19.動画
「おつかれ」
「マジで疲れた」
関西と関東地方を混じえた訓練終わり、もう月が高く冷たい風が吹く夜。
やってきた衝羽は日蔓に暖かいペットボトルのコーヒーを渡した。
「もうすぐクリスマスか……」
「なんか予定あり?……デートなら未優さん貸して」
「いや尊音の誕プレどうしようかなと思って」
「弟君誕生日か。そういやそうだったな」
指揮台から起こされ、コーヒーを飲みながら立ち上がった。
一歩近付いてくる衝羽から一歩離れ、それを繰り返し二人でぐるぐる歩き始める。
「何何何」
「お前いい加減彼女作れよな。未優さんの周り男しかいないじゃん」
「もし仮に、絶対ないけど、もしもできたとしても未優には絶対会わせない」
「自分でそこまで否定するか? なんで作らねぇの?」
「第一に興味ない。第二に線蓮がシンプルに恐怖。第三に俺仕事と彼女両立できるほど器用じゃない。未優の勉強もあるってのに。第四に成功したカップルを見たことがない。お前含めて」
「一言余計だ。でもお前元カノとも仲良いじゃん」
「誰だよ元カノって」
「六、七人ぐらい」
「家と金と命の保証にまとわりついてくる奴ら?」
「……お前が他人にキツすぎるんだな。うんうん」
一人で納得し始めた衝羽にいきなり首根っこを掴まれ、目を丸くする。
「で、お前集会覚えてる?」
「……いいえ」
「だろうな。この寒い中呼びに来てやった俺に感謝しろ」
「別に俺いなくてもいいだろ」
「線蓮専務も優羽さんも弟君も揃ってんだぞ? お前の写真なんか見たくねぇよ」
「どういう集まりだよ……」
「歴代最強の動画を見ようの会」
会議室に着くと既に主任、部長、専務と先代専務や諸々数人も揃っていて、皆の注目がこちらに向く中衝羽に先に押し込められる。
「痛い痛い」
「早く入れ……!」
「押すな」
「俺を目立たせるな」
「目立ってねぇよ影薄いんだから。痛ッ」
衝羽に腕をつねられ、二人で言い合いをしながら中に入った。
まぁ、唯一の同級生なので当然の関係性というか。
「曄雅、遅かったね」
「忘れてた」
「だと思った」
衝羽を部長サイドに放って、優羽の傍にある端っこの椅子に座った。さすがに疲れた。
「大丈夫? この後動くらしいけど」
「マジか……」
「兄さんがそこまで疲れるのは珍しいね。たかが訓練」
「あー……県支部対三班でずっと動いてたから」
「じゃ揃ったし始めるか」
スクリーンに動画が映し出され、前置きもなしにさっそく再生された。
微塵も興味がない日蔓はタブレットを眺める。
「……線蓮、曄雅のやつ見た方が圧倒的なんだけど」
「じゃな。皇雪、変えろ」
「画質悪いだろ」
「盗撮魔の技術力なめんなよ」
それは言っていいやつか。
日蔓が線蓮を睨むと、いきなりスクリーンに画質の荒い動画が映し出された。
と言っても普通に顔は視認できるし、今も画質の悪いスマホはこんな感じっていう程度の画質。
「わぁ! 懐かしい動画! 優羽君よく持ってたね!?」
「僕のタブレットに結構記録残ってるから。写真なら結楽の方が多いかな」
「盗撮魔が多いことで」
動画が再生され、線蓮は見えにくい前側から後ろに移動してきた。
フードを被った小さい日蔓と眼鏡をかけて首に包帯を巻いた結楽が映る。
曄雅の手には短剣、結楽はスナイパーライフル。曄雅は今よりもずっと人間らしい、子供らしい目をしている。
『なんで撮ってんの?』
『撮影アウトでしょ』
『こっちのタブレットではいいよって許可貰った。ハッキングされないからね』
『完全独立型タブレット、だっけ?』
『あー寒。さっさと終わらせて帰ろ』
『優羽、情報ちょうだい』
『一ランク。専務三人組がしっぽ巻いて逃げたやつ』
『専務も年々弱くなってるよね。さっさと交代したらいいのに』
『仕方ないよ。歳だし』
なんで本人たちが全員いる中でこの動画流すかな。
睨んでくる御三方から優羽と日蔓はさっと顔を逸らした。
『でももうすぐに寒白さんの唯一の成功作が棘さんと代わるらしいよ。ちょっとはマシになるといいね』
『えー。寒白さんの弟子なら寒白さんと交代すりゃいいのに。それでマシになんの?』
『無理だろ。年々劣化してる』
『仕方ないよ。育てる人らの質が悪い』
そんな毒たっぷりの会話から、一瞬画像が固まったかと思えば場面が一転、崖の僅かな取っ掛りに立っている曄雅が映し出された。
よく見ても見なくても、空中に立ってるようにしか見えない。
「どっ……どこ立ってるんですか……!?」
「分からん……」
「石かなんかあったんでしょ」
