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鏡界館  作者: 織優幸灔
四章
154/155

14.家

 未優が泣き疲れたように失神してしまい、紡舞(ほうま)は未優を抱っこしたまま日蔓の方に寄った。



「日蔓さん、あの……」

「大泣きだったね。大丈夫?」

「はい。……ありがとうございました。出所前から、今日来るように手配してくれたのも日蔓さんだって聞いて」

「未優の後見人は教育の役目もあるでしょ。…………けど、未優の後見人もそろそろ終わりかな」



 里親がいるはずだ。いなくても、だいたい見当はつく。まぁ未優も紡舞とすごす方がいいだろうし。



 静璐は放置子だっけ、親が帰ってきたら話し合うだろうし、まぁ静璐も大丈夫っぽい。


 優羽は飄々と生きるだろう。



 尊音と二人でギリシアにでも行くかなーと思っていると、服の袖が掴まれた。



「日蔓、どこにも行かないでしょ」

「起きてたの」

「力抜けただけ」



 未優は紡舞から日蔓に移ると、片腕で精一杯日蔓を抱き締めた。



「日蔓は私の親だよ。置いて行かないでしょ」

「親は嫌いなんじゃなかったの」

「前のお父さんお母さんと、その前のお父さんお母さんは嫌い。痛かったもん。……けど、日蔓は好き。日蔓も静璐も線蓮さんも、丁字も衝羽も課長たちも皆好きだよ。皆私の家族で友達で、守ってくれる人だもん。だから、日蔓、どこにも行かないで……!」



