一度ならず二度までも。こういうのはお約束!
姫は普通に強い方である。
ソロであれば、それなりのレベルⅣダンジョンをある程度攻略できるし、レベルⅤであればちゃんとしたパーティーを組めば問題なく進めるほどに。
ソロでもそれなりに強い姫だが、イレギュラーはどんな場所でも怖い。
低レベルダンジョン内でも、イレギュラーが起これば、中堅の探索者でも命を落としかねない事態にもなる。
故に、探索者は慢心してはいけないし、油断をしてはいけない。
もちろん、心にある程度の余裕を持つことも大事ではあるが。
そうして、先へと進んだ姫は、そこで思いがけない出会いに遭遇した。
「おっし! 最高級部位ゲット!」
「ほほぅ? これはなんじゃ?」
「おう、シャトーブリアンって言って、超が付くほどの高級品だな! しかも、魔物ってなると余計に! 今日はこれでステーキだステーキ!」
「おぉ、おぬしがそこまで楽しみにしているところを見るに、よっぽど美味なる部位なんじゃな。儂も気になるのう。……のう、儂も食べてみたいんじゃが」
「おう、いいぜ! どうせだったら、お前も一枚丸々食いたいだろ? そんなら、もう一枚くらい落として……いや、どうせだ、豪勢に焼肉にしようぜ! 焼肉!」
「焼肉、とやらが何かは知らんが、面白そうじゃ。こちらの食事は美味故、儂も昨日で気に入ったぞ!」
「おう! その代わり、魔法教えろよー」
「それはもちろんじゃ!」
と、そこではパーカーを着た少女と、それはもうものすっごいスタイルのいい魔女風の女性がいた。
しかも、魔物狩りをしているようで、ここで取れる肉で焼き肉をしようとしているらしい。
「あ、あ、あぁっ……!」
【え、あれ、パーカーちゃんじゃね!?】
【うわマジじゃん!】
【相変わらずフード被っててよくわからないが、声が可愛い!】
【いやそれ以前に、その横にいる絶世の美女は誰!? 胸デカすぎんだろ!?】
【というか、姫ちゃんどした!?】
「み、見つけたっ……パーカーちゃんっ……!」
今の姫に、コメント欄は意識の外にあった。
なぜなら、目の前に自分が探していた人物がいたのだから。
隣には見知らぬ女性がいるが……そんなことよりも、探し求めていた人物を見つけてしまったことは、それすらも意識の外へぶん投げるほどだった。
気が付くと、姫の足はパーカーを着た少女に向かって歩みを進めて……
「ぱ、パーカーちゃんっ……!」
感極まったような声で、パーカーを着た少女に声をかけていた。
「ん、パーカーちゃん? って、お?」
突然パーカーちゃんと声をかけられたパーカーの少女は、声の主に気付いて振り向くと、姫の姿を見て少しだけ驚いた顔を見せる。
「君、もしかして昨日、救援要請を出した人?」
「は、はは、はひいっ! 櫻野姫、って言いますっ! き、昨日はありがとうございましたっ!」
「いやいや、礼なんていいって。さすがに、俺の庭とも言うべき《魔女の焔》で近くにいんのに救援要請を無視するのは寝覚めが悪いしなー。だから気にしなくていいぞ?」
「そう言うわけにはいきませんっ! パーカーちゃんのおかげで私は助かったんですから! 本当にもう、あの時は本気で死を覚悟しましたし……」
その時のことを思い出して、ぶるりと体が震える。
今でこそなんともないような様子だったが、やはり怖い物は怖いのだ。
「あー、まあ、ドラゴンはなー。俺も初見の時じゃマージで死を覚悟したね。あいつら、一定の体力を超えると、暴走モードみたいになるから、それを知らなかった当時はヤバかったぜ」
わかるわかる、と腕を組みながら過去のことを思い出しているのか、その顔には苦さと達成感が入り混じったような独特な表情が浮かんでいた。
「そ、そうなんですね!」
【やっぱ初見じゃないんかww】
【一撃ノックアウトした時点でそうだろ】
【ってか、俺っ娘なのか……!】
【それ以前に、なんか話し方がメッチャ男なんですが】
【つーか、《魔女の焔》を庭扱い……?】
「んで、偶然会った俺に礼を言うために?」
「あ、そ、それもあるんですけど! わ、わたし、パーカーちゃんを探していたんですっ!」
「そうなんだ? なんで?」
「なんでって……あの、昨日回収してないドロップアイテムとか、宝箱を渡しに」
「あー、あれかー。え、なに、持ってきちゃった系?」