罌粟も下野も混乱する中、錨野は平然と眺める。
『曄雅、何体ぐらいいる?』
『八十から百前後。もっと少ないかも。多いかも』
『じゃあ五十以上でやっとくよ。二人で同時にやる?』
『細々してるから俺先にやるわ。弾切れ交代で』
『了解』
『じゃ指示出すよー』
曄雅がどこかに一発撃った直後、優羽の怒涛の情報が流れてきた。
『結楽正面二十、上下三十、五十、六十。……百偏って三、八、七上下六』
『弾切れ』
『曄雅正面八、一三、九五、一五縦二』
『おっけ』
優羽の暗号めいた声に皆は混乱するが、銃声が鳴るごとに界魔が落ちてくる。
それが数分続き、曄雅が最後に界魔を蹴り飛ばした。
『親玉は!?』
『いないよー?』
『俺らじゃなくていいじゃん! 今から東京帰れって!?』
『カルシウム不足かな』
『殴り殺すぞ』
『こっわ……』
結楽は顔を引きつらせ、戻ってきた曄雅はスマホをいじると二人を見下ろした。
妙に高いところにいると思ったら、木の上にいたらしい。
木の上にあぐらでライフルを構えていた結楽がカメラに向かってピースする。
『いぇーい。優羽おでん作って』
『帰ったらね』
『買った方が早い。帰るの明日』
『マジ? やった!』
『言うて夜中の二時半……』
『簪さんに奢ってもらおー!』
『おー』
『無遠慮すぎる』
なんて今の日蔓に直で刺さる曄雅の言葉で動画が終わり、皆が日蔓の方を見た。
「なんですかあの暗号」
「百八十度どこに何がいるかの指示。慣れたら分かる。……にしても動きが鈍い……」
「ちょっとタブレット貸して」
優羽は皇雪からタブレットを借りるといくつかスワイプして、また動画を再生した。
轟音が鳴り、それがまた静かになった頃優羽の声が聞こえた。
『現在曄雅君、四十一度の高熱中』
『何いきなり。また撮ってんの? いぇーい』
『久しぶりの機嫌いい曄雅収めとこうと思って。結楽はいっつも機嫌いいし』
『不機嫌ペアの手網引かなきゃならんのでね』
優羽と結楽の声が聞こえ、土埃の中から曄雅が飛び下がってきた。
『足いてー……』
『馬鹿のやることだよね』
『折れたかも』
『曄雅ほんとに機嫌いいね』
『折れてないわ』
『知ってる』
噛み合ってるのか合ってないのか、筋は通っても会話としてはおかしい三人の会話に皆がクスクスと笑っているといきなりホラー映画もびっくり、カメラの目の前に顔の半分が口になった界魔が飛び付いてきた。
たぶん優羽の手だろう。眉間に銃口が当たり、こめかみから結楽の弾とともに交差するように発砲した。
曄雅が界魔を蹴り飛ばす。
『終わり終わり。結楽焼肉行こう』
『寝ろよ』
『やーだー』
『仕方ない。結楽、これ持っといて』
カメラマンが優羽から結楽に変わり、既に金髪に赤や青のメッシュが入った優羽と比較的髪が短めの曄雅が映った。月明かりのせいか、曄雅の顔色があまり良くは見えない。
結楽の小さな笑い声が聞こえる。
『痛いッ! 何!?』
『寝ろチビ。お前が重症化するとこっちに迷惑がかかる』
『退け元ヤン』
珍しく優羽にねじ伏せられた曄雅は優羽の首根っこを掴むと、後ろに引っ張りながら片手を地面に突いて足を上に振り上げた。
片手逆立ち状態から戻る。
『さ、寝よ』
『痛い……』
『そりゃそうなるよ。前みたいに蹴り飛ばされなくてよかったね。顔が唯一の取り柄なんだから』
『ちょっと結楽、ただでさえ回転率悪い頭がさらにアホになったんじゃない』
『あ? 脳みそないくせに喋んじゃねぇよ』
『あ動画止めていいよ』
『はーい』
なんなんだろうこの二人の二面性と言うか、明らかに異なる人格が喋っているのは。
「優羽、今の動画意味あった?」
「見たかった」
「消せ」
「写真も動画も嫌いじゃないでしょ、別に」
「見たら見た分だけ嗤ってくる奴がいるんでな」
「クズだね」
「本人いる」
「クズじゃん」
優羽はまた動画をスワイプすると、どこか開けた土地が映った動画を再生し始めた。
『残り十三。結楽、出たら殺って』
『了解』
開けた土地の周囲に木や石が立っており、曄雅は一度も地面に足を着くことなく対角線上に飛び回り界魔を殺していく。
その円から逃げようとした奴や、曄雅の背後を取ろうとした奴のみ結楽が撃ち殺している。
「この時が一番早かったっちゃ早かったね」
「早かったけど動きが雑いんだよ。質か速さか。速さの平均的に言えばたぶん未優の方が速い」
「でも曄雅も使い分けてたじゃん」
「当たり前。界魔なんか一体一体違うんだし」
「さっすが曄雅少年!」
「黙れ」
「怖」




