100 見張りの竜
前回のおはなし:竜の山脈にやって来た。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の3巻が発売になりました。
コミカライズ1巻も8/12発売になります。
「最強の魔導士。ひざに矢をうけて~」の4巻とコミカライズ1巻が発売中です!
「我はエデルファス・ヴォルムスが弟子!」
レジーナはそこでいったん溜めた。
山に向けて叫んだレジーナの声はとても大きい。
恐らく山の奥まで響いているだろう。
上空を旋回していた見張りの竜の動きが変わる。
レジーナを注目すべき存在として認識したのだ。
「人族の勇者レジーナ・エデル・グラシアである!」
そこでまた溜める。
すると竜の山脈全体の気配が再び変わった。
あふれ出した殺気と魔力が、山全体から滲み出てきているようだ。
竜たちが高ぶっているのだろう。
「そなたたちと戦おうと参ったのだが、我とそなたたちでは格が違う!
そこで我が弟子たちを連れて参った!
弟子に勝つことが出来れば、我が相手仕ろう!
我こそは、と思う竜族の勇者はおらぬか!」
レジーナの口上は、竜に対して明らかに上から目線だ。
そのせいか、山脈全体から滲み出る殺気が一気に高まった。
そして、ロゼッタとティーナが心底驚いていた。
目を見開いて、レジーナをまじまじと見つめる。
強大な力を持つ竜族に対して上から目線で呼びかけるとは思わなかったのだろう。
「お、お師さま、ほほほ、誇り高い竜族に、そんなこと言って大丈夫なのです?」
驚きすぎてあわあわしているロゼッタを見て、レジーナはにやりと笑う。
「この辺りの竜は誇り高い。こう言っておけば大勢で袋叩きにされることは無い」
「たしかに、そうかもしれませんね」
ディオンは落ち着いた様子でうんうんと頷いた。
「なるほど。お師さまには深いお考えがあったのですね」
「まあ、同じことをしようとは思うでない。お主には少なくとも十年早いであろう」
「……十年」
ロゼッタが真剣な表情でつぶやいた。
確かに竜相手にそのようなことを言えるようになるまで、十年はかかるかもしれない。
大勢で袋叩きにしなくとも、竜は強いのだ。
挑発された以上、竜も力を抜いてくれない。
生半な実力の者が、レジーナの真似をすれば普通に竜に殺されて終わりだろう。
「十年で足りるとは思えないですけど……」
「かもしれぬが、絶対に足りぬとは言い切れぬ」
そう言って、レジーナはロゼッタを見てにやりと笑う。
そのまま、俺たちはしばらく待った。
先頭にレジーナ。
その後ろに俺、ロゼッタ、ティーナ、アルティ。
一番後ろにディオンという隊列だ。
ルーベウム以外の神獣たちは俺の周囲にいる。
フルフルとシロは俺の足元に、フィーは俺の服の中に入って、顔だけ出していた。
フィーは何かと俺の服の中に入りたがる。気に入ったのかもしれない。
小さいので邪魔にならないし、別にいいのだが。
そうして大人しく待っていると上空を旋回していた竜の一頭が降りてくる。
「GRUUUUUU……」
竜は威嚇するかのように俺たちに向かって唸った。
人語は理解しているが、発話は出来ないのだろう。
縄張りの偵察をしていた竜だから、恐らくさほど高位の竜ではないに違いない。
それでも頭から尻尾までの体長は十メートルを超え、体高は四メートルほどある。
巨大化したルーベウムより一回り大きい。
縄張りの見張りをしていた下位の竜とは思えないほど立派な竜だ。
俺はディオンの懐に隠れているルーベウムに声をかける。
「ルーベウム。大きさがそれすなわち強さではないから」
「きゅる。わかってる」
ルーベウムの特殊技能で魔力を完全に消しているので多少声を出しても問題ない。
竜はルーベウムの存在には、まったく気づいていないようだ。
大きければ強いとは限らないとはいえ、大きい方が強い傾向があるのは事実。
目の前の竜も相当に強いのだろう。
レジーナが竜に言う。
「おお、そなたが我が弟子たちの相手をしてくれるのか」
「GUAAAAAAAAAAAAAOOOOO!!」
竜は大きく口を開け、思いっきり咆哮した。
その竜の咆哮には魔力が混じっている。
つまり、この竜の咆哮は、魔法の域に達しているということだ。
力ある竜の咆哮は、そのまま精神を揺さぶる魔法となる。
耐性の低いものが、まともに食らえば気絶したり、恐慌状態に陥ったりする。
この竜は、もしかしたら下位の竜ではないのかもしれない。
咆哮し終わった竜はじろりと俺たちのことを睨みつける。
咆哮に耐えられない奴は、自分と戦う資格がない。そう言いたげだ。
「いい咆哮だ。腕に覚えがあるとみえる」
満足げにレジーナはうなずく。
この竜は縄張りを見張る竜たちのリーダーかもしれない。
「GRRRR……」
「我が弟子四人とまとめて戦ってほしいと、我は思っておるのだが……」
「GR――」
複数とは卑怯ではないか。
そう言いかけただろう竜の唸り声を遮るようにレジーナは続ける。
「もちろん四対一は荷が重いと思うならば、一対一でも構わぬ」
「……」
竜は沈黙し、ぶしゅーっと牙の間から大きく息を吐いた。
その間にも続々と竜が集まってきている。
上空を十数頭の竜が旋回していた。
戦いの結果を見たくてしょうがないのだろう。
「そなたに任せる。荷が重いと思うなら一対一で。四対一でも戦えるなら……」
「GRRRRRRRRRRRRRR!」
竜は大きく咆哮する。
我を舐めるな。そんな感じの怒りに近い感情がひしひしと伝わってきた。




