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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
115/155

25.集合

 一月六日の昼、新幹線で各地方から東京に集合することになった。



 ずいぶんと気力の戻った未優は線蓮と手を繋ぎ、片手でスーツケースを引っ張る。




「線蓮さん、日蔓迎えに来るんでしょ」

「あぁ。……疲れたか?」

「人が多い」

「ヘッドホン付けておけ」



 未優は音楽を聞きながらスーツケースから手を離し、袖を口元に当てた。




 集合時間着より一本早いのに乗ったのでまだ少し時間がある。

 線蓮は日蔓に着いたと連絡を入れ、日蔓からの返信を待つ。既読は付いたんだけど。



 日蔓達は四日の夜には帰っていたようで、三班を連れる専務二人に怒涛の帰ってこいメールが来たのを二人でもうちょっとと引き延ばして結局今日。




 線蓮がスマホを見ていると、ふとセンサーが反応した。顔を上げて辺りを見回せば、いた。衝羽(つくばね)もいる。



「未優、来たぞ」

「……線蓮さんって発信機つけてる?」

「んーん消された」

「私に着いたって連絡来る前だったよ」

「未優もまだまだじゃな」

「線蓮さんみたいにはなりたくない」


 酷いこの子。




 未優は日蔓に大きく手を振ると日蔓の方へ走った。



「日蔓!」

「未優、元気になったね。おかえり」

「ただいま! ジャングルで暮らしてきた」

「嘘じゃん」

「ただの山じゃがな」



 未優は日蔓と手を繋ぐと線蓮から荷物を受け取った。

 それを衝羽が持ってくれる。



「線蓮さんって案外ジャングル育ちだった」

「山じゃて」

「あそうなの? 兵庫って山あるんだ」

「海沿い以外はだいたい山じゃからな」

「山持ってるって言ってたのそこか。未優、楽しかった?」

「うん。イノシシいた」

「野生だなぁ」




 もう数分すると、静璐と鬼燈がやってきた。

 二人とも妙に大荷物だと思えば、お土産か。旅行で大はしゃぎするタイプ。



「おかえり静璐。すごい荷物だね」

「ただいまです! 日蔓さんが好きそうなのめっちゃありました! 未優さんにもいっぱいありますよ」

「やった」

「じゃ帰ろうか」

「俺と線蓮は別ルートで帰るから」

「あそう。じゃ」

「冷たッ……!」





 衝羽が運転する車の中では未優が山で経験したことを大興奮で話してくれた。

 設備の全てを自分で作っていたこと

 イノシシに襲われかけたのを線蓮が殺気で気絶させたこと

 山を降りるためのパルクールを教わったこと

 ラムネが毎日どこからか魚を取ってきて線蓮がキレたこと

 その魚で手巻き寿司や色々な魚料理をしたこと

 バイキングのようなクレープをしたこと

 山で初めて食べるフルーツを食べたこと。


 普段のケーキを食べている時より楽しそうな顔で語るので、ついて行けばよかったと内心後悔している。



「未優、お店には行かなかったの?」

「えっと……買い物の帰りとかに出店みたいなお店には行ったけどケーキ屋には行ってない。クレープとかフルーツとかスーパーで買ったり自分で作ったりしてた」

「体調が悪くならなかったんならいいけど」

「大丈夫だった」


 夢を初日以外見なかったので、たぶん糖を使う頻度が少なかったんだろう。一日にケーキワンホールも食べていなかったが気持ち悪くなることがなかった。




「静璐はどっか行ったりした?」

「いや、ずっと鬼燈さんの家で子供と遊んでました」

「あぁあの子たち。元気にしてた?」

「めっちゃ。会ったことあるんすか?」

「一回ね。本人たちは覚えてないぐらいちっちゃい時」


 まだ三歳ほどだったので覚えていないだろう。覚えていたらびっくり。





 日蔓が二人の思い出話を聞きながら窓の外を眺めていると、何かの渋滞に引っかかった。



 スマホで渋滞の原因を調べるが、特に事故などは出てこない。ニュースにならないほどの小さな事故か、ただの検問か。




 しばらくするとパトカーのサイレンとともに日蔓のタブレットに緊急の仕事が入った。

 なんてジャストなタイミングだろうか。




「二人とも、体力テストといこうか」

「仕事っすか?」

「この渋滞の原因ね。荷物置いといていいよ。衝羽、荷物頼んだ」

「はいはい」





 車を安全な場所に指示し、車を降りた三人はとりあえず垣根を越えて歩道に入った。


 未優はフードを被るとそれを押えたまま日蔓を見上げる。



「何ランク?」

「二。おいで」



 未優と手を繋ぎ、静璐に情報を見せながら渋滞の先に向かうと、ちょうどパトカーから優羽(やう)が降りてくるのが見えた。


 優羽は垣根から柵に変わった鉄の棒を越えるかと思えばその上にしゃがみ、片足を二段目にかけた。

 通行人も警察官も驚いて後ずさる。




 日蔓は真後ろにいるのに連絡を寄越す優羽の頭を殴った。


「痛い……」

「正月サボり?」

