面倒なイレギュラーは嫌だなぁと思うパーカーちゃん。まあ、悪い方の意味での主人公補正が働くと言うことで。
変態が多いと言う現状に頭を悩ませていると、ふとパーカーちゃんの視界にあるコメントが目に入った。
【あの、《鬼火の氷園》イレギュラー注意報が出てるんですけど、お二人は大丈夫なんですか?】
というものだ。
「ん? イレギュラー注意報? ……あ、マジだ」
「なんじゃ、イレギュラー注意報とは?」
【私もよくわからない】
【イレギュラー注意報ってたまにテレビで流れることあるけど、よくわかってないよな】
【探索者としてはマジで知っておいた方がいい情報であるのは確か。あれを知ってるか知ってないかで命取りになることが多々ある】
【パーカーちゃん! イレギュラー注意報ってなんですかー!】
「また解説? まあ、魔女も知らないし、軽く説明でもするかねー。イレギュラー注意報ってのは、その名の通りだ。イレギュラー……つまり、平時じゃ起こらないことがダンジョン内で起こるかもしれませんよ、って注意報だな」
「それだけか?」
「おう、それだけ」
それはもう簡潔すぎる内容に、魔女はそれだけかと聞き返すと、パーカーちゃんは普通に肯定した。
【いやいやいや! それだけじゃないから!】
【なんだったら、もっと重要だから! 命に直結するから!】
【イレギュラー注意報で出回る情報ってのは、そのダンジョンのレベル以上の魔物が出るとか、大発生とか、大氾濫とか、そういうめちゃくちゃ重要な情報ばっかぞ!】
パーカーちゃんのあまりにも薄すぎる情報に、コメント欄にいる有志の者が軽い説明のようなものを書き込む。
「お、なんだよ、知ってる奴いるじゃん。そ、そのダンジョンよりも上のレベルで出現するような魔物が出るとか、大氾濫とか、そういう情報を教えてくれるのがイレギュラー注意報だな」
「なるほどのう。ちなみに、大氾濫とはなんじゃ?」
「ん~、ダンジョン内で魔物が大量発生して、それが地上に溢れることを指すな。通常は、そうならないように探索者協会が色々やってるんだが、それでも手が回らないのが現状だ。人手不足なんだよ」
イレギュラー注意報が発生すると、そのダンジョンには探索者協会の者たちが監視を行い、問題が起こる前兆を発見次第、情報を協会に流すようにしている。
万が一問題が起こりそうになれば、探索者たちに呼びかけて、対処に当たるようにしている。
「ふぅむ?」
「ちなみに、大発生と大氾濫は似てるようで違うぞ」
「そうなのか?」
「あぁ。大発生はダンジョン内で完結するが、大氾濫の方についてはダンジョン内どころか、地上に出てくる関係でとんでもない被害が出る」
「ほほう、そうなのか」
【大氾濫はなぁ……マジでなぁ……】
【あれが原因で街が一つ潰れた、なんて話も聞くし……】
【イレギュラーの中でトップクラスの最悪さだよな、あれ】
【命がけの仕事だからってのもわかってはいるんだけどさ、大氾濫が起こっても対処に向かわない探索者もいるわけでね……すっごい複雑なんよね】
【中には、バカみたいとか笑いながら行かない奴もいるが……】
「あー、大氾濫な。あれ、探索者たちは基本的に任意でな。だから、行くも行かないも自由なんだよ。コメントにもあるが、命がけの仕事だからなー」
「ふむ。強制ではないのか」
「強制にしたらしたで、今度は探索者たちから反乱にあうかもしれないからな」
魔女の言葉に、パーカーちゃんはそう返すと、魔女の方もたしかにと頷く。
「なるほどのう……。しかし、今おぬし、基本的に、とか言っておったな? ということは、例外がある、ということじゃろ?」
「あぁ、ある。この辺はあんまし知ってる奴も少ないことなんだが……実は、強制的に駆り出される場合もある。拒否権なしでな」
【マジで?】
【そんなんあるん?】
【強制って、命がけのことに対して、強制なのか?】
「そ。強制。つってもまあ、よっぽどがない限りはないぞー。そうだなー……ダンジョン犯罪を犯した探索者がそうだな。ダンジョン内で人を殺したとか、盗みを働いたとか、そういう奴らは奉仕活動的な意味で、強制的に大氾濫……というか、イレギュラーの対処に行かされるぞ」
