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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
104/155

14.お守り

「ドッペル兄弟!」



 なんて呼び名だと言う前に、ドッペル兄弟が反応した。


 霖弦(りんげん)晴縺(せいれん)が顔をしかめる。



「その呼び方やめろや」

「あっちの方がドッペルゲンガーらしいだろ」

「どうでもいい。あの界魔鏡瞳で潰せ」

「何体?」

「大群」

「数分からんと俺無理やで」

「はーつっかえ」




 日蔓は溜め息をつきながら素早くスマホを操作して緊急通知から電話をかけた。


「優羽」

『見えた?』

「数と位置」



 スマホをスピーカーにして、少し音を小さくした。


『マネージャーはもう向かってるよ。どこいる?』

「阿蘇神社手水舎付近。拝殿正面の十時辺り」

『数千二百飛んで八。約三キロ』

「だって」

「範囲は」

「お前らの鏡瞳めんどくせぇな」

『出たドッペルバク頭』

「黙れゾンビ」



 範囲がたこ型と分かると、ドッペル兄弟は少し開けた場所に移動した。






 常にいがみ合う二人だがこれでも双子の兄弟。

 目を瞑って神経を尖らせ、胸の前遠くで合掌した指先に力を込めた。


 息を長く吐き、吸うと同時に目を開けて鏡瞳を開く。瞬間、大量の飛蝗が爆散すると同時に下に叩き付けられるように落ちていった。



「……お前ちょっと早くない」

「晴縺が遅いだけやろ。合わせろや」

「遅い方が早い方に合わせられるわけないだろ」

「自分で能無しって言ってんのと同じやぞ」

「お前の考えが足りないって言ってんだよ」

「あ?」

「文句ある?」



  すぐにパトカーのサイレンが聞こえ、参拝客がざわめき出した。



「なんかいつかの正月を思い出す」

「なんですか?」

「界魔七体出た時じゃろ。師匠が一体やったけど」

「んー正確には数十体? 一種類は数で押してきたし」


 日蔓は寒いのか日蔓の手で暖を取ろうとする未優の両手を掴む。

 静璐は相当驚いたようで、日蔓と線蓮を交互に見るがお前未優と二人で一日十数体倒すだろ。



「……日蔓さんの班って一番強かったんですよね。もう一人は……」

「作戦担当の優羽と狙撃役、それと近距離の僕。まぁ良くも悪くもバランスが取れた班だったね」

「狙撃……」

「丁字兄も狙撃担当だったんだよ。優羽は遠距離と近距離を繋ぐ通信役。馬鹿だけど頭の回転が早い優羽と石頭の頭脳担当と脳筋でいい感じだったの」

「狙撃ってできるんですか? 法律面でも技術面でも……」


 法律に関しては社員証と身分証見せたらだいたいどうにかなる。今も日蔓は拳銃と違法の短剣を持っているが証明書を見せたら問題ない。



「技術に関しては……」

「元白梅課一班の三人は奇跡的に稀代の天才が揃った班だったんだよ」

「優羽の無茶苦茶な作戦とその作戦を実行できる曄雅さん」

「それを何キロ先からかあらゆる銃を使いこなして援護する結楽(けいらく)。中でも結楽の射撃はかのシモ・ヘイヘをも超えると謳われてる」

「撃てば百発百中。三キロ先から二センチの爆弾スイッチを撃ったこともあるらしい」



 日蔓にのしかかった西木と誰かの熱い語りに面食らう。



「だ、誰……?」

天葵(てんぎ)蒼灯(そうとう)守明(もりあ)のお兄ちゃんだよ」

「弟がお世話になってます!」

「あ、いやこちらこそ」

「ずーっと話してみたいと思ってたんだけど曄雅さんの護衛が怖くてさぁ。俺曄雅さんには逆らえないから、よろしく」

「何したんすか日蔓さん」

「ちょーっと説教しただけだよ」

「曄雅さんが鏡瞳使えない時に出来損ないってからかったら半殺しにされた」

「やられたら殺り返すがモットーでね。邪魔」

「すみません」








 初詣に来たのに参拝はできず、皆が帰りどこ寄るか話し合っている間に日蔓はお札を一枚とお守りを三つ買った。

 全部厄除け。



「日蔓! お前奢れ」

「どこ?」

「居酒屋。美味いところがあるらしい」

「断る。線蓮の方が金持ちでしょ」

「わし散財癖直ってない」

「何に使うんそんな」



 日蔓は皇雪と線蓮と話しながら輪の外で待っていた静璐と未優にお守りを一つずつ渡した。


 それを告げる前に皇雪に大人の輪の中に無理やり入れられる。




「……なにこれ」

「お守りっすね。厄除けの」

「……なにこれ」

「中に神様が宿ってんだよ。開けたら神様いなくなるから駄目だぞ」

「意味あんの?」

「お守りが壊れたりしたら自分の代わりに壊れてくれたってこと。まぁ怪我を代わってくれたって感じだな」

