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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
129/155

39.こたつ

 未優は座ってパソコンと睨めっこする日蔓のあぐらの上に座って腕に挟まり丸まって、日蔓は未優の頭にフードを被せて自分の方に押し付けてパソコンを眺める。前に行かれると身長差があまりないので、いやあるんだがな。あるが、胴の長さはほとんど変わらないのでパソコンが見えなくなる。




 さっきまで線蓮の膝の上だったのにラムネに取られたせいでこっちに来た。ちなみに静璐は勉強、未優も日蔓のタブレットを使ってパーカーの中で何かはやってる。何かは。





「……あれー……? 線蓮、これどうやるっけ」

「貸してみ」



 パソコンを受け取って少ししてから視線を移した線蓮は眉間にシワをよせ、意味分からんことになっている日蔓のパソコンのタッチパネルを叩く。



「曄雅お前これ何した」

「色々」

「ファイル多すぎ……! まとめろ!」

「まとめてそれなんだよ。なんならそれ年で分けてるからね」

「嘘やん……!」



 線蓮の後ろに尊音(たかね)もやってきて、線蓮の後ろからそれを覗いた。

 前に優羽に直してもらったところまで進めたが、また別のエラーが出てきて固まる。



「……兄さん……?」

「優羽、ヘルプ」

「んー? なんだい曄雅君」



 のろのろとやってきた優羽は線蓮にパソコンを机に置かせると、英語の警告文やらなんやらにだいたい目を通しながらさっさと直した。



「馬鹿は素直に聞いた方が楽なんだよ。お前も僕も」

「こうなるとは思わないじゃん?」

「教えたでしょうが!」

「教えて直ったら音痴じゃないんだよ。それはただの無知」

結楽(けいらく)より悪化してる」

「……ヤバいな」


 ヤバいだろ。



 優羽は尊音を元の場所に連れて帰り、線蓮は日蔓がやりたかったことを代わりにする。日蔓は覗いてはいるが理解はしてなさそう。



「曄雅、USBに入れろ」

「入ってんだよ。面倒くさくて抜いてないだけ」

「タブレットに挿すじゃろ……!?」

「共有ペアの使ってるからねー」

「ミーハー」

「黙れヤンキー」



 そう言えばと、何かを思い出した日蔓はパソコンを閉じるとスマホをいじって仰向けに寝転がった。


 団子から人になった未優は背中が痛いのか背中を押えながらラムネを押し退かし線蓮の膝に座った。

 線蓮は寂しがる未優の頭を撫で、それでも仕事の手は止めない。




「優羽、Έλα(おいで)



 突然のギリシア語に皆が反応し、優羽はさっきののろのろとはまるで違う喜々とした様子で寄ってきた。


 線蓮を押し退け、隣に寝転がるとスマホを覗いた。



「わぉ!? マジ!?」

「ちょっと過ぎた誕プレにあげよう」

「やった! 忘れられてるかと思ってた! 尊音に泣きついたの!」

「通知来るまで忘れてた。悪運に感謝しときな」

「幸運でいいだろ」



 好きなアーティストの全国ライブのチケットに優羽は大喜びし、優羽はすぐにスマホを取り出した。



「尊音、三月三日キャンセルで」

「は?」

「予定入ってんの? じゃあ駄目だ」

「はぁ!?」

「衝羽、見てこれ」

「……俺これ全国xxxS(トリプルエス)で取った」


 おぉオタクすげぇ。



「じゃあ未優、行くかい」

「……何これ?」

「ライブ。ほら、このアーティストの」

「未優、うるさいぞ」

「行かない」

「だろうね。行っといで優羽」

「ちょっと同担拒否が……」



 既に優羽をガン睨みしている衝羽と頭を抱える優羽は即火花を散らし、絶対狙っていた日蔓はげらげらと笑った。


「予定あるならそっちどうぞ」

「行くに決まってんでしょ誕プレのレア席」

「ドタキャンする人って嫌われるんですよ」

「誕プレ突き返す方が失礼でしょ」



 日蔓は腹を抱えて床を叩きながら大笑いし、それを無視して優羽と衝羽が一触即発状態で睨み合っていると、仕事に一区切りついた線蓮が日蔓のスマホを取った。



「あ姫智(ひめち)


