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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
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186/458

185.計画的に行こう

 鹿羽


 "リア"に言われるまで気が付かなかったが、

言われてみれば確かに"すばらしい"名前である。


 「シカバネ」という不謹慎な呼び方のインパクトが

強く、名前の本質を見失っていた。いかんいかん。

名前だけで判断するとは愚かしい。ここで忘れては

ならないのがこの鹿羽という苗字の発祥が日本ではなく

海外であることだ。つまり、日本語だと偶然にも

「死体」を意味する言葉になってしまったが、パーツ

ごとに見れば「シカ」と「ハネ」。どちらも欧米、

具体的にはキリスト教徒にとっては吉兆の印なのだ。


 「鹿」


 どうやらキリスト教では「水」を想起させる生き物で、

そのためか、水を頭にかけるといった用途のものに

使われる(どうやら洗礼と言うらしい)。キリストと言えば

真っ先にヤギが思いつくが、それ以外にも吉兆の生き物は

当然いるわけで、その文化は実に仏教にまで進展している。

だからこそキリストではあまりぱっとしないポジションに

鎮座する一方、仏教では高貴なポジションを得ている。

少なくとも、シカバネと揶揄されるような不浄な生き物では

決してなく、むしろ神へ近づくための重要な役割の

生き物だ。


 そして「羽」は言わずもがな、天使が持つ羽根や

イカロスの翼など、ざらに吉兆エピソードを連ねれば

きりがない。


 鹿と羽、その二つの名前を持つ家庭が無神論者なわけも

なく、多分昔から鹿羽さんはその手の施しなりを受けて、

天使の加護を与えられた存在だったってことになる。


 そりゃあ、どうりで俺の霊感もバグるわけだ。


 だって俺の目は、相手が「悪魔や霊と交信できるか」を

見るだけのスキルなのであって、「悪魔本人あるいは

天使本人か」を確認できるスキルではないのだから。

そんな俺だって、リアル天使と相まみえるなんて想定

していないのだからしょうがない。


 日付が変わっていつもの平日、俺は学校の部活の

用意の真っ最中である。ミコに託されたミッションである

手帳をお返しするは達成しているため、その後の

ひと悶着についてはあまり触れないでおこう。


 ……かと思ったが、そういうわけにはいかない。


 彼女は「客」なのだから。


 悪魔ではなく天使だったから、俺たちでは太刀打ち

できませんと、たらいまわしにするほど俺、いや俺たちは

薄情な連中では決してない。


「……ということだ。ミコ」

「そーーーゆーーーことね」


 さすがにミコも想定していなかったらしく、困った顔を

見せる。昨日に関しても、ミコから真夜中にどうだった

といった旨のダイレクトメールをもらっていた。無論、

俺は撃沈していたため、返信はできず、目覚めた後も

すぐさま寝てしまったため、通知に気が付かずにほうって

おいてしまったのだが。


「ようは、悪霊かと思っていたら天啓だったってこと?」

「語彙的にはそれで正解だ。だが、当の本人はよくは

 思っていない」

「過保護?」

「そういうことでいいかな」


 さぁて、これからどうするべきか。


 実のところ、その真意を探るべく登校時間と下校時間を

狙って、鹿羽さんに会うために校門前で張っていたのだ。

の、だが、あいにく今日は欠席の様子だった。というか、

昨日の一件があったから休んだといったほうが正しいか。

事実、マヤから聞いていた通り、ただ家なき子なだけで

あって学校には通常通りに通っていた状態なのだ。

じゃあ、来ない理由はと考えればおのずと俺の存在が

あるに違いない。


 来ない客のために時間を割くほど俺たちは暇では

なんだがな。まぁ、お人よしではあるが。


「それで、ミコ。お前はこれからどうするんだ?」

「どうするといわれても」

「だよなぁ」


 どうやら、ミコもこの様子だと放っておくわけには

いかない案件であると腹をくくってくれている。

さすがは「お人よし」。いやいや、ちゃんとほめて

ますとも。


「情報収集するしかないよね」

「そんなミコにひとつ朗報がある」


 俺はポケットから小さな紙きれを取り出す。


「? これって」

「鹿羽の家の住所だ。もうここぐらいしか情報を

 握っている場所はないんだから、ここをあたるしか

 ない」

「えぇ…… 家庭訪問するの……??」

「それしかないだろ。一応、マヤにも早く情報をかき

 集めるように頼んであるから」


 鹿羽さん、というよりかは鹿羽の一族全体について

調べてほしいと頼んだ。


 天使を憑依させる。明らかに並大抵の血統ではない。


 名前で優っているとかそういう次元のヤツではない。


 確実にあの家系にヒントがちりばめられている。ならば

天使だろうが、悪魔だろうが引っ剥がすことは可能だ。


「だからってそこまでする???」

「「え」」


 部室から部員以外の声が聞こえた。ミコもその声に

たまらず振り返る。いつもの"彼女"だった。にしても

登場が早すぎはしないか?


