ヒロインはヤバければヤバいほど可愛いと思います。
ところ変わり、櫻野姫こと、雨夜瑠空は。
「本当に無事でよかった……」
「ご心配をおかけしました。見ての通り、無事なので、だから、あの、そんなに抱きしめられても困りますよ、マネージャー」
例の絶体絶命のピンチを運よく切り抜けられた瑠空は、自分を担当しているマネージャーに抱き着かれて苦笑していた。
場所は、《魔女の焔》の入り口である。
あの後、パーカーの人物から貰った転移玉で何とか地上に帰還し、受付の辺りで自分の身に起こったことを報告。
特にトラップの存在はかなり大事になったようで、すぐに調査が入るとのことだった。
実際問題、このダンジョンは昔から殺意が高い詐欺ダンジョンとか言われていたのだが、まさか大量のモンスターを召喚するモンスタートラップだけでなく、そのモンスターたちも同時にダンジョンボスの前に転移させてしまうほどの転移トラップがあるなど、知られていなかったからだ。
余談として、そのような殺意が高いトラップは、実はここが初ではなく、別のダンジョンに存在しており、そこは訓練によく使用される。低難易度なので。
だが、高難易度ダンジョンで今回のものは初めてであり、尚且つボスモンスターがドラゴンということもあって、かなりの危険性を持っていた。
そのため、色々と事情を聴かれることとなった瑠空は、事務所の方にも連絡。
そこで飛んで来たのが、今現在瑠空を抱きしめているマネージャーである。
少しくたびれた印象はある物の、よく見ると美人である。
「だって、あんなの絶対に死んだと思うじゃないっ……でも、どうやって切り抜けたの……?」
「あれ? 知らないんですか?」
「自分の担当している人が死ぬかもしれない状況を見られるとでも!? 私にそんな胆力はないッ!」
「あ、あはは、そうですよね……」
「それで、何があったの?」
「実は――」
と、マネージャーにことの経緯を報告しつつ、同時にその証拠となる自分の配信を見せた。
最初は突然現れたパーカーの人物を訝しんではいたものの、結果的に命を助けてくれたし、無償でポーションやら転移玉をくれたために、それはもう感謝した。
「これは、凄まじいですね……」
「ですよね。わたしも驚きました……というか、この人、声可愛くないですか!? あと、すごくカッコよくて! わたし、また会いたいって思ってるんですよ!」
聞いてもいないことを突然語り出す瑠空。
その表情は、よく見れば赤くなっており、まるで恋する乙女のような……。
「たしかにこれは、惚れてしまいそうよね……ちなみに、名前は?」
「聞けてません……聞くよりも早くいなくなっちゃって」
しょぼーんとしながら名前を聞くことが出来なかったと話す瑠空。
「なるほどね。というか、あなたの配信、超バズってるじゃない」
「そう、なんですか?」
「えぇ。あと、なんか死亡とかって書いてあるけど、やっぱりこういうデマを流す人はいなくならないものねぇ」
「見ての通り生きてますけどぉ~~」
マネージャーの言葉に、瑠空はむっとした表情でそう言い返す。
実際の所、こういう誤情報を流す者は一定数おり、特にダンジョン配信者相手が最も多い。
というより、常に生死と隣り合わせの状況であるので、仕方ないと言えばそれまでだ。
わざと流す者もいるが、早とちりしたファンが知らせないとっ、みたいな心理のせいでやってしまうこともあるためだ。
とはいえ、あまり褒められたことではないので、ネットでは普通に嫌われている。
「それはそれよ。……それと、例の人物は『パーカーちゃん』って名前でトレンド入りしてるわ」
「パーカーちゃんって……あははっ、なんですかそれ」
「パーカーで顔とか体がほとんど見えてなかったから、外観的特徴のあだ名が付いたみたいね」
「でも、結構小さい女の子でしたし、結構似合ってるかも! パーカーちゃんかぁ……会ってお礼を言いたいなぁ……あと、収納袋の中にパーカーちゃんのドロップアイテム入ってるんですよね」
「そう言えばそう言っていたわね」
「今は協会に預けてますけど、早く渡して上げないとですし……本当に誰だったんだろ?」
「あの強さ的に、上位層の探索者では? とは言われているわね。同時に、ソロの人だとも」
「まあ、あのダンジョンで無双が出来るくらいですしねー」
現在、ネット上ではパーカーちゃんがかなりホットな存在として、様々な議論が交わされている。
まず一つとして、人気配信者である櫻野姫を助けたことが一つ。
レベルⅥのダンジョンのボス部屋で、一人で無双できるほどに強いことが一つ。
そして、見たことがない攻撃を使用していたことが一つ。
これらがあり、今は至る所で議論が交わされているのだ。
尚、その当人は現在、家で魔女と一緒にピザを食べつつ酒を飲みつつ、魔法の講義を受けているところである。
「はぁ……会いたいっ、会いたい会いたい会いたい会いたーーーーーいっっ!」
「……なんと言うか、そうやって元気な所を見ると、安心するわー」
「だってだって! あんなにカッコいい助けられ方したんですよ!? ヒーローですよヒーロー! 見ず知らずのわたしのために駆け付けて、あんなにカッコよくわたしを助けてくれたんですよ!? これはもう恋ですよ恋!」
「えっ、こ、恋!?」
「はいっ! はぁ~~~っ! どんな人なのかなぁ! 体格的に女の子だよね! カッコいい系かな? 可愛い系かな!? あ、ちっちゃかったし、やっぱり可愛い系!? 声は? 髪色は? 目の色は? 好きなことは? 嫌いな物は? 知りたい、知りたいなぁ~~~~っ! あぁっ、またどこかで会えないかなぁ……!」
「あ、あの、姫さん? 大丈夫?」
突然饒舌に話し出した上に、どこか目のハイライトが消えて色々と呟く瑠空に、マネージャーが若干引いている!
