兄妹仲(妹→兄への感情は重いけど)がいい理由。とりあえず、柚希がお人好し過ぎたのが悪い。
「蜜柑、とりあえず、適当に座っててくれ」
「うん、わかった。じゃあ、兄さんに座る」
「蜜柑? 今の俺、お前よりちっちゃいよ? 俺が潰れるよ? 何、俺を殺したい感じ?」
「兄さんを殺せば、永遠に私の物になるけど、それはしない。兄さんが死んだら、兄さんと結婚できないし、子供も作れない」
「結婚しないし子供も作らないが?」
なんでこいつはいつもこう、極端なんだろうか、と柚希は苦笑する。
妹の割かし本気な言葉に苦笑しつつ、柚希は焼肉の準備をしていく。
新聞紙をテーブルの上に広げて、その上に魔石コンロを設置。
このマジックコンロは、この世界にダンジョンが出現するようになってできた、家庭用マジックアイテムだ。
家庭用マジックアイテムは他にも色々あるが……今は割愛。
テーブルの準備ができた後、柚希は台所へ行きダンジョンで取って来た肉や野菜、キノコなどを一口サイズにカット。
ダンジョンで手に入れた肉類などは、ドロップアイテムである関係上当然薄切りになどはされていない、塊肉なので斬らなければいけない。
とはいえ、柚希は魔法で大体解決させる。
武器を生成する魔法で、風の包丁を生成し、スッパスパ肉を切っていく。
それなりの量があったはずだが、ものの数分で完了し、材料を全て皿に盛ってテーブルへ。
「よーし、出来たぞー。蜜柑、ご飯はいるか?」
「中盛」
「おっけー。イルはどうする? 酒飲むならいらないか?」
「いや貰おう。白米とやらが気に入ったのでな」
「了解。んじゃ、食べ方はお好みで。とりあえず、タレ、岩塩、レモン汁があるんで、好きな奴で食ってくれ」
「さすが兄さん。気遣いの塊。結婚する?」
「だからしないって。んじゃ、そろそろ食うか」
「「「いただきます」」」
柚希が座ったところで、焼き肉が始まった。
最初は豚系の魔物、アーマーピッグと言う魔物のバラ肉を焼く。
じゅぅ~、という音共に食欲をそそる匂いが立ち上る。
今か今かと焼けるのを待っていると、いい感じに肉が焼け、三人はいそいそと肉を取ってそれぞれが好みの調味料で一口。
ダンジョン産の食べ物は基本、通常の食材とはルールが異なっており、そもそも微生物や細菌などが付かない。
そのため、生で食すこと自体も可能だが、まあ焼いた方が美味しいと言うのはざらだ。
ユッケでも食べられるので、そういう意味でもかなり人気な。
なので当然……。
「美味い!」
「ほほう、これは良いのう!」
「ん、美味しい。もっと食べたい」
味がとてもよかった。
現代において、普通に畜産業や農業などが衰退した、などと言うことはないのだが、味の良さや栄養価については実はダンジョン産の食材の方が上だったりする。
これには色々な説があるが、有力視されているのは、魔物が魔素と呼ばれる物から生まれ、それが肉や野菜などに旨味などを保持、または増加させているのではないか、という説だ。
なので、ダンジョン産の食材が流通している……かと思えば、実際はそんなことはない。
もちろん、出回っていないこともないが、安定して仕入れられる物ではないので、あまり流通していない。
なので、畜産業や農業などが衰退しているなどと言うことはないのだ。
むしろ、ダンジョンの恩恵により、過去に比べると遥かに質が上がっているほどだ。
「おう食え食え! どうせ、大量にあるしな! 遠慮しなくていいぞ」
「さすが兄さん。愛してる」
「しかし、自分で焼き、好きな調味料に付けて食べるとは、なかなかに面白いのう。あと、野菜も美味い」
「やっぱ、焼き肉はいいよなー。っと、そういやイル、お前酒を出してくれるんじゃなかったか?」
「おっとそうじゃったな。ほれ、これじゃこれ」
そう言ってイルが異空間から取り出したのは、なんかやたらと華美な装飾が施されたワインらしき物であった。
どう見ても高そうである。
「それ、絶対高い奴じゃね?」
「どうじゃったかな? なんか、儂に対する貢物みたいな感じで何度か貰ったことがあってな。美味かったので、大量にもらったことがあるんじゃよ。これは、そのうちの一本じゃ」
「へぇ~、じゃあいっか! なんか知らない言語が書かれてるが」
ボトルのラベルに書かれている文字が全く読めず、それどころか見たことがない言語だったので、それに対する疑問を口にする。