 準レギュラーマヤの登場。3人目のヒロイン。


「あんたに言われた通り、色々調べてきたわよ」

「さすがは情報屋一族。調べるのも早いな」

「早い、というよりも言われる前に調べていたから」

「マジで?」

「たまたま名前とか詳しい相手と話す機会があってね、

 その流れで"鹿羽"って名前について聞いたのよ。

 だから、ちょっと気になってその名字を持つ一族に

 ついて調べてみたら、やっぱりあんたの言う通り

 いろいろと変わった事情を持つ人たちだったわ」


 マヤの仕事は早くて助かる。せいぜい数日かかるかと

思っていたが、先取りしてくれていたとはねぇ。


「ミコちゃんには事情って話してる?」

「あぁ、ある程度は」

「天使に憑依されているってことまで聞いてるよ」

「え!!?? そうなの!!???」

「お前が知らんのかい!!」


 何でも知ってる感じ出してたのにオチがダサいなぁ。


 さすがに家族関係からは心霊現象まではわからんか。


「じゃあ、やっぱり調べた通りっぽいわね。あの家庭は

 仏教ではなくヨーロッパ系の宗教の一つを信仰してて、

 それが日本名の苗字に由来されている。ってことは

 わかってるよね」

「ううん」

「いや、それはさっき説明しただろうがミコ」

「そうだっけ??」


 また最初から説明します?