「それ日本人形じゃないっすか?」

「あれそうだっけ?」


 守明と静璐で首を傾げながら話していると、未優はお守りを指にかけて月明かりにかざした。黒い袋に金の糸で厄除御守と書いてある。なんて読むんだろうか。



 それをずっと考えていると、ふとお守りの中央にもやっとした淡い黄色の何かが見えた。


 何かと思って近付けると、それはすぐに消えてしまう。



「未優さん、どうしたの?」

「……これなんて読むの?」

厄除御守(やくよけみもり)じゃないの?」

厄除御守(やくよけみもり)だよ」

「普通に厄除御守(やくよけおまもり)じゃないんすか?」

厄除御守(やくよけおんもり)だろ」



 丁字兄妹と静璐と守明が言い合いを始めたのでこれじゃらちがあかないと、未優は我関せずのまま輪の外でスマホをいじっていた線蓮の袖を引いた。


「どうした?」

「これなんて読むの?」

「魔除けのお守りか。……未優はなんて習った?」

「覚えてない」

「あの四人はなんて言っとる」

「……厄除御守(やくよけおまもり)

「他は」

「……忘れた」

「じゃあ厄除御守でいいじゃろ」


 だって俺も正式な読み方分からんし。



 頷いた未優に体調不良になっていないかを確認していると、いきなり屈んでいた背中から丁字がのしかかってきた。


「未優さん! 読み方分かった?」

厄除御守(やくよけおまもり)だって!」

「お守りならどっかに付けないとね。付ける場所ある?」

「ない」

「普通は普段着るパーカーの内ポケットとか、財布に入れてる人もいるけど」

「カードケースとかキーケースに付けてる人もいるよね」

「いるいる」


 妹は未優の後ろから腕を回し、兄は線蓮の後ろから腕を回す。



「厄除けのお守りなら心臓に近いところにつけた方がいいとか言うがな。金運なら財布、恋愛運ならカードケースとか」

「へぇ」

「じゃあ兄さんが未優さんのパーカーにポケット付けないと」

「そうなると帰ってからになるよ。丈夫な素材が部屋にしかないから。ファスナーも糸も特殊なのになるし」

「帰ってから付けて。……しばらくかかる?」

「内ポケットぐらいなら半日もかからないよ」

「ポケットできるまで落とさないようにしないとね」


 妹の紅音(あかね)が未優の手を握りながらヘラヘラ笑っていると、どうやら話し終わっていたらしい大人たちが二度合掌した。



「話は終わったかな」

「線蓮、お前奢れよ」

「結局行くのか……」

「行く組と行かない組に別れることになった」

「行か……」

「二日酔いするやつは行かない。お前行かないだろ」

「……わし行くと酔った女子に足止めされるぞ」

「女の子なら大歓迎」

「ちなみに家庭持ち結構いるからな」



 手を振り上げて喜んだ蒼灯(そうとう)を長女第二子の恋空(こそら)が殴り、蒼灯は頭を押さえながら振り返った。男の家庭持ちが七人、手を挙げる。


「……結婚してんなら若い女に興味ないでしょ」

「興味があるから不倫が存在する」

「ちょっと未優さんの前でなんてこと言うの専務さん」

「お前は未優のなんなんじゃ……」

「日蔓に次ぐ教育係」

「任命した覚えない」

「よろしく」



 丁字は線蓮の急所()に手を当てながら日蔓にピースをした。


 紅音に耳を塞がれ、話に興味無さそうにお守りを見つめる未優を見下ろし胸を撫で下ろした。



「女の教育者もいるでしょ」

「男はこれ以上いらないかな。保護者と後見人がいるんで」

「駄目だよ。未優さんのアニメとドラマの話に付き合えないでしょ」

「未優そんな話するの」

「だって日蔓興味ないでしょ」

「じゃあ友人として」

「じゃそれで」



 全体的に話がある程度話がまとまったところで、また車に乗り込んだ。


 白梅三兄妹は無類の車、酒、掃除好きなので車も酒も乗らないほど飲みきらないほどある。

 あの馬鹿広い駐車場を三兄妹の車七代が占拠しているのだ。

 なお裏倉庫には酒樽、酒瓶、酒缶の山。

 屋敷の奥は掃除道具が家宝の如く並べられているらしい。



「未優、眠くない?」

「大丈夫。寒いけど」

「羽織りいる?」

「……効果ある?」

「結構温かいよ。袖も長いから手隠れるでしょ」


 自分の羽織りを未優に羽織らせ、未優はそれを切るとまだ温かい羽織りの袖を掴んだ。パーカーが恋しい。






 三台の車のうち、一台は居酒屋へ。二台は白梅家へ。もちろん線蓮は一台側へ。


 丁字兄妹は「知らん他人と飲むより不味い酒はない」とぶった斬って少人数、三班のみが乗っている車へ乗った。

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