【マジか】
【なるほど、そういう仕組みもあるのか……】
【ってか、なんでパーカーちゃんそんなこと知ってるの?】
【もしかしてパーカーちゃん……】
パーカーちゃんも何か犯罪をしたのでは? と思うようなコメントがちらほら見られたが、パーカーちゃんは苦笑い交じりにそれを否定する。
「言っとくが、俺は犯罪はしてないぞ? 探索者協会の知り合いに色々教えてもらっただけだし」
「む、なんじゃ、おぬし知り合いがおるのか?」
「おう。ちょっと過去に、大氾濫が起こった時に解決したことがあってなー。というか、自分の足で行ける距離だったら、普通に行くぞ、イレギュラー対処」
「ほほう? おぬし、随分と人が好いのじゃな?」
「いや、近場でイレギュラーが起こって、それでいろんな人が死ぬとか……普通に寝覚めが悪いだろ。俺一人の労力で多くの人を助けられるんなら、助けるさ」
「そうか。おぬし、なかなかにカッコいいことを言うのう!」
【待って、パーカーちゃんがイケメン過ぎる件について】
【うわぁ……これはカッコ良すぎ……】
【見た目、クソ可愛い銀髪オッドアイ幼女なのに、めちゃくちゃカッコいいんですけど】
【可愛い見た目に反して、中身はイケメンとか……何それ最高かよ】
「別にカッコよくないだろー。俺としては、俺の中のルールに従ってるだけだし」
魔女にカッコいいと言われ、パーカーちゃんはそれを否定しつつ、ルールに従っているだけだと告げた。
「ほう、ルールとな?」
「あぁ。助けられる状況であれば、迷わず助けるように動く、ってな」
「何か理由でもあるのか?」
「ん~、ま、色々とな。……まあでも、実はイレギュラーへの対処って、結構報酬がいいんだよなー」
何か濁したような言い方をするパーカーちゃんだったが、その後に報酬がいいと零す。
それに視聴者たちが食いついた。
【報酬あるの!?】
【いやそりゃあるだろ】
【むしろなかったらそれはそれで問題と言うか……】
【あるのが当然では?】
【あれ、ボランティアって思われがちだし】
「あー、ボランティアって思われがちなのは、さっき言ったようにダンジョン犯罪をした奴らがよくやってるからだな。そうじゃない、身が綺麗な探索者が対処に当たった場合、普通に報酬が貰えるんだよ」
「ほほう。無償というわけではないんじゃな」
「おう。ただ、レベルⅢまでしか潜れない探索者にはお勧めしないな」
「危険だからか?」
「まあな。大氾濫ってのは、マジで厄介でな。あれ、量より質を求められるんだよ。なんせ、相手は魔物。何が起こるか把握できない以上、下手に実力がないとかえって他の探索者に迷惑が掛かる。だから、報酬がいいとか、人を助けたいとか、そう思う前に自分の身の丈に合ってるかどうかで考える様にしろよー」
【お、おう……】
【なんか、すっごい真っ当なこと言われてる……】
【ここまでずっと頭のおかしい光景しか映されてなかったけど、真面目な所もあるのか……】
「俺、基本的に真面目だよ?」
パーカーちゃん、視聴者たちからの扱いに納得が行かない模様。
「しっかし……イレギュラー注意報か……」
それはそれとして、パーカーちゃんは今回のイレギュラー注意報が何か気になっているようだ。
「どうした? 何か不安なことでもあるのか?」
「ん~、ちょっとな」
「おぬし、不安に思うこととかあるんじゃな……」
「あるよ? すっごいあるよ? 具体的には、家に帰った後、お前に食われるんじゃないかって冷や冷やしてるよ?」
「それはGOサインかの?」
「NOサインだよ」
【草】
【たしかに食われそうになってるのは不安ww】
【この魔女、肉食系過ぎるだろww】
【性欲強そう】
【性欲だけじゃなくて食欲もありそう】
【睡眠欲も強そう】
「三大欲求全部強いとか思われとるの? 儂」
視聴者たちから、三大欲求が強そうとか言われる魔女。
魔女的には、そんなはずはないと思っているのだが、
「でもお前、めっちゃ食うし、めっちゃ寝るじゃん」
パーカーちゃんは普通に肯定して来た。
