職業が魔法少女ということは、大人になれないと言う事。
押し売りされた加護により幼女化した柚希はと言えば。
「………………う、うぜぇっ!」
なかなか眠ることが出来ずにいた。
「ん、どうしたんじゃ? 柚希少女」
「いや、この髪の毛メッチャ光ってるんですけど! いや、そんなに光ってるわけじゃないが! けどさ!? 淡く光る粒子を放出し続けてるから、メッチャうざいんだけど!? 寝れねぇ! 寝れねぇよ!」
時間も程よくなったので、風呂には入らず(さすがに初日からは気まずいとのこと)に、体を拭く程度で済ませた柚希は、寝ようと布団に入ってから電気を消したのだが……この体になった時からあった、髪の毛から放出されている淡く光る粒子が地味にうざく、寝られなかった。
別にそこまで明るいわけではないのだが、絶妙に明るさがわかるために、イライラする。
結果、寝られなくなっているわけだ。
「あぁ、それか。一応消せるぞ」
「え、マジで!? 消し方教えて!?」
「うむ。それは言わば、おぬしが儂からの加護を得たことで発生している、余剰魔力放出現象と言うものでな」
「な、なんだそりゃ?」
突然出て来た謎ワードに、柚希は疑問符を浮かべる。
それも当然と見越していたイルは、嬉々としてすぐに解説を始める。
「膨大な魔力を保有する者によく起こるちょっとした現象じゃな」
「な、なるほど」
「基本、魔力と言うのは常に回復をするものでな? 満タンであっても、常に新しく魔力が生成、取り込まれているわけじゃ。で、これが膨大な者たちの場合、その回復量もまた凄まじい。その結果、その余剰分の魔力が行き場を失い、結果、光の粒子となって体外へと放出され、おぬしのように光る粒子となるわけじゃな。これらが発される場所は人によりけりじゃが、女性であればおぬしのように髪の毛からが多いな」
「な、なるほど……ってことは、魔力を使って減らせばいいのか?」
「そうなる。が、それ以上に楽な方法があるぞ?」
「マジか! 教えてくれ!」
魔法を使い続けるのはめんどくさいと思っていたら、それ以上に楽な方法があると言われ、柚希は笑みを浮かべて教えを請う。
そんな姿に、イルはふふん、とどこか満足げに笑うと、その方法を説明する。
「簡単じゃ。儂のように、余剰分の魔力を体に変化を及ぼすようにすればよい」
「……????」
簡単と言ったはずなのに、まったくもって意味の分からない方法に、柚希は難しそうな顔で首を傾げた。
見た目が幼女なので、どこか微笑ましい。
「あー、わかっとらんな? ほれ、言ったじゃろ? 儂のこの体は、魔力が影響を及ぼしたものじゃと」
「あ、あぁ、そうだな」
「その余剰分を解放した瞬間が、儂の全力になるわけじゃ」
「……なるほど。つまりお前は、その体で居続ける限り、全力状態じゃないってことか」
「そういうことじゃな。ま、正確にはストックしているようなもんじゃがな」
「あー、そういうことか」
「で、おぬしも儂と同じように、何らかの形で自分の体を変化させればよい」
「わかった。ちょっとやってみる。イメージとしてはどうすりゃいいんだ?」
「イメージか。そうじゃな……儂の場合は、成長させるイメージをし、その器の中に魔力を仕舞うような感じじゃが……髪を伸ばしたいとか、こういう姿になりたいとか、まあ、何でもよいぞ」
「OK。んじゃ」
そう言ってから、柚希は集中し始める。
とりあえず、邪魔な魔力をどこかに溜め込めばいい、そう言う事だろうと察した柚希は、適当に体を成長させるイメージをした。
その結果。
「おっ、光らなくなった……って、ん? あれ? なんかおかしくね?」
「ほほう? なんじゃおぬし、獣人になりたい願望でもあったのか?」
「は? ……なんじゃこりゃああああああああああああ!?」
柚希は絶叫した。
それはなぜか。
なんと……柚希の頭とお尻の辺り、それはもう見事なふっさふさの狼の耳と尻尾が生えていたのである!
