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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
127/155

37.日蔓家

「未優、ヘッドホン付けて」



 玄利(ひろり)に言われたからか便利だったからか、もうずっと無線を付けている未優は上から首にかけていたヘッドホンをした。



 日蔓と手を繋ぎ、荷物を線蓮に預け。




 富山行きメンバーは西木課三班、衝羽、錨野、尊音、優羽、線蓮。それに刀メンバー全員。

 大所帯だと思うだろう。それぞれ目的地決めて別々のルートで行くので結構少ない。


 新幹線組は前述した八人。あとは飛行機とか乗り継ぎ電車とか。飛行機は未優が嫌がったので新幹線。

 尊音は超嫌そう。でも優羽と日蔓と離れるのはもっと嫌がった。






 新幹線に乗り、各々仕事を始める。

 未優は日蔓の隣でフードを被って丸まっている。人が多いのでうるさいんだろうな。












 二時間半かけて富山に、電車を乗り継いで実家の最寄りまで行く。途中で界魔を鏡瞳で潰しながら。



「尊音、道覚えてる?」

「お……ぼえてない。ここ変わりすぎじゃない?」

「衝羽! 道案内頼んだ」

「お前正月に帰ってたじゃん……!」

「駅まで迎えだったし」



 何故か衝羽と錨野先導で進むことになり、それでも日蔓兄弟はまともに道を見ず雑談しながら歩く。




 バスで超山の中まで、そこから十五分ほど歩きけもの道を上がるといつも通りのでっかい屋敷が見えた。



「でっ……か……!」

「あ増築されてる」

「されてねぇよ」


 変なことを言う優羽にツッコみ、日蔓は脇戸を開けた。

 瞬間、待ち構えていた兎結(うゆね)が飛び出してくるのを皆が避けて兎結は避けきれなかった尊音と優羽に飛び付く。



「久しぶりねぇふたりともぉ! いい男に育って! 優羽君なんで死んでたの!? 連絡ちょうだいよォ! 口は固いわよォ!?」

「いやぁ曄雅には緩いかなぁって」



 日蔓はまるで気にすることなく脇戸から中に入り、三人を締め出すように閉めると閂をかけた。

 兎結が反対の脇戸から入ってくるのを、玄関の鍵をかけて締め出した。


「ようが!? 曄雅君! 開けて!」

「何やってんすか日蔓さん」

「自己防衛だよ」

「曄雅、おかえり。皆さんようこそ」



 出てきた礼焃(れいかく)曄乃(あきの)に皆頭を下げ、曄雅はそれを無視して中に上がった。



「曄雅、自己防衛はいいけど弟まで締め出さないでちょうだい」

「尊音開けるから」

「それでいいのよ……!」

「よかねぇから締め出してんだよ。皆は?」

「皆もう着いてるわ」





 日蔓は客人を置いて居間に向かい、襖を開けるとやっぱり。



「集まったらまず酒盛りじゃねぇんだよ」

「曄雅、遅かったな」

「道忘れて」

「自分の実家だろ……」



 皇雪、(おどろ)、松笠は大酒かっくらい、残りの希愛海、罌粟、下野は正座で固まり。



「いいじゃない曄雅。三日、四日はいるんでしょ?」

「さっさと帰りたいんだけど」

「ゆっくりしなさい貴方熱出したらしいわね」

「別にいいじゃん……」

「過労よ過労! もし倒れたら母さん裁判起こすわ!」

「知らないし!」



 日蔓は怒鳴ってくる礼焃に耳を塞ぎ、それが珍しい光景の未優は手を繋ぐ線蓮の腕を振った。


「日蔓もお母さんいるの」

「曄雅は母親とは思ってないらしいがな」

「ふーん……」






 着物と刀は用意できているらしいので、とりあえず女子陣男子陣に別れて着付けをした。

 日蔓と松笠で下野、皇雪、棘を。

 礼焃と曄乃で罌粟と希愛海を。


 兎結は優羽を着せ替え人形に連れてった。



「で後ろで結ぶ。裾がくるぶしの高さになってるなら大丈夫」

「曄雅、たすきは?」

「あー……やっといて? 僕未優の様子見てくる」

「はいはい」



 和服になっても下はウェアだし、それぞれの身長で特注で誂えてもらった着物なのでおはしょりもあまり出ない。

 なんでこんなたっかい着物をわざわざ特注で作るんだか。




 着物になった日蔓は未優のところに戻る。と、酔っ払い組に絡まれそうになっていた未優を静璐が必死に守っていた。

 日蔓はハンドガンを抜くとそのグリップ部分を振り上げ、勢いよく振り下ろす。



 衝羽は頭を抱え、見ていた尊音もそっと自分の頭に手を置く。


「帰れお前」

「……すみませんでした」

「兄さん痛いよ……」

「尊音にはなんにもしてないよ」















 富山の豪雪。二月は余裕で積もる積もる。


 そんな吹雪の夜中十二時半。



 酒盛りに飲まないまま付き合わされていた曄雅とタバコを吸っていた優羽のスマホに通知が鳴った。

 尊音のスマホは少し違う音が鳴り、尊音は慌てて出ていく。



「曄雅、行く?」

「ん〜……まぁ行くしかないよねぇ」


 と言いながら寝転がる日蔓を見下ろし、優羽は無線を渡した。

 日蔓はそれをキャッチする。



「曄雅なるはや」

「はいはい……。静璐、未優頼んだよ」

「はい」



 日蔓は屋敷を出ると優羽に位置を聞きながらたすきをちぎり、一度止まって袴の裾を縛った。



 上を脱ぎながら、いつかの谷を飛び越えその奥にある崖に飛び込む。と、下には大量の虫のような界魔がうじゃうじゃと。



「うわキモッ」

『何?』

「大量の虫。優羽は見ない方がいい」

『僕虫いけるよー?』

「多種多様だよ」

『指示出すね』



 吹雪の中よろつくドローンを飛ばし、サーモグラフィーで確認した優羽は机をリズムよく三度爪で叩いた。



「右回って周囲百二十(120)百五十(150)百七十(170)百八十(180)二百(200)四十(40)三十(30)(0)。おいて三百(300)二九五(295)


