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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
130/155

40.マンツーマン

 手を袖で多い、触りたくないながらに電気を付けると数秒のラグがあってから点くか怪しかった電気が点いた。


 穴の空いた屋根からはつららが伸び、壁には大量の日本刀。たぶんほとんどが幻水刀(キョウスイトウ)だ。

 界魔を切ったら絶対に幻水刀になるかは知らないが、少なくとも話にはほとんどが事故で人を殺したと書かれていた。






 絶対幽霊が出る倉庫に一歩降り、なんの気配もないことを確認してから倉庫の一番奥の棚に、鎖で縛り付けてある刀に手を伸ばした。


 黒い鞘に赤いヒビが入った特徴的な刀。柄にも返り血のような赤い斑点がまだらに付いている。



 触って大丈夫かなと恐る恐る手を伸ばし、一瞬触れて手を引っ込めたが特に問題もなさそうなのでそれを取った。





 鎖には南京錠などは付いておらず、なんならどこが境目なのかも分からないのにがっちり鞘と柄を固定している。




「抜いては駄目よ」



 驚いて振り返ると、入口から少し離れたところに兎結が立っていた。



「お父さんがいなくなったすぐあとに組紐が切れたの。貴方がまだ幼い頃に貴方の生気を喰おうとして自分で破ったのよ」



 兎結じゃない。

 一人で淡々と話し続けるその女性は一歩近付き、日蔓が持っている刀を指さした。



「お父さんが亡くなる前に作った最後の刀。望欲(もうよく)さんとは仲が悪かったみたい。でも生気の……そう、取り合いはなかったの。お父さんはその刀を抜くことはなかったわ。いつかの未来、必ず役に立つからと言って。その時までこれは抜いたら駄目だって」



 女性は誰かと話すように話を続ける。



「貴方には籐朧(トウロウ)があるでしょう?……飽きたって、そんな着物じゃないんだから。駄目よ、どうして妹のばかりに手を出すのよ。……上手いこと言うんじゃありません。……褒めてないわよ」



 曄尊(あきたか)の幻水刀は主に三本。望欲(モウヨク)籐朧(トウロウ)烙刧(ロクゴウ)

