57 弟子たち その2
前回のおはなし:レジーナの黒歴史。
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レジーナは真っ赤になった顔を両手で隠している。
その様子を見て、ゼノビアが首を傾げた。
「師匠。レジーナは何をやったのですか?」
「今となっては大したことではないのだがな……」
「師匠。もう勘弁しておくれよ。なにとぞ、なにとぞ……」
レジーナが止めてくれと言うので、続けるのはやめておく。
本当に大したことではないのに、大げさなことだ。
剣豪に憧れたレジーナは勝手にゼノビアの剣を持ちだして魔物退治をしようとしたのだ。
だが、ビビりだったレジーナは外に出かけたりすることもなく、俺の屋敷の中で魔物を探した。
言ってみれば、ただのごっこ遊びである。
そして、レジーナは立ち入り禁止にしていた俺の研究室へと入りこんだ。
その時、俺は間の悪いことに、姿の恐ろしさで有名な海の魔獣を研究していたのだ。
レジーナはその魔獣のはく製を見て驚き、腰を抜かして逃亡を図った。
だが、扉に鍵がかかっており脱出できない。レジーナはますますパニックになった。
何のことはない。入るときにレジーナ自ら無意識で鍵をかけていたのだ。
それは、まるでトイレに入るときのように。
自分でかけたのだから、開けることもできるはずだ。
だが、パニックのレジーナは鍵を開けることができず、俺の帰宅までギャン泣きしつづけた。
俺がレジーナの泣き声を聞いて、扉を開けたときには研究室はめちゃくちゃだった。
レジーナが剣を振り回して暴れたからだ。
その時、幼いレジーナは小も大も全部漏らしていたのだった。
そして、あろうことか、レジーナの漏らしたものでゼノビアの大切な剣は汚れていたのだ。
「ぜのびあねえに、ころされる!」
と、レジーナは怯えていたものだ。
レジーナの剣と俺の研究室、そしてレジーナ自身を綺麗にしたのは当然俺だ。
「懐かしいな。トラウマにならなくてよかったよ」
「……恥ずかしい」
「たかが四歳の時の話だ。恥ずかしがることでもない」
「いえ、恥ずかしいので」
幸いなことに、レジーナは海洋系魔獣が苦手になることはなかった。
いや、逆に海洋系魔獣に対する攻撃は他の魔獣に対する物より鋭かった気がする。
早く目の前から消したいということなのかもしれない。
顔を真っ赤にしているレジーナは置いといて、次はディオンを説得しなければならない。
「で、ディオンについて俺だけが知っている話だが……」
「師匠、その必要はありません」
「む? よいのか?」
「はい。私は直接会った瞬間に師匠だとわかりました」
「……そうなのか? なぜわかった?」
「まあ、それは勘のようなものです」
「へー。すごいな」
俺にはよくわからない竜人独特の感覚があるのかもしれない。
ディオンの勘については気にしても仕方がない。
「さて、俺がエデルファスの生まれ変わりと信じてもらえたところで……」
俺はじっくりと話をするため、ゼノビアの隣に腰かけようとした。
「師匠うぅぅぅ――」
「おおっと!」
レジーナに思いっきり抱きつかれた。
感極まったのか、涙で顔がぐしゃぐしゃである。
さっきまで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのが嘘のような豹変ぶりだ。
俺の頭を胸にかき抱いて、レジーナは泣いている。
「ししょおおおおお……うええええ」
「……俺より背の高いレジーナは新鮮だな」
抱きしめられながら、俺はそんなことをつぶやいた。
「私もあえて嬉しいです。お元気そうでなによりです」
「おお、ディオン、ありがとう」
ディオンの口調はとても冷静沈着だ。
だが、俺の右手をぎゅっと握っている。ディオンの手は熱かった。
本来、竜人の体温は低めだ。だが感情が高ぶると熱くなる。
「ディオンも元気そうでなにより」
「はい」
ディオンの立派な尻尾がゆっくりと円を描くように揺れている。
ディオンもすごく喜んでくれているようだ。
興奮気味のレジーナとディオンを見て、シロも興奮したのだろう。
「めええめええ」
ゼノビアのひざの上から走ってきて、俺の太ももに頭突きをしてくる。
しばらく俺はレジーナとディオンが落ち着くまでなすがままにされていた。
ひとしきり泣いた後、レジーナは涙を拭いながらいった。
「……取り乱しちゃったよ。恥ずかしいところを見せちゃった」
「気にするな。百年ぶりだから仕方ない」
「私もすごく嬉しいですよ」
そう言ってディオンは先ほどまで座っていた長椅子へと腰を下ろす。
レジーナも座る。
俺も落ち着いて話をするため、ゼノビアの隣に座ろうとした。
「師匠はこっちで」
レジーナに後ろから服を掴まれた。
そのままレジーナのひざの上に、レジーナに背を向ける形で抱っこされた。
「レジーナ?」
「いやー、おれより小さな師匠って新鮮だね!」
俺の頭の上に優しく顎を乗せて、そんなことを言う。
「まあ、確かに新鮮だな」
「師匠は八歳でしょう? すぐに大きくなるだろうし、今のうちに抱っこしておこうと思って」
「そうか。好きにしなさい」
ドワーフのレジーナは背が低い。
そして、自分より背の低いものが好きなのだ。
小さかった頃のミルトも、いまの俺と同じように抱っこされていたものだ。
ちなみに、弟子たちの最年長は水神の愛し子竜人のディオンだ。今は百三十五歳である。
次に百三十歳のエルフの剣聖ゼノビア。
次いで百二十五歳のドワーフの勇者レジーナで最年少は只人族の小賢者ミルトの百十八歳だ。
およそ百年ぶりに弟子たち全員とあえて、俺は少なからず感動していた。




