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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
136/155

46.トリガー

 尊音に引っ張られながら本館に帰り、自室に荷物を片付けた。



 寂しがってるかなーと思いながら未優の部屋に行くと、珍しくテレビの動物特集を見ていた。

 ドラマかアニメか映画しか見ないと思っていたが、興味あるようでじっと見ている。



「みゆー」

「あ、おかえり」

「ただいま。寂しかったかい」

「線蓮さんと兵庫行ってたから」

「おとなしく寂しかったと言っとけ。また置いてかれるぞ」



 未優の部屋から出てきた線蓮は呆れ、日蔓は未優の頭に乗せた手とはまた別に線蓮の胸ぐらを掴んだ。



「未優の部屋で何してんだ」

「色々。おかえり曄雅」

「触んな変態」



 未優は頭に置かれた日蔓の手を握り、日蔓は頭に置かれた線蓮の手を払った。



「寂しかったかい未優。……痛い痛い痛い分かったから痛てぇ」


 未優は日蔓の腕を掴むと自分の方に引っ張り、ソファの背もたれを乗り越えそうになる日蔓は未優を止める。


 慌ててソファを乗り越えると未優の隣に座り、未優は日蔓の膝に寝転がってテレビを見る。

 肘かけに足を置いて怠ける姿を見たら、本当に自分そっくりになったなと少々後悔。



「未優は動物興味あったっけ?」

「出た。写真で見るのと本物じゃ全然違うね」

「まー多少美化されてたりはするけどね。ラムネは美猫だよ」

「ラムネじゃないよ。イノシシ」

「イノシシ!?」

「未優が倒したんじゃ。ほれ」



 そう言って線蓮は夜中に撮ったイノシシの死体の写真を見せてきた。



「な……何してきたの……」

「普通に過ごしてたんだよ。そしたらイノシシ出てきたから」

「衝撃波使った鏡瞳で潰したんじゃと。山に入ったラムネが引き連れてきたイノシシ。たぶん二百キロ前後ある」

「ひぇ……怪我なくてよかった」

「ちなみに肉欲しかったらまだまだあるぞ」

「マジ? 優羽が猪鍋好きだから貰うよ」

「なーにししなべって」

「イノシシの肉使った鍋だよ。今日やってみようか?」

「今日はラーメンだよ?」

「未優食べれないでしょ?」



 日蔓を見上げた未優は目を丸くし、線蓮に助けを求めた。

 線蓮は馬鹿すぎる未優に呆れ、溜め息をつく。



「曄雅、ラーメンか焼き肉かカツカレー。どれがいい?」

「焼き肉は駄目だよ」

「未優が食べれる選択肢がない」

「……日蔓が好きで私が食べれるのは?」

「僕嫌いなもの線蓮ぐらいだからさー?……手巻き寿司でもしようか」

「日蔓手巻き寿司好きなの?」

「美味しいものはなんでも好きだよ」

「じゃあ手巻き!」


 結局未優の好物かい。



 線蓮は喜ぶ未優にまた呆れながら、静璐にお使いを頼んだ。






 それから三十分ほどして、テレビを見終わり寝ていた未優のスマホのアラームが鳴る。



「未優、アラーム鳴ってるよ!」



 なんの時間のアラームだと思えば、眠そうに起きた未優はケーキを作り始めた。






 日蔓もどうやら疲れていたようで、ソファに寝転がりぼんやりと寝落ちた。




 尊音に仕事が命日がなんだかんだと駄々をこねられ、一人で帰すと確実に国際問題に発展する界魔が出るので一人で帰すわけにもいかず、疲れていた体を無理やり動かし帰ってきたので体が疲れきっていた。



