表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
106/155

16.お年玉

紅音(あかね)、おじいちゃん農園畳んだの?」

「そうなの?」

「そうなの」



 またまたすごい会話が丁字兄妹から聞こえ、暇を持て余していた数人が反応した。



「ほら、名義変えたって」

碧生(あおい)?」

「共有」

「好きに使っていいよ。爆発させても被害ないし」

「死ねって?」

「実験しろってこと」

「だよね」



 丁字ははがきをペラペラと揺らし、線蓮に声をかけた。



「専務さん、山いる?」

「いらん。持っとる」

「日蔓」

「持ってる」

「……西木(せいもく)さぁん」

「俺も共有であるわ」


 なんなんだこの土地持ち組は。



 日蔓は線蓮と未優の間で寝転がってタブレットをいじり、線蓮は座ってパソコンに向かい、西木は二人の向かいで書類仕事。ちなみに未優と静璐は勉強中。



次聡(じそう)お前山持ってんの?」

「完全放置じゃがな」

「旅館建てろよ」

「イノシシ出るし」

「界魔知ってると自然を保ったままなんか作んのがムズいんだよ。水も氷もガラスも駄目だから」


 日蔓は起き上がると線蓮にタブレットを渡し、線蓮はそれを受け取り中を確認する。



 皇雪は仕事に飽きたのかずっと休憩モードだ。



「どこに持ってんの?」

「曄雅、打ち間違い」

「原文通り」

「誤字?」

「たぶん表記の差だと思う」



 二人で皇雪の話を無視して、タブレットと資料を見比べる。





 未優と静璐が誘拐されたのとほぼ同時期、帰省中に子供界魔に誘拐された技術屋がいた。既に界魔によって殺されているが、部屋を整理していた家族から誘拐期間の日記が見つかったと現物を渡されたのだ。

