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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
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186.家庭訪問をしよう

「すいませんね、わざわざ」

「いえ」

「ところで、アユムは大丈夫なのかしら?」

「それは……まぁ、はい大丈夫だと思いますよ」

「そう、それはよかった」


 翌日、俺たちは学校を休んだ。


 部活による遠征と名を打って、俺たちはマヤに

言われた住所に向かったのだ。本作3回目の依頼主の

お宅訪問である。


 といっても前のお宅訪問よりかはマナーに沿った

粗相のない対応をしなければならない。今まで相手は

同級生であったり、生徒会の不登校児であったりと、

いわば、気にしなくてもどうにでもなる相手であった。

が、今回は生徒相手に話す予定ではないし、何より

話せるとも思っていない。


 だから、事前にアポイントを取っておいた。


 社会人の当然の行為である。


 ……虚偽を少々交えつつ。


 前に須田の家を訪問した時も同じ手を使ったのだが、

巫女が生かせる話を通した。特に、加賀音から聞いた

ところによるとうちの部活の話題は、軽く町全体に

広まっている様子だ。うれしい限りではがその実態は

「タダで除霊ができる」なんて俺たちが言ったことの

一切ないキャッチコピーとともに、広まっている

だけのようだ。


 この野郎、こちとら稼げるものなら稼ぎたいんじゃ。


 悪魔らしく貪欲に行きたいわ、ほんとは。


 やむ無しではあるが「タダで除霊」をすると言って

訪問する旨を伝えた。その際に、確かに家で実際に

何か霊的な何かが起きたみたいな話をしてくれ、

その除霊を受けることをすんなりと受け入れてくれた

ことが、何よりの救いだったのかもしれない。


 その霊的な事象こそ、今回の依頼主である

鹿羽さんの暴挙であったのだが。


「まったく、アユムはどこにいるのかしらね」

「それは私たちもわかりません。幽霊の後をたどる

 なんて芸当ができるほど、うちの巫女は優秀では

 ありませんので」

「まぁいいわ。アユムなら大丈夫でしょ」


 その巫女は今、家に着いた旨をマヤに報告している。

今回はマヤを通じて、学校をさぼることのオーケー

サインを出してくれている。だから、到着次第

報告するようにと念を押されていた。


 が、ミコが失態を犯しまして。


 携帯電話を忘れるという、現代人にあるまじき

ミスを犯したのだった。そのため、一度席を外して

鹿羽さん宅の固定電話を借りている。


 そういえばいつも巫女服には携帯電話を忍ばせて

いないよな。ポケットのようなしまう場所がない

というよりも、プロの意識がそうさせるのか。


 具体的に状況を説明すると俺はかなりアウェイ

なのだ。除霊する人と除霊される相手の二面での

話し合いの場において、俺は部員然りお手伝いで

あったとしても、何も話すような中身はない。


 とりあえず、情報は集めなければならない。


 除霊ではないのだから。それ以前に霊なんて

いないから払うも何もない。むしろ神様が憑いて

いるなんて笑えたもんじゃない。


「それで、何か幽霊がらみで怖い思いとかあった

 んですか?」

「え、あぁ、そうそう。アユムのことね」

「それはここの家に来てからずっと悩んでいるとか」

「いえ、ずっとおとなしいわ」


 言ってしまってなんだが、俺の今のセリフは

ミスだったかもしれん。もしここがごく普通に一般の

家庭環境下で、順当に進級しているとするならば

当然、この場所以外に鹿羽さんの住む場所はない。


 ならば「家に来て」という表現は出てこない。


 もし仮に勘が鋭く、何か裏でいろいろと

調べているなと察しがつけらたら、これからの話に

若干のギスギスが生まれかねない。


「家に来たのは年末あたり。なんかいろいろと

 あったようで、手続きが大変だったわ。けれど

 それだけで、何も不思議なことはひとつもなく、

 学校と同じで、家でもおとなしくしてくれたわ」

「はぁ」

「……といっても、しばらくして……あれは、確か

 入学して1週間たったあたりかしらね。少し

 反抗的な態度になったのよ」

「反抗的? 反抗期とかでもなく?」

「最初はそう思ったわ。けれど、そういうわけじゃない

 っぽくてねぇ」


 ミコが戻ってくる前に、こんなに話を進めていい

ものかと思ったが、別にいいか。また聞けばいいし。


 と、思ったらすでに俺の隣にミコは鎮座していた。

いつの間に。というか、報告だけならもっと早く

戻ってこれるだろ!


