第21話 全種族最後の決戦前夜 ~灯火が一つになる時~
天空の要塞「アルカディア」は、紫の霧に完全に包まれていた。
虚空の巨神が目覚めてから二十五日目。
大陸の半分以上が紫の霧に侵され、生き物は狂い、森は枯れ、川は毒に染まっていた。
明日の朝、覚醒同盟は総力で巨神の本体へ挑む。
今夜が、最後の決戦前夜だった。
要塞の大広間には、六種族の代表と主要メンバーが集まっていた。
巨大種族は縮小形態で、人間サイズのテーブルを囲んでいる。
中央には、俺とリナが並んで座っていた。
ヴォルガルドが重々しく口を開いた。
「明日の作戦は単純だ。
我々が巨神の注意を引きつけ、ケンタが核に到達する。
成功率は……正直、低い。
だが、やるしかない」
バルドガンが鋼の拳をテーブルに軽く置き、
「要塞は最後の砦として機能させる。
わしら鋼のドワーフは、巨神の足止め用の巨大障壁を全力で展開する。
時間は稼げるはずじゃ」
シルヴァリアが静かに頷く。
「森の根で巨神の動きを封じ、癒しの力を皆に送り続けます。
ただ……私の力も、長くは持ちません」
ガルヴァンが牙を軽く鳴らし、決意を込めて言う。
「神獣族は最前線で突撃する。
ルカを含め、若い者たちも覚悟はできている」
ルカが拳を握り、目を輝かせながらも声が少し震えていた。
「俺、絶対に逃げない。
ケンタ兄貴と一緒に、巨神を倒す!」
エルウィンが静かに地図を指差す。
「人間の国々からも、ようやく援軍が到着しました。
魔法師団と騎士団が、霧の浄化と後方支援を担当します。
ケンタ、あなたの光が鍵です」
俺はみんなの顔をゆっくりと見回した。
胸が熱い。
ここにいる誰もが、命を懸けて戦う覚悟を決めている。
「ありがとう……みんな。
正直に言う。
俺は怖い。
巨神の力は、俺の光すら飲み込む。
でも、巨人族の真実を知ってから、俺はわかった。
巨大であることは、力じゃなくて責任だ。
この世界を守る責任を、俺は背負う。
みんなと一緒に、絶対に勝つ」
リナが俺の手に自分の手を重ね、強く握った。
「私もいるよ。
ケンタの隣で、できることを全部やる。
みんなで、生きて帰ろうね」
広間に、短い沈黙が落ちた。
やがて、バルドガンが豪快に笑い始めた。
「ははは! こんな重苦しい前夜は嫌じゃな!
最後の夜くらい、思い出を作ろうではないか!」
グラムが頷き、酒の入った杯を掲げる。
「そうだ! 鋼のドワーフの酒を振る舞うぞ!
みんな、飲め!」
ルカが目を輝かせて立ち上がる。
「俺も飲みたい!」
シルヴァリアがくすくす笑いながら、花の入った杯を配る。
「森の蜜酒です。
心を落ち着かせ、力を与えてくれます」
ヴォルガルドも珍しく杯を受け取り、低く笑う。
「我も付き合おう。
熱い湯の次は、熱い酒か」
ガルヴァンがため息をつきながらも、杯を手に取る。
「族長として、若手を見守るしかないな……」
広間は一気に和やかな雰囲気に包まれた。
みんなで杯を合わせ、酒を酌み交わす。
巨大種族は縮小したままなので、普通の人間と同じように飲める。
俺も杯を掲げ、みんなと目を合わせた。
「乾杯。
明日、絶対に勝つために」
「「「乾杯!」」」
笑い声と杯の音が響く中、
それぞれが少しずつ、自分の想いを語り始めた。
ルカが俺に向かって言う。
「ケンタ兄貴、俺……最初は巨大化が怖かった。
でも、今は違う。
兄貴と一緒に戦えるのが、誇りだよ」
ガルヴァンが静かに頷く。
「我も同じだ。
お前が来てくれなければ、神獣族はまだ怯えたままだった」
シルヴァリアが優しい声で続ける。
「森は、長い間、焼かれる恐怖しか知りませんでした。
ケンタ、あなたの光が、新しい芽を咲かせてくれました」
バルドガンが杯を空け、笑う。
「鋼の誇りを、取り戻せた。
お前のおかげじゃ、盟主」
ヴォルガルドが低く、しかし温かく言う。
「我は数百年、隠れて生きてきた。
お前が呼び覚ましてくれた。
感謝している」
エルウィンが静かに微笑む。
「私も……里を守るために旅に出ましたが、
今は世界を守るために戦っています。
それが、誇らしい」
リナが俺の肩に寄りかかり、小さな声で囁く。
「ケンタ……私も、みんなも、ケンタがいるからここにいるよ。
明日も、絶対に一緒に帰ろうね」
俺は胸がいっぱいになり、みんなに頭を下げた。
「本当に……ありがとう。
前世の俺は、誰も守れなかった。
ただの平凡な人間だった。
でも今は違う。
みんなと出会えて、巨人として生まれてよかった。
明日、絶対に勝つ。
みんなと、この世界を、取り戻す」
広間に、再び静かな決意の空気が満ちた。
やがて、みんながそれぞれの場所に戻り始めた。
最後に残ったのは、俺とリナだけだった。
リナが俺の手を握り、優しく微笑む。
「ケンタ。
怖い?」
「ああ、怖いよ。
でも……嬉しい。
お前と、みんなと、最後の夜を過ごせて」
リナが俺の胸に顔を埋める。
「私も。
明日、絶対に勝とう。
そして……戦いが終わったら、
普通のデート、しようね。
人間サイズのケンタと、私で」
俺はリナを抱きしめ、静かに頷いた。
「ああ。約束だ」
要塞の外では、紫の霧が激しく渦を巻いていた。
虚空の巨神の気配が、ますます強くなっている。
しかし、要塞の中では、
六種族の灯火が一つに重なり、
金色の光が静かに、強く輝いていた。
明日は、最終決戦の日。
覚醒同盟は、全力で巨神に挑む。
俺はリナを抱いたまま、夜空を見上げた。
「みんな……絶対に、生きて帰るぞ」
最後の決戦前夜は、静かに更けていった。
(続く)




