第16話 最初の使徒 ~天空の要塞を巡る夜戦~
アルカディア大温泉の湯気がまだ夜空に残る頃、
異変は突然訪れた。
ヴォルガルドが湯から体を起こし、鋭く叫んだ。
「南方より黒い霧が接近! 数は三十……いや、五十以上!
これは……異星の巨神の使徒だ!」
その言葉と同時に、要塞の警報が鳴り響いた。
シルヴァリアの根が張り巡らせた結界が、赤く点滅し始める。
俺は即座に巨大化。
30メートル級の体で剣を抜き、要塞の屋上に駆け上がった。
リナを掌に乗せ、安全な場所へ移動させる。
「リナ、下がってろ! みんな、戦闘態勢!」
ガルヴァンとルカが神獣形態に巨大化し、銀の毛並みを夜風になびかせる。
バルドガンとグラムが鋼の巨人形態となり、ハンマーと斧を構える。
シルヴァリアの体が輝き、世界樹の根が要塞全体を覆うように広がる。
ヴォルガルドは空へ舞い上がり、炎を灯した翼を広げた。
黒い霧が、要塞の南方から急速に迫ってくる。
霧の中から現れたのは、異様な姿の怪物たちだった。
体長15〜25メートル。
人間のシルエットに似ているが、皮膚は金属のような黒光りで、
関節部分から紫色の光が漏れている。
頭部はなく、胸の中央に赤く輝く「核」が浮かんでいる。
「使徒……!」
俺は剣を握りしめた。
「みんな、核を狙え! あれが弱点だ!」
最初の使徒が要塞の壁に激突した。
ドゴォォン!
鋼と森の複合壁が大きく軋む。
シルヴァリアが即座に根を伸ばし、壁を修復しながら叫ぶ。
「森の結界、強化します!」
ルカが咆哮を上げて突進。
35メートル級の巨大狼神獣が、爪で使徒を切り裂く。
しかし、切り裂かれた傷が紫の霧を噴きながら瞬時に再生する。
「再生が早い! ケンタ兄貴、どうする!?」
俺は光の剣に力を集中させ、一閃。
金色の光の斬撃が使徒の胸の核を直撃し、爆散させた。
一匹が灰となって消える。
「核を破壊すれば倒せる! みんな、散らばるな!
連携を保て!」
ヴォルガルドが上空から炎の息を浴びせる。
炎が使徒の群れを包み、数十匹が同時に燃え上がる。
しかし、燃えながらも再生しようとする個体がいる。
「我の炎でも完全には焼ききれん……!」
ヴォルガルドの声に焦りが混じる。
バルドガンが鋼の巨体で突進し、ハンマーで使徒を叩き潰す。
「鋼の力で粉砕じゃ!」
グラムが横から斧で援護し、二人がかりで核を砕いていく。
ガルヴァンが素早い動きで使徒の間を駆け抜け、
爪と牙で核を正確に抉り出す。
「我ら神獣の誇りを見せろ!」
シルヴァリアの枝が何本も伸び、使徒の動きを封じながら、
「癒しの光」で仲間たちの傷を瞬時に回復させる。
俺は要塞の中心で指揮を取りながら、
光の剣を振り回して使徒を次々と斬り倒した。
しかし、敵の数は減らない。
新たに霧の中から、次々と使徒が湧き出てくる。
「くそ……無限湧きか!?」
リナが要塞の安全エリアから叫ぶ。
「ケンタ! 使徒の核が光ってる方向……あそこが本体かも!
霧の中心に、大きな影が見える!」
俺は視線を集中させた。
黒い霧の奥に、通常の使徒より一回り大きい「親使徒」が浮かんでいる。
その胸の核が、紫色に強く脈打っていた。
「みんな、あの親を倒せば一気に片付く!
俺が突破する! 援護を頼む!」
ヴォルガルドが即座に反応。
「我が道を作る!」
古竜が全力で炎を吐き、使徒の群れに一直線の道を開ける。
俺は全力で突進。
光の剣を最大出力で構え、親使徒に向かって跳躍した。
親使徒が反応し、黒い触手を何本も伸ばしてくる。
「させるか!」
俺は空中で体を捻り、触手をかわしながら剣を振り下ろす。
光の斬撃が親使徒の核に深く突き刺さった。
「ぐおおおおっ……!」
親使徒が苦痛の叫びを上げ、周囲の使徒たちが一斉に動きを止める。
核が激しく明滅し、紫の霧が爆発的に広がる。
その瞬間——
シルヴァリアの根が一斉に伸び、親使徒の体を絡め取った。
「今です、ケンタ!」
俺は剣をさらに深く押し込み、光の力を最大まで解放した。
金色の爆発が夜空を照らし、親使徒の核が粉々に砕け散った。
「これで……終わりだ!」
親使徒が崩れ落ちると同時に、残りの使徒たちが黒い霧となって消えていった。
要塞の周囲に、静寂が戻る。
俺は息を荒げながら剣を収め、人間サイズに戻った。
体中に無数の傷ができていたが、シルヴァリアの癒しの光がすぐに回復していく。
みんなが集まってくる。
ルカが興奮冷めやらぬ様子で飛びついてきた。
「ケンタ兄貴、すげえ! 一撃で親を倒したぞ!」
ガルヴァンが俺の肩を叩く。
「よくやった。
お前がいなければ、要塞は危なかった」
バルドガンが笑いながら言う。
「鋼の要塞が、初めての戦いで役に立ったな。
次はもっと頑丈に改良するぞ!」
シルヴァリアが優しく微笑む。
「皆、無事で何よりです。
森も、皆を守れて嬉しい……」
ヴォルガルドが空から降りてきて、低く唸る。
「しかし……これは最初の波に過ぎん。
異星の巨神の本体は、まだ遥か地下の深くに眠っている。
だが、確実に目覚めに向かっている」
俺は夜空を見上げ、深く息を吐いた。
温泉の温もりがまだ体に残っているのに、背筋は冷えていた。
「みんな……よく頑張った。
この要塞は、無事守れた。
でも、これからもっと大きな戦いが待ってる。
俺たちは、まだ強くなれるはずだ」
リナが俺の手を握り、微笑んだ。
「うん。
みんなで、絶対に勝とうね」
要塞の屋上に、六種族の仲間たちが並んで立つ。
夜風が湯煙を運び、星空の下で、
覚醒同盟の灯火は、ますます強く輝いていた。
しかし、その輝きの先には、
まだ見ぬ巨大な闇が、静かに息を潜めていることを、
俺たちは知っていた。
(続く)




