007 粒あんとコシアン
壱与からの衝撃の告白を受けて意図しないノリツッコミになってしまった。 ヒューマノイドが食事なんて聞いたことがないぞ!
「私だって空腹時は食事くらい取ります。私を何だと思っているんですか?」
「いや、ヒューマノイドだろ!」
最近のヒューマノイドって食事するの!?
「私はヒューマノイド・オブザーバーですよ。人間の実態に近い体験をするために食事のタスクは当然想定されています」
むむむ、そうなのか?……壊れたりしないよな……?
「わ、分かった。食事は取ろう。ただ、戻ってやらなくちゃいけないことも多いから、ゆっくり時間は取れない。軽くでいいか?」
「仕方ありませんね。とんだブラック職場です」
口を尖らせ不満げだが、食事を取ることが楽しみのようだ。
◆
コア・セクター(一等地区)に戻る途中にあるレトロコンセプトの和風カフェテラス『 翡翠屋』。軽食等も取れるので、僕も外に出た時はたまに寄らせてもらう店だ。
「おおー! 雰囲気のあるお店ですね」
「ああ、古風な感じが良いよな」
店員さんに二名と告げると、奥の方の席に案内された。
「種類はあまり無いけど、結構美味いんだぜ。好き嫌いは大丈夫か?」
「はい、何でも食べられるように設計されてます」
ヒューマノイドらしい答えを聞き、注文をする。手早く食べられるメニューだ。
「お待たせ致しました。こちらご注文のお品になります」
すぐにメニューが運ばれ、壱与は目を輝かせている。頼んだ品は大きめのおにぎりと厚焼き玉子、おはぎ二つのセットだ。
「このギョクロという飲み物、熱いです!」
壱与は猫舌だった。
「少し冷ましてから飲めよ。早速食べようぜ」
おにぎりに齧り付くと、壱与はゆっくりと咀嚼をしながら味わうように飲み込んだ。
「こういうのでいいんですよ。こういうので」
やめろ! 中年のおじさんみたいなことを言うな!
おにぎりを食べながらお茶を啜り、食事が進んでいく。本当に食べてるんだな……。 壱与曰く、内臓されている有機物分解装置により微量のエネルギーに変換されるらしい。
「この、おはぎというものは二つ、見た目が違いますが、どうしてですか?」
「ああ、粒あんとこしあんだな。味はそんなに変わらないよ、食感が違うんだ」
説明すると、早速粒あんのおはぎから箸をつけた。
「むぅ、味は甘くて美味しいですけど、粒々が味覚センサーを阻害して楽しめませんね」
今ひとつお気に召さなかったようだが、続けてこしあんのおはぎを口に運ぶと――
「……っ!」
咀嚼を止め、目を見開く。 頬には赤みが差し、徐々に表情が緩んでいく。 思い出したかのようにゆっくりと、たっぷり味わいながら咀嚼をして喉を鳴らす。 壱与は恍惚の表情を浮かべながら、
「しゅごい……」
しゅごかったらしい……。いや、粒あんの時と全然反応違うじゃん!?
「マスター! 何ですか、この食べ物は!? 全てのパケットがリカバリーされていくようです! 体中のナノマシンセルが歓び震えています!」
壱与は興奮しながらさらに続ける。
「ああ、この滑らかなテクスチャが舌に心地よく触り、程よい甘みを運んできてくれます。そして、弾力のあるお米とのケミストリーも濃密に絡み合い最高です! 最後に、口の中で余韻を楽しんだ後にギョクロのやさしい苦味で流し込む!! これこそが至高のマリアージュと言わずしてなんと言いましょう!」
ほっぺたにあんこをつけたまま、まるで舞台役者のような大袈裟な身振り手振りで演説をするように語った。そして――
「決めました! マスター、この『おはぎ』を私のソウルフードとします! もちろんこしあんで!!」
どうやら、こしあんのおはぎが壱与の魂を震わせたらしい。
「おぉ……喜んでもらえて良かったよ。そんなに気に入ったなら僕の分も食べるか?」
皿を差し出すと、さらに感激したように、
「いいんですか!? ありがとうございます! あっ、粒あんは結構ですので、マスターがお食べ下さい」
粒あんとの落差がスゴいな……。壱与は僕の皿からこしあんのおはぎだけを箸で掴み口に運んだ。 またその味に打ちひしがれて感動している。
「壱与、感動してるところ悪いが、そろそろ出よう。戻って報告書を作らないとまた来栖にどやされる」
「はい……マスター。ご馳走様でした。食事って素晴らしいですね。私はもうストレージがいっぱいです」
本気なのか冗談なのかよく分からない感想を聞いて、僕たちは庁舎へと帰路についた……。




