104 ドルフレア
前話のおはなし:竜に勝ったら、でかい竜がやって来た。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の3巻とコミカライズ1巻が発売中です。
「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売中です!
新たに降りて来た竜は、見張りの竜と鱗の色はそっくりだ。
ともに快晴の青空のような綺麗な青である。
太い四肢に大きな翼。立派な角。
見張りの竜が成長すればこうなるかもしれない。そんな予感がする。
そして、これが大切なことだが、大きな竜には立派な髭が生えていた。
「GRRRRR……」
大きな竜は、俺たちのことを順番に見まわした。
そして、先ほど俺たちと戦った見張りの竜のことを睨みつける。
「人族に。それもこのような童たちに後れを取るとは、油断しすぎではないか?」
大きな竜は、流暢な人族の言葉で語り始める。
声は低く太くて、腹の底に響いてくるようだ。
大きな竜は、あえて我々にもわかるように、人族の言葉で話しているのだろう。
「GRRR」
見張りの竜が控えめに吠えた。
すると大きな竜が咆哮する。
「GRAAAAAAAAAAAAAARAAAA!!」
その声には少量の魔力が含まれていた。
周囲に大きく響きわたる。空気が震える。
「……油断などしていないと。つまりお主は実力で人族の童に負けたのか?」
大きな竜の声には怒りが混じっている。
「GRRR」
だが、見張りの竜は全くひるまない。冷静に返答しているようにみえた。
竜の言葉はわからないので、本当のところはわからない。
大きな竜は見張りの竜の言葉をうけて、俺の方を見た。
「ふむ。人族の少年。名は何という?」
「ウィル・ヴォルムスです」
竜は俺よりずっと年上だ。それこそ俺の前世での年齢を足しても全然足りないだろう。
だから敬意を払って丁寧に応対する。
その方が元々の目的でもある髭ももらいやすくなるだろう。
「……ヴォルムス。つまりエデルファスの係累か。我と戦わぬか?」
「か――」
俺は「構いませんよ」と返事をしようとした。
だが、素早くレジーナが前に出る。
「竜よ。子供たちと直接交渉するのはやめるがよい」
「レジーナ・エデル・グラシア。そなたが我と戦うのか?」
「そうは言っておらぬ」
いったん断ってから、レジーナはにやりと笑う。
「だが竜たちも負けっぱなしでは面白くあるまい?条件次第では試合してもよい」
「レジーナ・エデル・グラシア。我が戦いたいのはウィル・ヴォルムスなのだ」
それまで黙って聞いていた、ディオンが前に出る。
「お久しぶりです」
「ディオン・エデル・アクア。久しいな。会えてうれしい」
「はい。私も嬉しいですよ」
どうやら、ディオンはこの大きな竜の知り合いらしい。
「ロードよ。この子供たちは我らの弟子なのです」
「ほう? つまりはエデルファスの孫弟子か」
我らの弟子と聞いただけで、賢人会議の者たちの弟子だと理解したようだ。
ディオンがロードと呼んでいるということは、この群れの長なのかもしれない。
知り合いなら言っておいて欲しいものである。
「子供たちよ。そして人族の勇者よ。我は竜王ドルフレア。この地の領主である」
この地の領主というのは竜の社会での話。
この地の人族の領主は、当然また別にいる。
それはそれとして、ドルフレアに名乗られたので、改めて自己紹介しなければならない。
先ほど名乗った俺と、元からの知り合いのディオンを除いた皆が自己紹介した。
自己紹介が終わると、レジーナが改めて言う。
「領主殿となら、格を考えても我と戦うべきではないか?」
レジーナはどうやらドルフレアと戦いたくなっているようだ。
俺たちとの戦いを見て刺激されたのだろうか。
「勇者殿のおっしゃることはわかる。だが我はウィル・ヴォルムスと戦ってみたいのだ」
「ウィル・ヴォルムスは齢八の子供に過ぎぬが……」
「だからこそである」
「ふむう」
渋るレジーナにドルフレアが言う。
「それに勇者殿が言われたことではないか。弟子に勝てば我と戦わせてやると」
確かにレジーナはそんなことを言った。
そして竜側はまだ勝てていない。
ドルフレアの主張の方が筋が通っている。
「それはそうだ……。だが、いきなり領主殿と子供が戦うというのもどうかと思うのだ」
俺にはレジーナが、俺とドルフレアの戦いを渋る理由もわかる。
ドルフレアと戦って、俺が無事に済むと確信できていないのだろう。
「人族の勇者殿よ。安心するがよい。命をとろうというのではない」
「ふむ」
「エデルファスの係累がどのような者か試してみたいだけだ」
そしてドルフレアは俺の方をじっと見る。
鋭い眼光。まるで目から魔力をぶつけられているかのような錯覚を受けるほど。
俺を睨むように見つめたまま、ドルフレアが言う。
「先ほど敗れたのは我が子、そして我が弟子なのだ」
「ほう。ご子息であったか」
「……まだ若く、力不足は否めぬが、我が子には変わらぬ」
戦った感じでも、確かに強かった。
まだ人語を話せず、身体もそう特別大きいわけではなかった。
だが、複数の魔法を同時に使いこなしていた。
攻撃力も防御力も高く、戦いのセンスにあふれている。
「我が子を倒されたことへの、意趣返しと言うわけか?」
レジーナが顔をしかめる。
「GYAGYAGYA!」
ドルフレアは大きな声で楽しそうに笑う。
「まさかまさか! 我が子にもいい経験になったであろう。感謝こそすれ恨みなどない」
「ではなにゆえ?」
ドルフレアはそばで大人しくしているドルフレアの子を見た。
「親の欲目ではなく、客観的に見ても年齢の割に強い。才能もある」
「grr」
ドルフレアの子が少し照れ臭そうに小さく鳴いた。
「敗れたと聞き、当初は油断したのだと考え叱りに来たのだがな。我が子が言うのだ」
「なんと?」
「油断はしていない。ウィル・ヴォルムスは自分よりはるかに強いとな」
そういうと、ドルフレアはゆっくりと尻尾を揺らした。




