デートの相談とおめかしと
ルミナスとアリューズの強制デートは、ルミナスの家族との話し合いの元、お芝居を見てから街中を散策、卒業制作で必要なものの買い出し、それとは別にアクセサリーや服を見て回る、などなど。
寝る間も惜しんで卒業制作の図面を作成していたことをアリューズが遠慮なく報告したものだから、レノオーラもミーシャも大激怒することになり、上記の予定が組まれてしまった。
「うぅ……」
「いやぁ、すごかったね!」
「アリューズ、確信犯でしょ」
む、と拗ねたような表情を浮かべるルミナスからの問い掛けに、満開の笑顔でアリューズは頷いてみせる。
「そりゃそうだよ。それに、こうでもしないとルミィは自分を労らないだろう?」
「うぐっ……」
まさに図星。
自分の休息よりも、やりたいことをついつい優先してしまうルミナスだから、こうでもしないと休憩なんか取らない。
婚約してからずっとルミナスを見守り続けてきたからこそ、アリューズは彼女の性格を熟知しており、あれやこれやと世話を焼いてくれるようになっている。
もちろん、これはアリアにも言えること。
アリアとルミナスは、まさに大親友、と呼べるくらいには仲が良くなっており、アリアに対してはルミナスも割と素直に甘えるようになっていた。……がこれをアリアはうまいこと利用して、ルミナスの睡眠不足情報何かを提供している。
そんなことに気が付いていないルミナスは、毎回あれこれアリューズに報告されているとも知らず、ついうっかり話してしまう、というわけだ。
もしかしたら気付いているかもしれない。だが、どうにもアリューズには素直に話せない一面だってあるのかもしれない。そういう時に頼れる同性の女友達ってとても強いよな、とアリューズはぼんやりと考えていた。
「アリューズ?」
「色々考えてた。とりあえずルミィ、今度のお休みに迎えに来るからね。ちゃんと準備しててね?」
「……うぅ、はぁい」
「その日はお休み!ルミィもきっちり休まないと、良い結果は得られないよ」
「うぐ……は、はい……」
重ね重ね、あれやこれやとアリューズの正論パンチがルミナスを殴りにかかる。
きちんと休んで、体調を万全にしてから作業に挑む。そうすれば休憩なしで作業をするよりも、効率は改善されるし、自分の意見もまとまりやすい。
「無理したのは私だし……ちゃんとデートします……」
「それもあるけどさ」
「?」
「ルミィと、きちんと二人きりでデートをしたいな、って思ったのは本当だよ?」
ずい、と顔が近付き、ルミナスの視界がアリューズの顔面で覆われる。
小さい頃から綺麗な顔立ちをしていたアリューズだから、今はとんでもなく端正な顔立ちになりイケメンになっているから、至近距離であまり直視をしたことがないルミナスにとっては、色んな意味でとても刺激が強い。
「……っ」
「大好きな婚約者さまは、皆の人気者なんだから……俺の気持ちもちょっとは汲んでね?」
「は、い……」
ばくばくと激しく鳴る心臓の音を聞きながらアリューズの顔に見惚れていると、鼻先がちょん、と触れた。
「ひゃ……」
「……ルミィ、あんまり煽らないでね。可愛すぎて困るから」
「あ、煽って、ない……」
「……全く」
あれ、とルミナスは改めてアリューズの顔を見る。
いつも冷静で、優しく見守ってくれる自分よりも大人に見えてしまうアリューズの顔が、ほんのりと赤くなっているような気がした。
「……照れてる?」
「……照れないと思った?」
お互いに質問し、少し間があってから笑い出す。
(……うん。この空気が、大好きなのかも。照れくさいけど)
笑い合いながら、ルミナスは改めて『この人が大好きなんだな』と思う。
最初から思いきって、色んなことに抗って正解だった。そう噛み締めながら、アリューズとのデートに何を着ていこうかと今から思いを馳せ始めたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「母様ー!!」
「まぁルミナス、どうしたの。勢い良く駆け込んできて……はしたないですよ」
レノオーラはめっ、と優しく注意をしてから、珍しく部屋に飛び込んできたルミナスに視線をやる。
ちょうど領地の視察の日程を組んでいたところだったから、一旦手を止めてルミナスに座るようにとソファーをすすめた。
「す、すみません……。でもあの母様、一大事なんです!」
「?」
「あの、アリューズとのデ、デートで、その」
「??」
はて、と首を傾げているレノオーラは、あわあわしているルミナスが可愛くて仕方ないのか、にこにこと微笑ましそうに見つめたまま、先を促す。
「何を、着ていったら……良い、でしょう、か!」
「まぁ!」
ルミナスが顔を真っ赤にして必死に問いかけた内容に、レノオーラは顔を輝かせる。
うちの子、悩みごとも何もかも可愛い!とレノオーラは内心大フィーバー状態で、いそいそとルミナスのところに歩み寄り、ぎゅう、と抱き締めた。
「んもう、いくらでも相談してちょうだいな!!」
「う、うぅ……その、たまには張り切りたくて……」
「髪型とかも可愛くしましょうね~!そうだ、お義母さまにもお伝えしなきゃ!」
(えらいことになりそうなんですが!?)
「ルミナス、どんな感じのスケジュールなの?母様に教えてくれる?」
「え、えぇっと……ですね」
まさかこんなにもレノオーラがノリノリになるとは思っておらず、あたふたしているルミナスをがっちり捕まえて『お義母さまー!!ルミナスがデートのお洋服の相談に来てくれましたわ~!』と大声でお知らせしたものだから、ミリィだけではなくメイド長なんかも走ってきてしまい、あっという間に取り囲まれてルミナスの部屋にて着せ替えタイムになってしまったのであった。
(……つか、れた……)
このワンピースはどうか、いやいやルミナスに合っているのはこっちの柄と色で、ちょっと待って今の流行りはこれが……等など。
普段、別にルミナスが着飾ったりしないわけではないが、自分が好きなものをテキパキと選んでしまうために着せ替えタイムを楽しめる機会は少ない。
だから、我先にとミリィを含めたメイドたちや、レノオーラにミーシャも、あれがこれが、と勧めてきてくれたのだ。
「……慣れてるからって自分でやりすぎたかな……」
そう、ルミナスは人生を繰り返し、今回は四回目。
自分に何が似合っているのか、どうやって着こなせば周囲が理解をしてくれたり褒めてくれるのかもしっかり熟知をしているから、あまり人にお願いすることがなかった。
「……頼って、良かったのね……」
些細なことでも、何でもかんでも自分でやってしまっていたから、『手のかからない子』だと思われていたことだろう。
だが、周りは『頼ってほしい』と思っていたのかもしれない……と考えると、少しだけ罪悪感が生まれたものの、頼っていいなら頼ってしまえ、と思いきることだってできる。
(……ここまできて、今更なのかもしれないけど……)
自室の姿見に映っている自身を見て、改めて決意をした。
(頼れるなら……頼ろう。母様も……父様も、アリューズやアリア、それに、おじいさまやおばあさまだって、皆居てくれるんだから!)
もうすぐで、いつも死んでしまっている年齢がやってくる。
おおよそ十八歳で死んで、繰り返している。だが、もう今回はそんな未来、まっぴらごめんだから抗えるだけ抗って、本来進むべき未来へと突き進んでやるんだ、とルミナスは改めて己に誓った。
(まぁその前に、今度のお休みはデートだけど!)
久しぶりに純粋なデートを楽しめる!と嬉しそうに微笑んだルミナスは、実家にいる兄へと報告の手紙を書いて、送ったのであった。