「つまりキリスト教ってこと?」

「厳密には違うの。ただ原点を探るとキリストの教えに

 由来するからそう思って構わないわ。ただ、日本に

 来てからすぐに廃れちゃったんだけどね、その宗派は。

 あんまりこういう宗教関係で同族か否かを話し出すと

 うるさくなる人がいるから、口出しはしたくないから、

 こう言っているだけよ」

「めんどくさいなぁ」


 宗教ってめんどくさ。悪魔からしても信仰心ほど

理解が難しいものはない。ましてや個々の見解が混じる

となると余計に判別もなにもない。


「名前の由来を聞いたわけじゃないんだが、それだけ

 じゃないだろ。わざわざ俺から伺い立てるところを

 そちらから来てるんだから」

「当然、依頼……ってほどじゃないけれど、頼み事として

 伝えておくべきことがあってね」


 生徒会からの依頼が増えているとはいえ、だいたいが

会長経由の雑用まがいの内容だからこそ、生徒会から

しっかりとした心霊関連の依頼があるとはな。


 ってそういえば俺たちがクマと鬼ごっこをしている間に

加賀音が、マヤに呼ばれて墓地の心霊現象の調査を

したんだったか。意外とマヤを経由したほうがこちらと

しては、もしかしたら好都合な依頼内容が届くのかも

しれないな。


「あの子、鹿羽さんがうちの学校に来た経緯よ」

「経緯?」

「裏口とかか?」

「ココあんたもしかして、この英嶺が誇る万全の

 セキュリティ管理下でそんなことができるとでも?」

「それもそうか」


「半年前、あの子は不登校になっているわ」

「「え」」


 ちょうど症状が出始めてぐらいだな。


「発端はただの中学生同士の小さなケンカよ。

 もっともケガ人が出なかったらの話だったんだけど」

「つまり、誰かが」

「そう、そのケンカの発起人である男子生徒、そして

 それをかばった仲間全員が吹き飛ばされたって話よ。

 明らかに体格違いな力によって、その場の人間全員を

 黙らせたらしいわ」

「仲間全員って……見境ないのか……」

「ええ、その表現で正しいわ。かばった仲間の中には

 昔から鹿羽さんと仲のよかったお友達の女の子も

 いたんですから」

「うーわ」


 友達なくすぞアイツ。「いない」ことは俺としても

耐えれるが「なくす」のはさすがに苦しいものだろう。


「そしてその事件があったことから、本人は不登校に。

 けがをした生徒らは、タブーを抱えるように以降は

 何事もなく卒業していっているわ」

「じゃあ鹿羽さんは?」


「飛び級よ」

「飛び級? そんなことできるのか?」


「どうやらうちの一部の人間しかそこらへんを確認

 していなかったようで、情報がすぐに出なかったけれど

 事実として、あの子はちゃんと不登校ながらも

 普通に受験をして、普通に合格して、普通に入学」

「そして、普通に登下校」

「ええ、何事もおとなしい以外は普通だったからこそ

 そんな過去があるなんて思いもしていなかったわ」

「それでなんでうちの学校に?」

「家の都合よ。単純にこの町に、遠いながらも親戚が

 いるから、そこにお邪魔する予定だったのよ。まさか

 そのまま家に帰らずになるとは到底思ってないん

 でしょうけれど。

 

  だから、不登校になった半年前に、英嶺家の人間が

 その事情を知り、半年前の段階で受験を終わらせて

 誰よりも早くに入学を決めさせたってわけ。その間は

 まぁ、こちらへの引っ越しをしてたんじゃないかしら?

 ここから随分と離れた土地の生まれですからね


  今回、私から依頼をしているのはほかでもない。


  うちの人間が選んだ生徒が、何か不審な動きによって

 不登校のままになっているという事実がいけない。

 これはあくまでビジネスよ。看板を背負ったいわば

 賭けでもあるんだから。なんとかして鹿羽さんを

 もとの状態に戻して。あんたらが一番近い存在だと

 勘が言っているの」

「……もっと、良心的な理由はないのかよ」

「良心よ。これでもね。


  だから、須田君や義堂君がいれるんだから。ね?」


 うちの部員にそういえば不登校の問題児がいたな。

ならば、それと同じくどうにかして助けてやらねば

なるまいな。


「わかってるよ。はなからそのつもりだ。明日にでも

 鹿羽さんの家を訪ねるしかない。時間を置けば置くほど

 動きづらくなるのはこっち側だからな」


 動くとはいえ、情報らしい情報はあまりにも足りない。


 ・憑いているのは霊ではなく天使(だが狂暴)

 ・半年前にその天使が現れた

 ・以来、その天使によって自分を抑え込んでいる

 ・現在、俺の存在によって不登校


 ってことは俺が関与しているから、遠ざかっている?


「そんなことないよココ。ただちょっと気になることが

 あって……」


 人差し指の腹を唇に当てて悩んだ体制のミコが

しかめっ面にも似た何とも言えない顔で悩んでいる。

だから、俺とマヤの会話に参加していなかったのか。


「気になること?」

「うん、でもそれを調べるにはやっぱり鹿羽さんの

 家にいくしかないかな」

「やっぱり、その方針で行くのか」


 お宅訪問といえば、メンバーは俺とミコとなりつつある。

そんなわけでもないんだが、加賀音の家や須田の家と

転々とおじゃまにおじゃまを繰り返していくと、

意外とミコの巫女の立場が役に立つものなのだ。対して

俺はミコを守るボディーガードに徹するイメージ。


 やはりダブル主人公はこうでなくては。


「あと」

「あと?」


「………………ニックネームどうしよう…………」

「「…………」」


「確かに」


 一拍おいて俺がうなづいた。


「だって「シカバネさん」って、なんかこう……あまり

 いい響きのする名前のイメージがないじゃん!

 だから、もっと見た目に合わせてかわいらしい名前を

 考えたいんだけど……」

「わかる」


 さすがにその意見には俺も賛成だった。俺自身

シカバネと呼ぶことにはためらいはあった。だからって

アユムと呼ぶわけにもいかない。


 この的外れな対話をマヤは遠目で眺めている。

え? 論点そこなの? みたいな不思議そうな顔だ。


 あいにく、こういうくだらない(否、くだらなくはない)

話し合いについてはさんざんやってきた次第で、もう

俺としては日常茶飯事なんですわ。


「ココみたいに、名前と苗字をとって……シャア?」

「一番似つかわしくない名前になってどうする」


「……じゃあ、これは?」


 どうやら俺たちの会話にしびれを切らしたマヤが

俺たちの論議に割り入ってきた。


「シカチャンとか!?」

「「……」」


 俺とミコは見合って、互いに同じ意見であることを

確認して、思い切り言い放った。


「「却下!!!!!!」」

「なんで!!!!!??」


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