が、そんなマネージャーの声は届いていないのか、その声は加速する。
「というより、どうしてあんな所にいたのかな? ソロでもあんなに実力があるなら、もっと有名になってもいいのに。でもでも、そうじゃない理由があるのかな? わからないなぁ、わからない……会いたい、会ってお話したい! なんで助けてくれたのか、知りたいっ! あぁっ! 会いたい会いたい、会いたいなぁ~~~~っ!」
「姫さん!? 本当に大丈夫なのそれ!? なんか、目が怖いわよ!? え、ま、まさかヤンデレの系譜ッ……!?」
更に深まるハイライトの無い瞳で話し続ける目の前の瑠空に、マネージャーは恐怖心が芽生え、ヤンデレなのか? と戦慄した表情を浮かべていた。
「――ハッ! す、すみませんっ! 色々気になってつい……」
「あっ、い、いえ、別にいいけど……あの、好きって、恋愛的に?」
「え? 当然じゃないですか? 命を助けられたんですよ? あんなにカッコよく! これで惚れない女性は女性じゃないですよ!」
「いや惚れない人もいると思うわよ!? むしろ、偏見過ぎない!?」
「そうですか? わたし既に、この身を捧げてもいいレベルで好きですが!? 死ねと言われたら死ねる自信があります!」
「怖――い!? 私の担当配信者怖いんだけどーーー!?」
「あぁっ、会いたいなぁ、パーカーちゃん!」
ダンジョン《魔女の焔》の事務所内にて、ハイライトを点けたり消したりする美少女ダンジョン配信者と、そのダンジョン配信者に恐怖するマネージャーのカオスな声が響き渡った。
尚、それを近くて見ていた職員は……ドン引きしたそうな。
◇
一方、柚希の実家にて。
「え、……お母さん、今、なんて……?」
ゴトッ、と手に持っていたスマホが手から滑り落ち、それを気にも留めずに茫然とした表情で黒髪の綺麗な顔立ちの少女がその場に立ちすくむ。
「だからね? 柚希がその、ダンジョンから帰って来てないって……蜜柑、何か知らない?」
「し、知らない……ほ、本当に兄さん、行方不明なの……?」
兄さんと呼ぶことからわかるように、蜜柑は柚希の妹だ。
歳は17歳で高校二年生。
おしとやかな美少女として通っている高校でも有名であり、割としょっちゅう告白されるほどの美少女である。
長く綺麗な黒髪をハーフアップにしており、どこか大人びた雰囲気に顔立ちをしているのもモテる大きな理由だろうか。
性格もいいと言えばいいのだが……。
「日を跨いでの探索をする時はいつも事前に申請するけど、今回はそれをしてないんだって。それで、いつもならとっくに帰って来てる時間に職員さんが見かけてないから今捜索中って……」
「に、兄さんは? 兄さんは見つかったの?」
「それが、帰還したのはダンジョン配信者の女の子だけみたいで……」
「……も、もしかしたら、家に帰ってるかも……」
「それが、監視カメラにも柚希の姿がないとかで……」
「……そんなっ……」
母親の言葉に、蜜柑はその場に崩れ落ちてしまった。
蜜柑にとって、柚希はとても大切な人物なのだ。
そんな大切な存在が突然ダンジョンで行方不明になったと知れば……当然、ショックを受ける。
「でも、あの子は強くなったし、案外普通に生きてると思うわよ?」
「お母さんは心配じゃないのっ?」
「当然心配に決まってるじゃない。でも、探索者を選んだのは柚希自身。常に死と隣り合わせ。それを承知の上であの子は探索者をやっているのよ。……それに、あの子がそう簡単に死ぬとも思えないし」
「……お母さん」
「それなら、明日辺り一度あの子の家に行ってみればいいと思うわ」
「……うん、そう、だね。私、兄さんの家に行ってみる……」
「大丈夫よ。そもそも、あの子が蜜柑を置いて死ぬわけないもの」
ふふ、と安心させるように笑いかけながら、母親は蜜柑にそう言った。
それを聞いた蜜柑も、そうだよね、ときっと大丈夫と思うことにした。
「……部屋に戻るね」
「えぇ」
母親に一言言ってから、蜜柑は自室に戻り……
「……兄さん……兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん……! 私を置いてどこへも行かないでね……?」
大好きな兄の写真が大量に張られた部屋で、蜜柑はベッドに寝転ぶと、どこか狂気を滲ませたほの暗い表情と声で兄のことを呼び続けるのであった。




