56 弟子たち
前回のおはなし:授業をさぼっていたら総長先生に呼び出された。次は29日更新です。
28日の更新は、「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」になります。
ついに「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売になりました!
どうか、よろしくお願いします。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の2巻も発売中です!
折角、真面目な一般生徒を装っていたのに台無しである。
俺は慌ててシロに呼びかけた。
「シロ、行儀良くしなさい」
「めえ?」
ゼノビアのひざの上のシロは首をかしげる。
シロには悪気はまったくなさそうだ。あとでしっかり教えておこう。
というか、扉を開ける前にシロに言い聞かせなかった俺の落ち度だ。
叱ることは出来ない。
俺が扉を閉めると、
「貴様がウィル・ヴォルムスか」
そう尋ねられた。
発言者はゼノビアの対面に位置する長椅子に座っていた人物だ。
こちらに背を向けて座ったまま、シロの振る舞いには全く触れない。
一方、ゼノビアはニコニコしながら、シロを撫でまわしていた。
ちなみに、ゼノビアの横にはミルトが座っている。
そして発言者の隣にも、もう一人座っていた。
こちらに背を向けている人物二人は気配が異様に薄い。
あえて存在感を抑えているのだ。
「めえ?」
ゼノビアのひざの上に上ったおかげで、シロはその発言者の正面に位置している。
ゼノビアに撫でられまくりながら、シロは発言者の顔をまじまじと見つめていた。
「そうだ。俺がウィル・ヴォルムスだ。久しぶりだな。レジーナ」
「おれとお前は初対面のはずだ!」
そう言って、勇者レジーナは立ち上がってこっちを向いた。
同時に強烈な殺気を俺に向けてぶつけて来る。
レジーナはドワーフなので小さいのだ。
身長一・三メートル足らずしかない。
そして、金色の長い髪をツインテールにくくっている。
百二十歳はとうに超えているが、俺と同年齢ぐらいの少女に見える。
俺は殺気をいなして笑顔を向ける。
「レジーナ。……相変わらず小さいな」
「うるさい! 無礼者が!」
ドワーフはエルフほどではないが長命だ。ゼノビア同様若々しい。
いや、レジーナはゼノビアとは違って若いというより幼く見える。
「君がエデルファス師匠の生まれ変わりという噂のウィルくんだね?」
そう言いながら、にゅっと音もなく立ち上がったのは、水神の愛し子ディオンだ。
「ディオンは相変わらずでかいな……。いや、百年前よりでかくなってないか?」
「お褒めいただき、光栄です」
レジーナと対照的にディオンはものすごく大きい。
竜人のディオンは身長が二・五メートルほどある。
体表は綺麗な青っぽい鱗で覆われていて、とても美しい。
鱗は綺麗なだけでない。生半可な刃物は通じないほど硬い。
足よりも太くて長い尻尾は強力な武器にもなる。腕力も素手で丸太を砕くほど強い。
だが、治癒術師である。
そして、ディオンはティーナの師匠だ。
「それにしても、百年前は二メートル程度だったはずだが……」
「当然、百年も経てば人は変わりますよ。大きくなることもあるでしょう」
そう言ってディオンは口を開けて舌をちろりと出した。ぱっと見は怖い。
だが、ディオンは今笑っているのだ。
表情筋が只人族と違うので、慣れるまで表情を読み取るのが難しい。
もちろん、俺はディオンがまだ幼児だったころから一緒にいた。
だから、ディオンの表情を読み取ることも難なくできる。
そんな俺でもディオン以外の竜人の表情を読むのは結構難しい。
俺がディオンと和やかに話していると、レジーナが俺の方へとゆっくりと歩いて来た。
そして、顔を俺の顔へと吐息がかかるほど近づける。
ものすごく鋭い眼光で睨みつけてきた。
勇者の中でも歴代最強と言われるレジーナだ。
当代で最も強い戦闘力を持つ人族でもある。
そんなレジーナが威圧的に、俺に殺気をぶつけてきているのだ。
レジーナを知らなければ、俺でも恐怖を感じたことだろう。
「お人好しのゼノビアとミルトは騙せても、おれのことは騙せないからな!」
「レジーナも大概お人好しだろう?」
「はぁ? 貴様。おれを舐めるのもいい加減にしろよ?」
レジーナは俺の胸倉をつかんだ。
「メエ!」
途端にシロがゼノビアのひざの上から走って来た。
そして、レジーナに頭突きを当てようとする。
「な、何だこのヤギ」
「メエエメエエ!」
レジーナは困惑しながら、シロの頭突きをかわす。
さすが、史上最強の勇者と名高いレジーナだ。
「ピギ!」
フルフルまでシロに加勢しようと素早く動く。
レジーナの足に絡みつくつもりだろう。
「フルフル、シロ。落ち着いて」
「ぴぃ?」「めえ?」
フルフルもシロも「なんで?」と言っているようだ。
「フルフル。シロ。この人は味方だ」
「勝手に味方と決めつけるな!」
レジーナは喚くが、フルフルとシロは落ち着いたようだった。
そんな神獣たちにゼノビアが言う。
「シロ。フルフル。大丈夫。ウィルは安全だからこっちに来なさいな。お菓子をあげよう」
「めえ」「ぴぃ」
嬉しそうに神獣たちはゼノビアのもとに走っていった。
それを優しい目で見つめながらディオンが言う。
「まあまあ、レジーナ。ウィル君の話を聞いてから判断しましょう」
「ふん!」
レジーナはゼノビアの正面の長椅子へと戻って座った。
「ウィルとか言ったな。貴様が師匠の生まれ変わりだと信用させてみろ!」
「わかった。俺しか知らない、ミルトやゼノビアも知らないことを話せばいいか?」
「ああ、話せるものならな!」
俺はゆっくりとゼノビアの近く、つまりレジーナの対面へと移動する。
「あれは……。そうだな。たしかレジーナが四歳の時の話だ」
「ふん? 四歳だと? おれ自身そんな幼い頃の記憶はない。適当なことを言うつもりだろう?」
「伝説の剣豪に憧れていたレジーナはゼノビアの剣を持ち出して……」
「……ん?」
レジーナの発していた殺気が消え去った。
「レジーナは侵入を禁じられていた俺の研究室に――」
「あぁあああーーー、もう大丈夫、大丈夫だよ」
「まだしっかり話していない。これからが本筋なのだが……」
「いや、充分わかった! わかったよ! 勘弁しておくれよ!」
レジーナは顔を両手で覆って真っ赤になっていた。
どうやらレジーナはわかってくれたようだ。