 未優の声がだんだん涙に震え、日蔓は少し困りながら未優の頭を撫でた。



「そんなに言うなら行かないよ。……ただし今の録音するからもっかいね」

「やだ線蓮さんみたいなこと言ってる」

「ごめんそれはごめん」




 未優はクスクスと笑い、日蔓は未優の頭を抱き寄せる手に力を入れた。



「……ごめんね最後まで守れなくて」

「いーよ。許す」

「ありがと」




 日蔓が未優を下ろすと、未優は自分の腕を見下ろした。


 日蔓の反対側に回り、手を繋ぐ。



「紡舞は今実家暮らしでしょ」

「はい。でも今、ちょっと独立目指してフリーで働いてて……」

「おぉすげ。何?」

「職種は、内緒です。恥ずかしいので」

「なんじゃそりゃ。……まいいや、未優、もうちょっと話してていいよ」

「……んーん、一緒に行こ」

「一般人が見たら失神するからそれは無理」

「えー! じゃあどうすんのさ!」

「だから話してていいよって」

「早く戻ってきてよ!?」

「はいはい……」



 日蔓は未優を紡舞に渡すと、皆のいる場所へ向かった。



 静璐は元界魔組の傍にいて、日蔓はその傍の椅子に座る。



「つかーれたー!」

「お疲れ様です! ようやく全部終わりですね」

「まーまだ残党処理残ってるけどねー」

「それは追々ですよ」



 とりあえず役目を終えた日蔓が上機嫌にリラックスしていると、丁字双子がやってきた。



 白玉とラムネを抱っこして。



「日蔓、未優さんは?」

「向こう」

「これ連れてって大丈夫?」

「うん」






 少しすると、緋愴達が目を覚ました。


 というか、恐念が目を覚まして緋愴と寧を叩き起した。




「な! な! 戻ってる!?」

「うん戻ってる。鏡いる?」

「いらない! 戻ってるって!」

「……はぁー……」



 恐念が大喜びで緋愴に抱き着くと、緋愴と寧は揃って溜め息をついた。



 恐念が目を丸くして少し離れると、緋愴は静璐の首に腕をかけて寝転がる。



「可愛いなぁ! あー目の保養! なんなら神なのでは!?」

「どの時代にも同じ人種はいるんだね。三人とも、服の予備あるから着替えてきたら」

「……そーする」

「きっがっえ〜きっがっえ〜」

「お前ほんとに上機嫌……うるさい……」

「嬉しいことがあったら喜ぶもんだろ!」

「わーいッ!」



 寧の子供特有の幼い声で耳元で叫ばれた恐念は耳を押え、寧はふんっと顔を逸らして壁の張られたテントの中に入っていった。





 少しして三人がジャージになり、感動している最中に少女とさっきのローブが降りてきた。




「緋愴」

「あ、はい」

「この力、お前にやろう」



 そう言って少女は握った手を差し出した。開くと、あの黒い渦の球。


 三人ともビクッとして、恐念と寧は緋愴の後ろに隠れた。



「え、や、いらないです……」

「別に持っているだけなら支配人のようなことにはならん。軽く治癒能力があるとか、人をいつでも界魔にさせられるとか。そんなんだけだ」

「いや……」

「死ぬのが怖くなった時、仲間の死が受け入れられない時にでも使うといい。この先、何があるか分からないだろう?」



 何となく少女の言いたいことが分かった気がして、別に支配人のようにならないならとそれを手に取った。


 握ると、それは体に消えていく。



「……これで?」

「その子たちのような力は残った状態になる。……あまり世界の理を狂わせるなよ」





 恐念は緋愴の目の前に手を振って、それを緋愴が鬱陶しがっていると未優が走ってきた。



 その足元に、ラムネと白玉。


 白玉を見て、少女は目を輝かせた。



「ウラノアッ〜!」



 白玉が少女の顔に飛び付くと、少女はその耳を撫でた。


 未優は日蔓の膝に座り、緋愴は静璐のそばに戻る。



「その白丸ウラノアって言うの?」

「あぁ、私のペットだ。可愛いだろう?」

「うん。ラムネと仲良くなってた」

「どこに行ったかと思えば世界越えてたとは……お転婆も困ったものだ。フェルが心配してたぞ」



 ウラノアは耳を自由に動かすと、最後に二回ほど半ばで折った。




「それじゃあ目的も果たしたことだし次に向かうとするか」

「ちょっと休憩しようよ……」

「へばるな。……ではな」

「白玉ばいばーい」



 白玉は未優を真似るように耳を左右に振ると、そのまま二人と一匹は姿を消した。




「……不思議な人たち」

「ほんとに。……でもまぁこれで終わったし」

「片付け残ってるけどね」

「いっそ記念館として残そうぜ?」


































 それを見上げて、目を輝かせた。



「豪邸だッ……!」

「すご……」

「孤児院じゃないから部屋数は多くないけどね」



 未優、静璐、恋千(こゆき)と太陽、代望(よぞみ)、日蔓。それに経営者の線蓮と支援者の丁字が住める部屋はある。


 それと、緋愴、恐念、寧の三人も。あとラムネも。



 例に漏れず丁字の親戚の別荘を貰って、土地以外をリフォームして、三階建てプラス半地下で。


 十一人と、客人が二人来ても問題ないように客間が二つ。




 尊音は残党処理係の筆頭として本家に戻っているし、優羽はどっかの事務所からスカウトされたのをキッカケになんか結楽の後任みたいなことしてるし、その他の皆も全国にある実家に帰って散り散りになった。



