↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BACHI  作者: 三木男
7/9

力の制御

  


四つん這いになり、黒き獣の様に飛びかかるバチに山姥は驚き、距離をとる。何度も猪突猛進してくるバチの攻撃に触れるだけで、山姥は焼かれる。


山姥も必死に抵抗し、バチの腹に痛烈な一撃を放った。


「フゥッフゥッ…」


普通なら立ち上がる事の出来ない痛みだが、バチは黒炎をまとい、白目を向きながら山姥を睨みつける。


「あん?こりゃどういう状況だ?」


山姥とバチの間に割って入ったのはガクだった。朝まで放置すると言っていたが、心配で見守っていたようだ。理性を失ったバチは、父親に向かって襲いかかる。


「千年速ぇよ…」


ガクはそう言うと、一瞬でバチを気絶させた。それを見た山姥は、獲物を取るなとばかりに向かってくる。


「うるせぇ…」


ガクの前蹴りで吹き飛ばされ暗闇に消えていった。


「ハァ…どうしたもんかねぇ…」


バチに触れたガクの腕が、黒く焼けてあざのようになっている。変わり果てた息子を抱いて寺に帰るのだった…。


         ー 翌朝 ー


「イタッ!…あれ?なんで俺ここに…」


全身に痛みが走り、何があったのかわからない。外を見ると、ガクが焚き火でイノシシの丸焼きを作っている。


「親父…」


「おっ!起きやがったか!朝飯作ったんだからお前今日晩飯係な!」


変わらない親父の姿がそこにあったが、腕には炎が走った様なあざができていた。


「親父…どうしたんだよその腕…」


「これか?お前がやったんだろ!痛くも痒くもねぇけどな!」


「ごめん…何も覚えてなくて…」


辛そうな表情のバチを見て、ガクは安心し告げた。


「お前の神力は黒いだろ?あれはたぶんお前の気持ちに影響してんじゃねぇか?すぐにはわかんねぇだろうけど、一緒に考えてやっからくよくよすんな!!」


「うん…なんか神力使う度に怒りがこみ上げてくるんだ…」


ことの顛末を教えてもらい、罪悪感と恐怖が蘇る。怒りが込み上げる事、自我を失う事。バチは黒い炎についてよくわかっていなかったが、親父が一緒に考えてくれる事に、救われる気持ちになった。


「そうは言ってもなぁ…ちょっと考えるから飯食って朝の修行でもしてこい」


気乗りはしないバチだったが、言われるがままに修行に向かう。山頂の参拝を済ませ、精神統一と天地剛掌の型の練習をした。神力を使う事をためらったが、気持ちが落ち着いていることもあり、変わりなく使える。ひと通りの修行を終えガクのもとに戻ると、さっきと変わらない場所で頭を抱えていた。


「親父終わったぞ…」


「おう…速ぇな…」


「……」


「…めんどくせぇ!!考えてもわからん!!バチ神力全開でかかってこい!!ただし力に飲み込まれる寸前の所を見極めろ!!」


急に立ち上がり真剣な顔で構えた。心の準備もないまま向かい合って立たされる。


「親父俺また訳わかんなくなって傷つけちまうかもしんねぇぞ!!」


「そんなのわかってるよ!!考えてもわかんねぇ時はなぁ…ぶつかって話しあった方が速ぇんだよ!!俺は大丈夫だから全力でかかってこいや!!」


「わかったよ…しらねぇからな…」


覚悟を決めたバチは、全力で神力を増幅させ黒い炎を放出した。またあの怒りが込み上げてくる。必死にあらがうがどうしても止められなかった…。バチの身体は燃え盛り、髪も黒い炎になって理性を失ってしまった。


「やっぱりすぐには無理か…まぁいい…とことん付き合ってやるよ!!」


弾丸の様に拳を突き出しながら向かってくるバチ。それに合わせ、ガクとバチの拳が激しくぶつかり、凄まじい衝撃音が鳴り響く。休む間もなく連打が続き、黒と白の炎が宙を舞っている。