 優羽の怒涛の数字ラッシュにめまいのした未優は静璐の方に寄りかかり、尊音は傍に寄るとカメラを覗いた。

 よくこれで界魔の位置と場所が分かるな。高さとかまるで分からんし。


 周囲真っ青で曄雅は赤、黄色く写り、界魔は水色っぽく。でも上下はまるで分からない。



『痛ッ』

「鈍ったんじゃない」

『短剣かすった』

「馬鹿か」

『風呂貯めといて?』

「右回って周囲三十(30)



 また優羽は数字で指示を出し始め、尊音は礼焃にお風呂をお願いした。







『見っけ』

「早く戻っといでー。ドローンが雪でやられそう」

『戻していいよ』



 それから三十分もしないうちに日蔓が帰ってきて、皆で玄関へ行くといつぞやの光景を思い出した。


 上裸の肩を脱臼したらしい日蔓は左腕を力なくぶら下げ、左前腕にはすっぱり切れた傷と右手には雪で氷った短剣。

 左肩からみぞおちまで、肋を切る形でいつぞやの傷跡も。



「さーっむ」

「なんか懐かしい光景だね」

「覚えてねぇ。縫合用具持ってきて」

「一緒に入るかい」

「狭い」


 やっぱり嫌とは言わないのね。




 皆背を向けた日蔓の傷跡に絶句し、日蔓は雪で濡れ凍りかけている髪を解きながら風呂場に行った。


 すぐに優羽がやってきて、縫合セットを持ってきてくれた。が、片手だと縫えないので優羽にお願いする。



「ねーめっちゃ血垂れる! 汚いッ!」

「うるさい」

「血止めといて!」

「無理に決まってんだろ!」





 傷口を縫い、ガーゼを貼ってラップで巻いてから風呂に入った。

 芯まで冷え切っているので先に風呂に浸かり、溜め息をついた。



「文句あるなら自分で縫えよ」

「別に文句じゃねぇ。さっさと戻れ」

「誰のせいで汚れたと!」

「止血しなかったのは優羽だろ」






 優羽が不機嫌になりながら居間に戻ると、線蓮によって酒飲みたちが潰されていた。



「うわぁ……」

「優羽、飲むか?」

「遠慮しとく……。尊音飲んだら」

「僕仕事あるし」

「じゃあ線蓮さん、私が相手するわ!」



 兎結は線蓮の向かいに座り、線蓮が持っていたトランプを分けた。

 ただのポーカーだ。負けた方が賭ける代わりに飲んで飲んだ回数が多い方が飲むだけ。



「フラッシュ」

「フルハウス」

「うえっ……」


「フォア」

「おぉラッキーロイヤル」



 絶対この人ズルしてると言う線蓮は兎結を叩きのめして、負けてないくせに酒を飲む。



 めちゃくちゃに強いというわけでもない兎結もすぐに潰され、線蓮はけらけらと笑った。




 少しして、未優があくびをしていると日蔓が戻ってきた。

 居間の惨劇を見て顔をしかめる。



「なにやってんの……」

「曄雅! 飲もう!」

「……じゃあ僕が勝ったら線蓮飲んでね。僕負けたらまぁ撫でる権利でもあげよう」

「マジ!?」

「じゃちょっと待っといて」



 と言って日蔓が出してきたのは日本酒ではなく焼酎。水割りされてないやつ。



「はい」

「何パー?」

「四十」

「余裕。何する?」

「仕方ないなー。ポーカーのズル見破ってからブラックジャックにしてあげよう」

「曄雅それはあげようじゃない」

「最初からよりいいでしょ」

「大富豪とかにしてあげたらいいのに」

「人数少ないし」




 日蔓は配ろうとする線蓮からトランプを奪い、自分で配り始めた。

 だいたい配る時にズルするから。



「せんれーん、曄雅にトランプやらせたら恥かくよ」

「かく恥はないがな」

「日蔓そんな強いの?」

「うーん結楽が超強かったからね。そのうち結楽負かすようになったし。あれはイカサマのプロだね」

「トランプのイカサマはやるかやらないかじゃなくてバレるかバレないかなんだよ」



 迷言を言う日蔓に呆れ、未優は線蓮の横に座った。

 ルールを聞きながら、理解しないままふーんと流す。




 なんだろうな。なんで日蔓は勝つよりイカサマを見破って楽しんでるんだろう。







 小一時間ほどで日蔓は線蓮を潰し、酒の蓋を閉めようとした。途端、口に手が置かれ、見ると曄乃が笑っていた。



「飲むわ。線蓮さん飲まないなら誰も飲めないし」

「……お好きにどうぞ」


 この酒豪が。

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