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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
128/155

38.訓練

 屋敷に着いた翌日、未優が物音で起きると既に線蓮が起きて朝食を食べていた。朝食というか、栄養ゼリーパック。



「……老人の朝」

「老人はこんなん飲まんがな」

「美味しい?」

「あんまり」


 ただ、食欲がないから食っていると言うだけ。ただの二日酔い。




 珍しく二番目に起きた未優は日蔓の腕から抜けて頬をつついた。


 寝ていたと思ったのに、睨まれてびっくりする。



「おはよう曄雅!」

「朝からうるさい……」

「おはよう日蔓」

「おはよう。早いね。起きても人の顔刺さないで」

「なんか起きた」



 未優は日蔓の膝に寝転がり、日蔓は大きくあくびをする未優の頭を撫でた。線蓮が二人の顔をバッチリ収めようとしたところに、ラムネが飛び込み青い残像が残る。



「ラムネ……!」


 もう未優あくびしてねぇよ。



 未優は上に座ったラムネの頭を撫で、日蔓は後ろに腕を突くとラムネから顔を離す。




 線蓮がラムネの頭を撫でてラムネが未優の上で優雅に寝転がっていると、居間の襖が開いて礼焃がやってきた。

 空いていた線蓮の隣に座り、こたつで暖を取る。



「はぁ……。……線蓮さん二日酔いは?」

「……軽度で」

「弱いわね。曄雅、ご飯どうする?」

「めんどくせぇ」

「未優ちゃんは?」

「未優、米かケーキ」

「けー……」

「米ね。おにぎりかなんか作ってきて」

「……寒い」



 礼焃は寒い寒いと愚痴るように吐き捨てながら出ていき、未優は日蔓の胸ぐらを掴む。


 でも本当に掴まれているだけの日蔓がけらけら笑っているとまた礼焃が戻ってきた。



「未優ちゃん、おしるこ食べる?」

「……おしるこ?」

「ぜんざいとほぼ一緒じゃな」

「食べる」

「未優分かってる?」

「線蓮さんとこで食べた」

「スーパーの前で意地でも動かんかった」




 未優は起き上がるとラムネとともにこたつに潜り込もうとするのを日蔓が阻止する。そのパーカー着たまま潜ったら確実に熱中症か脱水になって倒れる。



「未優ちゃんお待たせ。はいおしるこ」

「先にご飯がよかったんだけど」

「どうして?」

「満腹いいわけにして食べなくなるから」

「あら大丈夫よ。おにぎり食べないとバレンタインのお菓子食べれないもんね」


 頭を撫でながら笑って圧をかけてくる礼焃に小さく頷き、礼焃はまたにこやかな笑顔で撫でてから出て行った。怖い。




「……日蔓のお母さん怖い」

「母親じゃないよ」

「違うの?」

「生んだだけだからね」

「……違うの?」

「母親は生んで育てて初めて母親なんだよ」












 それから三、四時間もすると皆が起き、各々(おのおの)大皿に乗ったおにぎりを食べ始めた。



 皆ご飯を食べ終わって、各々餅入りのおしるこを食べている未優にバレンタインのチョコを渡す。



「見て未優さん! あのアニメのコラボチョコ見付けたんです!」

「あっそ」

「でも未優さんにあげるのはこっちです」


 だと思った。



 衝羽から毎年豪華になっていく手作りチョコを受け取り、とりあえずお礼を言った。

 日蔓が貸してと言うので貸すと、それを光にかざす。



「……ん、大丈夫」

「なんだよお前! 俺専務でも守護神でもないし!」

「囲まれすぎてさ」

「お前守護神なりかけてるじゃん」

「……それは嫌だッ……!」

「おい守護神って誰のことかな」


 衝羽と錨野は二人でこたつに突っ伏して耳を塞ぎ、日蔓はそれを鼻で笑った。





 そんなこんなしているうちに静璐が起き、頭を抱えて亀になる。



「静璐、大丈夫?」

「……チョコ……」

「チョコ?」

「チョコ……!」

「未優、チョコ」

「やだ!」

「曄雅、これ」

「線蓮さん私にも!」

「未優はあげたろうに……」



 日蔓は静璐の前にチョコを置き、静璐はそれを掴むと食べてこたつの中で手を握ったり開いたり。


 低血圧の人は朝にチョコとバナナを食べるといいと聞いて、毎朝ちゃんと食べている。

 手足極寒で起床に一時間近くかかっていたのに、今は十分ほどで起きれる。




「……寒い……」

「うわ手冷たッ! 優羽!」

「僕が寒くなるんですけど」

「静璐大丈夫?」

「……寒いところ初めてっす」

「にしても冷たいよ……!?」

「血圧計あります?」

「優羽それ取って」



 尊音が膝に寝ている優羽は血圧を日蔓に渡し、日蔓は静璐に渡した。


 静璐はそれを腕にはめると机に突っ伏したまま血圧を測る。ちなみにあんまりよくない体勢。




「……ほら、八十二の下はエラー」

「君ほんとに生きてんのかい」

「ばっちぐー」

「軽く体伸ばして血流良くした方がいいよ。あとで除雪行っといで」

「うす」

「僕も見に行こ」

「飽きないねぇ」



 除雪大好きっ子優羽に呆れながら血圧計を返し、温かいお茶を飲んだ。








 日が高くなった昼頃、日蔓は問答無用でやらせていた除雪組の方へ行った。



 廊下では優羽と尊音がくっ付いてパソコンを叩いている。部屋帰ればいいのに。



