己の可能性
同じ志を持ちながらも、別々の道に進んでいくバチとゼン。遠ざかる友の背中を振り返らずに修行の地に向かう。
「なぁ親父、修行ってどこでするんだ?」
「言ってなかったな!村から見えるあそこのデカい山があんだろ?あそこだ!」
それはずっと冒険してみたかった場所だ。復讐心に燃えていたバチだったが、不覚にもワクワク感が勝ってしまった。存在感のある山で頂上には雪がうっすら掛かっている。
「あそこにはデケェ寺院があってな!強い魔物もウヨウヨしてんだよ!」
「へ、へー」
それを聞いたバチは少し怯えた様子だったが、ガクはニヤっとして息子の背中を叩いた。
「心配すんな!おめぇはまだ弱いけどよ、強くなんだろ?それまで父ちゃんが守ってやる!」
「…絶対に強くなってやる…」
そうこうしている内に、修行場所に着いた。
木々に囲まれていて、冷たい風が吹き、寂しさを感じる場所だ。大きな門の両脇には恐ろしい形相の像があり、まるで門番の様に見える。奥には立派な鳥居があり、とても神々しい。この光景に唖然とするバチだった。
「すげぇ〜だろ!この山は恐山っつってな、怖くて誰も近づかねー場所なんだ!!」
「…すげーな…」
恐山に圧倒されたが本来の目的を思い出す。
「よしっ!!修行開始だ親父!!」
「殺す気か!!もう夕方だぞ?飯どうすんだよ!!」
「え?あるんじゃないのかよ?」
キョトンとした顔で問うバチにガクはまたもやニヤついた。
「あるわけねぇーだろ!甘えんじゃねぇ!自分の飯は自分で取れ!!」
「まじかよ!!」
修行が始まった瞬間だった。
「だけどよ…今日だけは俺が全部してやる…」
とても不自然だった…。
急に真面目な顔をして立ち上がり、川魚を素手で軽々捕まえるガクの姿を見て、親父の凄さを知る。手慣れた様子で火を起こし、二人で焼き魚を食べた。
「父ちゃんすげ〜だろ?感動してんだろ?」
「まぁまぁだよ!」
談笑をし、辺りはすっかり暗くなってきた頃。
「そろそろか…」
そう言うと険しい表情に変わるガク。静まり返った森に耳を澄ませる親父。バチも真似をし神経を研ぎ澄ませてみる。
「うまそうやの〜…」
微かにそう聞こえた…
「うまそうやのぉ〜とって喰うちゃろうかぁ…」
今度はハッキリ聞こえた。
「来たか…!」
親父が立ち上がって言った。
「…こいつは恐山に昔から巣くう魔物でな…夜になると食い物を探して徘徊してんだよ…」
バチは身体が震えていた。言葉を発さず、声のする方を一点に見つめている。
「美味そうやのぉ…」
目の前の暗闇からその化け物が顔を見せた…。
爆発したような白髪に、目玉を剥き出しにし、包丁を持った巨大な老婆の姿だ。ヨダレを垂らしながら舌舐めずりをする。身体が硬直して動けないバチ。
「まっ最初はこんなもんだな…」
そう言い親父がバチを肩に抱え上げとんでもない速度で森を駆け抜ける。遠ざかって行く二人に老婆の化け物は、悔しそうな雄叫びをあげながら追いかけて来る。
「わしのじゃ〜っ」
さっきの寺に着き、親父は巨大な門を片手で開いた。腕に血管が走り、筋肉が膨らんでいるのを見てバチは驚愕する。化け物が後ろに迫ってきたが、気にする様子もなく扉を閉めるのだった。
「ふぅ〜…どうだったよバチ!!」
寺に入ると化け物の気配は消え、心が落ち着いた。
「なんなんだよあのデカいババアは!!」
「だから言ったろ!あれは山姥だ!食い物探して徘徊してんだよ!因みにあいつの好物は人間の子供だ!!」
サラッととんでもない話をするガクに頭にきたバチは言う。
「じゃなくて…なんでそんな危ない奴の所に連れて来たんだよ!?」
「なんでって…お前の修行相手はあのババアだ!!」
一生懸命にあのババアを倒せる想像を膨らませるバチだったが、まるで見当がつかない。
「いやいや…あんなの倒せる訳ないじゃねぇかよ!!」
「まぁ…そりゃそうだわな!」
大笑いするガクだったが、意地悪をするつもりだった訳ではない。
「ここに居りゃあのババアも他の魔物も入ってこれねぇよ!とりあえず今日は寝ろ!!明日から忙しくなるぞ!!」
そう言われ不安を胸に境内の本堂で床に伏せるのだった。
ー 翌朝 ー
「オラァ!!起きろバカ息子!!」
ガクの声で目を覚まし、知らない天井を見て、改めて自分の境遇を思い出した…。
「朝飯取りに行くぞ」
ズズッ!!