「おぬしの飯美味い。おぬしの抱き枕めっちゃ寝れる。おぬしと寝るとすっごい興奮する。まあ、おぬしが悪いな」
「100歩譲って飯が美味いのはいいとして、後の二つ俺悪くないよね? むしろ、お前が自重すればいいだけだよね? 責任転嫁?」
「責任転嫁という言葉には、嫁と言う言葉が入っている……つまり、おぬしがその言葉を儂に向かって使用した時点で、おぬしは儂の嫁と言う事じゃな」
「なぜそうなる!?」
【その発想はなかったww】
【たしかに嫁って漢字が入ってるけども! そういうことじゃないから!】
【この魔女面白すぎるww】
「まあ、契りを結ぶかどうかは帰宅してからゆっくり聞くとして……おぬし、何を心配しとるんじゃ?」
「ネカフェに泊まろうかな……。まあいいや。んで、心配事だっけ?」
「うむ」
「いや、イレギュラー注意報が出てる以上、何かしらが起こるんだが……なんつーか、大氾濫とか、大発生が起こる前兆が無くてな」
「それがどうかしたのか?」
「問題だよ。イレギュラー注意報において、被害規模で言えば大氾濫や大発生の方が断トツだが、規模が小さい方面で言えばもっとやっかいなのがあるんだよ」
「ほう? それはなんじゃ?」
「固有種の出現」
「固有種とな? それはなんじゃ?」
【聴いたことないなー】
【固有種ってなんぞ?】
【誰かー、ダンジョンに詳しい人ぉ!】
【いやすまん、レベルⅤまで潜れるし、イレギュラー対応もしたことあるけど、固有種は知らん……】
パーカーちゃんが口にした『固有種』と言う言葉を知らない者たちの方が大半だったようで、コメント欄ではそれが何なのか考えたり、疑問符を浮かべるようなコメントが数多く書きこまれた。
「固有種ってのは……なんて言えばいいかなー。通常発生する魔物とは違う種族の魔物と言うべきか……いや、そもそもあれは魔物って言っていいのか……まあいいや。簡単に言えば、めっちゃ強い魔物。個人的に、それが出て来るとちょっと面倒だなー、とは思う」
「勝算は?」
「ん~、レベルⅦで出たらキツイかなーって感じ。お前と出会う前なら、様子見してから撤退。その後に倒すって感じだったかな」
「今は?」
「多分勝てる」
【すごい自信だぁ……】
【けど、パーカーちゃんなら可能性はありそうってのが】
【固有種ってのがどれくらいすごいのかわからんけどな】
「ま、さすがに考え過ぎだな。ってーわけで、そろそろボス部屋に行くか。ちょうど、目の前だしなー」
「ほほう、ボスか。どのような魔物がいるのか楽しみじゃな」
話している間にボス部屋に到着。
パーカーちゃんは特に緊張した様子はなく、リラックスした雰囲気だ。
魔女の方は、初めて来るダンジョンのボスがどのようなものなのか予想しつつ、楽しみだと笑う。
【《鬼火の氷園》のボスかぁ……たしか、刀鬼って名前の魔物だっけ】
【刀でも使うんか?】
【マジでそう。大太刀使いの鬼が出て来るんだが……まあ、強いこと。まず、筋力で勝つのが難しいし、動きも早い。あれ、侍を鬼にした感じ。結構なクソボスではある】
【その分ドロップ品もいいし、武器とかも確率入手可能で、レベルⅤで手に入る武器の中では上位クラス】
【ふーん? ちなみに、《魔女の焔》のボスドラゴンとどっちが強い?】
【ドラゴン】
【ドラゴン】
【鬼が勝てるわけない】
【ドラゴンなんだよなぁ……】
「さて、ボス部屋に入る…………」
コメント欄がボスの話しで盛り上がっている中、パーカーちゃんがボスとの戦闘を撮影するべく、ボス部屋の扉に手を触れたところで、ピタリと動きを止めた。
「む、どうした、パーカーちゃんよ」
「……あー、うん。そっかー……」
【うん? パーカーちゃんの様子がおかしいぞ?】
【メッチャ遠い目してる】
【何かあったのか?】
【パーカーちゃんどうしたの?】
「……はぁ。なぁ、魔女。よかったな」
「何がじゃ?」
「多分、お前にとっていいものが見れるかも」
「ほほう?」
パーカーちゃんはどこか困ったように笑いながら、一息にボス部屋の扉を開け放った。
その瞬間、つんざくような鉄の臭いが二人の鼻腔を襲う。
