24.幼馴染三人組
「こんだけずぼらなら本人の日記もないわけだ」
「頭喰われたってグロいな」
「傀儡って支配人の事か……」
日蔓と衝羽と錨野で文献を覗き込み、各々思考を巡らせる。
でも曄尊が支配人と対等に渡り合って帰ってきたということは、まぁ人間の力はまだ越えていなかったということだ。さすがに百年以上経っているとそれは当てにならないだろうか。
「日蔓、この幻水刀って四家なら当たり前か?」
「いや、初めて聞いた。ちょっと聞いてみるよ」
「うげっ、もう七時じゃん……」
そりゃ皆スマホで照らして読むわけだ。
疲れきった三人がその場に横たわると、ちょうど襖が開いた。
「三人とも、ご飯できたわよ」
「……あれエナドリどこ行った」
「捨てたわよ。貴方しばらくエナドリ禁止ね」
「無理」
「大丈夫! お前の部屋のエナドリ皆に配ってもうないから」
「は?」
「そんなんで痛くならないぐらい懐は潤ってるだろ。さ、飯食うぞ」
「いらない……!」
「お前が食わないなら食わせに未優さんと線蓮専務呼ぶ」
半狂乱で発狂する日蔓を二人で引きずって廊下をついて行っていると、突然日蔓がその口を閉ざした。
「行ってらっしゃい衝羽」
「俺か」
「錨野弱いし。僕お腹空いた」
「だからちゃんと食えって何百回言ったら分かるんだよ」
一人でへへ〜と笑いながらアホになる日蔓の頭を叩き、日蔓を引きずる手を離した。
「……玄関どこだ」
「未優と同じこと言ってる」
「マジ!?」
「こっち」
「マジで!? 言ってる!? 言ってた!?」
「錨野は先行ってていいよ」
と言われど一人で親戚団欒に飛び込む勇気はないので日蔓について行き、三人で玄関に移動した。
二人に靴を持たせ、界魔が出た方角の回廊まで移動する。
「さっさと片付けてよ。お腹空いたから」
「結局俺も行くんか……」
「日蔓お前文句言うなら鏡瞳使えよな」
「やだよ面倒臭い。あれ疲れるし 」
「お前精度戻ったの?」
「ぜぇーんぜん」
二人とも砂利に靴を置くと手すりを飛び越えて靴の上に降りた。
片足ずつそれを履いている間に、いきなり吹雪出してくる。
「わッ!?」
「寒ッ!?」
「北陸さっむ!」
「界魔だねー」
日蔓は手すりに座るとフードをかぶり、二人も慌ててフードを被った。このパーカーとウェア優秀。
「行ってらっしゃい。怪我しそうなら帰ってきていいよ。アキレス腱切れたとか洒落にならんから」
「分かりましたよ曄雅様」
「分かればよろしい。早く行ってこい」
手すりに座って足を引っ掛けた日蔓は二人を見下ろし、二人は渋々従った。
錨野はその場にしゃがみ、衝羽は一歩踏み出して貯めると飛び上がった。
その運動神経を買われて界魔屋となった衝羽と日蔓にマンツーマンでしごかれていた錨野。言ってしまえば、今生きている中で日蔓の仕事以外の面、訓練や学面を最も近くで見ていた二人。
日蔓のその努力を見ていたからこそ今の地獄訓練を弱音を吐かずに耐えている。弱音を吐いたら、今まで血反吐を吐くほど努力してきた日蔓を侮辱することになるから。
部長と主任の二人で一ランクを負けず劣らず叩き伏せ、ものの十分で近くにいた平の子に渡して戻ってきた。
二人とも雪にまみれて半凍り。どうやら界魔のせいではなく、ただの富山の気候だったらしい。せっかく皆が除雪したらしいのに。
明日の朝にはまた除雪されてるか。
「寒い……!」
「衝羽って技術棟のあの部屋入ったことないの? マイナス二十五度」
「防寒して入るんでな」
「それの耐性も付けるかー」
二人で日蔓に嘘だろやめてと言いながら玄関に靴を置きに行き、それを背に日蔓はスケジュールを調整する。ウェアなしパーカーのみに耐えてる日蔓がいるんだから大丈夫。普通の人はパーカーすら知らないんだから。
技術棟に極寒の部屋が一つ空いていたはずなので一グループずつ入れて耐えさせよう。子供界魔から異能の種類は聞けるだろうか。
「日蔓……」
「くどい。やらないと地獄見るのは自分だよ」
「もう見てるけどな……!」
「地獄よりキツい」
「それは自分たちの今までサボってきたツケでしょ。現に僕も優羽も余裕だし」
襖を開け、既に食べ始めていた皆の顔を見下ろす。
ドッペル兄弟と祝陽はいない。親達と祝陽の妹の祝乃芽だけ。
食べていた祝乃芽は開いた襖を見上げると鼻で笑った。
「ニート」
「ここに猿呼んだの誰?」
「誰が猿って? 出来損ないが」
「自分に言ってんのか? 動けないのに頭も使えない餓鬼が厨二病だけでイキんなよ」
日蔓は誰も座っていない方の机に座り、入室早々ドン引きの二人もおずおずと中に入った。
礼焃と曄乃に押され、錨野は日蔓の前に、衝羽は隣に肩を押し潰すように座らされた。
「たくさん食べてね」
「あ、ありがとうございます……」
「コミュ障」
堂々と失礼なことを言う祝乃芽の頭を母親が殴り、曄乃は穏やかな顔をして頬に手を添えた。
「祝乃芽、そんなに外に出たいなら出てきていいわよ」
「は? 何言ってんの」
「外に出たいんじゃなくて出してもらいたいんですこの子は。ちょっと失礼します」
「痛い!」
母親は祝乃芽の腕を掴むとそのまま引きずって行った。日蔓はそれを鼻で笑い、衝羽と錨野は日蔓に視線を向ける。
「ご馳走さん」
「早ッ……!」
「駄目よ曄雅、一日分食べないと」
「糖質摂りすぎで太りかけてるんで」
「待て日蔓。お前まさか客人残してどっか行くつもりないだろうな」
「離せよ……!」
衝羽はあぐらを組んでいた足を日蔓の片足に絡め、逃げられないように自分の方に寄せた。
内心、置いていくなと超焦っている。
「……じゃあさっさと食え」
「お前寝不足か? カルシウム不足?」
「置いてくぞ」
「待てや」
衝羽と錨野は老舗並みに美味しい食事を用意された分だけ食べ、最後は半ば無理やり日蔓に引っ張られながらまたあの書物の部屋へと連行された。