「そりゃそうじゃろうな」
「ん? それはどういう意味だ?」
「気にするでない。あ、そこの柚希の妹の……たしか、蜜柑少女じゃったか? おぬしも飲むか?」
「馬鹿野郎! 蜜柑は未成年だ! 飲ませられるわけないだろ!?」
「しかし、おぬしも飲もうとしてるではないか」
「俺は成人なんだよ! 蜜柑はまだ十七だ!」
「なんじゃ、成人しとるではないか」
「してねぇよ!?」
「兄さん」
「あっ、悪いな蜜柑。ほったらかしで」
「うん、だから結婚しよ?」
「どのタイミングでプロポってんだよ!」
「だって、兄さんが私をほったらかしで痴女と話してるから……」
「うぐっ……それは悪い……」
「だから、兄さんは責任を取って私と結婚するべき」
「だからとは?」
本当にこいつはぶれないな……と柚希はげんなりする。
しかし、特段嫌そうにしているわけでもない柚希に、イルが二人に質問を投げかける。
「のう、気になったんじゃが、おぬしらは兄妹なんじゃよな? にしては、蜜柑少女は柚希少女のことが好きすぎる気がするのじゃが……儂の知る兄妹は、大体がそこまで仲が良くはなかったはずじゃが?」
「あー、それな。ん~……まあ、イルにならある程度話してもいいか。蜜柑、いいか?」
「……本当は癪だけど、兄さんが信頼してるっぽいので許す……癪だけど。すごく癪だけど。具体的には首を切り落としたいくらいに、癪だけど……! ちょっとだけなら許す」
「ふむぅ、随分と嫌われてるのう」
「気にするな。俺に近づく女性に対してはこんなもんだ」
「ほう、そうなのか。まあ、それほど好いておる、ということじゃな」
普通ならツッコミが入るのかもしれないが、基本的にツッコみ寄りである柚希は、蜜柑のあれこれには慣れているためツッコミがない。
色々と酷いが……いつも通りなのだ。
「まあ、そうだなぁ……イルはさ、昨日会ったばっかだから知ってるかわからないけど……迷宮孤児って、知ってるか?」
「迷宮孤児? なんじゃ、ダンジョン内に子供でも置いて行くのか?」
「半分正解だ」
「む、割と適当だったんじゃが、半分も正解しとるのか」
「あぁ。迷宮孤児ってのはな――」
と、焼き肉を食べながら、柚希は迷宮孤児について話し始めた。
迷宮孤児とは、ダンジョンがこの世界に出現するようになってからできたとある子供たちに対する名称だ。
その意味は二つ。
一つは、イルが言ったようにダンジョン内に置いて行かれた子供。
もう一つは、ダンジョンが原因で両親を失った子供のことだ。
前者については、最近では法整備や探索者カードなどで防げてはいるが、後者については防ぎようがない。
蜜柑については前者だった。
蜜柑は生まれたばかりの頃、とあるダンジョンに捨てられていた。
赤ん坊でダンジョンに放置されるなど、まず助からないし、その生存率は1%にも満たない。
何せ、大体は少し深めの所に置いて行くし、仮に魔物に襲われようものならそのまま文字通り骨も残らずに魔物の腹に収まってしまうからだ。
だが、蜜柑は幸運だった。
その時、たまたま通りがかった男に拾われたのだ。
その男は、捨てられた蜜柑を拾うと、そのまま育て始める。
だが、その男は普通ではなかった。
簡単に言えば、その男は探索者をターゲットとしていた殺し屋だった。
蜜柑は暗殺技術を物心がつく頃から仕込まれ、小学一年生くらいになる頃にはかなりの身体技術を持っていた。
元々才能があったようで、教えたことはすぐに吸収していった。
それからも、男は蜜柑を自身の後継となるべく、蜜柑を鍛え続けていたのだが……ある日、その男は殺された。
男が殺して来た者たちの知り合いや家族友人などからの恨みにより、殺されたのである。
その結果、蜜柑は再び天涯孤独になった。
「ふむ、なんと言うか、かなりの境遇なんじゃな」
「まあな」
「しかし、殺し屋なんぞに育てられた蜜柑少女が、何故そうまで柚希少女を好くことになったのじゃ?」
「あー……ま、そこは色々あったんだよ。話すと長くなるんでかなりはしょらせてもらうが……こいつ、一度俺を殺そうとしたことがあってな。それで、色々あってうちに連れ帰って、保護して、そうして家族になったんだよ。そこからも色々あったが……簡潔にまとめると、天涯孤独だった蜜柑を助けたら、なんかすっごい懐かれた、って感じか」
本来なら、それなりに紆余曲折があったのだが、今回はそこについてははしょる。