あの時のドロップアイテムなどを渡しに来たと言われ、そう言えば放置したわと思い出したパーカーの少女は、あったなーと感想を抱くと、その直後にそれを持って来たの? と驚いたような顔をする。
「持ってきちゃった系です」
「マジかー……別に貰っちゃってよかったのに」
持ってきたといわれると、パーカーの少女は苦笑い交じりにそう返す。
「よくないですよ!? だ、だって、ドラゴンのドロップアイテムに、その他の魔物の魔石やレアなドロップアイテム! しかも、攻略報酬の宝箱も出て来たんですよ!? さ、さすがにそれを貰えるほど、厚顔無恥じゃないです!?」
「まあ、そう言う考えになるか……いや、探索者にしては珍しく、人が好いな、君。普通はラッキーと思って持ってくもんだが」
【マジかよ、探索者サイテーだな】
【いや、それが普通なんだ】
【というか、討伐者がその場にいない限り、あとは拾ったもん勝ちってのが暗黙の了解】
【なるほど】
【そう考えると、姫ちゃんって人が好いんだな】
【まあ、そう言う人も一定数いるにはいるが、少ない方】
【ってか、普通に持って行っていいって言えるパーカーちゃんすごw】
「なので、これの中身を受け取ってもらえると……」
そう言って、姫は収納袋をパーカーの少女に手渡す。
しかし、パーカーの少女はうーんと唸ると口を開き、
「あー、いや、やっぱいいや。金に困ってないし、最終的に拾ったのは君だろ? 正直、ドラゴンなんてすぐ狩れるし、あの程度全然労力じゃねぇからなぁ」
結局いらないと答えた。
「えぇぇ!? そ、それは困りますぅ!? わ、わたし、ただの漁夫の利野郎って思われちゃいますってぇ!?」
さすがにもらえないし、色々言われるかもしれないからと叫ぶ姫。
【漁夫の利野郎ww】
【いやでも、本人が良いって言うんならいいと思うんだが】
【……それがレベルⅠ~Ⅲまでのダンジョンだったらそうなんだが、レベルⅥのアイテムはちょっと……】
【《魔女の焔》のドラゴンのドロップアイテムとか、クッソ高いし……落ちやすい鱗ですら、数百万とかだし、爪なんて数千万だぞ?】
【ヒェッ……】
【それは貰えねぇ!】
「いやそう言われても……」
「せ、せっかくのドラゴンのアイテムですよ!? 強い武器にした方がいいですって!?」
「武器って言われても、俺作らないんだよなぁ……」
「へ?」
【え、作らないの?】
【でも昨日、武器使って……あ、いや、そう言えばあれ、どこからともなく出て来てたような……?】
武器を作らないと言われて、姫だけでなくそれを聞いていた視聴者たちも驚く。
特に、間近で見ていた姫など、余計に。
「あの、昨日、武器、使ってませんでした……?」
「あー、あれ? あれはまぁ……原理とかについては企業秘密ってことで」
「あっ、そ、そうですよね! すみません!」
「いやいいって。別にバレてもいいんだけどなー」
【そこは言わないのか】
【そりゃそうだろー。魔法って、体系化されてきてはいるけど、中にはオリジナルの魔法を作るような天才とかもいるし、早々明かしたくないわな。まあ、魔法じゃなくて魔道具の可能性もあるが、どっちみち、言えるわけないよね】
【手の内を明かすようなもんだし】
【探索者を狙った犯罪もあるし、そうホイホイとは明かせないよね】
【のわりには普通にバレてもいいは草】
【どっちなんだww】
「でも、さすがにもらえませんし……」
「そう言われてもなぁ……じゃあ、あれだ。俺は別に装備を新調する意味もないし、君より強い。だったら、少しでも君の身の安全性を高めるために、そのアイテムで何かいい装備でも作って、あのダンジョンで救援要請が必要ない程度に強くなればいい。ま、装備だけ強くても、結局使い手が強くならなきゃ意味ないがな。で、どうする? 正直俺も売りに行くの面倒なんだよなー。だって、ドラゴンの素材とか、開けてない宝箱とか、どう考えても持ち込んだら面倒な手続き祭りだし……レベルⅦに比べるとマシだけど」
要約すると、全部上げるから自分を強くするのに使ってくれ、というかめんどくさい、になるのだが、最後の言葉に姫は思わず耳を疑った。
「え、レベルⅦ?」
「おう、レベルⅦ」
「こ、攻略、できるんですか……?」
「ものすごく準備すればなー」
さすがにないよね? と思ったことだったが、パーカーの少女はなんてことないようにそう答えた。
