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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
135/155

45.イノシシ

「線蓮さん、日蔓いつ帰ってくる?」

「さぁ? ついにメール拒否されたからな」



 未優は浅く雪の積もった庭に足を投げ出し、雪に足跡を付ける。


 ラムネは外に出たくなさそうで、未優の背中側に余ったパーカーに潜り込んで丸まっている。




「嫌われてるね」

「なんでやろな?」

「しつこいからだと思う」

「欲は生物の本能や」

「欲は本能だろうけど福利厚生求めるのは人間だけだよ」

「……成長したなぁ」



 線蓮が縁側に持ってきてくれた手巻き寿司を頬張り、匂いに釣られてラムネも出てきた。


 線蓮は細切れにしたマグロとキャットフードを出し、ラムネは未優のパーカーに潜ったまま顔を出して食べ始める。よく似た二人。



「こんな季節に食べたら寒いやろうに」

「美味しいよ」

「美味しいならええけど」



 バリバリと音を立てながら海苔を噛み、いつもはおにぎり一個のくせに具材一種類を山のように巻いた手巻きを三本食べた。


 色々な種類の具材を巻くと味が喧嘩して嫌らしい。




 二人で窓際で温かい味噌汁をすすり、未優は溜め息をついた。



「老人になった気分」

「馬鹿にしてんのか」

「ねぇラムネ」


 肯定するように笑ってにゃぁと鳴くこの猫も腹立つ。



 未優は温まった手でラムネの頭を撫で、ラムネは服の中でゆっくりと尾を振った。



「曄雅がいないと寂しいか」

「……なんとなく。トンカチくるまで出張ってあんまりなかったし」

「だいたい未優連れて行っとったしな。……未優から早く帰ってこいって言えば帰ってくるわ」

「我慢してってくるよ」

「暇な時に延々送ってみ。帰ってくるから」

「線蓮さんみたいになる」

「嫌やと」

「嫌」



 未優の冷えたよく伸びる頬を引っ張り、未優はそれにぶつくさ文句を言う。






 寒がるラムネが追いかける未優から必死で逃げている間、線蓮はその動画を撮影してから優羽に連絡を入れた。

 明後日は曄雅の誕生日。去年は各々誕プレを渡したり突き返されたりしたが。



 尊音に連絡を入れ、誕生日に強制送還してこなかったらあれバラすと伝えておいた。


 クビ切れるなら切ってみろ。界館を今の金回りにしたのは俺だ。




「未優! 明日東京帰って曄雅の誕生日ケーキ作るぞ」

「日蔓帰ってくるの? 誕生日ケーキ? 誰?」

「曄雅の。二月二十四日は曄雅の誕生日やで」

「……プレゼント買ってないよ」

「買いに降りるか。俺も買わんと」














 ちゃんと誕プレも決まり、線蓮も毎年恒例の本プレと副プレを買い、山に帰ってくるとすっかり日が暮れ、鬱蒼(うっそう)とした森は少し不気味な雰囲気を放っていた。


 未優は障子を閉め、さっき外に出たはずのラムネを探し回る。



「ラムネ〜!」

「おらんか」

「うん。森に入ったかな」

「……危ないな……」



 この前熊を山で見た。イノシシもいるだろうに、厄介なことにならないといいが。



「……未優、池見に行ってくるが絶対家から出るなよ」

「ラムネは?」

「探してくるから」



 家の外に出ると周りに鈴縄を張り、ラムネを探しがてら池を見に行った。



 賢い猫なので鏡界や道でも引っ掻き傷を付けて誰かに気付かせることがある。


 あとはよじ登って木の上で待っているとか。



 見付かるといいが。と言うか怯えて鏡界に入っていないといいが。






 線蓮とラムネがいない家で一人待っていると、ふとどこからかラムネの鳴き声が聞こえてきた。

 慌てて障子を開け、縁側の木の戸を開けると雪にまみれたラムネが飛び込んできた。

 びっくりして、しかしすぐに気配を感じ森に目を向けると大きな獣がこちらをじっと見ている。影的に未優より大きい、ただの化け物。界魔じゃない。界魔より化け物。




 後ずさり、混乱する頭でラムネに助けを求めた。が、ラムネはしっぽを立てて振ってにゃんともわんとも言わない。




 靴を取りに行ったら確実に襲われるが、中距離が鏡瞳しかない。界魔いないし。


 と思っていたら、そう言えば日蔓のお母さんが未優の衝撃波でも鏡瞳はできると言っていたな。

 真下にやると縁側が壊れかねないので恐る恐るふちまで出て、地面に向かって軽く蹴ってすぐに鏡瞳を開いた。




 それが倒れ、動かなくなって後ろにしりもちをつくように座り込んだ。



 ラムネがすり寄ってきて、警戒心が解けた途端恐怖が押し寄せた。



 靴を雑に履いて家を飛び出し、池から帰りかけていた線蓮に飛び付く。



「ねぇ!? 写真と全然違う!」

「未優!? なんで出てきて……!」

「こわいぃ!」



 ラムネも飛んできて、まるで事情が聞けないのでとりあえず二人を抱っこして家に戻ると家の前にイノシシが口から血を流して倒れていた。

 辺りの雪が赤く溶け始めている。


「み……何やった……?」

「鏡瞳。日蔓のお母さんができるって」

「界魔もいたのか?」

「衝撃波で……」



 正月の時に話してたやつか。



 怖がる未優の頭を撫で、縁側に座らせるとイノシシの傍にしゃがんで死んでいることを確認する。



 切り分けて皆にあげるかな。未優は食べれないだろうし。




「未優、風呂溜めるから入って先に寝とけ。夜中のうちにこれ切り分ける」

「暗いよ?」

「暗視ぐらい鍛えとるわい」















 翌朝、風呂に入って明け方に寝た線蓮が目を覚ますと腕に未優が潜り込んできていた。と言うより、線蓮の腕に未優が頭を置いて未優の上に線蓮が腕を乗せたという方が正しいか。




 線蓮は未優を起こさないように体を起こすと先にある程度荷物をまとめた。


 軽く仕事を確認し、皇雪から来ていたメールに目を通す。



 どうやら日蔓から明日帰ると連絡が来たらしい。じゃあ帰国一番誕生日パーティーだな。






 八時頃になると未優はアラームなしで目を覚まし、夜中動き回っていたラムネは未優のパーカーの中に潜り込んだ。



「うぇ……」

「気に入っとんな。寒いんやろ」

「動けない……」


 と言いながら袖から腕を抜いた未優は足を丸めてラムネと中で遊び始め、線蓮はまた写真を撮った。


















 本館に帰り、未優がケーキ作りに奮闘する間に線蓮はイノシシの肉を配りに回る。

 と言ってもそこら辺歩いて会った人にあげるって押し付けるだけ。そろそろ飽きてきた。




「あ、線蓮。帰ってきてたのか」

「今朝な」



 刀を持った皇雪と寒そうな鬼燈とばったり出くわし、線蓮は鬼燈にはいっと紙袋ごと渡した。

 三キロずつの袋が十袋近く入っているが、まぁいいだろう。



「土産じゃ。分けて食べろ」

「何?」

「ちょっと面倒なもん。じゃ」



 文句を言われぬうちに飛んで逃げ、走って未優の部屋に向かった。

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