《鬼火の氷園》のボス部屋は、ところ所に氷が覆った岩などがあり、遮蔽物のようなものが多い構造をしている。
氷柱などもあり、その中には鬼の財宝と思しき宝物などもある。
そして、それを守護するボスが、この部屋にはいた。
ダンジョン道中で出て来るオーガを一回り大きくし、筋骨隆々ではなく、スマートな筋肉を持った、大太刀使いの刀鬼という魔物だ。
鎧武者のような出で立ちをしているその鬼は、純粋にフィジカルが強いとあって、レベルⅤの中ではかなり厄介な部類に入るボスだ。
パーカーちゃん的には、そこまでのボスではないので、さくっと見せ場を作ってから倒そうと考えていたのだが……。
そこに、刀鬼の姿はなかった。
代わりに、見るも無残な姿になった刀鬼の姿がそこにはあった。
一人の少女と共に。
「ん~、ん~……不味い……やっぱり、魔物は不味い……ん~、美味しい美味しい、血が飲みたいなぁ……どこかに、いい血はぁ~……ん~~?」
ウェーブのかかった腰元まで伸びた金髪に、深紅の瞳。
顔立ちはとても愛らしいのだが、その口元には鋭い犬歯が覗く。
体つきも良く、出る所は出て、引っ込むところは引っ込むと言った、均整の取れた体つきだ。
少女は漆黒のゴスロリを見に纏っており、それがなぜかよく似合っていた。
そんな少女は、どういうわけか刀鬼の首に噛み付き、血を吸っていた。
しかし、その血は不味かったようで、すぐに吐き出す。
血が欲しいと少女が独り言を零していると、パーカーちゃんたちがいる方に顔を向けた。
「あらぁ~……あらあらぁ~? とっても可愛らしい女の子~。とっても魔力が濃くて、とっても美味しそうな匂いがするぅ~……」
「……なんだ、あれ?」
正体不明な人物がいたことに、さすがのパーカーちゃんでも思わずそう零す。
【う、うん?】
【え? 何あの娘】
【金髪ゴスロリ美少女……?】
【あと、真っ赤な槍を持ってる、な……?】
【何が起こってるんだ?】
【でも、なんだろ、すっごい嫌な予感……!】
目の前のあの少女は何か異質だ、そう思ったパーカーちゃんは半ば無意識に雷の刀を生成した。
その直後、
ギィィィィィンン!
と、金属同士がぶつかるような、耳をつんざくような音が響き渡った。
その音の正体は、突然パーカーちゃんに切りかかって来た少女の持つ武器と、手に持っていた雷の刀でその攻撃を防御した際に生じた物であった。
「うっわ、いきなり攻撃してきたよ」
「あはぁ~~! ウチの攻撃、受け止めるんだぁ! 可愛くて、強いんだねぇ。すごいねぇ、カッコいいねぇ。ねぇ、血ぃ、吸っていい?」
瞳孔が開いた目と狂気的な笑みを浮かべながら、目の前の少女がパーカーちゃんに血を吸っていいかどうか尋ねて来る。
「いいわけないんだよなぁ」
「じゃあ、無理やりにでも……!」
「なら、一旦離れろ……よっ!」
「がふっ!?」
入り口付近で戦うのは面倒だと思ったパーカーちゃんは、話しながら、目にも止まらぬ速さで少女の腹部に蹴りを叩き入れ、少女を部屋の中央へふっ飛ばす。
【え、は、何!? 何が起こった!?】
【いきなりパーカーちゃんが攻撃されたと思ったら、金髪美少女がなんか蹴られて吹っ飛んだ!?】
【ちょちょっ! 何がどうなってんのぉ!?】
【パーカーちゃん、大丈夫か?!】
【これ、マジもんのイレギュラー……?】
「うぅむ、マジでイレギュラー引いたか……まいいや。これも取れ高ってことで! んじゃ、俺は今からあれと戦闘するんで、コメントが返せなくなる! ごめんな! あ、魔女、代わりに色々やってくれね?」
「任せよ」
「んじゃ、俺は行くぜ」
ぐっとサムズアップをドローンの前でしてから、パーカーちゃんはふっ飛ばした少女の元へ向かって行った。
【かっるぅ!?】
【え、あれ絶対戦っちゃだめな奴じゃね!?】
【パーカーちゃん! 絶対逃げた方がいいって!】
【初配信でなんでイレギュラー引いちゃってんの、パーカーちゃん……】
【これ、どうなるんだ……?】
「ん~? ……あの者、なーんか見覚えあるような……」
そして、パーカーちゃんにふっ飛ばされた少女を見て、魔女は顎を手でさすりながら、そんなことを呟くのであった。




