006 金印のプライス
相変わらずとんでもない登場の仕方を決めた少女に、僕は叫んだ。
「壱与! すぐに拘束しろ!」
突然目の前に降ってきた少女に対して体を硬直させたスコアレス。壱与はすかさず銃を持っている腕を掴み上へ向けさせる。続けて、小さな体躯を一歩踏み込ませて逆の腕で肘鉄を男の鳩尾に打ち込んだ。
男はその場に崩れ落ち悶絶している。 壱与は素早く後ろに回り込み両腕を抑え、スコアカフス(電磁手錠)のロックをかけた。
「完了です、マスター」
瞬殺かよ! 強すぎるだろ! えっ……? 壱与ってこんなに強かったのか?
「ああ、助かったよ……」
壱与がこちらに向かって歩いてくる。 壱与の瞳の色が赤く変化していた。 そして、体を一瞬、ふらつかせる。
「壱与!?」
「大丈夫です。異常は感知されていません。今、ジー・シグネットの起動を終了させました」
ジー・シグネット……マザーから受け取った自律演算装置だ。さっきの動きはあれのおかげか? 気が付けば、瞳の色が薄緑へと変わっていた。 起動の有無で瞳の色が変化するのか。
「本当に大丈夫なのか?」
「はい、感情処理システムの軽微な低下が認められますが、修復モードに移行しています。ボディへの直接的なフィードバックは認められません。立体機動による駆動部の負荷の蓄積をスキャン中です。予測では自己修復機能の範囲内です。今回取得出来たデータでは、ジー・シグネット起動中の同期接続時間に応じてマザーのアルゴリズムによるフィードバックが起きるようです。この解析結果を持ちまして、接続時間の最適化と……」
「いや、大丈夫じゃないじゃん!? 滅茶苦茶早口でしゃべってるよ! 異常感知されてるじゃん!」
思わずツッコんでしまったが、要は長い時間使うと反動が出てくるのか……。 あまり使わせたくはないな……。
「来栖、対象のスコアレスを制圧した。護送車を手配してくれ」
「了解。制圧完了ね。ご苦労様」
来栖に事後の処理を任せて、壱与を少し休ませる。
「マスター、マザーからのメッセージの受信を確認しました」
「えっ? 僕のところには来てないぞ」
「私の回線だけみたいです。読み上げます」
壱与はマザーと同じ声色で読み上げた。
『多少のイレギュラーはあったようだが、任務は終了したようだな。壱与のジー・シグネットの起動を確認した。多用は控えるように。以上だ』
壱与からマザーにそっくりな声が出ると妙な感じだ。 しかし、しっかり釘を刺されてしまったな。 マザーからしてもあまり無理はさせたくないのだろう。
その後、スコアレスが護送車に収容されるのを確認して僕たちも自分の車に乗り込んだ。
「落ち着いたか? 壱与」
「はい、ご心配おかけしました」
喋り方もいつも通りに戻り、一安心する。
「いや、良かったよ。最初はどうなる事かと思ったけど、任務も無事終了だな」
壱与の表情が少し無機質なものになり、薄く緑のかかった瞳で僕に問うてくる。
「マスターは、何故あの時、直ぐに部屋に突入しなかったのですか?」
壱与はスコアレスの部屋に踏み込んだ時の事を言い出してきた。
「うん? 僕に問題があったと言いたいのか?」
「そうではありません、方法の問題です。マスターは、慎重になり過ぎるきらいがあるかと」
「壱与ちゃん。暁彦は甘いから言わないでしょうから私が言うわね」
まだ通信中の来栖が会話に割って入ってきた。
「現場での独断先行は厳禁よ! あなたが勝手に動いた事で今回、スコアレスを取り逃すリスクが発生した。それは事実よ!」
「……っ! はい、それは分かっています……」
来栖からの叱責に少し項垂れながら、壱与は返事をした。
「うん。暁彦にも危険が及びそうになった。それは忘れないでね」
「来栖、結果としてはスコアレスも拘束出来た。確かに僕も判断が甘いところがあったかも知れない」
壱与も初任務で浮き足立ってしまったのだろうと思い、来栖の言葉を遮った。
「そういう態度が甘いのよ! 壱与ちゃんのためにならないわ! ……いえ、少し言いすぎね。私は、データのログを解析しておくから、早く戻って報告書を提出しなさい」
「ああ、分かったよ……。よろしく頼む」
来栖はそのまま通信を切った。 来栖の言うことはもっともだが……。
「マスター」
壱与は、僕の表情を見ながら、真っ直ぐな瞳を向けて言う……。
「お腹が空きました!」
「ああ、そういえば、まだ昼食べて……ええっ!? お前、ご飯食べるの!?」
今日一番の衝撃が襲った瞬間だった……。




