105 ドルフレアその2
前回のおはなし:竜王はウィルと戦いたいらしい。
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俺にはドルフレアはとても楽しそうにみえた。
ワクワクしているように見えると言ってもいいかもしれない。
竜族に比べてはるかに脆弱な人族。
それもただの子供に我が子が敗れたと聞いて、戦いたくなったのだ。
ドルフレアの気持ちは俺にはよくわかる。
もしレジーナが年下に敗れたと聞いたら、前世の俺は戦ってみたくなったに違いない。
だまし討ちで敗れたとかなら仕返しも考えるが、正々堂々と戦ったのなら、恨みもない。
単に、どのような者か知りたくなるだろう。
「勇者よ。我はウィル・ヴォルムスがどれほど強いのか知りたいのだ」
「だがなぁ……」
「……レジーナさま。俺は構いませんよ」
ロゼッタたちが見ているので、俺はレジーナにも敬語を使う。
「……ふむ。自信があるのか?」
「さほど。ですが、命を取ろうというのではないのでしょう?」
「まあ、ヒーラーである私もいますから。大丈夫じゃないですか?」
ディオンも俺とドルフレアが戦うことに賛成のようだ。
「ふむ。そういうことならば、構わぬかもしれぬ」
レジーナも俺とドルフレアの試合を承認してくれた。
すかさず俺は、ドルフレアに言う。
「ドルフレアさま。お願いがあるのですが」
「なんだ?」
「我々が勝てば、ドルフレアさまの髭を少しばかりいただきたい」
元々の目的は、弓の弦に使う竜の髭を手に入れることである。
もはや、そんな雰囲気ではないかもしれないが、とても大切なことだ。
「我の髭など、何に使うのだ?」
「弓の弦を作るのに使います」
「ふむ? ウィル・ヴォルムス。そなた弓を作るのか?」
「弓だけでなく、武器全般を作っています。……まだ修行中の身ですが」
それを聞いて、なぜかドルフレアの鼻息がほんの少しだけ荒くなった。
武器製作に興味があるのだろうか。
「そうか。そういうことなら、構わぬ。そろそろ切ろうと思っていたところゆえな」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはまだ早い。お主が我に勝たねばやらぬ」
「もちろん。わかっています」
だが、俺が負けたらレジーナに戦ってもらえばいいだろう。
だからこそ「我々」が勝てばくれと言ったのだ。
ドルフレアは最初のレジーナの口上を利用して俺との試合を求めたのだ。
ならば、ドルフレアが勝ったら、レジーナの口上通り次はドルフレア対レジーナである。
「微力ながら、全力を尽くさせていただきます」
俺はドルフレアに敬意を示すために丁寧に頭を下げた後、
「俺は全力を尽くさせていただきますが、どうかお手柔らかにお願いいたします」
少しばかり声を大きくしておいた。
ドルフレアに聞かせるというより周囲の竜に聞かせるためだ。
こう言っておけば、ドルフレアが敗れても人族の子供相手だから手加減した。
そう言うことになるだろう。
俺がドルフレアの面子を潰さなくても済む。
交渉相手の面子をつぶして、いいことなど何もないのだ。
「うむ。わかっておる」
「話し合いはおわりましたかな?」
「ああ、審判を頼む。ディオン・エデル・アクア。いや竜神様の神官殿」
ドルフレアは、竜神の神官に審判を頼むと言っている。
ドルフレアの友人としてのディオンでも、弟子たちの師であるディオンでもない。
神官として公平に裁けと言っているのだろう。
「もちろんですよ」
ディオンの返事を聞くと、満足そうにドルフレアはうなずいた。
そして、大きく息を吸うと、
「GRAAAAAAGRAAAAAAA!!」
上空に向けて咆哮する。大気が震える。
「「「GRAARAAARAAA」」」
上空を旋回していた竜たちが次々に鳴く。
ドルフレアの咆哮に返答しているのだ。
そして、上空に続々と竜たちが集まって来た。
「我が戦うのを見たがっておるのだ」
「……よいのですか?」
「なにがだ?」
「長が人族に負けるところを、皆に見せることになるかもしれませんよ?」
「GYAGYAGYA! GYA!」
ドルフレアは楽しそうに笑った。
「大した自信だ。だが、心配せずともよい」
「負けることは無いと?」
「もちろんそうだ。だが、仮に負けたとしても、それは勝った方が凄いのだ」
「負けても名誉は傷つかぬと?」
「そのとおりだ。もし勘違いする奴がいれば、我が直々にわからせてやるだけである」
ドルフレアは、ブシュゥッと勢いよく鼻息を出す。
ドルフレアは出来るものなら、勝って見せろ。余計な気づかいは不要である。
そう言ってくれているのだ。
面子を潰さないようにしようとした気遣いは不要だったのかもしれない。
「そういうことなら安心して勝てますね」
俺がそう言うと、ドルフレアはぶふぅと大きく息を吐いた。
恐らく笑っているのだろう
「ああ、安心して負けるがよい」
俺はドルフレアに俺が安心して勝てると言った。
当然、ドルフレアはそれを理解している。だが、わざと意味を真逆に解釈した。
竜族的な皮肉なのかもしれない。だから俺は笑っておいた。
なんとなくだが、ドルフレアとは気持ちよく戦えそうな気がした。




