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鏡界館  作者: 織優幸灔
四章
153/155

13.家族

 ローブに戻ったけど、ご褒美ということで見られてもいい体をキープしてもらえた。



 壁にもたれて、界魔と話す。





 少女と日蔓が支配人の処理をしている間暇だなぁと思っていると、暇潰しだった界魔が少女に呼ばれた。







 スマホがないって辛い。








 ぼんやりと地面を眺めていると、クイッとローブを引かれた。見ると、あぁちっさいなぁ。



「どうしたの?」



 身長的に月火(げっか)の方が高いか、ほぼ同じぐらい。



「未優だっけ」

「そう。強いね」

「まぁねぇ。世界で三番目に強いって言われてたんだよ」

「一番じゃないの?」

「うん。一番と二番なら十秒もかかってないんじゃない? てか一番と二番はこの世界には来ないよ」



 首を傾げる未優の頭に手を置くと、嬉しそうに笑った。


 顔が同じなので、少し懐かしい気分になる。



「未優ちゃんは髪伸ばさないの?」

「うん邪魔だし。あと結べなくなったから」

「綺麗な髪」



 未優が大喜びするので可愛がっていると、その手が払われた。



「未優、アレ呼んでる」

「日蔓撫でてー」

「はいはい」




 火光は日蔓に視線を移すと、フードを被った。疲れた。






「なにあれ感じ悪」

「どうした」

「めっちゃ馬鹿にされた」

「自意識過剰じゃねぇの」



 恐念を蹴り飛ばすと、少女は苦笑いをした。


「君の目が怖いんだろう。仕方ない」

「目?」

「というか拾った時から人見知り的なことをする。母親に殺されたらしいし誰も信用しなくても仕方ない」



 日蔓が少し訝しむと、少女は支配人の顔に足を置いた。




「お前からの土産だ。妹に渡しておこう」

「誰がッ……! 力を受け取ったのは俺だ……!」

「逃げるな」





 少しばかり離れたところに鏡の門が出現し、支配人は勢いよくそこに向かった。



 少女が手を伸ばし、途端その門が数箇所から崩壊を始めた。


 崩壊したそれは少女の伸ばした手の先に集まり、鏡の門が消えると同時に支配人の体からも何かが抜けていく。



「何それ……」

「支配人の力」



 未優は怖くて日蔓にひっつき、日蔓も未優の頭に手を置いた。





 支配人が完全な人間として校庭に倒れ、両腕では抱えれそうもないほど大きくなったその球を少女は握って消した。



「消えたッ……!」

「中に取り込んだだけだ。……君たちの力は体に根付きすぎてるから取れないよ。あと君も、私は血は操れない」

「いいよ別に。僕は異能とかないし」



 手が空いていた数人が支配人の方へ行ったのを確認し、少女は今度は緋愴たちの方を向いた。



「……人間に戻りたいか?」

「戻れるなら、そりゃ……!」

「戻る! 戻して!」

「戻りたいけど。戻った瞬間死ぬとかないの?」

「さぁ、どうだろうな」

「俺戻して。死んでもいいから」

「じゃお前が一番だ」



 少女は緋愴の眉間に指先を向けると、ちょんっとつついた。


 赤く血塗れたグレーの着物を着た青年に変わって、瞬間気絶し倒れそうになるのを静璐が支えた。




「おぉイケメンだ……!」

「マジで十八歳……」

「日蔓さん緋愴は十七」

「死んだ?」

「ううん、生きてる」

「じゃ俺も! 俺も俺も!」

「寧もッ!」

「離れろ暑苦しい……」



 緋愴から取った血からの球を反対の手に移すと、二人の力も回収した。



 同じく真っ赤に染った着物を着た、十八歳の女顔の恐念と、十歳、十一歳ほどの寧。


 三人とも男だがそれなりにいい顔をしている。てか、恐念だけ明らか着物の質が違うのだが。歴史の差ってすげぇ。



「……これこのまま栄養失調とかありませんよね?」

「僕に医学を聞かないで。医療班ッ!」



 医療班に三人を引き渡し、日蔓は駆け寄ってきた未優の頭を撫でる。


 ふと、屋上を見上げた。



 優羽は一人で空を眺めている。結楽は、いなくなったかな。





「日蔓さん」

「どうした?」

「あれ」



 静璐が見た方に視線を向けると、暗い夜の中、懐中電灯の明かりで顔が見えた。



「未優」

「何?」

「行っておいで」



 未優はそちらを見て、少し凝視すると、目を丸くした。そのまま一目散に飛び出して、勢いよく抱き着いた。





紡舞(ほうま)お兄ちゃんッ……!」

「久しぶり、未優……!」





 七歳から二年間、鏡界館に引き入れられるまで、人生で初めて家族をくれた人。


 なんで忘れていたんだろう。なんで、会いたいって、自分でも分からないほど強く思っていたのに、なんで忘れて。



 片腕しかない腕で、それでも感覚は両手で、紡舞(ほうま)の背を掴む。


 あの時は警察に離されてしまった。泣いて、喉が張り裂けるほど泣き叫んで、そのあとのパトカーの中でも大泣きして。



 紡舞が離したから、紡舞が警察に引き渡してしまったから。




 頭と背中を抱き締めてくれるその手が、数年ぶり、ずっと求めていた、探していたその手が自分を抱き締めてくれていることが嬉しくて。


 心臓は痛いほど鼓動して、喉は血が出るほど叫んで、涙は枯れるほど溢れて。



 よく分からない悔しさと、よく分からない怖さと、それでも中にある確かな嬉しさが、ずっと涙を流した。





 私の、初めての家族。

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