稲妻より速く
黒い炎のような物だった…
何かが違うような気がしたが、何よりも自分の中にある神力を見つけた事に、喜んで飛び跳ねるバチ。
「やった…!!遂に俺も強くなれる!!」
親父は本堂から、和やかな表情で喜ぶバチを見守っていた。
ー 一方その頃 ー
バチ達と別れたゼンとゲンジは、二人とは真逆の方を目指していた。
「今から向かう所はかなり危険だぞ…」
親父は真剣な眼差しを向ける。
村からはそんなに離れていないが、誰も近づかない廃遺跡だ。昔行こうと駄々をこねるバチをすずと二人で止めた事がある。何せここにはとんでもなく速い、危険な魔物が棲みついているという噂があるからだ。
「親父…俺あそこに行ったら一分と経たずに死んじゃうんじゃないか?」
「俺が守ると言っただろ!お前は剣の事だけ考えればいい」
振り返るゲンジ。刀に手を当て、足元に咲いた花を見て静かに眼を閉じた。
チャキンッ!!
一瞬光り、鉄の残響だけが残った。
「見えたか?」
なんの事かわからないゼンが、不思議そうな顔をしていた。
「その花を手にとってみろ」
そう言われ花に触ると、茎の部分が綺麗に斬られていた。親父はゼンに見えない速度で両断していたのだ。
「今のが一閃と言う技だ…お前にはこれを会得してもらう」
そう涼しげに言うゲンジだが、ゼンにはさっぱり理解できなかった。
「あの遺跡には雷獣という魔物が居てな…速くて好戦的な奴なんだが…お前にはそいつと俺の打ち合いを見て速度に慣れてもらう」
「そんなの近くで見てたら俺が殺されるんじゃ…」
ゼンは怯えていたが、震える足を押さえて遺跡に向かうのだった。
今は昼間だが、何故か近づくにつれ、キラキラと閃光が舞っている。遺跡の中に到着した頃にはビリビリと音がし、全身の毛が逆立ってさらに恐怖心を煽る…。親父は開けた場所で立ち止まると、また眼を閉じた。
「よく見ておけ…」
その瞬間に親父は消え、金属音が鳴り響く。
電気と火花がゼンの周りを飛び交って綺麗だった。怖さと感動が入り混じり、真剣に見るが親父と雷獣の姿は捉えられない。
「なんだよこれ…全然見えねぇ…」
雷獣が暴れ狂い、建物を蹴り方向転換し、遺跡の壁が砕けて飛び散っている。攻防の合間にも関わらずゲンジは落ち着いた声色で言う。
「ゼン…今はまだ眼で追うだけだろうが、見える物だけが全てではない…一旦離れるぞ」
一瞬現れ、遺跡の外を指差すゲンジに従って離脱した。縄張りを離れると雷獣は追って来ないようだ。
「どうだった?」
「…何も見えなかったけど…凄かった…」
感動したのと同時に、自分の無力さを実感していた。想像以上に親父と雷獣の動きが見えず、少し落ち込んでいるようだ。
「なにもすぐに見えるとは思ってない…何度も繰り返す内に見えるものだ…一閃の動きを教えてやる!まずはそこからだ」
「わかった…必ずやり遂げてみせる!」
さっきから思っていたのだが、親父は一閃をする前に眼を閉じている。一閃の極意なのかクセなのかと、考えてみるがわからなかった。
「なぁ親父!なんで眼開けないんだ?」
「眼だけではない!自分の五感で周囲を把握する方が正確に状況を判断出来たりするものだ!」
それに続き一閃の動きを習った。構えは納刀から。刀は添えるだけで、腰の回転で抜くそうだ。そして振り抜いて即座に納刀…これが一閃の基本構えらしい。
「言ってることはわかるんだけどさ…それをあんなに速くして、なおかつ眼瞑ってやるって…」
「直ぐには出来んだろうな!だからお前には毎日俺と雷獣の動きを見る事と、肉体だけでなく精神全てを鍛えてもらう…」
「……やってやるよ!!」
それから二人は本格的に修行を開始するのだった。親父にボロボロの刀を貰い、毎日何時間も抜刀、納刀を繰り返し、近くの森で生き物や地形を肌で感じる修練を積み重ねていく。
「もっと速く…」
シュパッ!!
木剣とは違い、刀は九歳の腕にはあまりに重かった。親父の様な鋭い金属音を目指して頑張るがなかなか上達しない。
「ハァハァ…」
しかし、いつもの様に眼を瞑って生き物を把握していると、周囲に蝋燭のような物が見える様になったのだ。大小様々に点在している。
雷獣の動きをとらえる訓練に成果が出始めた。大きな蝋燭が高速で移動するのが見える様になってくる。最初は火花しか見えなかった光景が、今は親父とぶつかる瞬間にだけ、大きな爪と黄色い毛をした獣が、はっきり認識できる。
「何だよアレ…」
毎日の修行で慣れてしまい、普通に見ていた光景だったが、雷獣の姿を目の当たりにして、恐怖が蘇った。
「見える様になったか…」
これで次の段階に進めるとの事だ。ゼンが見えた蝋燭は、他者の神力というものらしい。急な情報に戸惑ったが冷静に親父の話を聞いた。
「神力は身に宿す事もでき、外に放出する事も出来る!今お前が見えてる蝋燭は、他者の神力を把握している状態だ!」
使える者は少ないが、見え方は人それぞれ違うみたいだ。ゲンジには青い魂の様に見えているらしい。一通り説明を受け、今日からはいつもの修練と並行して、神力のコントロールも覚えていく事となる。
具体的な練習方法は、精神を極限まで落ち着かせ、邪念をなくし、神力だけを意識する事で習得出来るようだ。
「簡単に親父は言うけどさ…どうすればいいんだよ!」
「今はかなり寒いだろうが…やはり滝行が一番手っ取り早いな!」
「……わかったよ!!」
それからすずが死んでしまったトラウマの滝に向かった。着いてすぐ涙がこぼれ落ちそうになったゼンだが、グッと拳を握りしめ水面に足をつけた。心臓が止まってしまいそうな程冷たかったが、親友との約束を胸に前に進んだ。
ザザァー!!
雑念を感じる間もない程の音と水に、弱音が出そうになるが、必死で己の神力を探し続けた。
ー 数日後 ー
「ウワァァ!!」
寒さと全身の痛みに耐える息子を見て、父親も苦しんでいた。何度も頑張れと胸の中で応援するが、手を貸してやる事はできない。そうして時間が過ぎていく。
冷たい水と痛みで雑念が吹き飛んでいき、何も考えずただ、神力だけに集中する。最初は何も感じられずにいたゼンだったが、全身に血管の様な光が流れているのに気づいた。
「あれ?…これって…」
「!!」
その感覚を掴んだゼンは必死にその光を辿る。指先と足先から流れを追って進んで行くと、心臓の辺りに光輝く炎があった。とても綺麗で釘付けになったが、更に強く念じるとその炎は呼応する様に大きくなっていく。
「これだ!!」
神力の核心に触れ、高まる鼓動に連動し、光の炎は強くなっていく。
ピカァー!!
ゼンの体全体が神々しく光り輝く姿に、父親は驚愕する。
「これは…」
全ての力を放出し疲れ果てたゼンは、滝に押し潰されそうになりながらも、何とか自力で陸に上がってきた。
「やったぞ…親父…」
バタンッ!
死物狂いで耐え抜いた息子を抱きしめながら、ゲンジは誇らしげに涙を流すのだった。
つづく




