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宝石の駒  作者: 彩霞
第五章

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第85話 リブームをしている人たち

「どうかした?」


「奥でリブームをしているみたいです」


 喫茶店《ここ》には色んな人がいるため、コンラートに対して敬語を使って話す。

 兄は弟のことを心得ているようで、話し方が急に変わっても気にしない。

 彼はロバートの視線を追って後ろを振り向き、何をしているのかを確認したのち、再び弟を見て言った。


「本当だ。そういえば、視察してきたカインもそんなことを言っていたな。学生がお店の中でリブームをやっていて、結構盛り上がっているって」


「学生……」


「うん。ここに集まった人たちで試合をするんだって。色んな人とやると強くなれるから」


「そうなんだ……」


 ロバートは今まで、ティナ以外とリブームをしたことがない。


 父はルールを知っているが、ロバートにとって試合をしたい相手ではないし、仮に誘ったところで「他にやることがあるだろう」と言われるのが落ちだ。

 執事のクイーズリーもリブームはできるようだが、彼の場合仕事が忙しくて相手にしてもらえないと思った。


 となると他に相手をしてくれそうなのは、いつも近くで仕事をしているメイドたちである。

 だが、声を掛けてみてもルールを知っている者は誰一人としていなかった。

「教えてあげるから」と言ったが、「仕事がありますので」とやんわり断られてしまった。


 さらにそれを見ていたメイド長からは、「メイドの仕事は、坊ちゃんのリブームの相手をすることではございませんので、以後このような誘いはなさいませんように」と申し訳なさそうに言われてしまい、ティナがいなくなってから、ロバートにはリブームをできる相手がいない状態だったのである。


「もしかして、やってみたい?」


 弟の心を見透かしたように、兄が小声で聞いてきた。

 どきりとして、体が一気に熱くなる。


(やってみたい……)


 ティナ以外を相手にしてちゃんと戦えるのか、そしてどれくらいの強さなのか。対戦して確認してみたい気持ちがある。


 しかし、同時に怖くもあった。


 ティナが相手だったときは、間違ったことをしても優しく教えてくれたし、ロバートが挑戦的な駒の進め方をすると喜んでくれた。


 だが、逆にティナが厳しく攻めてくると、自分は面白くない気持ちになる。上手く状況を打開できなくて苛立《いらだ》ってしょうがなかった。そうなったときは、信頼しているティナだとしてもちょっと憎らしく思う。


 一方の彼女は勝者の余裕からなのか、それとも指導者だからなのか分からないが、リブームの戦いの中では常に冷静で、怒りを表わすことなど一切ない。


 ゆえに、ロバートも安心して戦っていたのだが、相手が自分のように局面によっていちいち感情に振り回されるのだとしたら、それに飲み込まれると楽しくなくなったり、最悪の場合喧嘩になることのあるのではないか――と思ってしまったのである。


 そのため、ロバートは少し困ったような笑みを浮かべつつ、ふるふると首を横に振って「……いいえ、そのような気持ちはありません」と言った。


「そう?」


「……はい」


「そっか。でも、もしやりたくなったら言って。僕が声を掛けて参加できるようにしてあげるから」


 兄の言葉に、ロバートは一瞬目を見開いたのち苦笑した。自分の葛藤を見抜かれたと思ったのである。

 しかし、気持ちは嬉しかった。


「……ありがとうございます」


「うん」


 コンラートとは、リブームの話から、最近の出来事や家庭教師から習ったことなど当たり障《さわ》りのない話をした。

 スイングラー家の話は、さすがに喫茶店ではできない。誰が耳をそばだてて聞いているか分からないからだ。


 しかし、コンラートは「こういうところで話すっていうのも大事だから」と言って、話していいことと悪いことを実際に話しながら教えてくれる。今までのロバートにはない機会だったので、ためになることばかりだった。


 そのうちに、先ほど注文を取ってくれた女性が、フォルドレーネとお茶のレイティルを持ってきてくれた。


「ごゆっくり」


 店員が立ち去ると、ロバートは白い平らな皿に、これでもかと存在感を主張しているフォルドレーネをじっと見た。円柱の形をしており、直径は十五センチはありそうで、高さも五センチ以上はありそうだ。淡い黄色をした、きめ細やかな生地。上の部分はしっかりと焼き色が付いていて、甘い香りが漂《ただよ》ってくる。


 皿の脇には、アリューチュ(=小さい青りんごのような果実)で作ったと思われるジャムが、木の匙《さじ》で掬《すく》った状態で置いてあった。透明できらきらとした姿に、薄っすらと琥珀《こはく》に似た色が付いていて、上品な佇《たたず》まいをしている。「掛けてどうぞ」ということだろう。


「おいしそう……」


 ロバートが呟くと、コンラートが嬉しそうに同意した。


「ふふ、そうだね」


「食べてもいいんですか?」


「もちろん!」


 コンラートの許可も取ったので、ロバートはテーブルに置かれたナイフとフォークを手に取ると、器用にフォルドレーネを切り、まずはそのままでぱくりと一口食べた。

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