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005 空回りのオーバークロック

「壱与、あの建物がスコアレスの反応のある場所だ」


 対象のシンボルは古ぼけたアパートの一室で動きを止め、留まっていた。


 周囲を警戒しながら建物に近づき、いつでも取り出せるように拳銃をスタンモードに切り替え、手を添える。


 ドアの付近で、壱与に裏手に回るよう合図を送る。

 ドゴンッ!!

 と、強烈な破壊音が鳴り響いた。 蹴り飛ばしたのだ、ドアを……。


「私の脚力を舐めないで下さい。正面突破です!」


「お前っ!……っ!」


 とっさに抗議の声を上げようとしたが、部屋の奥で驚き、窓の方へ向かいながら叫ぶ人物を捉える。


「いきなり何なんだよ!!」


「壱与、裏に回れ!」


「えっ!……了解ですっ!」


 僕は部屋に強引に押し入り拳銃を構えたが、スコアレスと思わしき男は既に窓から逃げ出していた。

 まずいな……! 移動しながら耳に装着したデバイスで来栖を呼び出す。


「対象を取り逃がした! リアルタイムで追跡してくれ!」


 端的に指示を飛ばす。裏手には対象の男も、壱与の姿も見当たらない。


「っ……! 了解! 半径600メートルに絞るから余り距離を空けないで!」


「悪い、了解だ!」


 600メートルか……短いな。 それでも三等地区なら御の字か……。


 来栖との応答が終わると、僕は全力で駆け出した。絶対に取り逃すわけにはいかない。気持ちを切り替えよう。

 マップに更新されたシンボルが現れる。位置的に裏路地の方に向かっているな……。


 同時接続で壱与を呼び出すも応答は無い。 僕の現在地を同期させ、壱与に送信する。おそらく、追跡中だろう。

 壱与にもっと強く念押ししておくべきだったな。後悔しても始まらないが、それでもつい悪態をつきたくなる。


「クソ、問題だらけだな……」


 軽く舌打ちをし、マップの予測を追いかける。 対象は民家の庭先などを抜け、路地から離れている。あまり距離を空けられるわけにはいかない。 マップのショートカット経路を辿りながら、対象に迫っていく。


 対象の速度が少しずつ落ちてきて徐々に距離が近づいてきたが、対象の進行方向の先には地下鉄の入り口があり、追跡が困難になる恐れがあった。


「地下鉄に入られるとまずいな」


 ――地下鉄の入り口まであと僅かというところで、対象の動きが急に止まった。


「あなたの車を動かして先回りさせたわ!」


 ナイスだ、来栖! 車と僕に挟まれるかたちになった対象の男と、ついに正面から対峙する。 デバイスからスキャンされた情報も「スコア0」を表していた。


「ハァ……ハァ……っ! こんなとこで……! どけよっ!!」


 苦しそうに肩で息を切らしながら、懐に手を入れ銃を取り出す。 警戒を強めながらすかさず拳銃を構え、体を斜めにずらす。


「何が、スコアだっ!」


 叫び声と同時に発砲音がこだまし、僕の左後方の壁でガキンと音を立てた。 この距離なら素人の射撃は当たらない。


 スコアか……今は考えるのをよそう……。


 射撃が外れ余計に銃身がブレるが、それでも二発目の発砲を繰り出そうと指を引く瞬間――


「マスターー!!」


 壱与がスコアレスの男目掛けて、上空から降ってきたのである!


「私の脚力を舐めないで下さい!」



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