門を開ける父親を見て慌てて止める。
「バカかよ親父!!あのババアに見つかっちゃうぞ!!」
「ハァ…あのな、山姥は夜しか出ねぇんだよ!!」
恥をかいた気分だったが、顔を真っ赤にして納得した様子のバチ。その後父親に見守られイノシシを追い回し、木刀で力いっぱいの一撃をくらわせなんとか初めての狩を成功させた。どうだと言わんばかりに親父を見るが、鼻をほじっている。
何日分かの食料は確保できた。食事を済ませ、寺に帰り門の先に向かう。昨日見た大きな鳥居をくぐると、そこには大量の岩が散乱している。
「なんだよここ…なんでこんなに荒れてるんだよ!?」
「あ〜俺のせいだ!昔修行したんだよ!いいか?見とけよ?」
そう言うと巨大な岩を力一杯に殴る父。
岩には何も変化がない…。
「……」
「いっっってぇ〜!!だからやりたくなかったんだよ…ふぅ…次よ〜く見とけ!!」
ドガァーン!!
空気が重くなり、親父が一瞬光った様に見え、大きな岩は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「…すげぇ…」
自然とこぼれた一言だった。バチは宝物を見つけた様なキラキラした目で、親父を見つめる。
「どうだ?ババアぶっ飛ばせるイメージ湧いただろ?」
「あぁ!!教えてくれ!!俺にもその力があればイケるっ!!」
尊敬の眼差しで、ガクに駆け寄る息子の迫力に驚いた父だが、冷静に話す。
「誰でも出来るもんじゃねーんだけどよ…お前なら出来るだろーさ!俺と母さんの息子なんだからな!!」
それから人の中には、神力と呼ばれるものが存在する事を聞いた。ほとんどの人間には微々たる量しかないらしく、まともに使える者はそうそういないみたいだ。
使い方を詳しく聞いたが、ガクには教える才能が皆無の様だ…。なにやら強く想うと身体の中に光が見えるらしい…。
「だからぁ…こぅ…大切なもん想うとだなぁ…光がだな…まぁとりあえず自分の中の光を探せって事だよ!!」
自信満々に言うガクだが、全く理解出来ず自分で解決する事にしてみた。
「あ…それとだな!毎日山のてっぺんにある祭壇に祈りを捧げろ!絶対に一日も欠かすなっ!!」
何のために力を欲するかを、強く願うみたいだ。何やらとても大事な事らしい。山頂へ続く階段は遥か遠くまであり、それを毎日ダッシュで駆け上がれとの事だ…。他にも全身にオモリをつけられ肉体を鍛えるメニューもてんこ盛りだった。
「親父…殺す気かよ…」
「あん?おめぇ強くなるって意気込んでたじゃねぇか?もう泣き言か?」
一日目は修行を最後までこなせなかったが、絶対にすずの仇を討つという想いでくらいついた。
「諦めて…たまるか…」
そう言い、死んだように気絶した。
倒れた息子を優しく拾い上げ、辛そうな表情を浮かべる父親だった。
ー 翌朝 ー
「ウォォォ!!」
静かな寺に響く叫び声。今日こそはと階段ダッシュをするバチの姿があった。頂上につき祭壇で強く念じた。
「頼む神様!!すずの仇を討つ力を!!」
そう言ってよろけながら階段を下る。肉体的にはかなりボロボロだったが弱音を吐かず修行をこなしていった。
そうして何日か過ぎた頃…
いつもの様に岩の上で座禅を組み、己の中にある光を探していると、遂に何かを見つけた。
それはとても黒かった…
つづく