「ん、兄さんは最高の兄さん。理想のお婿さん」
「なるほどのぅ……色々と気になりはするが、まあ、出会ったばかりの儂にすぐ話すなど、避けたくもなるというもの。しかし、おぬしらがとても硬い絆で結ばれているのはわかった」
「そう。私と兄さんには、誰も入る余地のない太くて硬い絆で結ばれている。なので、痴女が入る余地はない」
「うむ、微笑ましいのう! ……しっかし、柚希は昔からお人好しだったんじゃな?」
「どういうことだ?」
「いや、普通自分の命を狙ってきた者を家に連れ帰ろうとは思わんじゃろ」
「ん~、ま、普通ならそうなんだろうけどさ……なーんか、ほっとけなかったんだよなぁ」
「ほう?」
「だって、髪の毛はぼさぼさで、服もボロボロ、傷だらけで、正直臭っていた小さい子供が、見ず知らずの人間を殺しにかかって来るとか……絶対何かあると思うだろ? しかも、初撃をミスった後の蜜柑は、全てを諦めた感じだったし……さすがに、放ってはおけないってもんだよ。ま、その時の選択は間違いじゃなかったと思ってるし、こんなに可愛い妹ができたんだ、結果オーライさ」
「兄さんはやっぱり、私にベタ惚れ! 結婚しよ?」
「結婚しない」
「むぅ……」
「本当に仲が良いのう。羨ましい限りじゃ」
会ってから何度もしているやり取りを微笑まし気に見つめながら、くいっと酒を一口。
話しがそこそこ長かったために、テーブルの上の肉やら野菜、キノコなんかはあらかた食べつくしており、三人の胃袋は既にパンパンである。
「ってか、なんで蜜柑はウチに来たんだ? やっぱ、昨日俺が未帰還になったからか?」
「うん。だって、兄さんが帰ってきてないって連絡があったから……それで、心配になって来た」
「そっか。心配かけて悪かったな。見ての通り、五体満足でピンピンしてるよ」
「うん、そこは安心……でも、どうして兄さんは世界一可愛い女の子になってるの?」
「ナチュラルに世界一って言って来たな……」
「ねぇ、どうして? もしかして、そこの痴女と関係ある? いや絶対そう。絶対にそこの痴女が兄さんをこんな変わり果てた姿にしたに違いない。やっぱり殺す?」
「殺さないでね? いやまあ、たしかに俺がこんな姿になったのはそこのイルが原因――」
「――シッ!」
ギィィィンッッッ!!
甲高い音が再びなった。
またしても、手にはナイフが握られており、それがイルの頸動脈から数センチほどの位置で停止していた。
ギリギリと押し込もうとしているが、一向に先へ進むことはなかった。
「蜜柑、いきなり人を切りつけるのはダメだって」
「でも、この痴女がっ……!」
「いやまあ、たしかに最初はキレたけど、こいついろんな魔法を教えてくれるってことになってな? しかも、《魔装》の性能も上がったんだよ」
「……つまり、兄さんは買収された?」
「人聞きの悪いこと言うな。単純に、俺にも利があったからなー」
「でも、幼女になったのは大問題」
「まあ……それはそうだが」
「私と兄さんの子供が作れない」
「そっち!?」
こういう時でも自身の欲望を優先させる蜜柑に、柚希はツッコミを入れる。
本当に、なんでこんな残念美少女になってしまったのか、柚希はそう思わずにはいられない。
「大事。私と兄さんの愛の結晶が作れないのは大問題。子供は欲しい」
「覚悟ガンギマリすぎて、兄さんちょっとお前が怖い」
「兄妹なら子供を作って当然」
「全然当然じゃないが!? というか、倫理的に見たらかなりアウト! そもそも、妹に手を出すわけないだろ? 大事な妹なんだぞ?」
「……むぅ、大事にされるのは嬉しい。でも、手を出して傷物にしてくれないのは嬉しくない」
「お前のブラコンレベルって結構ヤバくない?」
「今はブラコンではなく、シスコン」
「早速姉認識しとるんかい」
この状況を認識してからそう時間が経っていないにもかかわらず、蜜柑は既に柚希を姉と認識していた。
色々と切り替えが早いのかもしれない。
「兄さんは、お姉ちゃん呼びがいい? それとも、姉さん?」
「どっちでも良すぎる……ってか、兄さんじゃダメなのか?」
「兄さんはずっと私の兄さんだけど、でも今の兄さんは外見が兄さんじゃないわけで。そうなると、今の兄さんを兄さんと呼ぶのは難しい。なら、今の兄さんを兄さんとは呼ばずに、お姉ちゃんか姉さんの方がいいと思って」
「今何回兄さんって言った?」
「八回」
「数えてたのかよ……」
