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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
105/155

15.仕事

 新年の朝、線蓮はもう無に返った日蔓を膝に乗せて抱え、それを日蔓両親はなんとも言えなさそうな顔で見ている。この人よく親の前でこんなんできるな。初対面だろうに。



「皆さん、年賀状届きましたよ」



 真統(ますみ)はそう言うと机にかなりの量ある年賀状の山を置いた。まぁ、多くは丁字兄妹に。



「界館の管理官が皆さんの年賀状を特急で届けてくれたみたいです。丁字さん達にだけだと申し訳ないからって」

「あ、きたきた」



 丁字は妹の方へ寄ると何かを確認するようにはがきを見比べる。


 日蔓の隣に座っていた未優は隣から日蔓の年賀状を覗き込んだ。



「正月の挨拶のやつ?」

「そう。……あ、ほら。これ僕と未優宛。翠狼(すいろう)だね」

「二人?」

「同居人とかには二人で一枚とかが多いんだよ。せい……ちょっと線蓮手邪魔。静璐には一人で一枚で……結構来てるね」

「知り合ったばっかりの方とか仕事先で仲良くなった方とかが多いっす」


 静璐もかなりの数。


 はがきを奪い取ろうとする線蓮の横腹を肘で殴り、日蔓未優宛のはがきを未優に渡した。初めてのことなので嬉しそう。


 そもそも知り合いは皆界館という箱の中にいるので、そう言う意味での知り合いからの年賀状は滅多に来ない。来てるのも翠狼、優羽(やう)尊音(たかね)から。



「……曄雅って案外友達多いな」

「友達っつーか滋賀支部の人が多い。訓練で久しぶりに会ったし社交辞令だな。重い邪魔ッ!」

「線蓮さんにも。……ご兄弟?」

「え兄弟?」


 線蓮が目を丸くしながらそれを受け取ると、後ろには久しく見ていなかった名前があった。


 日蔓の後ろから腕を伸ばして机に置くと差出人の名前を隠したまま自分の名前を修正ペンで消すと折って捨てる。



「あ捨てた」

「誰から?」

「そういや昨日鬼燈の誕生日じゃったな」

「そうだっけ?」

「……そうだわ」

「てことは俺の誕生日でもあるのか」


 鬼燈と皇雪の誕生日は同じだ。昨日。



「ちょっと電話してくる」

「俺も」



 専務二人は部屋を出ていき、その間に真統が二度合掌した。



「さ! それじゃあおせちの前にこたつ出しましょう」

「え、今……」

「失礼よ曄雅。うちの家もそうだったでしょ」

「本家にこたつないじゃん」

「あらあるわよ? 毎年おせち終わったあとに出してるもの」

「貴方おせち終わったらすぐ帰ってたから知らないんでしょ」

「覚えてねー……」








 こたつが出て、こたつ初体験の静璐と未優が感動しているとずっとゲージで寝ていたラムネが爪をゲージに引っかけ騒ぎ出した。


 出せと鳴き喚く。



「おい飼い主」

「取って……」

「開けますよ?」

「鍵そこの中」


 ラムネは人間に近しい頭を持っているため、人間が片手で開けれるようなゲージは自分で開けてしまう。

 前は鍵、一応何かの時のために後ろに鏡は設置している。普段はフィルムが貼ってあって、いざとなれば自分で剥がして逃げ出せるように。



「ねこーはこーたつーでまーるくーなるー」

「未優変なリズムやめて」

「ねぇ専務さん今話せる?」

「なんじゃ」

「予算のこと。いとこが企業成功したから支援金を……」



 線蓮と丁字は後ろで支援金、日蔓はおせちが準備され始めた机でノートパソコンと向き合っている。

 他の皆も黙々と仕事をする中、未優と静璐はこたつで丸くなるラムネの背を撫でている。ラムネは温かいところで撫でてもらって至極至福そう。




 数分して、おせちがそろそろ出揃うとなった頃曄乃(あきの)が勢いよく立ち上がった。



「さぁ! 四家はお屠蘇の時間よ。曄雅、貴方は出なさい」

「嫌です」

「駄目よ。新年の挨拶はやらなくていいから」

「やだよ面倒臭い。何言われるか分かったもんじゃない」

「今の貴方なら大丈夫よ。私もいるから」

「この人が離さないんで無理でーす」



 日蔓は線蓮にもたれ、線蓮はすかさずスマホを構えると自撮りの体勢でピースする日蔓を撮った。久しぶりの甘え状態の日蔓に線蓮大興奮。手の甲つねられてるのも忘れそう。



「まぁ、いいじゃないですか曄乃さん。ここで喧嘩になっても怪我人が増えるだけですし……」

「そんなことより私曄雅の着物が見たいのよ」

「それは私も見たいんですがね」

「え、それは俺が嫌だ」



 しょんぼりする女二人を前当主が連れていき、お屠蘇がない丁字兄妹、専務三人二人不在、三班、西木の計七人は先にお吸い物を食べ始めた。


 未優もほぼ出汁のお吸い物なら食べれている。たぶんおせちは無理。



「ねぇちょっと腕退かして」

「嫌じゃ逃げるじゃろ」

「食べにくい。お前の顔面にかけるぞ」


 こっわ。



 日蔓は線蓮を西木の方へ退かすと未優と線蓮の間に座った。右に未優、丁字、静璐、丁字妹がいる。丁字兄妹が並んで座るとどっちがどっちか分からず声がかかられないのだ。揃って同じ白ティー着ないでほしい。せめて白と黒であれ。



