二人の土曜日
無慈悲にも時は流れていく。
あれから、桜は本格的に入院することになった。
桜からは、「ちょっと体調崩しちゃって」としか言われていない。
ちょっと、じゃないことくらいとっくの昔に分かっていた。でも、「ちょっと」であって欲しかった俺はそのまま深く問い詰めることは出来なかった。
毎週土曜日、俺は決まった時間に桜にあるものを届けることにした。
「ではこちらにお名前をお書きください。」
面会バッジを受け取り、208号室へ向かう。
「秋也、今日も来てくれたんだ!暇なの?」
「暇じゃないですー。まだ2回しか来てないだろ。」
まあそうだけどさ~、と呑気に話す桜は相変わらず愛おしい。
「でさ~....ってねえ、聞いてる?」
桜はわざとらしく頬を膨らませてこちらを睨みつけている。
「ごめんごめん。聞いてるよ。朝ごはんの話だろ?」
「一言もそんな話してないんだけど!」
あの日のことが嘘だったみたいに、俺たちは不自然なくらいに今まで通りに戻った。
「じゃあ、俺そろそろ行くから。」
「....来週も、来てくれる?」
桜の瞳は揺れていた。
「おー、当たり前だろ。」
情けなくも、俺の声は震えていた。
この時、何故俺は桜の顔を見なかったんだろう。今になって後悔しても遅いのに。
一
来週、は来なかった。
桜の訃報を聞いたのは金曜日の夜22時をすぎた頃だった。
葬儀は親族だけで執り行われるとの事だった。
生前の桜の希望だったらしい。
人望の厚い彼女ならではの想いがそこにあったのだろう。
最期の最期までお人好しで、この期に及んでまた愛おしさが増すばかりだ。
本当に勘弁して欲しい。
土曜日。
本当なら今日は桜に会いに行く予定だった。
花屋に予約取消の連絡しないといけないな、と思っていた矢先、電話がなった。
「お世話になっております。佐倉様のお電話番号でお間違いないでしょうか。フラワーショップ白海でございます。」
「あ、お世話になっております。佐倉です。すみません、ちょうど予約キャンセルの電話をしようと思っていまして、」
「その件につきまして、実は少々お話したいことがございまして。本日店頭までお越しいただくことは可能でしょうか。」
腫れた目と靄のかかった脳内。
俺は到底外出する気にもなれなかったが、キャンセルする身としてあちら側の話も無下にできない。
何より話ってなんだ。
「はい。本日の午後、いつもの時間に伺います。」
恐れ入ります、よろしくお願いいたしますの言葉を残して電話は切れた。
とにかく準備しなければならない。
「あー、服、着替えないとな....」
聞き馴染みのない通知音が鳴った。
今どきメール?迷惑メールだろうか────