「当然。じゃあ、姉さん(仮)」
「それ、(仮)の部分いる?」
「暫定的な物には(仮)と付けるべき」
「お、おう、そうか……」
「なんじゃ、柚希少女は蜜柑少女にはたじたじじゃな」
「単純に押しが強いんだよ、こいつ……あと蜜柑。いつまでナイフを押し込もうとしてるの? さすがにやめない?」
「……チッ」
未だにナイフを押し込もうとする妹を見て、柚希がそれについて指摘すると、蜜柑は舌打ちをしながらようやくナイフを仕舞った。
これが十七歳のJKがやる行動である。
「いや、普通は柚希少女が止める所じゃが?」
「俺の本気を受けても平気だった奴が何言ってんだよ」
「ふむ、まあ、儂に害はないからのう。好きなだけやればよい。そもそも、愛する家族の近くに、変なのがいればこうもなるじゃろ」
「変なのって自覚ある痴女……」
「蜜柑、さすがに痴女呼びはそろそろアレだし、せめてイルって呼んでやってくれ」
「………………………仕方ない、じゃあ、イルと呼ぶ」
柚希に言われ、それはもう心底嫌そうな顔をするも、仕方ないとばかりにいやいやながらにイルと呼ぶことにした。
「儂は別に痴女でもいいんじゃが」
「よくないよ!? 主に俺がよくないよ!? 今後、お前と一緒に色々やるんだから、お前の呼び名が痴女になったら一緒にいる俺も変態を見る目を向けられるんだが!?」
「じゃがおぬし、自分の評価はどうでもいいとか言っとらんかったか?」
「限度があるよ!? 少なくとも、回避できる変態呼びと言う汚名を被るのは嫌だが!?」
「そういうものか」
「お前のずれ方どうなってんの……?」
「仕方あるまい、ダンジョンにずっと住んでいたんじゃからな」
などと言い返すイルだが、柚希的にはその前に感性がおかしくない? というのが率直な感想であった。
そりゃあ、今後配信活動をするのに、一緒にやることになっているイルが痴女呼びされていたら、自身も変態なのではないか、みたいな根も葉もない噂が流れてしまうだろう。
自分の評価なんてどうでもいいと思っている柚希からしても、さすがに変態の汚名は被りたくないのだ。
「ところで、蜜柑少女の動きがかなり良かったが、それはあれか? 先ほど話しておった、最初の育ての親の技術か?」
「……そう」
「なかなかに良い動きじゃったからのう。儂でなければ、かなり危なかったな」
「へぇ、イルから見ても、蜜柑はそう見えるのか」
「うむ。柚希としてはどうなんじゃ? 兄として、ではなく探索者として」
「そうだな……少なくとも、レベルⅣダンジョンは問題ない。レベルⅤダンジョンだと、一人じゃキツイってところか」
「兄さんはおかしい。私と同じくらいの年の時には、既にレベルⅥに潜れてた。なんだったら、《魔女の焔》に入り浸ってた」
「努力した結果だしな、それは」
「……私も、もっと強くならないと」
「頑張れよー。教えてほしいことがあれば、いつでも聞いてくれ」
「さすが兄さん。やはりけっこ――」
「言わせねぇよ?」
「チィッ……!」
結婚しよう言う前に、柚希は釘を刺した。
蜜柑は舌打ち。
見た目クール系美少女なのに、先ほどからずっと残念な感じである。
「まったく。……さ、もう遅い時間だ、どうせ俺の安否を確認しに来ただけなら、さっさと帰った方がいいぞ。母さんも心配するだろ」
「でも、痴女と二人きりにするのはッ……!」
柚希に帰るように促されると、蜜柑はそれはもう苦々しい顔でそう言った。
蜜柑的には、あの痴女な魔女と一緒にいるのが看過できないらしい。
「大丈夫だって。こいつ、基本的に悪い奴じゃないし。ただのうっかりババア魔女だ」
「ババアは余計じゃ。まあ、今のおぬしでは可愛いだけなので、許すが」
「大丈夫だって。ヤバかったら魔装使って逃げるしな!」
「…………わかった」
「いい娘だ」
「もしもヤバかったらいつでも言って。殺しに来る」
「それはやめようね? 兄さん、お前が前科持ちになったら普通に嫌だからね?」
「大丈夫、やるなら完全犯罪」
「そういう問題じゃないよ???」
「冗談」
「お前の冗談、たまに冗談に聴こえないんだが……」
「兄さん相手にはお茶目。……じゃあ、私は帰る。姉さん(仮)、またね」
「(仮)まで律義に言うのかよ……」
「当然。それじゃあ、またね」
「あぁ。気を付けてなー」
最後にお互い手を振りながら別れの挨拶を交わし、蜜柑は実家の方に帰って行った。




