黒い炎
ゼンは初めての神力を目の当たりにし、疲労と達成感で気絶した。しかし表情は穏やかで少し微笑んでいる様にも見える。
「…よく頑張ったな…」
ゲンジもまた、息子を優しく見守っていた。ゼンは三日間事切れたかのように眠るのだった。
ー その頃 ー
「親父!!やったぞ!!とうとう神力を見つけた!!」
「やったじゃねぇか!まっどう考えても俺のおかげだけどな!」
バチは呆れた顔で溜息をついた。親父は擬音と動作ばかりで、教えるのが苦手なようだからだ。
「…まっいいけどさ!なんか親父の言ってた光とは違ってたんだけど?」
「なんだそりゃ?」
親父に黒い炎だったことを伝えると、少し考える素振りをしていた。
「ん〜…ゲンジとか他のダチにも神力使える奴等がいるけどよ…黒かった奴は見た事がねぇな!」
バチとガクは深く考えなかったみたいだが、とりあえず今は仲良く笑い合っていた。
「よしっ!!そんじゃ技教えてやる!!知りてぇか?」
「知りてぇ!!頼む親父!!一生のお願いだ!!」
「何度目の一生だ…仕方ねぇな!」
茶化されながらも教わるが、いきなり理解できない内容だった。
「よ〜く見とけよ?こうやって足を地面に…」
ドンッ!!
ガクの髪が逆立ち、力むと地面が窪んだ。それと同時にバチは立っていられない程の重圧を感じた。
「それからこうだ!!」
ブォーン!!
ガクの拳が空を切った矢先、遅れて凄まじい風が巻き起こる。
「すげーだろ?大地と体を一つにすんだよ!そうすりゃ力が全部一本に繋がってすげぇ威力になんだよ」
「親父ってまじで強かったんだな…」
見よう見まねで挑戦してみるバチは、大地を踏み締めて力んでみるが何も起きない…。親父は腹を抱え笑っている。
「なんだそれ?お前さっき何覚えたんだ?神力を使うんだよ!!まずは足先に流すイメージしてみろ!!」
まだあの感覚があるバチは、もう一度心臓にある黒い炎を探す。すぐにとはいかなかったが、なんとかたどり着いた。そこを起点に足の方へ意識を移動させると、思った通りに炎が葉脈の様な形で枝分かれし動く。
「…もう少し…」
とうとう足先まできた所で力いっぱい地面を踏み締めてみた。
ゴッ!!
明らかにガクとは違うが、ほんの少しだけ地面にかかとがめり込んだ。
「やりゃ出来るじゃねーか!」
比べ物にならないほどの威力を見せられた後だった為、バチは自分の非力さに納得できなかった。
「クソッ…だめか…」
「あたりめぇだろ!そんなすぐ出来る訳ねぇよ」
しばらく試してみるが、一向に上手くいかない。親父はいつも最初だけ口を出し、後は自分でやれとばかりに昼寝に入る。試行錯誤で何度も挑戦した。
ー 数日後 ー
散々苦戦し段々とコツを掴んできた。今では足だけではなく、身体全体に神力を巡らす事が出来るまでに成長してきたバチ。弱々しく感じていた神力の流れも、はっきり見える様になってきたのだ。
「もうちょいだ!もっと強く…」
精神統一し、神力だけに意識を向ける。親父に教わったあの技の動作も、体に染みるほど練習し、ものにしたバチは、その型に合わせ、大地と一つになり黒い炎を放出する。
「いけぇぇ!!」
ドンッ!!
修行場の石畳が、自分を中心に大きく窪んだ。
型通りに拳を突き出すと、遅れて風圧が起きる。黒い炎が具現化しバチの体にまとわりつきメラメラと燃えていた。
成功した喜びがあるはずだが、何故か今感じるはずのない怒りがこみ上げてくる。力に飲み込まれそうになる感覚だ。しばらく黒い残火があり、消えていくにつれて怒りも治まっていく。
「なんだったんだ今の…」
それを遠くから見ていたガクが気づき、ひとっ飛びでバチの前に降り立った。
「お前本当に神力黒いじゃねぇか!変わった奴もいるもんだな…」
二人で不思議そうな顔をしていたが、ガクはバチの頭を撫でながら先ずは褒めてくれた。
「よくやったじゃねぇか!天地剛掌ってんだその技!まだ全然粗があるから何回も練習しろよ!」
「それとな、今度は足だけに神力集めて走ってみろ!たぶん出来るはずだぞ!」
親父に褒められて少し自慢げなバチは、好奇心が勝り、言われた通り神力で走ってみた。
ビュン!!