【ファ!?】
【れ、レベルⅦを攻略できるぅ!?】
【い、いやほら、一応攻略できる人はいるから……】
【上位層はな! まあ、パーティーだけど】
【さすがにソロなわけないだろーw】
「ち、ちなみに、パーティーですよね?」
「ん? いや、一人だが? ってか俺、基本ソロだし」
「はぇ……?」
【いかん! 姫ちゃんの理解を超えた!】
【ってか、ソロでレベルⅦは自殺行為だろそれぇ!?】
【世の中には、それを平気でやる化け物たちがおってな……?】
【日本にもいなかないけどかなり少ない。海外にはちょこちょこいるらしいけど……えぇ?】
【まって、パーカーちゃん、結構ヤバい……?】
「じょ、冗談、ですよね?」
「いや事実だが……まあでも、今なら前以上のペースで出来そうだなー」
「そりゃそうじゃろ。儂の力をもってすれば余裕じゃ余裕」
「はいはい、ありがとなー」
「かっるいのう……」
と、パーカーの少女はすぐ傍にいる魔女の風貌の女性とそんな軽口をたたき合う。
それを見てハッと我に返ると、姫はその魔女のような女性について訊くことに。
「と、ところでっ! そ、そちらの、す、すっごく綺麗な女性は……!?」
「ん、あー、こいつ? 魔女」
「間違っちゃおらんが、それでは10点じゃろ。回答的に」
「なーにを言うか。というか、お前の素性的に色々怪しいんだぞ? 100%怪しまれない言い方なんてこれくらいだ。よって、100点満点」
【いや魔女だけはさすがに怪しすぎるんだが!?】
【しかもめっちゃ適当な紹介w】
【つーか、マジで美人過ぎん? 何この人】
「ってか、俺すらお前の素性を全部知らねぇんだぞ? それで魔女です、以外の説明をしろとか……ハハッ」
「鼻で笑うでないわい」
鼻で笑われ、魔女と紹介された女性は、ジト目をパーカーの少女に向ける。
だが、どう見ても気安い関係にしか見えず、姫からすれば気が気でなかった。
というか、胸が大きくてずるい……! みたいな。あと、距離感が近すぎ! みたいな。
「と、ところで、お二人の関係は、一体……!?」
「ん、あぁ、こいつ? あー、なんて言えばいいか……とりあえず、先生と生徒、って感じか?」
「そうじゃな。儂が魔法を教え、この者が儂の魔法を教わる。そして、その見返りとして儂はこやつの家に住まわせてもらっている」
「へ!? い、いいいっ、一緒!? 一緒に住んでるんですかぁ!?」
「うむ。いやー、こちらの住宅と言うのは進んでいるんじゃなぁ。儂びっくりしたわ」
あっはっは、と笑いながらそう言う魔女。
姫的には一目惚れしたパーカーちゃんと一緒に住んでるというだけで嫉妬という黒い感情が心のうちに噴き出す。
「住み始めたの昨日だし、気にすんなって」
「そうなんですか!?」
「おう。まあ、俺としても有意義だしなー」
「そ、そう、なんですね……」
【めっちゃしょんぼりしてて草】
【感情の起伏が激しいw】
【ってか、今更ながら思ったけど、これ、いいんかな? 無許可で動画に出ちゃってるけど……】
【あ、言われてみれば……っていうかこれ、姫ちゃん気づいて無くない?】
【たしかに! 姫ちゃん! 動画! 動画止めた方がいいーーー!】
【大炎上コースになるって!】
【あかん! トレンド入りしてしまっているぅ……!】
【そりゃあ、あんな大立ち回りを演じたパーカーちゃんが出てきたとあれば、ねぇ……?】
【姫ちゃん、再びの大戦犯……!】
「あ、そういや気になってたんだが、君の背後右斜め上1メートルくらいに浮かんでいるドローンはなんだ?」
「え? ……………………あ゛」
「若い女子からは出ない声が出たのう。しかし、儂としてはとても気になるが、柚希は知らんのか?」
「あー、俺、機械には人並みか、それよりちょっと下くらいでなー。魔法なら問題ないんだが……で、それってなんなんだ?」
「………………」
好奇心から来る柚希の指摘に、姫はだらだらと汗を流し、顔を真っ青にしたり、土気色にしたり、かと思えば蒼白になったり……せわしなく顔色を変化させた姫は、バッ! とその場に勢いよく跪く……どころか、土下座をして、
「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!!」
全力の謝罪を披露するのであった。