 ただ、ここの十一人は行く宛てのない人達しかいないので。まぁ丁字は(福利厚生)のためだが。


 線蓮は神戸に戻ろうとも思ったが、やめたらしい。ちなみに戦闘前にあの山の相続権は未優になっていた。まだ死んでねぇので所有者は線蓮のままだが。



 静璐に関しては、親との連絡が完全に途絶えたらしい。ただし本人は気にしていないと笑っていた。




「ね〜日蔓! 早く中入ろ!」

「はいはい」

「俺一番乗り〜!」

「残念、大人が事前に入ってます」

「今日の一番乗りッ!」



 太陽は寧と恐念と競うように中に入っていき、恋千と緋愴は完全に呆れている。



 皆で中に入って、中を見学して回った。




 未優は入ると少し怖がるような表情をしていたが、すぐに興味が勝ったようで皆と一緒に走り回る。



「ほんっとに豪華な施設になったね」

「家って言って」

「あーはいはい。で費用どっから出したのこれ」

「僕の貯金ですけど?」


 わーすごい。



 真顔で即答する丁字にもう涙すら出ていると、未優の声が聞こえた。



「ひかづらー! ここなにー!?」

「どこー」

「石のとこー!」



 行くと、半地下のところだ。


 日蔓は薄笑いで丁字を見た。



 丁字はふふふと笑い、手を大きく振り上げる。



「ここは僕の専用研究所! 僕の収入源の根底になるラボだよ!」

「だと思った。二階行こー!」

「ラボって何?」

「理科室みたいなもん」

「りか……?」




 丁字が研究所に引き篭ってしまったが無視して、皆で子供たちについて行く。



 ちなみに代望の異能は緋愴が消してくれた。

 代望はもう大喜び。







 一階には生活空間と半地下、あと応接間。

 二階と三階は個人の部屋。


 一応自立するまでの養護施設のような感じだが、新しく入居する人はいないし同居者は全員顔見知りなので部屋はかなり広い。

 一応一人一人区切られているが、何故か知らんけど丁字と線蓮の部屋は行き来できるし静璐と緋愴の部屋も行き来できる。


 あと日蔓と未優の部屋には広めのベランダも。


 理解しえないほどでっかい。日蔓や、特に白梅などの本家で大きさはだいぶんバグってると思ってたんだけど。




 各階にトイレは数個あるし、全体的に統一感のある家になった。


 あとリビングダイニングと廊下の仕切りがないのでめっちゃ開放的。和室もあるが、ほぼ壁がないようなものなので。

 リビングの奥にキッチンだが、横は庭だし奥の端にはサンルームがあるので結構明るい。



 反射によるストレスもなくなったし、ほんとに過ごしやすい家になるんじゃないだろうか。




「……引っ越し作業鬼だな」

「まぁ数日かけてやな。それぞれ部屋の間取り決めとけよー」

「はぁい!」

「お前仕事場いらないの?」

「部屋かダイニングでできるし、基本夜行性やから部屋な気するしいらんやろと思って」

「あそ」



 完全ジジイ語が抜けた線蓮は取り繕うのをやめた。



「……丁字、あれいつ届く?」

「明日には」

「部屋の方が遅いな」

「たぶんねー」

「日蔓! ソファいつ届くの?」

「ソファは夜には来るよ。一階は今日の夜には完成するんじゃないかな。手伝ってね」

「うん! 手伝えるか知んないけど!」

「邪魔しないでね」

「ねいー」



 返事をせずに去っていった未優に不安になりながら、夜。





 あぐらを組んだ日蔓の上に未優がのしかかっている。



「未優……?」

「ねー早く早く」

「重い……」

「蹴るよ」

「長男組ヘルプッ!」



 ふらっと緋愴がやってきて、未優を抱き上げた。

 緋愴は百八十近くあって静璐と線蓮とともに高身長組。ムカつく。




「未優、落ち着かないと明日の部屋準備する前に疲れるよ」

「お腹空いた」

「炊事係とかなんも決めてないもんね」

「ちなみに俺含む三人はやれること皆無だと思っといて」

「思ってるよ」



 緋愴に背中を蹴られ、踏んだり蹴ったりの日蔓はため息をついた。




 リビングにカーペットが敷かれ、ダイニングテーブルとソファができあがった頃、ちょうど日蔓が飽きてきた頃。皆が集まってきた。



 緋愴に抱っこされていた未優を見て寧もねだると、恐念が肩車をする。



「日蔓さん、代わりますよ」

「マジやって」


 丁字は洗面所や風呂場、線蓮は応接間をセッティング中。



「ご飯とかってどうします? まだ道具も材料も全然ないでしょうし」

「道具はあるよ。私持ってきたから」

「俺も持ってきましたけど、全然揃ってないんで未優さんので揃えることになりそう……ですね?」

「ね〜。僕料理できないからさー」

「日蔓に任せたらご飯三日に一回になる」

「不健康ッ! じゃあご飯は俺作るので!」

「静璐やるなら俺もやる」

「手際悪いから却下。私と静璐でやるから三人と恋千で掃除ね」


 緋愴に落とされた未優はナイス身体能力で着地するとソファに寝転がっている日蔓を見下ろした。



「あと洗濯機は男女で分けて二つだからその係は男女一名ずつ。風呂掃除は男がやること、料理は絶対二人以上で」

「なんで風呂掃除男がやるの?」

「基本的に力仕事と立ち仕事でなおかつ怪我しやすいから。女子は全員ちびっ子組だし。料理は一人のヘマで全員が巻き込まれないように」

「保身?」

「大事だよ」

「あーちなみに」



 やってきた丁字はめくっていた袖を下ろすと緋愴の隣に立った。



「トイレは全階男女で別れてるのと各部屋に鍵かかってるけどマスターキーは僕が管理してるのでゴミ出し等は全て自分でやってね」

「それ線蓮に渡して。お前絶対この三人の部屋で足確認するじゃん」

「さー三人ともてか全員足を出せここは僕の家だッ!」

「丁字料理下手くそだもんね。丁字は玄関掃除と庭掃除ね決定。夏は水巻いてね暑いから」

「未優さん……!?」

「ここは私の家です!」

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