信じられない速さで走る事ができた。今までの自分とは思えないスピードで動け、耳に風切り音が聞こえる程だ。爽快感を感じるバチだったが止まり方を教えてもらっていない。
「とまんないぞ親父〜!!」
ドガァーン!!
「……」
睨みつけてくる息子に申し訳なさそうな顔をして頭を掻いているガク。
「…うっかりしてたわ…」
「ポンコツ親父め!!」
とりあえず基礎の神力コントロールは出来る様になった。天地剛掌を習得した流れを話しながら、和気藹々と晩御飯を食べた。止まり方を教えなかった親父が、夕飯の片付けをすることになるのだった。
「茶碗洗い終わり!よしバチ表でろ!!」
「ん?」
外はすっかり暗くなり、何をするのか分からないままついて行くと、急に寺の大門を親父が開け始めた。
「!?」
ドカッ!!
背中を蹴飛ばされ寺の外に放り出されるバチ。
「何すんだよ!!」
ガクはニヤニヤしながら説明するのだった。
「せっかく神力使えるようになったんだからよ、今晩朝までババアから生き延びてみせろ!!」
「ハァ!?」
それだけ伝えると門が閉められた。
「朝になるまで開けねぇからな?死ぬ気で生きろ!じゃ俺は寝る!!」
「…まじかよ…」
急に始まる修行に困惑するバチ。しかし自分がどこまで成長したのか、やっと試せる日がきたと胸が高鳴る。決意し、月明かりを頼りに森へ歩き出した。
「暗いな…」
気持ちの悪い笑い声がした。震える足を押さえ、声のする方へ進んでみる。森の一部が開けている所に辿り着くと、山姥が生き物を包丁で刺していたのだ。
急に震えが止まらなくなり、今にも叫び出したくなったが、必死に口を塞いでうずくまる。以前感じた恐怖が呼び起こされたのだ。距離を取ろうと息を殺して動きだすバチだったが、木の枝を踏み砕いてしまった。
「……」
「…うまそうやのぉ…」
恐怖で振り向く事が出来ないが、草の揺れる音と声は、どんどん近寄ってくる。勇気を振り絞って振り向くと、そこには何も居なかった…。
「あれっ!?」
山姥が消えるはずはないと、辺りを見渡すがどこにも姿は見えない。安心し、ため息をついたとたんに頭上から温かい滴が垂れ、上を見上げると目の前に顔があった…。居なくなったのではない。暗いのと山姥が大きすぎた為、バチを跨ぐ様に覆い被さっていたのだ。
「とって喰うちゃろうかぁ!!」
「うぅ!!」
声にならない声を出しながら、とっさに天地剛掌を山姥に向けて放っていた。確実に命中していたが、どうなったかも見ずに走り出した。神力を使った移動は、自分の身体とは思えない程速かった。
「ハァハァハァ…」
どれだけの時間、どのくらい走ったかもわからないが、隠れられそうな窪みを見つけ、必死に滑り込んだ。呼吸を止め、ピクリとも動かなかった。音が消え、追ってくる気配もない。
「死ぬかと思った…」
独り言で自分を落ち着かせるバチは、ゆっくりと立ち上がった。一瞬暗闇が輝いた様に見える。暗闇から、月明かりに照らされた大きな包丁が飛び出し、間一髪の所で避ける。すかさず体勢を立て直すが、山姥が鋭い爪でバチの胸を切り裂いた。
「ぐぁぁっ!!」
ボタボタと胸の血が流れ出し、激痛に耐えるバチ。
「美味そうやのぅ…とって喰うちゃろうかぁ」
長い舌を出し、爪をつたう血を舐めながら笑っている。大きな包丁を振りかぶり、バチめがけて向かってくる。もう生きるのを諦めそうになった時だった…。
すずの顔が浮かんだ。
笑顔で何度も名前を呼んで励ましてくれる。バチの恐怖は消し飛び、憎しみがこみ上げて爆発した。暗闇よりも黒い炎が身体を包み、髪は黒い炎のように燃え盛り、なびいている。自我を失い復讐の化身となったバチは、獣の如く山姥に襲いかかった。
つづく




