17.関西へ
二日の昼間、空港組、新幹線組に別れて車で移動する。
未優は日蔓と離れて不安そうにするかと思いきや、意外とけろっとしている。
駅に着き、切符を買ってから線蓮はマスクをつけた。目立つ二人が一緒にいちゃいけないんだよ。
視界が悪くなるからと帽子を被らなくなってからというもの、とにかく視線が増えた。
幼い頃はその視線に気付かず、思春期はその視線を利用して、反抗期はなかったが高校卒業頃になると飽きて帽子を被るようになった。
危機感が高くなった今は被らずマスクでしのいでいる。
「未優、四時間座りっぱなしじゃが大丈夫か?」
「四時間……」
「ドラマ映画二本分」
「椅子硬い?」
「いや? 飛行機とほぼ一緒」
「じゃあ大丈夫」
未優は寒い中アイスモナカをかじり、線蓮はそれを写真に撮った。
実家で疲れた曄雅の癒しに送ってあげよう。既読付いた瞬間に消して曄雅の返信眺めよう。考えただけでにやける。
「そろそろ行くぞ」
「線蓮さんって身長高いね」
「まぁな」
「トンカチとどっちが高い?」
「わしの方がちと高いな。そんな変わらんが」
未優はアイスの袋を捨てると少し顔の遠い保護者と手を繋ぎながらキャリーケースを引き、改札をくぐる。
そう言えば静璐が大きな黒いスーツケースを買っていたが、いつ買ったんだろうか。ネットだろうな。長期の予定も常に急なので店頭かも。
そんなことを考えながらスマホで映画を見ていた四時間半、ようやく兵庫に着いた。
駅のお土産売り場で買ったロールケーキを丸かじりする未優と手を繋ぎ、駅の中で少しスマホをいじる。
ラムネのケースは足元に。
「線蓮さんって友達いる?」
「ほぼ界館の中だけ。あでも知り合いが多いからしばらく関西弁になるから」
「……気持ち悪い」
「我慢しろ」
また未優の写真を撮ると今度は電車に。
乗り継がなくてもJR一本で行ける、駅近のオートロックマンション。
カードキーで扉を開け、中に入った。
未優は物珍しそう。
「おぉ、なんにもない」
「大方向こうに持ってったし。ちょっと待っとって」
線蓮はリビングに未優を待たせると自室唯一の棚から鍵を取った。
必要なものを諸々取り、ラムネの入ったペットバッグを持って未優に声をかける。
「未優、まだ動けるか?」
「うん」
「荷物置いといていいから軽装で出かけるぞ」
関西弁になると言っても、界館の皆の前では老人語にするよう癖付けていたし時たま神戸弁が出るのも無意識。意識して直るようなもんじゃない。
まぁ、関西弁と話せば直るか。
「線蓮さんロールケーキなくなった」
「また買うか」
「クレープがいい」
「じゃあクレープ屋探して」
駅を出てクレープ屋を探し、クレープを二本買ってからまた電車に乗った。クレープは全部未優の腹の中。
一応自分で律することはできるらしい。ただ、未優を知る傍から見ても明らかに食べすぎだったり食事、野菜を疎かにするようなら泣かせながらでも食わせろ、と。
日蔓ももう本家に着いたようで、今はさっそく歴史書をひっくり返していたらしい。
歴史的には他の家よりは若いが、明らかに他とは違う歴史があるのでたぶん有益な情報が手に入る、と。
「線蓮さん、駅着いた」
「……もう大丈夫か?」
「まだ食べたい」
「大丈夫やな」
ゴミを捨て、二人で今度はバスに乗った。
バスは初めてなようできょろきょろと見回している。酔わないといいが。
人の乗り降りがなくなってもさらに奥に進み、かなり山奥に来てから降りた。
「未優、大丈夫か?」
「うん。人いなかったし」
「足は? 立ちっぱが多いが」
「変に動かさなかったらそんな使えなくなることないよ。立ちっぱなしでも大丈夫」
「ならいいが。山登るぞ?」
「登山?」
「けものみち」
二人で山の中に入り、本当のけものみちを進む。
所々木に錆びた釘で藁人形が打ち込んであるのはなんなんだろう。
錆びた釘の藁人形、線蓮の名前が書かれた木の板が何かで傷付けられていたり、首吊り人形が吊り下がっていたり。怖い。
「線蓮さん、ここ何?」
「わしが元々住んでた家じゃ。祖父の持ち山。もうわしの名義に代わったが」
「この藁人形とか吊るされた人形は? 藁人形って呪うやつでしょ」
「よく知っとるな」
「ホラー映画で見た。藁人形に名前書いた紙と髪の毛一緒に入れるか、名前書いた紙切れに相手の血付けて藁人形の中に入れて釘で打ったら紙の名前の人が死ぬってやつ」
「ホラー映画いける派か」
「日本語だったらなんでも見れる」
すごい。でも絶対日蔓の前では見ないであげてほしい。たぶん怖がる。
二人並んで歩ける道じゃないので線蓮が先頭で歩いていると、未優が袖を掴んできた。珍しく素手で自ら手を握ってくる。
普段は差し出すだけで握り返すことはないのだが。
「怖いか」
「なんか……ちょっと」
「別に怪奇現象も起こらんし人形もただの気晴らしにすぎん。ここもいい加減掃除した方がいいんじゃろうが……」
なんてことを言っていると、ようやく家が見えてきた。
線蓮次聡が五歳から十七歳まで、親元を離れ祖父の郷真とすごした古民家。
決して大きくはないが、もう何百年も前に建てられた家なので逆に頑丈。何回も震度五前後の地震に襲われているが地震で怪我をしたことはない。
「誰かいるね」
「不法侵入者か」
別に警察に頼らなくても山から突き落とせば見つかるのは何年先か。
なんて思っていたら、家の裏から出てきたのは予想外の人物だった。
「久しぶりやの、次聡」
「誰やお前」