 若いまだ高校生、大学生ほどの女の子。界魔に見つからないようにか、肌身離さず持っていたネタ帳の端に細事書いてあったらしい。


 コピーして現物は返し、コピーをファイルに挟んで持ってきている。



 今はそれを日蔓が書き起こしているところ。


 フルーツの味や匂い、出入りしていた界魔の特徴や数、道具の諸々。そして、日々変化していく自分の体。

 おかしな味のフルーツを食べた分だけ体がおかしくなる。肉や野菜は向こうと同じもの、鮮度が悪いのでたぶん盗ったものを。

 フルーツだけ、鮮度も何もない置物のようなフルーツ。


 部屋は木、時々見えた扉の外の広間のような場所には至るところに鏡。内側からは鏡の外の景色がよく見えたらしい。

 この辺りは未優と静璐では分からない情報だったのでありがたい。




「……裏が弱いな」

「誰か塔界(とうかい)屋の連絡先知ってる人」


 こういう時に頼りになるのは。



 日蔓は聞くのに挙手した手を勉強に集中していた静璐の肩に置いた。



「静璐」

「はい?」

「塔界屋の誰か連絡先知ってる?」

「何人か」

「さすがコミュ力おばけ」

「なんすかおばけって」


 日蔓は掴んでくる線蓮の腕を蹴り飛ばし、未優を越えて静璐のスマホを覗き込んだ。



(うつ)知ってるんだ?」

「はい。よくご飯行きます」

「珍しい人が多いね」

「皆いい人っすけどね?」


 塔界屋の曲者から医療屋の引きこもりから技術屋の重役から、なんでそこ関わりあんのとツッコミたい連絡先が多々。本当に多々。



苺米(まいべい)とも交換してるし……」

「お前マジか!」

「あいつ連絡先持ってたんだ」

「番号教えて」

「番号非公開っすよ」

「……紹介しといて」

「あ、はい」


 西木と白梅は身を乗り出し、物珍しさに皆が集まってきた。日蔓はそれを虫でも払うかのように追い払う。



「鬱にかけて」

「はい」

「日蔓重い……」

「ごめんごめん」


 未優にのしかかっていた日蔓は体勢を変えると未優の後ろに座った。



 何回かのコールが鳴ったあと、通話画面に切り替わった。スピーカーで静璐が話しかける。



「もしもし、鬱さん?」

『おー俺の電話には出ないくせにそっちからかけて来るか。どしたー』

「すみませんって」

『おじさんのだる絡みよ』

「やめた方がいいっすよ」

『おじさんの楽しみ取るなよ。で、どした』

「日蔓さんが用あるみたいで」

「うつー」

尊音(たかね)か』

「だる絡みやめろって言われたろ」

『取るなって……』



 どうやらそこも面識あったようだ。なんで自分でかけない。



『お前部下にアポ頼るなよなぁ』

「鬱のスマホ壊れてから連絡できてないじゃん」

『……そだっけか。俺の方からお前のに送るわ』

「いや僕のも変わってるよ」

『静璐!』

「音割れ」



 少し他愛もない話をしたあと、本題に移った。


「ちょっと界魔に確認してほしいことがあるんだけどさ」

『ちょっと俺今実家……!』

「……鬱の親生きてたっけ?」

『目の前でお守り作ってるわ』

「家神社だもんねー」


 あそうなの。


「違うけどな」



 静璐は二人の雑な会話に目を丸くし、聞いていた未優は小さく笑った。


『なんだ三班お揃いで。瞳星(どうせい)さんは?』

「そっちが尊音と一緒。そんなことより、実家福井でしょ? 確認しといてほしい資料あるから確認しといて。支配人のこと以外なら静璐以外にも話すんでしょ」

『お前自分で来いよ』

「僕熊本出て二日、三日富山行くから遅くなる」

『帰ってこい重役……!』

「お前が帰れ管理職」

『俺四日まで休みだし』

「今日一日でしょ。二日の昼に帰って夜には確認できるし三日の朝には資料できるね。おっけー」

『はぁ!?』

「じゃ、よろしく」



 日蔓はそう言うと勝手に電話を切った。


 静璐はなんとも言えなさそうな顔をして、でもそんな顔より静璐の奥に座る日蔓家の顔が気になる。


「何」

「曄雅……お前帰ってくるのか?」

「帰るっつーか資料確認。尊音と一緒にサボったツケが回ってきてさー」

「曄雅……当主に……」

「なるわけないじゃん頭腐ってんの?」



 日蔓は先代当主を鼻で笑うと、元の場所に戻って線蓮とまた仕事の話を始めた。


 しかし、すぐに未優が日蔓の袖を掴む。



「どうしたの」

「私も富山?」

「駄目。丁字、界館戻る?」

「うん。実家顔出す前に荷物置きに」

「じゃ丁字達と先帰って」


 未優の頭に手を置き、別に問題ないと思いながらタブレットにまた視線を戻すと。

 線蓮に未優の方へ顔を向けられ、見ると至極嫌そうな顔をしていた。



「……丁字嫌われたんじゃない」


 未優の頭を撫でながら兄妹を見れば二人揃って互いをさして「こいつのせい」。



「別に静璐と二人でもいいけど」

「えー……」

「えー……?」


 微妙な反応をする未優に日蔓も困っていると、こたつからラムネが飛び出してきた。

 どこかへ飛び出していく。



「……なんなんだあの猫」

「あ」


 時間を見た線蓮が猫用の皿を用意していると、ラムネが自ら餌の入った袋を咥えて戻ってきた。




「その猫偉いなぁ」

「天災の猫ってそんな知恵もあるんですか」


 ドッペル兄弟がそっくりな体勢でラムネを見下ろした。


「単純なことならだいたいできる。カラス以上の知恵はあるな」

「へぇ」

「未優、餌やるか」

「やる」



 未優はこたつの呪縛から抜けると皿に入った餌にがっつくラムネの前でおやつを一本取り出した。

 さっそく反応するラムネの前で封を開け、右に左に動かす。



「未優はラムネ好きだねー」

「人より簡単だよ」

「そりゃ何より。で、東京誰と帰る?」


 黙り込んだ未優の代わりに線蓮が口を開く。


「曄雅は富山出るの何日じゃ」

「んー……でも七日まで間には帰るけどね」

「仕事始まるからな」

「休みなんてねぇんだよ」

「そもそもここ何日に出る?」

「今日の夜。会議終わったし」

「嘘じゃろ」

「こっちが言いてぇよ。わざわざ九州まで来て東京にいるメンバーでさぁ……」



 明日の昼に出て飛行機で富山まで、七日に新幹線で東京。


「なら未優は預かるぞ。ラムネも懐いとるし」

「東京でしょ」

「いや兵庫に用がある。まぁ七日までには未優連れ回しながら適当に帰ると思うが」

「帰ってこなきゃ困る」

「未優、一緒に来るじゃろ」


 線蓮に聞かれた未優は一度ラムネを見下ろしてからまた視線を戻した。


「どこ?」

「関西。えーと……ま東京よりは美味しい店が多いな」

「前から思ってたが次聡(じそう)お前地元愛すごいな」

「生まれも育ちも関西なもんでな」

「東京の方が長いだろ」

「黙れ引きこもり。一生関西で生きたかったわ」

「なんで俺罵倒された……!?」


 皇雪は黙々と仕事をこなす鬼燈にもたれかかり、鬼燈が倒れたことにより隣にいた日蔓ドッペル兄弟も白梅三兄妹も倒れた。見事なドミノ倒し。

 で元凶の専務はしれっと仕事に戻ると。



「線蓮って素は関西弁でしょ」

「さぁ? 未優、来るか?」

「奢り?」

「仕方ない。お年玉代わりじゃ」

「お年玉って何」

「曄雅!」

「そうよお年玉あげてないわ! 未成年! と言うか未優ちゃんと静璐君!」



 曄乃(あきの)は突如としてそんなことを言い始め、準備していたらしいお年玉用の封筒に一人何千円かずつ徴収し始めた。

 曄乃と真統(ますみ)の二大巨頭で半強制で回収し、最後に二人から圧をかけられた日蔓は寝転がったまま財布に手を伸ばした。


「現金あるかなー……」

「日蔓さん……止めてくださいよ……」

「貰っときなー? 九州まで無駄足だった慰謝料だよ。僕の部下なんだから一人一万でも足りないね」

「ねぇ線蓮さんお年玉って何? なんでお金?」

「あ、ちょうど万札入ってたー」


 この人が一番楽しそう。



 万札を四枚取り出した日蔓はそれを高く掲げ、静璐の方に渡した。


「未優は中学生だから三万」

「貴方どんだけ現金持ってるのよ」

「未優のケーキ買うのにスマホ決済対応してなかったらATM遠いかなと思って。スリとひったくりは海外で対応学んでるんで」



 分厚くなった封筒を未優はわけが分からないまま、静璐は嫌々ながらに受け取った。


 静璐はそのまま土下座の形で日蔓に返す。



「仕事してるんで」

「クソ真面目。未優も、あとで口座入れるから貸して」

「曄雅」

「僕子供のお金を盗むほど金に困ってないし」


 まぁよく聞くけど実際盗まれたことはない。生まれた頃から口座あったし。




 日蔓が二人から封筒を受け取ると、即座に線蓮が未優のを抜き取った。


「じゃ旅行経費で」

「可哀想!」

「じゃあ静璐は俺とな」

「は!?」


 そう言って静璐の封筒を取ったのは仕事が終わったらしい鬼燈で、日蔓が唖然とする間に静璐を引きずって部屋を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