ペールピンク
「ホットのカフェモカを2つで。」
「秋也もカフェモカ?珍しいね。」
普段はブラックコーヒーしか飲まないくせに。
「たまには同じものを頼んでみようと思ったんだよ。」
「らしくないね〜。」
「うるせえ。」
本当に、らしくない。
らしくない理由は解っている。
時計の針の音がうるさい。
いっそ止まればいいのにと、叶いもしない願いを心でつぶやく。
「あのさ、」
「んー?」
「.....次のデートはどこがいい?冬になったら近くでクリスマスマーケットもあるらしいけど。」
「そうだねえ~、どうせならイルミネーションも見に行きたいな。あそこの結構凄いらしいし。」
おー、いいじゃん、と秋也の空返事が耳に残る。
私たちは、今日だけ付き合うという約束も守らずに先のデートの話をしていた。
次なんてないことを、きっとお互いわかっていたから。それでも今は未来の約束をすることでしか私たちを繋ぎ止める術はない。
傍から見たらなんて馬鹿みたいな悪あがきなんだろう。
悲しくなって思わず口を噤んでしまった。
「桜さ、あの時のこと覚えている?」
「あの時って?」
「俺が桜の手を取った3年前の話。」
もちろん覚えている。私はあの時のことを忘れなかった日も、後悔しなかった日もない。
「え〜、何それ。そんなことあったっけ。」
「おい、忘れてんじゃねえよ。どんだけ俺が、」
そこまで言って秋也は口を閉ざした。
「いや、なんでもない。」
「1番気になるやつじゃん、ずるいよ秋也。」
ずるいのはお前だと言わんばかりの顔で秋也が私を見つめる。
「私ねー、夢があるんだ。」
耐えきれず話をすり替えた。
「急になんだよ。」
秋也が少し寂しそうな顔で悪態をついた。
「綺麗なペールピンクのウェディングドレスを着ること!」
「白じゃなくて?」
「うん。ペールピンクのウェディングドレスってね、豊かな愛情と幸福を意味してるんだって。めちゃくちゃ素敵じゃない?」
少し間を置いて、秋也が言った。
「そんなのいくらでも叶えてあげるよ。」
目の前には今にも泣きそうな顔の秋也がいた。
時刻は17:52。
私の頬もまた、冷たく濡れた。