「おせちって種類多いね」

「未優食べれるかな」

「食べれないの?」

「味濃かったりするからさ」



 少し凹む未優に、また帰ってから作ろうねと話しているといきなり皆のスマホが鳴り出した。七時。



「この時間は鳴るよねー。静璐はかけてないの?」

「俺最近のアラーム全部四時半っすね」

「あそっか。ずっと参加してるもんね」



 さすがに家の人がいないのにおせちに手をつけるわけにもいかず、皆箸を置くと各々仕事を始めた。

 未優と静璐は報告書作り。日蔓と線蓮と丁字で丸になって集まり、本格的な仕事の話を始めた。



 報告書を書き終わった未優はタブレットを机に置くとこたつの中を覗き込む。



「線蓮さん、ラムネ大丈夫?」

「寝とるか」

「うん」



 未優はこたつに潜るとラムネを引っ張り出し、線蓮はラムネを抱き上げた。ちょっとまずい。



「静璐、濡れタオル」

「はい」

「猫って案外馬鹿だね」

「所詮猫じゃからな」



 熱中症になりかけているラムネを、常温でも冷たい濡れタオルに包んだ。

 皿に水を入れて前に置くと、それをよろよろと飲み始める。



「……話に戻ろう。月の支援金が何百万か増えるなら上の給料削れば相当余裕ができる。ウェア開発と新武器開発に資金の半分を当てるとして……」

「西木、この資料って……」



 西木もそれに参加し、四人で仕事の話をする間未優はラムネの背を撫でる。ちょっと寒そうだが自業自得か。





 しばらくして、静璐と未優が新ウェアのデザイン人形として使われながら仕事の話が進んでいると襖が開いた。


 丁字に胴を計られていた未優と、皆も顔を上げる。



「何しとん」

「仕事」

「先に食えや」

「礼儀があるもんでね」



 日蔓家に続いて皆も戻ってきて、席に着いたものから順に食事を始めた。未優も静璐も武器開発に参加して食事はそっちのけ。



「……でここ押したらバン」

「支配人並みに硬いのに吹き飛ぶの? 吹き飛んだとして威力弱まらない?」

「それは腕の見せどころ。二段階爆発で側を壊してから内を爆発させたい。相当の火薬が必要だけど、火薬に関しては七竈(しちくど)さんが腐るほど持ってるしもう使わなくなった手榴弾も解体できる」

「一ついくらかかる。作れるのも丁字だけじゃろ」

「いや、たぶん何人か作れるよ。一人二つ、それぞれの手の形にあったものを作りたい」

「あったものねぇ」

「そのために紅音(手フェチ)がいる」


 なるほどな。足には足フェチ、手には手フェチ、か。




 日蔓はスマホをいじると、礼焃に未優をどこかへ連れていけと連絡した。どうせ今日でケーキ二ホールは消化するだろうし、ちょうどいい。



「よ、曄雅、未優ちゃんに難しい話して大丈夫なの?」

「……未優、糖分は?」

「トンカチ」

「ケーキ作っておいで」

「えちょ……ちゃんと」

「未優さんケーキにはぜひプレートを!」

「を!」


 丁字は一瞬困ったような目を日蔓に向けたが、日蔓に何か考えがあると汲み取ったのか言葉を変えた。いや変える前に妹に乗っ取られたが。



「抹茶のケーキにして」

「抹茶……」

「お抹茶粉はあるけど、生クリームとかフルーツ買いに行かないと。曄雅、ケーキのレシピは?」

「未優の頭にある。未優、ケーキに入れたいもの書き出して。二つ作らないと駄目だよ」

「はぁい」



 礼焃は未優をキッチンに連れていき、日蔓は静璐の肩に手を置いた。


「静璐もどっか行ってて」

「俺もっすか!」

「支配人に見られてんだよ」

「……あぁ」

「未優はストレスかかりやすいから気逸らすけど。静璐は大丈夫でしょ。全部支配人のせいなんだがら」

「屋敷内にはいた方がいいっすか」

「なるべく声聞こえるところで。あと専務ダブル呼んできて」

「あ、はい」



 出ていく静璐を見送り、念の為日蔓も立ち上がった。



「日蔓抜けたらまずいよ!?」

「線蓮のパソコンに要項諸々と欲しそうな情報入れたから。ちょっと電話してくる」

「何分?」

「お前が死ぬまで」





 支配人に目を付けられている三人がいなくなったが、日蔓の話し合い要項が開かれ、専務二人が帰ってきたことで話し合いはさらに真剣なものになり始めた。

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