 望欲は曄尊とともに埋葬され、籐朧は息子に、烙刧は妹に渡ったはず。


 それ以外に妹で烙刧を継いだものはいない。



 話の推測からするに間違ってはいないと思うが、つまりこれは幽霊ということでいいのだろうか。




「……いらっしゃい。そんなに言うなら聞いてみましょう」


 そう言うと、女性は誰かの手と手を繋いで消えていった。






 呆然と立ち尽くす日蔓は刀を見下ろし、触らぬ神に祟りなしの精神でそっと刀を置いた。もう触ってしまったのは許して。




 電気を消し、そのまま逃げるように居間に帰った。














 翌朝、深夜のことが夢だったんじゃないかと思いながら目を覚ますと腕の中に未優がいた。昨日は線蓮の腕にいたのに、起きたんだろうか。


 頭を撫でて、頭上に投げ飛ばしているぬいぐるみを引っ張るとそれを抱っこさせて起き上がる。



 誰も起きていないと思ったら、そりゃそうだ。朝の四時。よし、寝よう。










 二度寝から起きると既に九時を回っており、未優に頬を刺されて目を覚ました。



「……刺さないでって」

「起きないじゃん」

「日蔓さん疲れてんすよ。しばらく寝といたらいいのに」

「疲れてるわけじゃないよ」


 ただ寝溜め体質と言うだけ。




 日蔓はあくびをすると寝返りを打って仰向けになり覗き込んできた未優の頭を撫でた。



「曄雅、起きたならご飯食べなさい」

「めんどくせぇ」

「日蔓さん未優さんの手本になる食生活をしてください」

「未優、ちゃんと食べるんだよ」

「日蔓食べてないよ」

「食べないとケーキ食わせないまま放置するよ」

「……食べる」

「偉い」

「脅しじゃない」


 こんな脅しで子育てだなんて。



 礼焃は呆れながら立ち上がると朝食を取りに行った。



 日蔓は起き上がり、尊音と優羽と罌粟とババ抜きをしている兎結(うゆね)に話しかけた。



「兎結、組紐って作れる?」

「あの刀のこと? よう君も見えたのね」

「触ったら全員見れるのか」

「れいちゃんは見えなかったわ。貴方の実祖父も」

「血筋関係かな。組紐は?」

「刀を抑えるための組紐は特殊なもので世界にもう四人しか作れる人がいないのよ。そのうちの一人は失明しながらでも編んでるわ」

「じゃその人に頼るか」



 失明しながらでも編めるなら相当な腕なんだろう。残りの三人全員に当たるよりはいいか。と思ったが。



「駄目よ、私あの人と仲悪いの」

「仲持ってんのがすげぇよ。なんでも持ってるじゃん」

「すごいでしょ。北本部の地下に一人いるからその人訪ねるといいわ」

「なんで日本刀の組紐作る人がギリシアにいんのさ」

「ギリシアが好きなのよ。私に惚れてるから」

「後半は違うと思う」



 ジョーカーの折れを直しかつ折れている場所を隠して差し出してくる優羽の圧に押されながら引くと、見事にジョーカー。


 優羽はガッツポーズをして兎結は机に突っ伏した。



「僕あがり。兄さん、ギリシア行くなら連れてってよ」

「駄目だよ。本館離れるのでさえまずいんだから」

「兄さんが一緒ならいいじゃん」



 そう言っても未優も連れて行かないし、と思って見下ろすと既に消え、線蓮の膝でラムネと戯れていた。

 ラムネはゲージの中に入れられないので楽しそう。



「未優、またお留守番だよ」

「いいよ別に」

「日蔓さん、ストレスの元っすよ」

「多言語の方がストレスじゃない?」

「一人の方がストレス大きそうですけど」

「じゃあ未優はわしと兵庫な」

「山?」

「静岡から岡山に移動した松笠家に貸せと脅されて」

「別に脅してないし」


 松笠は頬杖を突いて線蓮を睨み、線蓮はそれを睨み返した。

 寒白使って日蔓を贄に要求してくるのは脅しではないと。



「あ、皇雪お前また」

「あれ?」

「なんでそう毎回ミスする! 確認しろ!」

「してるんだって! お前の数字が間違ってんだろ!」

「んなわけあるか!」



 線蓮と皇雪が喧嘩を始めたのでラムネは逃げ出し、未優は希愛海(ののみ)の方へ逃げた。



 松笠と棘で掴み合い寸前の二人を抑え、おにぎりをかじり始めた日蔓は線蓮のパソコンを確認する。



「……ん〜衝羽だな」

「俺!?」

「お前最終確認」

「作ったの誰だよ」

薄紅(はっこう)

「書面ごと間違ってんじゃん! 俺両方照らし合わせてるだけだし」

「資料持ってんの蘇芳(ずおう)か。蝶草(ちょうそう)も持ってるっけな。尊音データ貸して」

「ふぁい」



 あくびをしていた尊音はあくびをしながら返事をし、日蔓にデータを渡した。



 未だ喧嘩している専務二人を放置してさっさとデータを書き換える。




「できたかな」

「ほら二人とも! できたって!」

「こう見たらおっさんが高校生に突っかかってる図なんだよなぁ」

「あ?」

「お兄様、そこでキレたらおっさんを認めることになりますわよ」

「こいつそんな若くねぇよ!」

「見た目の話してんだよ」



 線蓮はいぇーいと喜び、皇雪は日蔓の胸ぐらを掴んでキレる。それを静璐と棘で止め。




「鬼燈連れてくるんだった……!」

「仕方ねぇなぁ。そんな苛立ってんならしごいてやるよ。刀組いくぞー」

「今から!?」

「俺仕事終わってない……!」

「じゃあ今日は徹夜だな!」



 日蔓は皇雪を掴むと引きずって出て行った。









 線蓮とともに庭を見に行った未優は回廊でスクワットジャンプを始め、私服とパーカーに戻った日蔓は回廊に座って足を組む。


 希愛海と松笠を戦わせ、皆は見学中。



 珍しく押されている松笠は希愛海を受け流し、普段は姉のサポートに回る希愛海は真正面と各方向から松笠に打ち込む。




「……駄目だね。ストップ!」



 松笠の背後を取った希愛海は鞘に入った刀で松笠の首を突こうとし、日蔓はそれを木刀の側面で止めると横に払った。

 松笠は何歩か離れ、溜め息をつく。



「駄目だなぁ」

「老害出てますよ」

「老害じゃない。老害では……!」

「ただの歳か。希愛海、戦い方ぐちゃぐちゃすぎ。松笠さんは頭回ってない」

「寒い……」

「暖かい方だよ」

「私いつもお姉様と繰紫(くりしき)のサポートに回るので単独での戦い方が分かりませんの!」

「僕とやろうか。松笠さんは優羽に頭の回転速度治してって頼んどいて。……罌粟と下野も。棘さんと皇雪は巻藁ね。未優、曄乃(あきの)さんか誰かに声掛けてきて。どっかにはいるだろうから」

「どっか……はぁい」



 未優は足音なく走っていき、日蔓はチームごとに別れさせた。



 日蔓は希愛海の向かいに立ち、頭の中に流れる戦い方の動画を眺める。



 たぶん皇雪や繰紫の単独戦闘を真似たんだろうが、松笠が受け流しペースを崩されるとすぐに後ろに回る癖が付いていた。

 常に意識が注がれ続ける単独戦で支配人や界魔に通用するわけがないので、単独戦を仕込んで班はしばらく控えさせるか。


 希愛海と繰紫で一班は成り立つだろうし無理なら主任が忙しいので活動できていない西木課二班と協力させよう。あの班は白梅課一班にならって仕込まれたので戦い方は似ている。チームワークもいいし問題ないだろう。




「日が暮れるまで僕と一対一。常に僕の視界の中にいること。防ぐだけにするけど横に回り込んだら正面に戻す」

「あ……新しいですわね……!」

「単独戦で目くらましはほとんど通用しないからね。気配消す修行よりずっと早い。構えて」


 二人の戦いが始まり、癖で回り込もうとしては日蔓の目に殺意が宿ったのを感じ、踏ん張っては勝手に転ぶ希愛海の頭を叩く。

 視界から消えるなと言っただろうが。




「頭抱える暇があるなら立て。構えろ」

「はいッ……!」

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