ようは、ケモロリになったのだ。
「は!? 俺、一応成長のイメージしたよね!? なんでこうなった!?」
「ふぅむ……なるほど。ときに柚希少女よ」
「な、なんだよ!?」
「職業を決めるのは誰じゃ?」
「は? 職業? 今そんなことを聞いてる場合じゃなくね!?」
「いいや、大事なことじゃ。言え」
「あ、あぁ……決めてる奴は知らん。あれ、登録する時に掲示された職業以外にはなれないんだよ。俺は魔法戦士だけだった感じだが……」
「なるほどな。それが原因じゃろ」
「は?」
「今のおぬしの職業は?」
「魔法少女…………いや待て、そういうことか!?」
魔法少女であると答えたところで、柚希は一つの答えに辿り着いた。いや、辿り着いてしまったと言うべきか……。
「まあ、そう言う事じゃな」
「……おいおい、まさかとは思うが、魔法少女だから、少女の体以外になれないってことか!?」
「ははっ! そうじゃろうな!」
「笑い事じゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
楽しそうに笑うイルに、柚希は耳と尻尾を逆立てながら、叫ぶのであった。
◇
その後、色々と検証した結果、大人の姿にだけなれないことが判明。
しかし、それ以下であれば問題なく変化させられることがわかった。
現状可能なのは、元の140センチ程の言わば10歳程度の身長から、ギリギリ高校生に届くかどうかまでの背丈であること。
背丈、とは言っているが、具体的には15センチ弱程度だ。
尚、成長すると地味に胸が大きくなってしまうため、結局ほんの少し成長させた小学校高学年程度で止めた。
あと、耳と尻尾は普通に出せるようになった。
「……なんつーか、この状態、結構疲れるのな……お前が自然にやってるから、楽なのだとばかり……」
「慣れじゃな」
「慣れかー……俺も慣れるか?」
「まあ、慣れるじゃろうな。ほれ、儂はもう寝るぞ」
「あ、おう。……あと一ついい?」
「なんじゃ?」
「……これ、俺を抱きしめて寝る意味、ある?」
現在の状況。
少しだけ成長した柚希は、イルに抱きしめられるようにしてベッドに寝転んでいた。
元々ベッドは一つだけだったので、当初イルはソファーで寝ようとしていたのが、無駄にお人好しな柚希が、
『今の俺は小さいから、同じベッドで寝ていい』
とか言ったために、一緒に寝ることになった。
がしかし、気が付けばなぜか抱き着かれていた、というわけだ。
「儂、抱き枕がないと寝れないんじゃなよなー(棒)」
「いや棒読みすぎんだろ!? ってか、あんまり抱きしめすぎるなよ!? お前胸デカいんだよ!?」
「ふふふ、ほれほれー、男共が大好きな巨乳じゃぞー」
「あっ、ちょっ! もがっ」
「おー、こりゃちょうどいい。では、おやすみ」
(こいつ朝起きたら殴りてぇ……!)