「じょせつぐみー」

「あ、日蔓さん」

「昼食べたら刀稽古するから準備しといて」






 除雪が終わり、日蔓は皆を連れて庭に降りた。


 ここは砂利のない、訓練用の庭。



 袴姿の日蔓の手には木刀、六人の手には真剣。

 他の皆は回廊で見学。


 六人はたすきで振りを縛っているが日蔓はそのままだ。



「お前木刀で大丈夫かよ」

「真剣だと人の首切りかねないからね」

「……そうか」

「ちなみに君らの真剣横から叩く気で行くから自分の身よりそっち守ってよ。替えはないから」



 皆が顔を青くし、日蔓は右足を一歩引くと微かにそちらに重心を乗せた。




「構えろ」



 単身で、と言うか一人しかいない日蔓は六人の中に突っ込むと中心で一回転し、その間に八度叩く。四人は倒れた。



 振り返ると、希愛海(ののみ)と皇雪だけ耐えている。が、希愛海は衝撃のしびれで刀を落とした。


 皇雪は日蔓相手に真正面から突っ込むと、日蔓が構えた瞬間に滑り込むように後ろを取った。が、日蔓は構え終わる前の木刀を真横に振り皇雪の横腹を殴る。

 そのまま草履で滑って踏ん張りの効かない足で方向を変え、脇に潜り込んでいた希愛海よりさらに低くなって木刀で腹を殴った。


 その向きのまま木刀を半回転させ後ろに突き上げ、気配なく背後を取っていた松笠の顎を突き上げる。




「……さむ」

「お前終わった感想がそれかよ」


 衝羽は呆れ、日蔓は木刀を地面に突いて周囲にへばる三人を見下ろした。



「やっぱ阿菫は甘いんだな」


 まぁ、日蔓が(おどろ)を割と本気で殴ったというのもあるんだろうが。

 皇雪兄妹があれを防ぎ流せる、少なくとも耐えれるなら基礎は固まってきているか。


 どうしようかな、基礎は阿菫に任せて日蔓は我流を仕込むか。そっちの方が時間と労力が吊り合うよな。




「立て〜、続きやるぞー」

「曄雅、折らない程度に加減するんだよ」

「折った自分が悪い」

「折るな」

「まぁ覚えてたら」


 日蔓は棘の頭をコツコツと叩いて起こし、全員を横一列に並べた。



 興味の尽きた優羽は呆れながら部屋に戻って行った。













 その日の夜、皆が訓練終わりでへばって日蔓は仕事、未優と静璐は寝転がる日蔓の傍で筋トレ中。



「三十二、三十三、四、ごー……」

「みゆ……さん……! はやい……!」

「六、七、八」

「みゆうざァん!」



 腹筋背筋は起きて一回じゃなく、一回カウントされたら起きろと言うもの。数える人次第になってくる。



「残り十秒」

「七、八、九、零……。……えーっと……」

「四」

「一、二、三」



 四十と言わず、一から十を繰り返した方が早く言えるので零を何回言ったかで数えさせる。指で数えていてもさっきの零はカウントしたか忘れるのが未優なんだがな。



 腹筋が引きつっている静璐は未優と交代し、寝転がった未優の足を押えた。




「……始め」

「一、二、三」



 未優も腹筋は十回程度ならできるのだが、それ以降になると上がらなくなってくる。


 でも今日は何故か六回目で反応しなくなった。天井を見上げて固まる。



「未優さん?」

「見て、人の顔」

「未優さん……!」

「呑気だね。未優、残り四回とサボりで一回追加」

「えー!?」

「早く」



 未優は九回目でキツそうに起き上がり、十回目は勢いで、十一回目は静璐の腕を掴みながら起き上がった。


 ぐでっと倒れる。



「次。……ランニングできないからな。静璐ももあげワンセットと未優はスクワットジャンプハーフでいいよ」

「何回?」

「ハーフだって」

「……聞いてなかった」



 未優は静璐の横で下までしゃがんではジャンプを繰り返し、静璐はスマホを見ながら腿上げをする。ちなみに誰も数えてない。




 日蔓は仕事にのめり込み、兎結(うゆね)と礼焃はいつまでやるんだと二人を眺める。

 ちなみに父やいとこの祝乃芽(いのめ)たちは離れにいるらしい。絶対に尊音と曄雅に突っかかるのでこちら側から鍵をかけたと言っていた。




 五分ほどしてから、ジャンプした未優の膝の力が抜けてその場に後ろに滑り転ぶように倒れた。

 未優は頭を抱え、丸まる。



 静璐はギョッとしてスマホを投げるように床に置いた。



「大丈夫ですか……!」

「未優さん何回やるんですか」

「痛い……!」



 背中を床に打ち付けるように転んだ未優を静璐と衝羽で支え、礼焃も慌てて傍に寄った。



「大丈夫? 怪我は……」

「未優、おいで」


 こたつから這い出た日蔓は片膝を立ててあぐらをかくと前に座った未優を向こうに向かせた。



 逃げないように肩を押さえ、背骨を下から順に押していく。と、ちょうど胸椎辺りで身をよじらせた。


「痛い……!」

「どう痛い」

「なんか……がーんて、がーんてする」

「ただの打ち身だね。頭は? 自分で押えてみて」

「……頭抱えた」

「痛くないならいいけど。こっち向いて」


 視界に問題がないかと顔色と脈を確認し、特に問題はなさそうなのを確認する。



「湿布貼ろうか」

「曄雅、私行くわ」

「じゃ任せた」

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