかお前が負けるって!?」
「だからそう言うとろうに。もう良いか。あとは鬼燈に聞けい」
線蓮は通せんぼする皇雪を退かすとそのまま日蔓の元に全力ダッシュした。
後ろからハグしようと思ったのに、静璐と未優の頭を押えてしゃがんだせいでそのまま通り越して真正面にいた下野と目が合った。他の男に興味はないので顔面に手を突いて跳び箱の要領で飛び越える。
「ぉごっ……!」
「よし。……曄雅おはよう!」
「朝っぱらからうるさすぎ」
「そんな朝じゃないっすよ」
「九時は朝でしょ!」
「もう十時前なんだよなぁ」
未優の呟きに日蔓は言葉を詰まらせ、そんなことはどうでもいいと話を変えた。
「線蓮、鬼燈って空いてた?」
「……空いてなかった」
「嘘ついたら一生口きかんぞ」
「空いてた! 空いてたけど行かせんぞ!?」
線蓮は日蔓を羽交い締めにするとそのまま足を払って膝を押した。
「やめろ離れろ気色悪ぃ! 未優助けて静璐! この際下野でも罌粟でもいい!」
「腹立つから嫌だ」
「線蓮さん、ホントに嫌われますよ」
静璐は線蓮を剥がし、日蔓は後ろから未優にもたれながら線蓮に軽蔑の眼差しを向けた。
線蓮はムスッとしたまま未優に手を伸ばして頬をつねる。
「痛いんだが」
「ズルいぞ未優!」
「離せ!」
「線蓮さん……!」
「未優に触るな!」
「未優今すぐその立場を変われお前の変な力でお前とわしの意識を入れ替えろ今すぐ!」
「このおっさん何言ってんの!?」
日蔓は未優を庇い、さっきの質問で不機嫌になった線蓮は何とか日蔓をチャージしようと暴れるが、静璐は何とか落ち着けながら日蔓と距離を取らせる。
「まぁまぁ……! このあと活躍する姿いっぱい見れるんですから」
「嫌じゃ絶対愛でる!」
「キモい!」
「ホントに嫌われますよ!?」
「鎖で繋げれるなら嫌われてもいい! 曄雅こっちに来い!」
「誰が行くかァ!」
まずいぞヤンデレが悪化している。
大会が始まる前から一悶着しそうなと言うかしていると、未優を庇いながらもジリジリと近寄ってくる線蓮から逃げていた必死の日蔓がいきなり目を丸くしてそちらを見上げた。
未優も下野も罌粟もハッとしたので、二人もつられて見あげた途端。誰かが線蓮の顔面を掴んで横腹に膝蹴りを入れた。