とか思ったが、なんだかんだで寝心地がよかったので、気が付いたら眠っていた柚希であった。
◇
柚希とイルの邂逅の次の日。
柚希は朝起きるなり、適当に朝食を作り、それを食べながらテレビを見ていた。
ちなみに、本日のメニューは白米と目玉焼き、あとベーコンである。
あと、今は疲れるからという理由で、余剰魔力は放出状態なので、初期の身長になっており、髪の毛からは蒼い粒子が放出されている。
『続いてのニュースです。昨日、高難易度ダンジョンの一つ《魔女の焔》で、凶悪なトラップが発見され、その情報が公表されました。一人のダンジョン配信者の女性が巻き込まれましたが、偶然近くにいた謎のパーカーの人物に救われ、事なきを得たとのことです。現在、《魔女の焔》への立ち入りは、調査のため禁止されております。また、同ダンジョンに入ったと思しき男性が一人未帰還であるため、そちらの件につきましても、捜査が進められております』
「……俺じゃん……」
なんとなしで点けたテレビから流れて来たニュースは、まさに昨日の出来事のことだった。
思わず手に持っていた箸をぽろっと落としてしまう。
「いや、待て、落ち着け……大丈夫だ。多分、あれだ。俺以外にもピンチになった奴がいたんだって……」
だから大丈夫、と自分に言い聞かせる柚希。
だが、怖いのでネットは見ない。特にSNSは、と思いながら朝食を食べる。
「ってか、やっぱ捜査が始まっちまってたかー……」
とはいえ、それ以上に柚希は自分の捜査が始まってしまったことに苦い顔を浮かべた。
「ってか、今回は早すぎる……あー、いや、早くないか……パーティーならともかく、ソロだからなぁ……そりゃ捜査も入るわ」
ダンジョン内に捜査が入るのには条件が設定されている。
一番わかりやすい例は、捜査願いが出されることだ。
では、出されない場合の条件はどうなるかと言えばだが、これらは入る際の人数によって変動する。
というより、違いはソロかパーティーかの違いだが。
パーティーであれば、大体五日経過すると捜査が入る。
例外としては、パーティーメンバーの一人が地上に上がって来て救援を出した場合は、即刻捜査が入る。
ではソロの場合。
こちらは一人であるため、事前申告がない場合は、一日帰って来なかったら捜査が入るのである。
柚希はソロの探索者であるため、一日経過したために、捜査が始まってしまったわけだ。
もっとも、柚希は《魔女の焔》の常連であるため、職員からもどのタイミングで帰宅するかを把握されているので、通常よりも早く捜索が始まっていたりするのだが。
尚、本来ならばスマホに連絡が来るのだが、柚希は異空間魔法の中にスマホを入れてしまった関係で、通話が一切入らなかったので、電話に気付いていない。
「ってことは、今日中には協会の人が来るな……め、めんどくせぇ……!」
こういった捜査の場合に訪れるのは協会――日本探索者協会という名称の、ダンジョン及び探索者を管理する組織の人間である。
説明がクソ長くなるので簡潔にまとめると、ダンジョンの情報を公開し、ダンジョン内のドロップアイテムや魔石を買い取る組織であり、同時に探索者の登録やパーティーを組む際の斡旋所なんかも請け負っている、そんな組織である。
その中には、こういった場合の捜査専門の部署が存在しており、行方不明者が出た場合、登録されている住所にも来るため、柚希は頭を抱えているのである。
もちろん、こうなることは予想してはいたのだが……。
「絶対これ、検査コースじゃん……ってか、イルはどう説明したものか……」
昨日もイルの存在と、自分のこの体の変化のせいでどうしようか迷った挙句、結局は未来の自分に問題をぶん投げて押し付けただけであり、それが翌日に来てしまったようなものだ。
過去からの厄介な物が発送されてきて、柚希としてはまた逃げたい気分になった。
「まいったなー……俺はまあ、検査とか聴取! とかで済むかもしれんが、あいつ、どうするよ……? 馬鹿正直に言ったら、どうなるかわかったもんじゃねぇ……第一、魔法を教えてもらう約束をしておきながら、あいつが連れてかれる、なんてことになったら、普通に嫌だしな……この体になったことについてはあれだが」
うむむぅ、と頭を悩ませる。
折角の無駄に目覚めのいい朝で、なんてことない普通の朝食を食べてご満悦だった柚希からすれば、まさに地獄のような状況である。
「ってか、あいついつまで寝てんの?」
「すー……すー……んへぇぇ……ひとのこは、おもしろいぉ……あんにゃろろろはら、まほうがれるなんれぇ……」
「……どういう夢を見てんだよ……」
謎すぎる寝言をするイルに、柚希は溜息一つ吐くと、そう呟いた。
「まー、多分今日中には来るだろうし……とりあえず、対策でも考えるかー」
結局はどうしようもない現実なので、柚希は少しでも面倒ごとを回避する方法を考えることにした。