「おいバチ!聴こえてんだろ?このままだとまた大切な誰かを失う事になるぞ!!」


「ウォォォ!!」


激しい猛攻の中冷静に諭すガクだったが、黒の獣は一向に攻撃をやめる事はない。しかしバチにはちゃんと親父の声が聞こえていた。必死に力を制御しようと頑張るが、強い怒りに邪魔をされ、自分を抑えきれない…。


「まぁ…すぐには無理だよな…」


朝から始まった親子の壮絶な闘いは、夕方まで終わる事はなかった。最後には神力を放出しきったバチが倒れこむ様にして終わったのだ。ガクも疲れ果てその場で大の字になって隣りに寝転ぶ。


「自分の息子ながらなんて神力量してんだ全く…晩飯当番は見逃してやるか」


二人で大いびきをかきながら朝まで眠るのだった。


         それから数ヶ月


いつもの修行をこなしながら、ガクに新しい技や戦い方を習ったが、黒い炎の怒りを鎮める事は出来ずにいた。何度も挑戦し、いろんな葛藤と焦りで押しつぶされそうになっていった。そんなある日のこと。


「親父…今日も頼む…」


「なんだ辛気臭ぇ顔しやがって!出来る様になるまで何回でも付き合ってやるっつったろ!」


「ありがとう…じゃいくぜ…」


ゆっくりと黒い炎が揺らめき出し、バチの怒りも心の底で鼓動しだす。炎が強くなると同時にその力に呑まれていく。


「グッ…」


バチは激しくなる怒りに包まれ、自我を失いそうになる。このままじゃダメだと自分に言い聞かすが、どうにもならず諦めかけ、大切な人達に心の中で謝った…。


親父が身構えるが今日は違った。


「…俺…父…」


「ん?」


完全に理性を失う事はなかったのだ。

バチの中で変化があった。暴走しかける寸前で、胸に一筋の光が見えた。


          すずだった…


すずが心に浮かび必死に抱き締めてくれる。彼女の哀しそうな表情に怒りが鎮まり、止まることが出来た。


「やりやがったか!!」


親父の嬉しそうな声もちゃんと聞こえる。バチの黒い炎は形をなして変化した。獣の荒々しさは無くなり、拳に揺らめく炎と、鬼の角の様な黒い炎が額に二本生えている。荒い呼吸もなくなり深く深呼吸するバチ。


「親父…おまたせ!!」


「あぁ…んじゃやるか!!」


バチは修行の成果を確かめる様に、親父の胸を借りるのだった。黒い獣だった時とは違い、身も軽く自分の考えた通りに、ガクめがけて連打を繰り出す。


急な変化に驚く父親だったが、無駄の無い動きで受け流す。


「一丁前にいい動きしてんじゃねぇか!!」


「余裕そうな顔して言うなっ!!」


激しい攻防が続き、フェイントを織り交ぜながら襲いかかるバチ。隙を探して攻めると、チャンスが訪れた。ここぞとばかりに渾身の天地剛掌を放つ。今までで一番威力も型も完璧な、最高の一撃だ。


「いけぇッ!!」


「おっと!!」


ガクは少し焦り、防御の構えで応戦する。躊躇わず繰り出された天地剛掌を受け止めたガクだったが、遅れてくる黒炎の風を見て、大きく避け離脱したのだ。


「あぶねぇな!!なんだ今のは?」


「よ〜しッ!!」


親父に回避行動をとらせ、飛び跳ねて喜ぶバチ。自分の事の様にうれしくなりほくそ笑むガクだった。


「すげぇだろ今の!?」


「まぁまぁってとこだ!まぁ俺を倒そうなんざ千年速ぇけどな!!」


満足げな表情をするバチ。黒炎の制御に成功し、今日は修行を切り上げ二人で楽しそうに晩御飯を食べるのだった。


         ー 翌朝 ー


毎朝の日課である山頂の参拝に向かったバチは、清々しい気持ちで階段を駆け上がる。鼻歌混じりで気分がいい。いつもの様に参拝し、強く祈った。


「神様!!俺に誰にも負けねぇ強さをくれっ!!」


    頭の中に何やら声がした…。


     「…誰が為に力を欲す…」


瞬きし目を開けると、そこは真っ白な空間だった。巨大な身体に、恐ろしい形相をした何者かがそこに居た。


それは大門の左右にあった巨像の一体だったのだ。


           つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。