「ときどき、口調が荒ぶるのよ。何かスイッチが入った

 みたいに。そんな暴力的ではなかったんだけれど、

 いきなりの出来事で少し、驚いたわ」

「それは、何かがとり憑かれたみたいに?」

「ええ、その通りよ。ほんの数分前までは普通に

 落ち着いて黙っていたのに、いきなり怒鳴り声が

 聞こえるんですから。その時はさすがに何か怪しい

 何かがあるとは思ったわ


  といっても、実は聞かされていたのよね」

「え」

「アユムが中学生の時に何かあったっていうのは

 聞いているのよ。だから、実際に目の当たりにして

 驚いた反面、やっぱりって感じね」


 聞かされていたのか。一体何があったのかまでは

聞いていない様子だ。ということは悪魔か何かが

憑いている認識のままなのか。


「あのー、おうちのことになっちゃうんですけど

 「鹿羽」の家系って、すごく神聖だと聞いていて

 それなのに、悪魔にとり憑かれるってけっこう

 ありえないことなんですよ……だから、何か

 神様を怒らせるようなことをしてしまったとか

 身に覚えはありませんか?」

「え?」


 すかさず、ミコが話を切り出した。昨日時点で

俺はすでにとり憑いているのは天使であるとは

言っているが、"あえて"こういう言い方をしている

のだろう。


 加護するはずの存在の暴走。


 これが鹿羽さんを取り巻いている問題なのだ。

だとするならば、何か信仰における不具合を考える

必要があるし、定かではない情報を相手に与えて

いろいろと不自然に思わせるのも愚策だ。


 だから「神様を怒らせる」なんてふんわりとした

言い方をしている。はず。そこまで考えられる頭の

持ち主であるかは別として、その手の話術は仕事柄

身についているのだろう。


「怒らせる怒らせる…… いえ、アユムがうちに

 来てから短いから、何かあったとも……」

「中学時代のお話とかも?」

「ないわね。聞くのも野暮だもの」


 収穫なし。やむなし。


 だがまだ計画通りである。


「あの」

「はい?」


「何か悪魔に取りつかれて起きた事件があったって

 言ってましたが、そのときに触ったものとか

 残していたりしています?


  ポルターガイストとかが起きたときに、

 実際には触られていないのに指紋がくっきりと

 残っているなんて話がありますよね? それと

 同じように、もしかしたら何か手掛かりになる

 ものがあるかもしれません」

「あー、そうねぇ」


 こればかりはここに来なければ確認のしようがない

代物だ。一応、俺の腕にもその名残のようなものは

残っているとはいえ、それを調べられるのは自分の

正体を見破らせるに等しい。


 ポルターガイストか。あながち間違いではない。


 ただしその指紋の役付けが"聖痕"なだけであって。


「あんまり見せたくないんだけれど……」


 そう言っておばさんは台所から果物ナイフを

取り出してきた。


「思ったより物騒なものですね……」


 つい感想を述べてしまった。もっとも暴れたと

いうなればそこらじゅうの家具や食器の破片なんかを

出されるかと思っていたから、見た目通りの凶器に

なりえる品を持ってくるとは。


「洗っちゃったけど大丈夫かしらね?」

「ええ、大丈夫です」


 ミコは冷静に手ぬぐいを使ってそれを預かり、

刃を隠すようにくるめる。証拠物品の扱い方だ。


「これって、持ち帰っても大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。もしかしたらそれにも何か危ない

 何かがあったら困るからねぇ」

「確かにそうですね、そこの教科書も?」

「いえ、あれはどかしているだけよ」


 恐怖は伝播する。


 それは人に限った話ではない。その恐怖に携わった

モノにも伝わるものだ。人殺しのイス、呪いの人形然り。

ただの果物ナイフだったとしても、そこから広がる

恐怖がある。


 わけはない。だって触ったのは天使なんだもん。

今の話は忘れてもいいぐらい、どうでもいい話だ。


 といっても、さらっと何かあったら困ると言っていた

様子だと、おばさんはこの手の霊障関係に少なからず

知見があることもわかった。「鹿羽」の家系である

以上、小耳にはさむ機会も多いのだろうな。


「ナイフって、ケガとか大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。何もなくて本当によかったわ」

「もしかして刺されそうになったとか」

「そうそう」


 そうそう、って。さらっと済ませれる事情か?


「もー大変だったのよ。私が台所にいるときにいきなり

 呻くものですから」

「うめく???」

「ええ、もう「うがああああ」って」


 台所を指さしてそう続ける。


「それで何があったのかと思って台所からこの居間に

 来たら、このナイフを持っているんだもの。

 そして、横に倒れたかと思ったらそのナイフで

 床にこのナイフを突き立ててガリガリーっと」


 見て。と言って立ち上がってカーペットを

はがそうとしている。俺たちもそれに合わせて

椅子から腰を上げる。


「……」


 よけられたカーペットの下には確かに鋭利なもので

傷つけられた跡がくっきりと残っている。これこそ

聖痕なんじゃないのか? とは言いつつも床を

持ち帰るわけにはいかない。


「もー、いきなりのことだったから驚いたわ本当に。

 新しく買ったんですよ、これ」


 確かに、年季の入った家の内装に合わない新品の

ふわっふわなカーペットだなと思っていたが、まさか

床の傷を隠すために買ったものだったとは思いもしない。


「本当に大丈夫だったんですか?」

「ええ、倒れて床を切ったかと思ったらこのナイフを

 捨てて家を出て行ったんですもの」

「……もしかしてそれから家に帰っていないとか?」

「ええ、……はぁ、まったくアユムったら

 何しているんだか」


(これ持ち帰れない?)

(無茶言うな)


「……ん? これって、文字?」

「ええ、なんて物騒な言葉をのかしらねぇ」


 あのおとなしい子が。と後付けしたが、豹変後の

姿を確認している俺からしてみれば、これくらい

どうってことない。


 書道のように力強くカタカナ3文字


 ”コ”

 ”ロ”

 ”ス”


 思ったよりも神様はお怒りのようだった。


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