 優羽に言われた継承すべき力、自分に言い聞かせた日蔓 曄雅としての道、再認識した守るべきものたち。

 のんびりしている暇はない。支配人は意地でも日蔓の血を潰そうとする。


 日蔓が死んだあと、未優を預ける人を探さないと。線蓮は駄目。上司と部下としての意識が根付きすぎてる。静璐も。根は真面目な未優は庇護対象に入れてしまう。




 記憶を戻すためには何か、未優の(トザ)された記憶の中に強く濃く残るものを刺激する必要がある。

 未優の中に強く根深く残り、未優を守ってくれる人。未優を誰よりも優先できる人。






 いつの間にか移動させられていたベッドから体を起こし、電気を付けると本棚に山のように置かれている記事に目を向けた。


 連絡、取ってみるか。





 少し乱れた人形たちを戻すと未優の部屋を少し片付け、髪を結び直してから部屋を出ると目の前に撫秞(なや)守明(もりあ)がいた。


「わッ!」

「……こいつ顔固まりすぎだろ」

「何子供みたいに脅かそうとしてきて」



 撫秞と守明に静璐と、鬼燈もいつの間にか来ている。

 少し不満そうな錨野と衝羽、尊音と優羽と丁字(ちょうざな)玄利(ひろり)も。多いな。

 日蔓、未優、線蓮合わせると十四人。あと一匹。



「狭いな……!?」



 ソファを端へ移動させ、皆床に座ってくつろいでいる。



 キッチン担当は未優と静璐。



「なんでこんな集まってんの? 会議?」

「曄雅君まさか今日が何の日か忘れたわけじゃあるまい」

「なんかあったっけ?」



 スマホの予定表を開き、そう言えば結楽(けいらく)の月命日すぎたなぁと思い出す。



「あ、俺電話してくる」

「おい答えは!?」

「忘れたー」

「クソ曄雅!」


 優羽の怒声に未優の部屋を通って廊下に出た日蔓は中指を立てた手を見せ出ていき、日蔓に向かって怒鳴った優羽は元の場所に戻った。




「尊音、あの兄やめた方がいい」

「もうちょっとマシな人間に育つと思ってた」

「にしても曄雅に弟とこんな仲良い幼馴染がいるとは知らなかったな」

「幼馴染はどちらかと言うと錨野君だね。僕は同期。元同僚? 親友っての? なんかそんな感じ」

「僕はずっと引きこもってたからね」

「錨野の方が歳下か?」

「一つ」

「お前の方が老けて見えるな」

「誰からのストレスだと!」



 撫秞と守明はゲラゲラと笑い、こういう楽しい大人数の場が初めての尊音もくすくすと小さく笑った。





 トイレと言って抜けた優羽はマンションを出て、マンション裏で電話していた曄雅の元へ行った。


 後ろから抱き着き、スマホに耳を寄せる。




『……で……あまり……』

「本人はずっと会いたがってたらしい。君といた記憶から全部飛んでるから会ったら思い出すと思って」

『じ……事故、ですか?』

「いやぁ怪我なく元気だよ。事故じゃない。そういう体質」

『たい、しつ』

「そう体質。思い出せないだけで頭の中にあるにはあるんだよ。過去に何回か思い出しては忘れてるから。……忘れた記憶の中に強く濃く残るものが思い出すトリガーなんだと思う。同じトリガーで思い出せるのは一度だけ」

『……親は……』

「見付かってるよ。見付かってるけど、まぁ会えるっちゃ会えるけど捨てた親と逃げた施設と捨てた親第二だよ? 親の方は探してるとか言ってるけどたぶん金目当て。あの子顔いいからさ!」

『ま……まぁ……』

「てかそもそもどっちの親が探してんのかも分かってない。実親はすぐ調べれるけど引き取り手側は一般人だし、さすがに一般人に警察向けるわけにもいかないしさ? まぁできるけど。やろうかな」

『……たぶん、親とか施設はすごく嫌だったんだと思います。施設もいい環境じゃなかったみたいで、皆泣いてたって言ってたので……。たとえ危険だとしても、俺も会えるなら会いたい、です』



 トリガーゲット。


 あとは育てるだけ育てて支配人誘き出すだけか。



 未優の記憶を戻し、トリガーを避難させてから接触できるのが一番だが(ネイ)を使ってこじ開けてくるならそれも無理かも。




「しつこいけどほんとに危険だよ? 現代日本でも死ぬのは死ぬから」

『……大丈夫です』

「まぁ会うのはもうちょっと先だけど。……今年の夏ぐらいには会えると思うよ。また連絡する」

『はい』



 電話を切り、優羽を見上げた。


「何?」

「曄雅が電話って珍しいなぁと思って。未優ちゃん?」

「の元保護者。十年ぐらい前に女児洗脳軟禁事件ってあったでしょ。それの犯人」

「……てことは被害者?」

「まぁそうなるね。記憶が戻った一ヶ月間で記事とかニュース調べまくって会おうとしたのにまた忘れたからわけも分からず集めてる。警察に保護された時も泣き喚いて離れなかったらしいしね」

「それ誘拐になるの?」

「……まぁ保護者に無断で二年間連れ去ったのはあるけど」


 生みの親は施設に入れ、施設は多くの子供たちを虐待し、顔で選ばれた里親の元でも虐待の嵐。その時に会い助けを求めたために起こった事だ。


 虐待も(あらわ)になり、引き離されるところを生放送で撮られたため親が悪い、無理やり引き離す意味がないと擁護する声もある。



 警察にストレスを感じ、鏡界に逃げて三日間その中で界魔に守られながら過ごしているのを日蔓が保護した。

 追って入った警察官も一人死んでいるはず。



「親に会わせるストレスよりはいいでしょ。親に会いたいとは一度も言ってないみたいだし」

「曄雅だからじゃない?」

「線蓮にもだよ。親がなんなのか気になってはいるけど、会ってみたいとは一度も」


 無意識に拒絶反応起こしてるんだろうな。

 だから日蔓は親と言わず後見人と言い張っている。



「案外しっかり考えてんだね?」

「なんだ案外って」

「いてててて」



 優羽のの首に腕をかけ、こめかみをぐりぐりとなじる。



「曄雅は子育てに向いてるね」

「興味ない」





 二人で部屋に戻ると皆が寝転がっており、未優は絞り袋の余った生クリームを守明の口に絞っていた。



「何やってんの……」

「準備だよ曄雅君。たった十二年、数えられなくなったわけでもあるまい」

「何が」

「思い出してんなら素直に喜べ」

「そんなことより僕この後仕事入ってんだけど」

「大丈夫だよ兄さん! 僕がいるから」

「わーすごい。人の仕事勝手にキャンセルすんなよ」

「怒るならどうぞ」

「ついに弟にも怒るようになったのかな」



 優羽と尊音の煽りに日蔓は薄笑いを浮かべた。しかし、その額にはくっきり青筋。



「残念だよ優羽。猪鍋やろうと思ったけど錨野と衝羽とやっとく」

「はぁ!? ねぇそれはなし!」

「なしも何も決定だよ優羽クン」

「ねェ!?」



 優羽の怒声混じりの怒鳴り声に日蔓は部屋を出ていき、同じく部屋を出た優羽を日蔓は問答無用で締め出した。

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