「殴らなくてもいいじゃん。ずっとその二人に構ってるから僕の存在忘れてるかなと思って連絡してあげただけだよ?」

「忘れてあげようか」

尊音(たかね)が泣くぞ」

「蹴り落とすぞ」



 相変わらずのメンヘラなのかなんなのか、自己アピールの強い性格に呆れながら優羽のタブレットを借りた。自分のタブレットは未優に持たせる。



「僕持つ手差し出したよ……!?」

「全然情報ないじゃん。出現どこ」

「無視かい!……先頭の車。運転手は殺されてる」

「二人出て大丈夫?」

「まぁー大丈夫じゃない? トリガーが引かれない限り支配人も守りに徹するでしょ」

「……それもそうか」



 殺害という知能がある人型界魔。支配人が目にかけている界魔の可能性があるなら少し不安もあるが、まぁ傍にいるし大丈夫か。



「……尊音来てないよね」

「まさか。出すわけないでしょ」

「ならいいけど。タブレット助かった」


 重い空気が首にまとわりつくような気配を感じた日蔓は未優から手を離すと銃の弾を入れようと手を腰に回そうとした。瞬間。



 いきなり突風が吹き、それは真横のビルを破壊するほどの威力のまま日蔓をさらった。



 三人で状況が理解できないまま破壊された方のビルに視線を向ける。




 真っ白な三メートル近い細身に鮮やかな紫とグレーのラインが入った手の大きい人型界魔。



「曄雅!」

「はいはーい」


 優羽の叫びに答えるように呑気な声が聞こえ、また皆でそちらを見ると、フードを被った日蔓はパトカーの上に立ち銃にマガジンを差し込んだ。


 見たところ傷はない。



「だッ……大丈夫……?」

「肩にアザできたかも」


 音速よりは遅かったので界魔の人間比率を無視した馬鹿でかい手に押された瞬間その手を抜けてパトカーに乗った。

 音速相手なんて何百回としてきたからな。



「二人とも余所見しないの。未優、限界まで頑張ってよ」

「うん」

「静璐は未優のカバー」

「静璐君、無線いる?」

「未優やりながら話せないから意味ないよ。優羽は避難させるから」

「日蔓さんは?」

「相手の狙い僕っぽいからねー。囮役」


 狙いが日蔓じゃなければ発見一番突っ込んでこないだろう。

 相手の狙いは明確。周りを巻き込まなかった辺り、支配人に未優と静璐は傷付けるなと言われているか。



 ビルを破壊する界魔を見下ろし、確定だなと鼻で笑う。




 狙いは日蔓。未優と静璐には手は出されない。その他はお構いなし。


 人を認識し殺害の知能があるなら相当ランクは跳ね上がる。



「曄雅、(マイナス)五にしとくからしばらく引き付けて。じゅっ……」

「死ぬかも」



 日蔓は優羽から無線を奪うように取ると姿を消した。それと同時に界魔も消え、未優と静璐は同時に同じ方向へ飛んでいく。



「命令聞く練習も必要かな」




 柵から降りた優羽は警察に半径二キロに避難勧告を出すよう伝え、ヘッドホンを付けた。



「曄雅、死んでる?」

『死んでる。界魔がどこにいるか分からん』

「サーモグラフィーで感知しようか」

『早すぎて無理かも』


 速さのせいか通信も少し悪い。



「部下の姿は?」

『見える。二人にはたぶん見えてる』

「異能の問題か。曄雅どうやって逃げてんの」

『なんか影っぽいのだけ見え……てるから』



 一瞬通信が途切れかけ、優羽は微かに眉を寄せた。


「曄雅、くれぐれも死なないように」

『何ふざけたこと言ってんの』

「その死んで一興思考なんとかした方がいいよ。僕窒息死したくない」

『道連れにしてあげるからね』



 通信が切れ、優羽が一人でゲラゲラ笑っていると肩を叩かれた。

 振り返ると、呆れ顔の衝羽が立っている。



「あ、やっほー」

「お疲れ様です。何笑ってるんですか」

「曄雅のボケが面白くって。車は?」

「他の人に任せました。ベテランの方なので」

「そう。じゃあ僕らも逃げようか」

「俺にも避難命令出てたんですけど……」


 部長クラスに避難命令とはどういうことだと言いかけた時、優羽の後ろ側で大きな爆発があった。


 優羽の顔が逆光で見えなくなるほど、マンション一棟が吹き飛ぶほど。




「ようがぁ」

『僕じゃないよ。静璐』

「教育どうなってんの」

『地球捨ててでも殺せって言ってる』

「いや……」


 それはおかしいだろう。




 優羽は衝羽にフードを被せると悲鳴を上げて逃げ始めた民衆を見下ろし、鼻で笑いながら柵の上を歩き始めた。



『うわッ……!』



 日蔓のそんな声が聞こえた直後、一箇所で爆発、一箇所で火柱が立つ。



「曄雅、情報」

『僕もなんにも見えてない。……静璐! 状況確認!』



 ノイズのような声が僅かに聞こえるが上手く聞こえず、性能の落ちたマイクに舌打ちした。


 死んだからって技術捨てるなよ。廃る一方だぞ。



「曄雅、聞こえない」

『界魔が広範囲攻撃。未優と静璐の間取ってやり合ってる』

「動けるよね?」

『上等』

「指示出すよ。なるべく更地辺りにいて」

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