 血迷ってんなぁ。




 線蓮がそうボソッと呟いたのを、オタク二人はすぐに反応した。



「……誰姫智って」

「線蓮さん、元カノ?」

「未優、それ詳しく」

「線蓮さんのお兄さんが元カノから住所聞いたって言ってた」

「あーなんだ。振られ話じゃないの」

「日蔓、悪魔みたいな顔してる」

「未優、これで興を取る大人もいるって覚えといて」



 興の意味が分からず首を傾げる未優に、礼焃は顔を真っ青にする。


「曄雅、なんてこと言うの……!」

「未優さん、忘れましょう」

「興」

「興」



 静璐は未優の頭を押えて忘れようと念じ、未優はその手を払うとずっとこたつに入る隙間を探していたラムネを捕まえた。



「そういや未優、僕へのバレンタインのお菓子は?」

「……忘れてた」

「まぁ山ほどあるけど」

「忘れてたッ!」

「分かったから」

「どうしよう」

「あ、未優ちゃんケーキ焼けるんでしょ? チョコケーキ焼きましょう」

「……日蔓材料」

「揃ってないの?」

「材料何がいるの?」



 礼焃は起き上がった日蔓のタブレットを覗き込み、未優はいつも作っているレシピを指さした。



「……生クリームだけね。曄雅、おつかい行ってきて」

「線蓮」

「寝る」

「線蓮さんも食べるんだよ」

「……マジか」


 既に部屋に山のようにある線蓮は一瞬真顔になったが、赤の他人の何が入ってるか分からないお菓子より未優のお菓子だな。


「よし、曄雅行くぞ」

「えー」

「あ、じゃ俺も行こ。希愛海(ののみ)、なんかいるか?」

「……湿布とガーゼとカイロと保温機能水筒と氷砂糖とひし餅とうどん! うどんうどんうどん! うどん! お兄様うどん!」

「俺はうどんじゃねぇ」

「食いちぎりますわよ!? うどんうどんうどん!」

「湿布とガーゼとカイロと水筒と氷砂糖とうどんはあるからひし餅だけね。うどん今食べる?」

「うどんはいつでも食べますわ! 私そば嫌いなんですの! お姉様がいないから言いますけど!」



 立ち上がって拳を天に突き上げ爛々とそう叫び、皆がそれを見上げた。



「……希愛海、希愛空と同じこと言ってる」

「どうでもいいですわ! どうせお姉様にはあげませんもの! 未成年の間は何かと取られ続けましたが今は私の方が上ですの! 下剋上の時間でしてよ!」

「まぁいいや。行ってきまーす」


 兄よ、それでいいのか。




 皇雪は線蓮と道案内役に仕事人間と化していた錨野を連れ、三人で出て行った。



 同じく仕事人間化しているのが一、二、三、四人。なお勉強漬け一人。



「静璐大変そうだね」

「期末……」

「希愛海に教えてもらいな。成績良かったから」

「言いましたっけ?」

「兄はシスコンナルシストなんだよ」


 聞かなくても喋りまくってる情報スピーカーなんだよ。まぁ自分のことしか喋らないので情報吹き回す馬鹿スピーカーより断然いいのかもしれないが。



 希愛海は静璐の傍に行くと勉強を教え始め、未優は希愛海の縦巻きロールに手を伸ばした。今日はずっと動いていたのでポニーテール。



「触ってたら気持ちいいでしょう? これ地毛ですのよ」

「マジ?」

「巻いてないの? くるくるするやつ」

「巻いたら寝起きより酷いことになりますわ」



 希愛海は未優の頭を撫で、ずっと気になっていた日蔓も話に入る。



「根元からくるっくるですから結んでなかったら三年髪洗ってない人より酷いことになりますの。一周回って頭皮強そうですわね」



 結ばなかったら天パのようになるのでまだ髪が短かった幼稚園の頃はからかわれていた。


 それから界館の小学校に上がって結べば結ぶでお嬢様ヘアーと馬鹿にされ、でも兄は入ったばかりの見習いだし界館のことを何も知らないのでお嬢様とかけ離れている。だからこその皮肉だったんだろうが。



 ずっと一緒だった姉と二人でお揃いの髪型にし、お嬢様口調で高圧的な態度に。元々良かった運動神経を駆使して馬鹿にしてくるやつを蹴散らす。

 怒られたら二人で押し付けあって、教師がどっちがどっちか分からず混乱している間に逃げる。そんなことを繰り返していた。



 結果的に一班まで上り詰め、もう同学年の子とは誰とも話さない状態。そもそも班になると学校の友達とか減るし。





「未優様は学校に行ってないのでしょう? いいんですのよあんなブタ箱。鶏頭しかいませんもの」

「真横で豚箱の課題やってる子がいるんだよ」

「勉強は大事ですわ! 知恵で勝って見下したら相手はそれはもう悔しそうな顔をしますもの!」

「根っからの闘争心秘めてんな」

「でもそう思ったら曄雅って学生の頃友達多かったよねぇ」



 未優は礼焃とともに台所に行き、線蓮の場所を奪って座っている優羽は頬杖を突きながらそう零した。

 衝羽は錨野がいなくなって主任二人に泣きつくこともできず、机に突っ伏している。



「まぁ顔と地位で生きてたからねー」

「さして顔良くないよ」

「お前の顔面のこと言ってんだよ」

「……ご迷惑を」

「毎年バレンタインはチョコ百個。うち七十は優羽と結楽宛。二人が学校に行かねぇから俺の机に山積みになってんの衝羽と錨野が届けに来んの。マジ邪魔でしかなかった。バレンタイン終わってから一ヶ月間は来るからな! 誕プレ、バレンタイン、ホワイトデー、毎月毎月お前ら暇人かってぐらい俺の机に!」

「非モテの僻みか」

「まぁ僕が優羽と結楽の写真裏で売って貼り出してたのもあるんだろうけど」



 日蔓は左に座る優羽に背を向け頭を抱え、優羽を日蔓の服を掴んで圧をかける。



「おいそれやめろっつったろ」

「ちなみにまだデータあるよ。ファンクラブも活動再開したらしいし」

「お前卒業してまであれ書く気かよ」

「さすがに書かないけど。んな時間ないし」



 知らない皆は首を傾げるが、衝羽と優羽と実は知っている下野は日蔓に呆れの目を向ける。



「まぁ結楽の写真が残ってるならいいけど」

「画質荒いから線蓮に高画質化頼んでるとこ。明度と彩度調整したらまた小遣い稼ぎにでもしようと思って」



 この鬼ごっこは出会った頃から変わらない。

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